ユアネス、渋谷WWWのステージで物語られてゆく独自の世界
ユアネス | 2019.02.01
忘れられない過去への後悔を繊細なサウンドにのせて物語のように描いていく。福岡発の4人組ロックバンド、ユアネスが渋谷WWWでおこなったワンマンライブで見せたものは、そんな音楽だけ作り上げることのできる景色だった。このライブはユアネスが昨年11月にリリースした6曲入りニューEP『Shift』を引っ提げた全国ツアー『Shift Tour 2019』の東京公演。地元・福岡からはじまり、2公演目の東京を終えたあとは、初めてワンマンを開催する名古屋と大阪をまわり、3月23日に追加公演として実施される札幌でツアーファイナルを迎える。
今回のツアーから初めて使用された巨大なフラッグがステージに掲げられていた。ソールドアウトのフロアは満員のお客さんが詰めかけている。SEが流れ、美しいミラーボールの光が会場を包み込むなか、黒川侑司(Vo/Gt)、古閑翔平(Gt)、田中雄大(Ba)、小野貴寛(Dr)がステージに登場した。EP『Shift』でもオープニングを告げる、男女のポエトリーリーディング「変化に気づかない」、そこから物語を引き継ぐ「凩」からライブが始まった。黒川が紡ぐ伸びやかなボーカルを大切にしながら、目まぐるしく表情を変えるバンドサウンドがドラマチックに響きわたっていく。「今日はたくさん来てくれて、ありがとうございます。き、緊張します……」。歌っているときの堂々とした佇まいから一転、MCで途端に親しみやすい口調になる黒川のギャップに会場からはクスリと笑い声が湧き起こる。
ステージに降り注ぐ照明の光が楽曲の世界ともシンクロしていたバラード「日々、月を見る」のあと、ジャジーでスローなサウンドにのせて、ライブハウスの景色を切り取った「100㎡の中で」では、フロアを優しく揺らした。黒川が紡ぐ伸びやかなメロディに漂う感情を、ひときわ増幅させるような古閑の雄弁なギターリフ。田中の骨太で躍動感のあるベース。上半身を大きく使いながら、舞うようにハイハットを叩き出す小野のドラム。MCで黒川が「僕らの曲は物語性があるから、感情に任せてバーンとやるのは難しい」と言っていたとおり、そこがライブハウスだからと言って、ことさら熱量や勢いに頼るのではなく、音源の再現性も高い丁寧な演奏から、ユアネスの楽曲が持つ本来の良さが伝わる。
今回のツアーの主役であるニューEP『Shift』は、その半年前にリリースされた前作ミニアルバム『Ctrl+Z』の続編にあたり、ふたつでひとつの作品になっている。ということで、ライブの中盤は『Ctrl+Z』の楽曲が続けて披露されたが、まず息を呑んだのが「あの子が横に座る」だった。静謐と激情のあいだを行き来する変拍子。ファルセットを交えて、たゆたうように流れるメロディが描き出すノスタルジー。まだまだ彼らはライブハウスシーンを除いては無名と言っていいバンドだが、間違いなく音楽的に高いポテンシャルを持つことを、この1曲だけでも十分に伝えてくれる。押し殺した劣等感を振り払うようなポストロック「少年少女をやめてから」から、無秩序なリズムを刻むインタールード「T0YUE9」を挟んだあと、バラード曲「夜中に」では、輝く星空の下で静かに膨れ上がる孤独や愛情を大らかな歌で描き出した。特に後半にかけては、メンバーの集中力がいっそう高まり、バンドというひとつの塊として研ぎ澄まされていく様がありありとわかる。
新曲として、「私の最後の日」が披露された。すでにインターネットでは歌詞のみ公開されていた楽曲。それを今回のツアーではピアノの伴奏をオケで流して、黒川がひとりで歌うというかたちで届けたいという。「バンドが加わったときに、またどうなるか、その変化を楽しみにしてほしい」(黒川)。そう言って、美しいピアノの旋律にのせて紡いだのは、とても悲しい別れのバラードだった。こういうふうに、ライブ中にボーカルがひとりで歌うようなシチュエーションでは楽器隊は袖に捌けることも多いが、古閑、田中、小野の3人はステージに残ったままじっと黒川の歌を聴いていた。ユアネスの楽曲は古閑が作る。それを踏まえて、歌い終えたあと、黒川は、「彼(古閑)はギターを弾く人なんですよ。でも、渡されたのがピアノとボーカルの曲だった。ピアノを弾ける知り合いと作ってくれて。型破りですよね、ギタリストなのに。作曲家として、黒川が(歌で)勝てる曲を作ってくれたのが、うれしかった」というようなことを伝えた。そうやって、新曲に寄せる想いを丁寧に伝えるやり方は、バンドとして、ひとつ曲を作り上げる過程に、彼らがどれほど心を震わせているか、それを垣間見られるような瞬間だった。
