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眉村ちあき ソールドアウトの渋谷クアトロワンマンで魅せた驚くべき爆発力

眉村ちあき | 2019.01.25

 悪の帝国の襲来を想起させる不穏なメロディを歌う声が聞こえてきて、ステージに現れた眉村ちあき。最早、彼女にとって普段着と言っても過言ではない宇宙服が、相変わらずとてもよく似合っている。被っていたヘルメットを脱いで、彼女が最初に届けてくれたのは「ツクツクボウシ」。開いたノートパソコンからトラックを流し、アコースティックギターを弾きながら響かせた歌声が、とても伸びやかで心地よかった。デスボイスも交えて変幻自在に歌う彼女を観ていると、フロアにいる我々の心も自ずと和む。《あ!ムロムロムロムロ ムロツヨシ》《なんでなんでなんで なんでなの》《ツクツクボウシ》というコールがマユムラー(眉村ファンの呼称)の間から湧き起り、会場全体が明るいムードで包まれていった。

 1人で歯医者に行けた奇跡を壮大に歌い上げた「Teeth of Peace」。トライバルなビートに合わせて毬のように跳ねまわりながら歌い、《ぐるぐるどっかーん》とハジケまくっていた「インドのりんご屋さん」。さらに2曲が披露されたところで迎えた最初のインターバル。「おはよー! こんなにたくさん、なにしてんのー! ねえねえ、今日、ソールアウトだってさあ~! すごい? すごい? すごい? すごい? すごい?」。ハイテンションで喋りつつ、何度もマユムラーに問いかけた眉村。そして、《左手だけで踊る人~》と、クネクネ踊りながら歌い始めた彼女に対して、マユムラーが《右手!》と元気いっぱいに返した場面を経て突入したのは「クイーン」。映画『ボヘミアン・ラプソディ』からのインスパイアで生まれた新曲だが、怒涛の展開を遂げつつ神々しく高鳴っていく様は、妖しいエネルギーと圧倒的なキャッチーさに満ちあふれていた。

「リアル不協和音」を歌い終えた後、「…………力入りすぎておしっこ出ちゃった……」と、いきなり大胆な告白をした眉村。「いいよ!」「どんまい!」と声をかけるマユムラーが、実に優しい。続いて、「これホンマに眉村さんが作ったの?」と「どっこいトゥモロー」も披露されたが、随所で上がる合いの手のコールの一体感がものすごい。彼女の曲がいかに愛されているかが自ずと伝わってきた。「《1・2・3!》って言ったら、《ヘチマで体洗ってる》って言えるかな? ぎっしりの人? 歯ぐきの人? 1人で来られたのかなあ? ハゲの人? 犬の人? 私は昨日、1人で部屋に閉じこもってたんです。今、脳みそから汁出てる! これをみんなにあげる! どお~ん! ワン! ウウウー、ギャロップギャロップ!」。どう逆立ちしても意味がよくわからなかったが……とにかく楽しさをたくさん届けてくれたMCを経てスタートした「ヘチマで体洗ってる」の盛り上がりも桁外れだった。ウミガメ型のゴムボートに乗って観客の頭上を漂いながら歌った「MCマユムラ」。異次元を旅したかのようなスリルを噛み締めさせてくれた「宇宙に行った副作用」……ユニークなフォルムだが、まぎれもなく極上のポップスと断言できる曲の数々を、こうして生で体感できる楽しさは、本当に絶大なものであった。

 丁寧にチューニングをしてからアコースティックギターを弾き始めて、温かい愛情をこめながら歌った「おじさん」は、マユムラーの心を動かしているのを感じた。エモーショナルな歌声が響き渡った「CRAYON」も経て、眉村の一人舞台のラストを飾ったのは「ビバ☆青春☆カメ☆トマト」。フロアのど真ん中へと突入した彼女を中心として、しゃがんだマユムラーが生み出した円形の空間は、まるでミステリーサークル。超常現象のような風景が広がる中で響き渡った《ビバ☆青春☆カメ☆トマト》という大合唱は、とてもウキウキした昂揚感を漂わせていた。

 赤ん坊の声が聞こえてきて、ステージに登場したバンド「眉村ちあきベイビーズ」。アフロ藤村木(B)、黒タイツ(G)、ザキヤマ筋(G)、ツルリン田(Dr)、キヨキヨ星人(Key)に続いて現れた眉村は、ピンク色のベビー服を着ていた。キヨキヨ星人が弾いた「うさぎとかめ」に合わせて元気よく飛び跳ねた後、彼女が最初に届けてくれたのは「ナックルセンス」。バンドサウンドに包まれながら響かせた歌声が、とてもパワフル。マユムラーの間から起こったコールも熱いエネルギーを帯びていた。続いて、「スーパーウーマンになったんだからな!」「I was born in Australia.」「東京留守番電話ップ」も披露されたが、演奏しているメンバーたちも、自由に動きながら歌っている眉村も、実に楽しそう。ツルリン田はオシャブリをくわえているし、キヨキヨ星人は宇宙人だし、眉村を含む他のメンバーたちもどうかしている服装ばかりであったが、奏でられていた音は、最高にかっこよかった。

