林青空、東京での初ワンマン「LIVE TOUR FINAL~どこまでいける?~」
林青空 | 2018.12.18
昨年9月からスタートしたテキスト連載「林青空より」でもおなじみのシンガーソングライター林青空が、12月8日、下北沢440で「LIVE TOUR FINAL~どこまでいける?~」を開催した。大阪在住の彼女にとって、東京でのワンマンはこの日が初めて。「ちょっと緊張してる(笑)」なんて自己申告していたが、その声や表情からは、今日もこうして歌えることへの喜びが終始溢れ出ていたように思う。一人一人のお客さんと心で向き合いながらも、まだ見ぬ誰かにまで届けと願っているような歌声が、いつまでも耳に残るワンマンだった。
アコースティックギターを持ってステージに現れると、ほんの一瞬だけスッと上を向いて息を整える。1曲め「白いワンピースを着て」は、弾き語りライブの定番だそう。語りかけるように、つぶやくように、そして言い聞かせるように、言葉の距離感や温度の違いが歌声ひとつで見事に表現されていく。レポートのためのメモを取る手が思わず止まってしまうくらい、一瞬で彼女の歌に心を奪われてしまった。「君の歌」では一転、激しくアコギをかき鳴らしながら感情をぶつける。こんな声が、歌が、街のどこかから聴こえてきたらきっと足を止めてしまうだろう。「私の後悔の歌」と紹介されたのは、小気味いいカッティングとみんなの手拍子で作り上げた「アイス」。カラリと歌い上げるから、よけいに主人公の流す涙が切なく感じるような1曲だった。
「今日は来てくれて本当にありがとう。今日は東京での初めてのワンマンライブで、4月からやってきたツアーのファイナル。楽しい日にできるよう全力で歌うので、全力で受け止めてもらえたら嬉しいです。今日は全編ひとりきり。どうやったらいい日になるかな、楽しんでもらえるかなってたくさん考えてきました。聴きどころもたくさんあると思います。最後までよろしく!」
愛らしい関西弁のイントネーションで丁寧に挨拶をした後は、「アイス」とはまた別の角度から別れの情景を切り取った「サヨウナラ」。まるで自分のために歌ってくれているようなプライベート感と、映画のエンドロールを見ているようなスケールの大きさを併せ持つ1曲のように感じられた。アコギ1本でこの奥深さ。ソングライターとしてどんなふうに曲を作っているのか、根掘り葉掘り聞いてみたい衝動にも駆られた前半の4曲だった。
ライブ中盤は、まずアコギからピアノへと楽器をチェンジ。音源ではバンドアレンジの爽やかな疾走感が印象的だった「光」が、この日は少しテンポを落とし、歌とピアノだけのバージョンで。この先へと向かう強い気持ちを、さらなる決意として伝えるようなボーカルはとても聴きごたえがあった。歌い終えると彼女は、普段はギターの弾き語りが自分のスタイルだけど、音楽を始めたきっかけは3歳から習っていたクラシックピアノだったと語り始める。そういう環境を与えてくれた母親には感謝をしているけど、勉強と音楽活動でいっぱいいっぱいになった時に辛く当たってしまった。そういう自分が嫌だったし、辛かったし、でもありがとうの気持ちを伝えたいと思って作ったのが、次に歌われた「どうしても」だったそうだ。いつものようにアコギではなく、ピアノで作ったというこの曲。自分の気持ちにちゃんと向き合おう、そして素直な言葉で伝えようーー。ゆっくりと歌いだした彼女の横顔には、子供でも大人でもなかったあの頃の感情が浮かび上がっているようにも思えた。
「さて、ここで私の好きな歌を歌うカバーコーナーです!」
続いては彼女が用意してきた曲の中から多数決によって決まるというカバーのコーナー。大阪では自分の音楽に影響を与えてくれたアーティスト3組の中からいきものがかりの「SAKURA」が歌われたそうだが、果たして東京は!?エントリーされたのはゆず「サヨナラバス」、中島みゆき「糸」、広瀬香美「ロマンスの神様」の3曲。多数決の拍手を公平に集計するためAmazonで購入したという小型の騒音計まで導入されていたのだが、「正直、いちばん練習した(笑)」「スペシャルバージョンでお届けする」「張り切って用意した」という、本人からのやる気満々のプレゼンにより「ロマンスの神様」に決定(笑)。ワンマン限定カラオケバージョンで熱唱し、会場を大いに盛り上げていた。
