水曜日のカンパネラ アジア全10都市を回る『Galapagos Tour』日本初日公演
水曜日のカンパネラ | 2018.11.28
アジア全10都市を回る『Galapagos Tour』は香港公演を皮切りに中国6公演を経て、日本4公演を残すのみとなった水曜日のカンパネラ。その初日にあたる新木場STUDIO COASTではどんなショウを魅せてくれるのか、その期待感を胸に多くの人が大挙して詰めかけていた。
神秘的なSEが流れる中、ステージ中央に煌々とした眩しい光が照らされ、そこにコムアイが颯爽と登場。「キイロのうた」で幕を開けると、広壮な宇宙とも言うべきスケール感で、歌声と音色をゆっくりと解き放つ。それは澄んだ空気というより、深淵な世界に観客を誘うようなオープニングであった。それから太古の音色に導かれるように「かぐや姫」へ。時間軸が逆行するような感覚を味わいながらも、そこに何ら違和感もなく、むしろ居心地の良ささえ感じるサウンド・スケープである。
リズミックなトラックを配した「チュパカブラ」に入ると、コムアイはステップを踏みながら軽快に言葉を吐き出していく。曲中に「みんな踊ってもいいんだよ?」とMCを挟むと、フロアも徐々に揺れ動いて活気づいていった。その後も「ライト兄弟」、「ゴッホ」、「南方熊楠」とテンポ良く、次から次へと曲が進み、いつの間にかコムアイ・ワールドにグイグイと引き込まれる自分がいた。
「『Galapagos Tour』へようこそ! 北京などを回って帰って来ました。ライブではひとりになるものだと思ってて、もうひとりいる自分と歌っているような感覚……自分と自分で会話しているような感じ。受け取り方は違っていい。最後まで楽しんでください!」とコムアイは語ると、次はyahyelの池貝峻を呼び込み、彼と制作したコラボレーション曲「生きろ。」をここで披露。ステージから伸びた花道にコムアイと池貝が立つと、お互いに己の世界観を貫きながら、交わらずに交わると形容したくなるミクスチャー感を見事に発揮。
そして、中盤過ぎに北海道の地名などを取り上げた代表曲「シャクシャイン」に突入すると、フロアも一気に熱を帯びていった。中毒性の高いコムアイの自由奔放なラップが速射されるや、観客も即反応して踊り出す人たちが多くなる。加えて曲中にコール&レスポンスを挟み、積極的にフロアとコミュニケーションを図ることも怠らない。また、コムアイは花道でジャンプを決めたり、ダンスに興じたりと、身振り手振りの激しいパフォーマンスで曲を体現する姿に観客のボルテージも上がるばかり。会場が一体化する中で「桃太郎」(Remix)へと?ぎ、「バンゲリングベイ」(※ゲーム・ソフト名)などファミコン世代を瞬殺するワードを散りばめた歌詞をフックにアッパーなトラックで焚き付け、さらにステージ背面を覆う巨大な布にコムアイは姿を隠したり見せたりと、奇をてらったパフォーマンスでも視覚を釘付けにした。
しかし、それは序章に過ぎなかった。それからコムアイは花道を降りて、観客側に入り込むと、フロア全体を覆うような形で赤い布が敷かれていく。2階席からは観客はもちろん、コムアイの姿さえも確認できないまま、実にシュールな様相で「ピカソ」、「ウランちゃん」、「愛しいものたちへ」と曲が進行していくのだ。誰もが「コムアイ、どこ?」と目をキョロキョロさせながら、そのシチュエーションを心底楽しんでいるようにも映った。
奇抜な仕掛けで煙に巻く演出ひとつとっても、一筋縄ではいかないアーティストだと改めて痛感。予定調和を心地良く裏切ってくれるサプライズに、心臓が早鐘のように打つのがわかった。しばらくすると、コムアイはフロアにハシゴを持ち込み、その上で歌い出す。そうなると、さらに耳目は彼女に奪われっぱなしの状態だ。キャッチーなラップと歌メロが印象的な「一休さん」では拳を突き上げてノリノリで騒ぎ出す観客たちが増え、曲が終わると盛大な拍手が会場に鳴り響いた。
「今日は来てくれてありがとうございました。まだどこかで会いましょう!」と別れの挨拶をすると、「マルコ・ポーロ」(Remix)を披露。コムアイは透明度の高いピュアな歌声を聴かせると、途中でハシゴから降りてフロアを動き回った挙げ句、気付けばステージ上手の2階にあるベランダで歌いながら歩いているではないか。観客はコムアイの一挙手一投足を見守る中、約1時間半に渡るショウは幕を閉じた。身近にいるようで遠く、遠くにいるようで身近な存在。掴めるようで掴めない不思議な距離感を保ったまま、観る者の好奇心や音楽欲を刺激し続けた今回のライブを観て、水曜日のカンパネラの、コムアイの底知れない表現欲求を目の当たりにした思いだった。その特異性は奥の細道を突き進んでいるようで、自由度と開放感に漲るスケールの大きなサウンドを轟かせていた。おそらく観る人によって、ライブの捉え方や感じ方は様々だろうが、その自分なりの感性や解釈こそが大事なんだ、と語りかけてくるような内容であった。
今回の『Galapagos Tour』はファイナル公演となる沖縄県ナムラホール(12月8日)まで続く。このツアーを経て、水曜日のカンパネラがまたどんな音楽的飛躍を遂げてくれるのだろうか。それが今から楽しみで仕方がない。
【取材・文:荒金良介】
【撮影:トキ】
リリース情報
お知らせ
Galapagos Tour
11/30(金)味園ユニバース
12/08(土)那覇ナムラホール
YouTube FanFest Music 2018
12/11(火)幕張メッセ イベントホール
CHVRCHES JAPAN TOUR 2019
02/26(火)Zepp Osaka Bayside
02/28(木)Toyosu Pit
03/01(金)Toyosu Pit
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。