「ここは渋谷だけど荻窪に行きたいかー? 荻窪選手権に出たいかー?」と煽ってからスタート。キレ良く踊る眉村の姿が、マユムラーを激しく興奮させていた「荻窪選手権」。昨年、『ゴッドタン』に出演した際に披露した即興ソングから生まれた曲だが、パワフルなバンドアレンジがとてもハマっていた「大丈夫」。そして、キヨキヨ星人によるピアノの伴奏で披露した即興ソングを経て歌い始めた「ピッコロ虫」は、印象的だった曲として改めて思い出される。全力で声を響かせていた彼女の姿は、歌うことがとにかく好きで仕方ない気持ちに満ち溢れていた。あの場にいた全ての人が、とても胸打たれる何かを感じたのではないだろうか。

「今吸っている息、そして吐いている息。それは私たちが共有しています。気持ち悪いですね(笑)。ですけど、私はみんなのその息を吸ってインフルエンザになってもいいから。その愛を伝えたいと思います。これで眉村ちあきと、眉村ちあきベイビーズの物語は終わりです。めでたし、めでたし!」という挨拶をした後、「ブラボー」を歌ってステージから去った眉村とバンドメンバーたち。しかし、激しい手拍子と歓声に応えてアンコールが行われた。東京オリンピックの法被を羽織って戻ってきた眉村は、「2020年のオリンピックに出ようと思います。まだ間に合うぜー!」と高らかに宣言。マユムラーから「種目はなんだ?」と問われて、「ハンカチ落としに決まってるだろ! バカヤロー! ハンカチ落とし大好き!」と即答していたのが、とても可愛らしかった(※彼女は時々マユムラーを集めて、ハンカチ落としをして遊んでいる)。

「かわいい? このスカートは、私が眉村ちあきという芸名をつけて初めて買った衣装です。FOREVER21です」。着ている衣装について説明した後、彼女は事前に用意してきた文章を時々見つつ、生声でメッセージを届けた。「私は今、目に見えるほどのスピード感で出世しています。こんなに規模が大きくなっているにもかかわらず、まったくプレッシャーを感じていません。“渋谷クアトロ、800人の規模でプレッシャーを感じていたら、さいたまスーパーアリーナでどうするんだろう?”と。私は今、クアトロに立っている。でも、1ミリも緊張していない。つまり、私は生まれた時からスーパーアリーナに立てる懐の広さを持っている。5月5日、『VIVA LA ROCK』に出る。スーパーアリーナです。だけど、ちょっとくらいしか緊張しないと思う。だから余裕のよっちゃんで、とっととMステに出ちゃお~っと」。そして、「なんだっけ?」がスタート。アコースティックギターを弾きながら響かせた生声の歌が清々しい。ここからさらに力強く進んで行こうとしている彼女の姿が、特に気負うことなく、ごく自然に表わされているように感じられた。

「“ああ、そんなこともあったなあ”と思わせるから」。渋谷クアトロでのワンマンライブのチケットをソールドアウトさせたことを、通過点の1つとして感じている旨を語った後、彼女は抱いている夢も言葉にした。「私は絶対に家を建てるから。みんなと住む家を建てるから。今日は帰らないで! 帰ったら出禁にするからな!」というMCを経て、アンコールの2曲目に届けられた「本気のラブソング」。途中で「客席を明るくしてください。みんなの顔を見ながら歌う」と言って、マユムラーの1人1人と目を合わせながら歌っていた彼女は、とても幸せそうだった。

「赤ちゃんたちー! こっちおいで~」。バンドメンバーたちをステージに招き入れてから、私は「クイーンです!」という宣言をした眉村。映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観て影響されたのだと思われる「エーオ!」というコール&レスポンスを始めたのだが、徐々に複雑化していく節回しについていけず、ぐだぐだになっていったマユムラー。「ちゃんとやれよ! やる気あんのかよ!」とブチ切れられるという、最近の彼女のライブで恒例となりつつある事態をまたしても迎えてしまった……。「ハナクソさ~ん」「ハナクソほじってつけちゃお~」「あらあらハゲがハナクソに見えたっ」「帽子をとったらツルツルテン」「大好き! ハゲっ!」「ゴー! ゴー! ハゲ!」「ノーハゲ, ノーライフ.」――奇妙極まりないフレーズによるコール&レスポンスを経て、ラストに「眉村ちあきベイビーズ」の編成で披露されたのは、「メソ・ポタ・ミア」だった。明るい声でコールしながらマユムラーが一斉に飛び跳ねていたフロアが壮観。金色の紙吹雪が発射されてエンディングを迎えた時、熱い拍手がステージに向かって届けられた。