早いもので、ライブもいよいよ後半戦。このワンマン(※大阪のこと?)から歌っているという「ねぇ」は、どっちつかずの彼に振り回されているもどかしさや苛立ちといった、女の子のリアルな心情が詰まった新曲。アコギを掻き鳴らす姿が、なんだか健気に戦っているように見えて胸が痛かった。「散歩歌」は「大切にしたいと思う気持ち、大切に思っていた気持ちを忘れないように歌にした」という言葉を添えて。どちらの曲も、芯の部分にあるのは人と人が真剣に向き合おうとするからこそ生まれる感情だ。大切なのは何か、その思いを真っ直ぐに届ける歌声が力強く響いていた。
どこまで行けるかなあって挑戦の気持ちだったけど、行ってみたら楽しくて、帰りたい場所がたくさんできたこと。美味しいご飯があって、喋る人がいて、あったかいお布団があるのはすごく幸せなことにも気づけた。「大事にしたいことが私の中でまた大きくなりました」とこの旅を振り返りながら、こんな風に言葉を続けた。
「ひとりで遠くまで歌いに行ったけど、全然しっかりできなかったんよ。飛行機の乗り方もわからへんかったし、行こうと思ってたお店が閉まっててお腹空かせたままライブハウスに行ったり(笑)。ひとりやったら出来ひんこといっぱいあるなって思い知らされた。これからもいっぱいみんなに甘えちゃうと思うけど、ずっと応援してもらえるようにもっと頑張らななあって、こうして迎えてくれることは当たり前じゃないって思って、これからも歌い続けたいと思ってます。泣いちゃうし頼っちゃうし、もっと応援してよって言っちゃうけど、その分私がしっかりと、もっといいところに連れていきたいと思ってるので許してください。ちゃんと見ててください。これからもどうぞよろしくお願いします」
新たなスタートの決意表明をするように、ひとつひとつの言葉を丁寧に伝えてから歌い始めたのは「だけど私 そんな私」だった。彼女の初心が映し出されたこの曲は、これから先もずっと彼女自身を見守り続けていくのだろう。最後の一音までしっかり届けた後は雰囲気を一転、みんなの手拍子に乗せてアカペラで歌い出した本編ラストの「スパイスマジック」。アンコールの1曲めに歌われた「ロックンロールスター」もそうだったが、彼女の声の振り幅や存在感はバンドサウンドにも負けないほど圧倒的なものがあるし、だからこそ、アコギ1本であってもこんなに豊かな音を感じるライブを作り出せているのだろう。その声にありったけの想いを乗せて最後に歌われたのは、自分自身の背中を押すために作った曲であり、これからもしっかり連れていきたいと曲だという「光」をもう一度、今度はギターの弾き語りで。未来を見据えるような清々しい表情で歌い終え、この日のワンマン、そして今回のツアーは幕を閉じた。
終演後、彼女からのプレゼントとして会場に流れてきたのは、バンドセットでレコーディングされた「サヨウナラ」の音源。ライブでの充実度や成長を反映させた制作が進んでいること、そして来年はぜひ何らかの形で作品が発表されることを願っている。
【取材・文:山田邦子】
リリース情報
そんな私
2017年09月20日
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2.アイス
3.だけど私 そんな私
セットリスト
LIVE TOUR FINAL〜どこまでいける?〜
2018.12.8@下北沢440
- 1. 白いワンピースを着て
- 2. 君の歌
- 3. アイス
- 4. サヨウナラ
- 5. 光(ピアノver.)
- 6. どうしても
- 7. ロマンスの神様(カヴァー)
- 8. ねぇ
- 9. 散歩歌
- 10. だけど私 そんな私
- 11. スパイスマジック 【ENCORE】
- EN-1. ロックンロールスター
- EN-2. 光
お知らせ
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2018/12/29(土)南堀江knave
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2019/01/27(日)堺Tick-Tuck
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2019/02/02(土)心斎橋・歌う魚
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2019/02/03(日)下北沢440
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2019/02/25(月)渋谷 eggman
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。