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w.o.d. 自主企画ライブイベント 『スペース・インベーダーズⅠ』

w.o.d. | 2019.02.08

 一言でいえばヤバいバンドがヤバい仲間ばっかりを集めて開催する、ヤバいパーティーである。神戸発の3ピース、w.o.d.による初めての自主企画「スペース・インベーダーズⅠ」。大阪と東京で行われ、1月22日、大阪・心斎橋Pangeaでの公演にはSuspended 4thとThe Mirraz、そしてここでレポートする1月25日、東京・下北沢近松での公演にはニトロデイとNo busesが出演。メンツを見ただけで分かる人には分かる独特さ。タイトル通りまさに宇宙からUFOに乗って新世代のロックの侵略者たちがやってきてみんなの耳に細い管みたいなものを突っ込んで脳みそかき回して去っていくみたいな、自分でも何を書いているのかちょっと分からないが、つまりはそれほど鮮烈なインパクトのある体験だったのである。

 w.o.d.がどんなバンドか、については、まず2018年9月にリリースされた彼らのファースト・アルバム『webbing off duckling』を聴いてもらいたいのだが、サウンドでいえばグランジ、それも90年代シアトルの本家(というかつまりニルヴァーナ)から25年以上の時を経てついに現れた、日本人だからこそ鳴らせるグランジである。うるさくてラフなパワーコードとボフボフとこもった音のドラム、そしてやけに歌謡的なメロディとかっこつけるところの一切ない等身大の歌詞。本人たちが何を好きなのかはまったく知らないので個人的推測だが、ニルヴァーナとブランキー・ジェット・シティとザ・イエローモンキーを聴いて育ったらこういう感じになりそう、というのが素直に出た音だ。そんなバンドなので、はっきり言うとシーンや流行とは遠い。でもだからこそ、結構早い段階でオリジナルなポジションを確立させてしまう可能性を感じさせる。その証拠に、下北沢近松のフロアは開演30分前から熱気がものすごいことになっているのだ。学校帰りと思しきティーンからギョーカイっぽいおじさんまで、オーディエンスの幅も広い。

 そのw.o.d.が呼んだバンドたちなので、この日出演した残りの2組ももちろん一筋縄ではいかない。先陣を切ったのは横浜出身のニトロデイ。こちらも2018年12月にファースト・フルアルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースしたばかりだ。NUMBER GIRL直系のオルタナサウンドを鳴らすバンドだが、そのルーツを辿っていくともちろんグランジにたどり着く……というのはじつはどうでもよくて、このバンドのポイントは、ナンバガだろうがニルヴァーナだろうが、この4人にとってそれが「今」いちばんリアルな表現だということが、その佇まいと音から伝わってくるところである。つまり、ロックの歴史を聴き漁ってルーツに出会いました、ではなくて、交通事故みたいに出会ってビビビッと来て「かっこいいからやる」と脊髄反射的にギターを手に取る、そのままずーっとバンドをやっている、というような感覚。それがライブを観るとよくわかる。とくにフロントマンの小室ぺいには○○っぽいところがひとつもないのだ。オシャレ目線で選ぶのとはちょっと違うタイプのアディダスのジャージ、歪みまくったギターに乗るハイトーンボイス、気が利いているのかいないのかわからないMC。すべてが小室ぺいでしかない。結成からそんなに年数経っていないとか、そもそもまだ18歳とか、そういう要素を知ると「原石」とか「ポテンシャル」とかいう言葉を使いたくなるが、そうではない。ニトロデイはすでに完成している。音楽性は広がったり化けたりするだろうし歌うことも変わっていくだろうが、根本のところは揺るがないのだろう、と思う。

 続いて登場したのはNo Buses。国内のみならず海外でも「Tic」という楽曲のミュージックビデオがちょっとバズったりしている4人組である。このバンドの場合、バンド名をアークティック・モンキーズの曲名から拝借していることからも分かるとおり、ルーツにあるのは2000年代から2010年代の洋楽インディ・ロックだ。くせっ毛ロングヘア姿のボーカル近藤大彗、長身のギタリスト後藤晋也、紅一点のベーシスト杉山沙織、そして朴訥とした雰囲気のドラム市川壱盛。ステージに立ったその雰囲気からして何かあると感じさせるかっこよさ、音が鳴り出せばその予感は確信に変わる。シンプルなコード進行、クリアトーンのギターに軽やかなエイトビート、そして気だるそうな英語ボーカル。率直にいえばストロークスそのまんまである。しかし。2000年代に全世界的にロックンロール・リバイバルが勃興した頃、ここ日本でもそれに影響を受けたバンドがボコボコと登場してきたのだが、それらストロークス・フォロワーたちとこのNo Busesは根本的に何かが違うのだ。MCのいかにも慣れていない感じ、カッコつけるでもロックスターを気取るでもない自然体な感じ、そしてそれがライブハウスの現場で当たり前に馴染んでいる感じ。ニトロデイもそうなのだが、「ルーツ」や「オマージュ」の概念が、おそらくこれまでの世代とはまったく違うのだろう。古きも新しきもこれだけ選び放題時代だからこそ、好きなものは好き、とまっすぐ表現すればいい。それが彼らのスタイル、血肉となっていく。そんな印象を受けるライブだった。