ラスト2曲を残して、自分たちのライブではアンコールをやらない意味を、黒川が説明した。「アンコールありきでライブをするのが苦手で……。でも、だからと言って、アンコールがしたくないわけじゃない。いつか、ぼくらが成長して、どうしてアンコールをやりたくなったら、やりたいと思ってます」。それは裏を返せば、本編だけにすべてを完結させることがいまのユアネスが目指す表現である、ということだろう。さらに、「もともと僕は音楽を好きでバンドを始めたわけじゃないんですけど、活動を続けていくなかで、音楽を好きになれたんですよね。これから、もっともっと音楽を好きになれそうな気がします」と伝えると、彼らの名前を広めるきっかけになった「Bathroom」を披露した。最後は、「みんなが歌ってくれるこの曲が好きです」と言うと、自分の弱さを曝け出しながら前、それでもを進もうともがく「pop」を、集まったお客さんの声と一緒に作り上げて終演。歌の途中、《それでも仲間達が傷つく姿は もう見たくないんだ》というフレーズで、黒川がさりげなくメンバーのことを指し示す仕草が、とてもフロントマンらしくて印象的だった。
思えば、ユアネス初の東京ワンマンは、昨年4月のTSUTAYA O-nestだった。そこから1年足らずで、今回は渋谷WWWをソールドアウト。かなり順調なペースだ。だが、そんな状況を楽しみながらも、ユアネスは決してその勢いに呑み込まれることなく成長していくのだと思う。自分たちの心に従って、自分たちらしいやり方で、バンドを大切に育んでいるユアネスは、きっと2019年もその音楽で私たちをワクワクさせてくれるだろう。
【撮影:Daisuke Miyashita】
【撮影:Yoshiaki_Miura】
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
Shift
2018年11月21日
HIP LAND MUSIC
02.凩
03.少年少女をやめてから
04.T0YUE9
05.夜中に
06.日々、月を見る
セットリスト
ユアネス『Shift Tour 2019』
2019.1.13@渋谷WWW
- 1.変化に気づかない
- 2.凩
- 3.色の見えない少女
- 4.日々、月を見る
- 5.100?の中で
- 6.虹の形
- 7.あの子が横に座る
- 8.cinema
- 9.少年少女をやめてから
- 10.T0YUE9
- 11.夜中に
- 12.私の最後の日
- 13.Bathroom
- 14.pop
お知らせ
ユアネス × mol-74 2man Tour 2019
" White Line "
02/01(金) 仙台 enn 2nd
02/02(土) 横浜 BAYSIS
02/11(月・祝) 金沢 vanvanV4
02/23(土) 神戸 ART HOUSE
02/24(日) 山口 LIVE rise SHUNAN
イベント情報他
02/10(日) 群馬音楽センター / 高崎clubFLEEZ
02/15(金) TSUTAYA O-Crest
03/02(土) 新宿地区 ライブハウス
03/07(木) TSUTAYA O-Crest
03/09(土) 福岡 BARK UP
03/10(日) 渋谷 Star lounge
03/23(土) 札幌 COLONY
※「Shift Tour 2019」追加公演
03/24(日) タワーレコード 札幌ピヴォ店
04/13(土) 名古屋 クラブクアトロ
04/27(土)・28日(日)
みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。