PELICAN FANCLUB、唯一の才能を知らしめたツアーファイナルをレポート!
PELICAN FANCLUB | 2018.12.25
今年11月に8曲入りのミニアルバム『Boys just want to be culture』でメジャーデビューを果たしたPELICAN FANCLUB。そのリリースインタビューで、ボーカルのエンドウアンリは、「いまの3人の演奏感を大切に作った」「メンバーそれぞれの才能を知らしめたい。それを、僕だけじゃなくてお互いに思っている」と、メンバーへの信頼感が伝わるような発言をしていたことが印象的だった。ここ数年、4人で活動していたPELICAN FANCLUBは、メジャーデビューを目前に控えた今年2月にギタリストが脱退した。それまでの彼らの音楽性を考えると、サポートギターを入れることが妥当と思われたが、エンドウ/カミヤマ/シミズの3人は「スリーピースバンド」として進んでゆく道を選んだ。そういう覚悟のうえで完成させたのがメジャーデビュー作『Boys just want to be culture』であり、だからこそ、このアルバムを作るうえでは、メンバー同士の強い信頼感が大切だったのだと思う。そして、そのアルバムを引っ提げた全国9ヵ所をまわるツアー「PELICAN FANCLUB TOUR 2018 “Boys just want to be culture”」を開催。ファイナルとして行われた渋谷クアトロでのワンマンは、より強固な信頼で結ばれたメンバーが、ここからPELICAN FANCLUBとして唯一無二の音楽を鳴らしていくという決意を体現するような熱いライブだった。
「素敵な夜を楽しもう。PELICAN FANCLUBです」
エンドウがギターを高く掲げて、高らかに第一声をあげると、デビュー作『Boys just want to be culture』でもオープニングナンバーとして収録されている「Telepath Telepath」からライブは始まった。オレンジ色に染まるステージ。海外インディーシーンの影響が色濃い、オルタナティブなバンドサウンドにのせて、満員のフロアは一斉に揺れ始める。シミズヒロフミ(Dr)の鮮やかなタムまわしに導かれるようにハンドクラップが湧いた「Dali」、カミヤマリョウタツ(Ba)が激しく体を動かし、ミラーボールの光がフロアを優しく照らした「Luna Lunatic」。この日は、音源とは異なるメンバーのセッションではじまり、途中から馴染みのイントロに突入するという展開の曲が多くあったが、「あ、この曲か!」とわかる瞬間の言い様のない快感も、PELICAN FANCLUBのライブに来たという実感を深めてくれた。
「今日はワンマンなので、たくさん曲をやります。静かな曲をやるから、耳をすませてよく聴いてください」と言ったあと、その言葉とは裏腹に、アグレッシヴなパフォーマンスで魅せた「Chilico」と「プラモデル」、抑えようもない感情を荒ぶる轟音のなかで爆発させる「ガガ」へとつないだ。穏やかだったはずのメロディラインで突然シャウトをしたり、ポップな雰囲気から一転してダークで衝動的なサウンドへと変貌していたり、こちらの予想など意に介さず、自由に鳴らされる音たちが聴き手の心を激しく揺さぶってゆく。「許されない冗談」では、エンドウがおもむろにベースのカミヤマを指さすと、骨太でヘヴィなべースプレイが炸裂。体の芯まで響くような重低音で会場が満たされると、その空気を一変させたのは「M.U.T.E」だった。カラフルな光に彩られたステージでスタイリッシュなグルーヴを生み出したかと思えば、続く「クラヴィコードを弾く婦人」では清涼感のあるコーラスが懐かしく響きわたり、「Shadow Play」ではリズムと戯れるような軽やかなメロディが渋谷クアトロを明るい雰囲気で包み込んでゆく。ものすごい振り幅だ。そのあとのMCで、エンドウは「『Boys just want to be culture』という作品は、PELICAN FANCLUBの、エンドウアンリの頭の中を詰め込んだアルバムです。今日はそのツアーファイナルです。たっぷりと浸かってください」と言ったが、その“頭の中”という言葉が、彼らの音楽を表すのにピッタリだなと思った。ジャンルわけは不可能だし、両極端に振れる。捉えどころがないけれど、間違いなくひとつの感性のもとに束ねられる音楽は、まさにエンドウの頭の中だ。
