あいみょん、初の武道館ワンマン『AIMYON BUDOKAN―1995―』をレポート!
あいみょん | 2019.02.20
<果たし状>と書かれたタオルを肩にかけたたくさんの人が、会場の中へと吸い込まれていく。至るところで目にしてきた柔道着姿のアイコンもそうだったが、武道の聖地ならではのユーモアが散りばめられた、あいみょん初の日本武道館公演が始まろうとしている。『AIMYON BUDOKAN―1995―』。今夜はアコギ1本、ひとりきりの弾き語りだ。武道館の作りと同じ8角形のステージを、ぐるっと360度、アリーナから最上階までをびっしりと埋めたオーディエンスは約14,000人。開演予定時刻を少し過ぎた頃、客席の間の通路を通ってあいみょんが現れた。晴れやかないい笑顔だ。
自分のタイミングで、今心が求めるテンポで、1曲目「マリーゴールド」のサビをゆっくりと歌い出す。昨年初出場を果たしたNHK紅白歌合戦でも歌われた曲であり、たくさんのリスナーとあいみょんを繋いだ大切な1曲だ。歌い終えると同時に沸き起こった大歓声と拍手を受け、「360度、こんな景色なかなか見れないですね。今日は最後までよろしくお願いします!」と挨拶。次のセクションでは、ダンサブルに仕上げられていた音源とは違い、弾き語りすることによってより生々しさが強調された「愛を伝えたいだとか」や、みんなの手拍子とともに歌われた「満月の夜なら」を。ひと呼吸置いて会場を見渡しながら「意外と近くない?」「みんなドタキャンするかなと思ってた(笑)」とリラックスした感じでMCを始めるあいみょん。ここまで南向きだったステージを回転させる際には「なんか恥ずかしい(笑)」と思わず顔を覆ったりして、素の部分の魅力もしっかりと伝わってくる。スツールに腰掛けじっくりと歌われた「風のささやき」と「恋をしたから」の2曲は、それまであいみょんの表情を捉えていたスクリーンも消え、こちらからは完全に後ろ姿しか見えなくなった。普段のライブだったら絶対に見ることができない角度。今どき流行らない言い方かもしれないけど、背中は言葉以上に何かを語っているんだなと思わされるようなシーンだった。
「最近友達が上京してきて。みんなもご存知じゃない? 私の友達と言えば、みたいなとこあるやん(笑)?」と、中学3年生からの友人であり、あいみょんという名前の名付け親であり、「○○ちゃん」という楽曲のモデルになった友達についてのトークを展開。彼女についてはこれまでもいろんなライブで話題に上がってきたが、この日はまた別のMCのコーナーでも彼女にまつわる詳細なエピソードが披露されていた上、休憩時間を利用して流れていたラジオ番組「SNACK TIME RADIO」のゲストとしても登場するなど大活躍(笑)。その後は、こちらもよく話題に上るあいみょんの家族についても触れながら、「自分(の家族)以外の家族を歌にしようと思ったのは初めて」という新曲「ハルノヒ」が披露された。これは『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』(4月19日公開)の主題歌として書き下ろされたもので、この夜が初披露。「岡本太郎の太陽の塔も、吉田拓郎も、ベッツィ&クリスも、全部しんちゃんが教えてくれた。野原一家への、私なりの恩返し」と曲に込めた思いが語られていた。
兵庫県の西宮で生まれたあいみょん。去年までこの日本武道館がどこにあるか知らなかったが、銀杏BOYSのライブを見にきた時「(ここに)立てたらいいな」と思ったそうだ。18歳の時に「てっぺん獲れるよ」と声を掛けられ、シンガーソングライターの道を突き進むべく大阪・梅田駅前で路上ライブを開始。10人ぐらいしか集まらず「嫌で嫌で仕方なかった」が、20歳で上京し、2年前まで渋谷TSUTAYAの前で歌っていた自分が今こうして武道館のステージに立っている。「すごいことやと思う」と感慨深げに振り返りつつ、その路上ライブの時に歌いまくったという「貴方解剖純愛歌?死ね?」が披露された。しょっぱなから歌詞を間違えてしまい、「”解剖”する順番、間違えた(笑)」とあいみょん。仕切り直して歌い始めると自然発生的に手拍子が沸き起こり、幸せな一体感に包まれながらライブ前半戦を終えた。
