ビッケブランカ、『WIZARD TOUR 2019』のファイナルをレポート!
ビッケブランカ | 2019.02.27
荘厳なオーケストラサウンドが場内に響き渡ったかと思うと、ステージを覆う紗幕にひとりの男のシルエットが浮かび上がる。その男が歌い始めたのは軽快なワルツの調べ「Wizard」――そんなファンタジックな雰囲気で幕を開けたビッケブランカ『WIZARD TOUR 2019』ファイナル。そしてアルバムと同じく、ガイド役のナレーションがショーの始まりを告げると、高らかにピアノが鳴り渡った。「東京ー!」と、トリコロールカラーの衣装に身を包んだビッケブランカが満面の笑みで叫ぶ。真冬の東京に一足早く春を引っ張ってくるような「ウララ」のアッパーなメロディがZepp Tokyoをカラフルに彩っていく。
ドラマ『獣になれない私たち』の挿入歌「まっしろ」で一躍知名度を高めたビッケブランカだが、この日初めて彼のライブを観た人は、そのパフォーマンスの引力の強さに度肝を抜かれたのではないか。いや、ずっと彼を見続けてきたファンでも、この日ステージから放たれたエネルギーには圧倒されたに違いない。Zepp Tokyoは大きなライブハウスだが、そのスケールを余裕ではみ出すくらいのショーマンシップとエンターテインメント性。そして何より、傑作『wizard』の楽曲がもつパワー。すべてがガチっと噛み合った、これぞビッケブランカという手応えを感じさせるライブだった。
挨拶代わりの「ファビュラス」で先制パンチをかますと、フレディー・マーキュリーばりのコール・アンド・レスポンスで場内を沸かせ、ギターのカッティングが小気味よく響く「アシカダンス」でフロアをダンス空間に変貌させる。ブラーみたいなリフが唸るロックンロールチューン「Buntline Special」ではビッケブランカとギターの井手上誠に加えキーボード・コーラスのにしのえみまでもがギターを提げ、横並びでのトリプル・ギター・プレイを披露。そのまま若山雅弘によるタイトなドラミングが張り詰めた緊張感を演出するハードなロックナンバー「Black Rover」へなだれ込む。ここまで7曲、MCなし。映画でいえばオープニングから迫力満点のスペクタクルシーンが連続するような展開である。ようやく音が切れたところで割れるような拍手が起きたのも納得だ。
「みなさんも楽しみにしてくれたんじゃないかなと思いますが、絶対言いきれるんですけど、僕のほうが楽しみにしていました」という言葉を証明するように、この後もめくるめくビッケブランカワールドが描き出されていく。久しぶりに演奏するという「Wednesday」や「Speech」のようなミディアムチューンやアーバンソウルなグルーヴ感が気持ちいい「Lights Out」などを経て、ビッケブランカにとって大きな意味をもつ曲となったバラード「まっしろ」をエモーショナルに歌い上げる。さっきまでハイテンションで盛り上がっていたフロアがしんと静まり返り、彼のピアノと歌に聴き入っている光景が印象的だ。この振れ幅、つまりソングライターとしての懐の深さこそがビッケブランカの本領。まるで世界を塗り替えるように、曲ごとに空気が色を変えていく。「ビッケブランカのキャリアがこの先も続いていくとして、一生大切に歌っていくことになるんだろうな」。「まっしろ」を歌い終えたビッケブランカの言葉に、大きな拍手が起きた。
クイーンやミーカからの影響と彼らへのリスペクトをたびたび公言しているビッケブランカだが、彼らに共通するのは優れた作曲家や演奏家であるということは言うまでもなく、ライブという場でのエンターテイナーとしての貪欲さだ。その場を音楽の力で掌握し、オーディエンスを日常では見ることのできない景色へと誘う。それができるのは、限られたアーティストだけだ。しかも、ビッケブランカという人の凄みは、それを最終的にJ-POPとしてのタフさをもったものとしてアウトプットできるという点にある。洋楽/邦楽という区分を持ち出すならば、ビッケブランカの作る曲はじつはきわめて「洋楽的」な要素をもったものばかりである。でもそれが彼というフィルターを通して発信されることで、誰にとっても親しみやすいポップソングへと変わる。「まっしろ」の受け入れられ方は、そんな彼のありかたを象徴するものだともいえる。
ベーシスト大澤DD拓海(ビッケブランカの大学の後輩でもある)へのイジりも含めたメンバー紹介を経て、ここで新機軸。「Transform!」という言葉とともにステージが暗転すると、ステージ中央のブースにはビッケブランカとにしの、若山の3人の姿が。そして腹に響くキック音が鳴り出し、まさかのDJタイムがスタートだ。「夏の夢」のリミックス、そして「Smash(Right This Way)」「キロン」とサンプラーやミキサーのエフェクトを操作しながらのパフォーマンスが展開する。頭上では大きなミラーボールが回転し、Zepp Tokyoはさながら巨大なクラブ空間に。せまいブースに3人がぎゅうぎゅうになって音を鳴らす姿も様になっている。こうした構造になっても、やっぱり際立つのはそのメロディの美しさ。むしろ、DJスタイルになることで楽曲そのもののクオリティによりフォーカスされる印象すらある。もちろん、それ以前に我を忘れて踊ることができるという楽しさが襲ってくるのだが。
そんな新コーナーが終わると、再びバンドセットに戻り、井手上の高らかなギターサウンド、そしてビッケブランカのフロアをアジテートするフレディー的パフォーマンスから「Slave of Love」へ。彼の愛するミュージシャンへのオマージュが満載のロックオペラチューンで終盤戦へと突入だ。ファルセットが軽やかに広がる「Winter Beat」、そして最後はアンセミックな「Great Squall」へ。
じつはこの日のライブ前、ビッケブランカに少しだけ話を聞く時間があった。その中でビッケブランカは今回のツアーで初めて「発見」したこととして、この最後の曲を挙げていたのだ。これまでは落ち着いた曲で終わらせることの多かったビッケブランカのライブだが、今回のツアーではあえてこのワイルドでスケールの大きな曲をラストにもってきた。それがオーディエンスに受け入れられたということが新鮮だったらしい。コーラスが重なり、躍動感溢れるリズムが魂を鼓舞するような「Great Squall」は、ライブの最後の最後で新たな活力をオーディエンスに与えるような力強さをもっていた。
アンコールでは春にニューシングルがリリースされること、そして6月14日に新木場スタジオコーストでワンマンライブを開催することを発表し、さらなる大歓声を浴びたビッケブランカ。そして全18曲のライブは優しいメロディが耳に柔らかくなじむ「Wake up sweetheart」で穏やかにフィナーレを迎えた。先にも書いたが、現時点で最大スケールのツアーとなった今回の「WIZARD TOUR 2019」だが、そのパフォーマンスを見るかぎり、まだまだビッケブランカというアーティストのポテンシャルはこんなものではない。ライブへのこだわりが、そして楽曲そのものが、もっと大きなステージを求めている。ビッケブランカの本領発揮は、まだまだこれからだ――そんな期待を抱かせる一夜だった。
【取材・文:小川智宏】
リリース情報
wizard
2018年11月21日
avex trax
2.Winter Beat
3.まっしろ
4.Lights Out
5.ウララ
6.Black Rover
7.Buntline Special
8.夏の夢
9.キロン
10.Smash(Right This Way)
11.WALK(long ver.)
12.Great Squall
お知らせ
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03/27(水)新木場STUDIO COAST
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03/28(木)EX THEATER ROPPONGI
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04/11(木)名古屋・今池ボトムライン
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