「私が日本の天下をとる! そして日本だけでは飽き足らず、世界の天下をとる!」。力強い言葉を彼女が放ってから大音量で流れ始めたクイーン「We Are the Champions」。一旦はステージから去ったが、拳を突き上げながら《We Are the Champions》と熱唱し続けるマユムラーに呼び戻された彼女は、バンドメンバーたちと繋ぎ合った腕を掲げて深々とお辞儀。親しみやすい笑顔を目一杯に輝かせていた姿は、とても大きく見えた。今回のライブ中に語っていた夢、目標を、彼女は本当に着々と叶えていくかもしれない。そう思わせてくれるだけの説得力、実力、表現力、そして、なにやら得体の知れない爆発力を「弾き語りトラックメイカーアイドル・眉村ちあき」は、確かに持っていた。恐るべきエネルギーを存分に味わうことができたライブであった。

【撮影:I.ITO, TETSUYA TSUJI, KOHARU】
【取材・文:田中 大】

tag一覧 眉村ちあき ライブ 女性ボーカル

リリース情報

ぎっしり歯ぐき

ぎっしり歯ぐき

2019年01月09日

レーベルじゃないもん

01. ハタチの女(from ハタチの女 オブ アメリカ)
02. I was born in Australia.(from 海苔汁)
03. あごけずりゆうこ(from Germanium)
04. スーパーウーマンになったんだからな!(from ハタチの女 オブ アメリカ)
05. 東京留守番電話ップ(from Germanium)
06. どっこいトゥモロー(from Germanium)
07. MC マユムラ(from 海苔汁)
08. CRAYON(from 海苔汁)
09. ビバ☆青春☆カメ☆トマト(from ハタチの女 オブ アメリカ)
10. サイコパス(from ハタチの女 オブ アメリカ)
11. 宇宙に行った副作用(from 目尻から水滴3 個、戻る)
12. これホンマに眉村さんが作ったの?(from Germanium)
13. お天気お姉さん(from 海苔汁)
14. ちゃらんぽらん(from 海苔汁)
15. リアル不協和音(from Germanium)
16. ツクツクボウシ(from 海苔汁)
17. コカコ○ラのスリッパ壊れた(from Germanium)
18. 面会(from ハタチの女 オブ アメリカ)
19. ナックルセンス(from 目尻から水滴3 個、戻る)
20. メソ・ポタ・ミア(from 海苔汁)
21. 大阪(from ハタチの女 オブ アメリカ)
22. 家事(from ハタチの女 オブ アメリカ)
23. ( タイトルなし)(from ハタチの女 オブ アメリカ)
24. ピュア(from ハタチの女 オブ アメリカ)
25. 赤いハート(from スーパーサイア「ち」)
26. ゴミ女がかいたウタ(from Hipar Saiyan Chi)
27. ひとりぼっちのアイドル(from スーパーサイア「ち」)
28. She Saw(from スーパーサイア「ち」)
29. FUKUOKA(from Hipar Saiyan Chi)
30. Dear My Family(from スーパーサイア「ち」)

セットリスト

眉村ちあき 東阪クアトロライブ〜眉村ちあき×スーパードラゴンゲスト〜
2019.01.13@渋谷CLUB QUATTRO

    <眉村ちあき>
  1. 01 ツクツクボウシ
  2. 02 Teeth of Peace(*発売前新曲)
  3. 03 インドのりんご屋さん
  4. 04 クイーン(*発売前新曲)
  5. 05 リアル不協和音
  6. 06 これホンマに眉村さんが作ったの?
  7. 07 どっこいトゥモロー
  8. 08 ヘチマで体洗ってる(*発売前新曲)
  9. 09 MCマユムラ
  10. 10 宇宙に行った副作用
  11. 11 おじさん(*発売前新曲)
  12. 12 CRAYON
  13. 13 ビバ☆青春☆カメ☆トマト
  14. <眉村ちあきベイビーズ>
  15. 14 ナックルセンス
  16. 15 スーパーウーマンになったんだからな!
  17. 16 I was born in Australia.
  18. 17 東京留守番電話ップ
  19. 18 荻窪選手権
  20. 19 大丈夫(*発売前新曲)
  21. 20 ピッコロ虫
  22. 21 ブラボー
  23. 【Encore】
  24. <眉村ちあき>
  25. En-1 なんだっけ?
  26. En-2 本気のラブソング
  27. <眉村ちあきベイビーズ>
  28. En-3 メソ・ポタ・ミア

お知らせ

■ライブ情報

BAYCAMP 201902
2/2(土)神奈川CLUB CITTA’、CLUB CITT’A’TTIC

毎日眉村ちあき
3/11(月)新宿レッドクロス
【共演】Wienners
3/12(火)新宿レッドクロス
【共演】モーモールルギャバン
3/13(水)新宿レッドクロス
【共演】ひとりTOMOVSKY
3/14(木)新宿レッドクロス
【共演】KING BROTHERS
3/15(金)新宿レッドクロス
【共演】クリトリック・リス

3rdワンマンライブ「眉村ちあき 3rd ワンマンライブ〜東京湾へダイビング!〜」
6/4(火)新木場STUDIO COAST

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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