休憩を挟み、後半戦は1stアルバム「青春のエキサイトメント」の1曲目でもあった「憧れてきたんだ」から。ジャキジャキと鳴らされるカッティングの音が生々しく、テンションの高いあいみょんの歌声にゾクゾクさせられた。美しい泡のようなライティングが会場を彩った「今夜このまま」、最近のライブでは定番となってきた「まだ眠くないの!?」「セックス!」という掛け合いを楽しんだ「ふたりの世界」、並並ならぬ生命力をみなぎらせたアカペラから始まった「どうせ死ぬなら」など、1曲1曲の世界観を大事に進めていく。「いつまでも」では途中で歌詞を間違えてしまったが、爪弾くギターを止めることはなく、この曲でも歌われているあいみょんの信念――「ゴッホは死んでから天才って言われたけど、そうはなりたくない。生きてるうちにたくさん評価された人間として死にたい」と即興で語る場面も。ハプニングから生まれた、この日限りの最高すぎるライブバージョンだった。異様なほど真っ赤に染まった空間の中でデビュー曲「生きていたんだよな」を歌い終えると、あいみょんは今回のライブのタイトルについて語り始めた。「1995というのは、お母さんが私を生み落としてくれた年。阪神・淡路大震災の2ヶ月後に生まれました。私が人として生まれてきた原点は、母ちゃんの腹の中。お母さんのお腹の中から人生が始まったんかと思うと、この弾き語りはシンガーソングライターである私の原点。私の原点を結び付けられたらいいなと思ってこのタイトルにしました」。また、「武道館公演が決まって今日まであまり時間がなかったけど、何か特別なことがしたいと思って」と、この日のために書き下ろされた新曲「1995」が披露された。サビの《こんなにさ 幸せってことを伝えたいだけの歌 歌うたい気取りの勘違いの歌》という歌詞に続いて繰り返された「ラララ」は、会場にいるみんなで大合唱。柔らかな灯りで照らされた客席を、幸せそうに見つめるあいみょんの表情も印象的だった。
「Zepp Tokyoで武道館を発表したけど、自分が生きてきてあんなに大きな歓声をもらえるなんてまずないこと。日々いろんな人に感謝をしながら生きたいなと思いました。あの瞬間のことは、骨になって焼かれるまで忘れられないなと思います」と、昨年12月の東京公演を振り返ったあいみょん。「この360度っていう空間を存分に最後まで堪能したいと思います!一緒に歌いましょう!」と言葉を添え、ラストナンバー「君はロックを聴かない」を全員で歌いきった。
「みなさん、今日は私に1番の特等席をありがとうございました! まだまだ一緒に見れる素敵な景色があるなと、改めて思いました。でね、武道館が決まった時に、この360度の景色を独り占めしてって言ってくれた人がいます。ここに立つまで一緒に頑張ってきてくれた、マネージャーさんを呼んでもいいですか!? 独り占めしてって言ってくれたけど、やっぱり一緒に!」
デビュー前からあいみょんと二人三脚でやってきた女性マネージャーを呼び込むと、決して重苦しいものではなく、むしろ清々しさすら感じる涙とともにハグを交わす2人。照れ臭そうな表情を残しながらも、あいみょんは14,000人に向かって「路上ライブからこんなところまで来させてくれてほんまにありがとうございました!」と頭を下げステージを降りた。ギター1本、そして歌があるだけの弾き語りライブ。あいみょんの原点にある底知れぬパワーと可能性を感じた、記念すべき初武道館公演だった。
【撮影:永峰拓也】
【撮影:鈴木友莉】
【取材・文:山田邦子】
リリース情報
瞬間的シックスセンス
2019年02月13日
ワーナーミュージックジャパン
02. マリーゴールド
03. ら、のはなし
04. 二人だけの国
05. プレゼント
06. ひかりもの
07. 恋をしたから
08. 夢追いベンガル
09. 今夜このまま
10. あした世界が終わるとしても
11. GOOD NIGHT BABY
12. from 四階の角部屋
お知らせ
めざましテレビ25周年記念 めざましライブ~日本お元気キャラバン in 国技館
03/06(水)両国国技館
30th J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE
supported by azabu tailor
03/10(日)両国国技館
ORANGE RANGE presents
“テレビズナイト 019”
04/13(土)沖縄・ミュージックタウン音市場&音楽広場
OSAKA METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2019
05/18(土)・19(日)
METROCK 大阪特設会場(大阪府堺市・海とのふれあい広場)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。