牧歌的なギターポップにのせて、パソコンの中のあの娘に恋をする「ヴァーチャルガールフレンド」のあと、「ここからはアダルトなPELICAN FANCLUBを」と言うと、『Boys just want to be culture』の収録曲のなかでも、とりわけ激しい「ハッキング・ハックイーン」へと突入した。先述の、「静かな曲を」と紹介したあとに続けた「Chilico」のときも思ったが、エンドウの煽り文句と、そのあとに演奏される曲調がややズレている気がしたが、それは意図的なものなのだろう。どうせ音楽は言葉では括れない。“心をハッキングしてくれ!”という絶唱。破壊的なサウンドに合わせて真っ赤に染まるステージ。熱狂と興奮が増してゆくなかで、伸びやかなサビで自然と体が踊りだすような「VVAVE」(ウェイブと読む)で、器用にもギターを抱えたまま上着を脱ぎ捨てたエンドウは、「証明」ではシャウト気味のラップで鋭く切り込んだ。思えば、5ヵ月前、メジャーデビューを発表した渋谷WWW Xで、初めて3人編成のPELICAN FANCLUBを見たときは、正直、何かが足りないという違和感があったが、この日はそんな雑念も消えていた。いまのPELICAN FANCLUBがいままでのどの時期よりもいちばんかっこいい、そう断言できるステージだ。
終盤のMCでは、メンバーがそれぞれツアーの思い出を振り返ると、いよいよライブはクライマックスへ。言葉遊びの歌がダンサブルなサウンドを踊る「ハイネ」から、「まだまだ行こうぜ!」というエンドウの声を合図に、疾走感あふれるビートが会場の熱狂を加速させた「Night Diver」「SF Fiction」、そして、最後までトップスピードのまま「ノン・メリー」まで駆け抜けて、本編は幕を閉じた。アンコールでは、インディーズ時代のフルアルバム『Home Electronics』に収録されている名曲「花束」を届けた。そして、最後にエンドウが、「バンドがすっごい良い状況です。いま、たくさん曲を作ってるんですけど、没曲がない。本当に全部良い。大体わかるでしょ? 曲を作ってるっていうことは、いろいろあるんですよ(笑)。楽しみにしていてください!」と伝えると、彼らのライブでは欠かせない「記憶について」で終演。本編では、ほとんどステージ上手から動かなかったエンドウが唯一ステージのセンターに立ち、ひときわ力を込めて“気がついたら今日なんだ”というフレーズを叫ぶと、カミヤマもステージ際まで歩み出てフロアを煽り、ドラムのシミズも立ち上って、全力でスティックを振り下ろしていた。「よいお年を!」。大きな歓声に包まれて、バンドにとって激動の年となった2018年のラストワンマンを締めくくったPELICAN FANCLUB。間もなく迎える2019年、豊かな音楽性を、独自の感性で自分たちのかたちへと昇華させるユニークな彼らの存在が、音楽シーンを掻きまわしてくれることを期待している。
【撮影:伊藤惇】
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
Boys just want to be culture
2018年11月07日
Ki/oon Music
2.ハイネ
3.ハッキング・ハックイーン
4.ヴァーチャルガールフレンド
5.アルミホイルを巻いて
6.VVAVE
7.to her
8.ノン・メリー
セットリスト
『PELICAN FANCLUB TOUR 2018 "Boys just want to be culture"』
2018.12.05@渋谷 CLUB QUATTRO
- 01. Telepath Telepath
- 02. Dali
- 03. Luna Lunatic
- 04. アルミホイルを巻いて
- 05. Chilico
- 06. プラモデル
- 07. ガガ
- 08. 許されない冗談
- 09. M.U.T.E
- 10. クラヴィコードを弾く婦人
- 11. Shadow Play
- 12. to her
- 13. ヴァーチャルガールフレンド
- 14. ハッキング・ハックイーン
- 15. VVAVE
- 16. 説明
- 17. ハイネ
- 18. Night Diver
- 19. SF Fiction
- 20. ノン・メリー 【ENCORE】
- En-1. 花束
- En-2. 記憶について
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