 そしてトリを飾ったw.o.d.である。ここまで登場した2バンド同様、w.o.d.もまた自らのルーツに素直な音を鳴らしているというのは前述したとおり。それに加えて、やはりこのバンドを特別なものにしているのはライブの迫力である。1曲目「lala」のイントロからベースがぐおんぐおんと唸り、ギターが軋み、音圧でライブハウスの壁を震わせていく。続く「Vital Signs」では着ているホッケーシャツが似合いすぎのKen Mackay(B)がデカい身体を振り回して、それとは対照的に小柄なサイトウタクヤ(Vo・G)が不穏さを含んだがなり声を上げる。中島元良(Dr)のドシャメシャなドラムも最高だ。のっけから轟音の壮絶ラッシュを食らったオーディエンスは、みないい顔をしている。ここ近松は彼らにとってはずっと出続けているライブハウスだそうで、いかにもホームといった余裕綽々のパフォーマンスには、頼もしさすら感じるほどである。

 音源がそうであるように、ライブの現場でもこのバンドは観客に媚びるとかちょっとよく見せようとか、そういう意識がまったくない。というか、そんな意識出すほうがダサいということを本能的に知っているから、傍目には淡々と曲をやって帰る、それだけに見える。でもその音と歌声はものすごく饒舌に、そのときどきの感情を語っているように感じる。曲間に見えるちょっとした笑顔とかMCの端々に滲む思いとか、そういうところに言いたいことは全部詰まっている、とでもいうような。そういえばMCでは今年はアルバムを出すとか言っていた気もするが、それが本気なのか願望なのかそれともジョークのつもりなのか、それすらもよく分からないニュアンスだった。しかしこの日のライブで披露された新曲はめちゃくちゃかっこよかった。そういうようなことだ。

 こういうイベントでトリをやる場合、アンコールも想定してセットリストを組むのが普通のバンドのやり方なのだが、普通ではないw.o.d.はアルバムの全9曲+新曲の10曲を本編でやりきり、レパートリーを使い果たしてしまった。というわけでアンコールでは本編でもやった「Fullface」をもう一度。それでも明らかに1回目にやったときとは違うし、何なら断然2回目のほうがかっこよかった。必要以上の意味を音楽に背負わせない、必要以上に自己投影をしない、ただその表現はとことん正直にやる。そんな新世代バンドたちによる競演は、このご時世にロックバンドをやることのおもしろさをひしひしと感じさせてくれるものだった。これからどんどん、面白くなりそうだ。

【取材・文:小川智宏】
【写真提供: 次世代ロック研究開発室】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル w.o.d.

リリース情報

【カセット】Fullface

【カセット】Fullface

2018年06月06日

MIMINARI RECORDS

SideA Fullface
SideB みみなり

セットリスト

w.o.d. presents”スペース・インベーダーズI“
2019.1.25@下北沢近松

  1. 1.lala
  2. 2.Vital Signs
  3. 3.Wednesday
  4. 4.丸い真理を蹴り上げて、マリー。
  5. 5.VIVID
  6. 6.みみなり
  7. 7.Fullface
  8. 8.新曲
  9. 9.KELOID
  10. 10.スコール
  11. 【ENCORE】
  12. EN-1. Fullface

お知らせ

■ライブ情報

ATMC 2019 -Valentine Session-
02/14(木)梅田Shangri-la

Jack in the Boxxx!!! 2019
02/19(火)名古屋Club UPSET

MUSIC MONSTERS 2019
02/23(土)渋谷エリアライブハウス

え〜じゃないか 水戸周遊 FES
02/24(日)水戸エリアライブハウス

VINTAGE LEAGUE TOUR 2019
03/01(金)千葉LOOK
03/15(金)仙台enn 3rd
03/20(水)名古屋3STAR IMAIKE
03/21(木)心斎橋 Pangea
03/29(金)新代田FEVER

見放題東京2019
03/02(土)新宿エリアライブハウス

w.o.d.×ペペッターズ pre.「俺たちのTETRA p.o.d. CAST」
03/13 (Wed)神戸 太陽と虎

TENJIN ONTAQ 2019
03/16(土)福岡天神エリアライブハウス

HAPPY JACK 2019
03/17(日)熊本エリアイベント

FACE IT!! 2019
03/18(月)鹿児島SR HALL

-ハルバン’19-
03/24(日)広島エリアイベント

w.o.d. presents”スペース・インベーダーズII”
04/12 (Fri)下北沢BASEMENT BAR

IMPACT! XIV
04/20(土)札幌エリアイベント

Burgundy 1st e.p「FACE」TOUR
04/26(金)北堀江club vijon
04/28(日)新栄CLUB ROCK’N’ROLL

VIVA LA ROCK 2019
05/03(金)~05/06(月)
さいたまスーパーアリーナ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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