Ghost like girlfriend ファースト・ワンマン・ライブ 渋谷WWWをレポート
Ghost like girlfriend | 2019.03.20
Ghost like girlfriendのファースト・ライブは、冬眠から目覚めた生き物が春の日差しの中で跳ね回っているようだった。
岡林健勝がGhost like girlfriend名義で最初に楽曲を発表したのは2017年。タワーレコード限定シングル「fallin’」が話題となり、まったくノン・インフォーメーションながらYouTubeやSpotifyを通じて楽曲へのアクセスが増え続け、その後にドロップしたmini Album『WEAKNESS』『WITNESS』が注目を集めた。そして2019年1月『WINDNESS』のリリースから、インタビューなどでリアルな姿と言葉を伝えるようになって、このライブへと至ったのだ。
どんなライブになるのか、フロアにいる誰も予想できず期待に胸をときめかせていた。するとSEが変わりステージにはサポート・メンバーに続き彼が現れた。高く手を挙げ拍手を受け止めると、キレのいいギターに乗って歌い出した。右手にマイクを持ち、リズミカルに体を動かしながら歌う彼に合わせて、観客も揺れていく。
「名前を隠さずにライブをやるのは3年ぶり。隠さずに言って動揺しております」と高揚した表情で話し出したのは、2nd mini Album『WITNESS』からの「sands」「(want)like(lover)」を歌い終えた時だった。最後にステージに立った3年前には、数えるほどしか観客がいなかったと言うが、この日はソールドアウト。
「2年3年かけて育んできたことが、こうやって素敵な景色に。感動しております。ありがとうございます……夢が叶ったんだよね。いい夜にしましょう」
ファルセットが美しい「Tonight」に続いた、リズミカルなラップ調で言葉に引き込む「煙と唾」のリリック、”最後方のスタートラインから最高峰の逆襲を”とは、まさにこの時の彼の気持ちだったのではなかろうか。だからこそ”叶わない願いが目を塞ぐ”と歌うほどの絶望の中で生まれた「cruse」も軽やかに歌い切ることができたのだろう。曲が進むほどに、伸びやかな声が強く届いてくる。一息入れると、まだぎこちないフロアの空気をほぐすようにフランクな調子で語りかけた。
「楽しいですか?楽しんでいるところ申し訳ないんですけど、これからバラードを歌うんで(笑)。緊張すると思ったけど、毎日夢に見ていたんで、もう立った気がしていて、デジャヴ感がすごいんですよ(笑)」
デビューの夢を見て音楽活動をしていた彼が、その夢に一度は頓挫し音楽から離れようとした。けれど再び音楽に希望を託した時に見たのが、この日の会場である渋谷WWWでのライブだった。冗談でなく、このステージに立つ夢を彼は何度も見てきたに違いない。そんな思いを想像しながら聴く、ピアノとともに歌い出した「雨降る夜にさよならを」は、この夜に降っていた冷たい雨に覚醒した記憶のようだった。雨粒さながらに光る細かな照明が幻想的な空気でフロアを包んでいく。
その雨粒を受けるように言葉が弾むバラード「room」から、柔らかなメロディが印象的な「you’re my mirror」へと続く。絶望の中でかろうじて愛を見出すことで自己肯定の糸口を掴む歌なのだが、それを美しい声でさらりと歌ってしまうのがGhost like girlfriend。歌詞を受け止めるように頭を軽く揺らしながら、フロアに立つ人たちはそれぞれに歌に聞き入っていた。
「ありがとう。ライブも中盤なんで、メンバー紹介を」
この日バックを務めたのは、banri shiraiwa(ギター)、トオミ ヨウ(シンセサイザー)、Shigekuni(ベース)。そして、ここから加わったのが、元LILI LIMITの土器大洋(ギター)。一人一人を紹介した後で、「ここは渋谷なので、この街の歌を」と言うと、それだけで歓声と拍手が起こった。もちろん「fallin’」だ。ここに集った人たちにとって最も親しみのあるのはこの曲。イントロから今まで以上に体を揺らして演奏を楽しもうと、空気が一変した。渋谷と下北沢、どちらも同じぐらい親しんでいる人が多いに違いない。両方の街のストリートで撮影されたMVは、まるで自分が歩いているような映像に引き込まれ、歌が耳に馴染んでいる。ライブでこの曲を聴くと、その映像が脳内再生される気分だ。だがこの曲はシンパシーを呼ぶだけのものではなく、”幸せの数え方が自分次第”と突き放される個人主義的な世界の歌なのだ。こんなシニカルな歌にこそ共感するのが、この時代というものだろう。
そうして和んだ空気を一変させた、ビートと言葉だけで始まる「shut it up」は最新作『WINDNESS』の幕開けを飾る緊張感のある曲。「描け、狙え、したら行け」と自らを鼓舞する、いわばGhost like girlfriendの宣戦布告とも言える曲だ。ここでライブの空気が一気に引き締まった。これからも、いいインパクトを与える曲になっていくに違いない。続いた「Othello」が、その緊張感を残しながら軽やかな空気を描き出した。
「夢の中で歌っているよう。もう2曲しかなくて。あと2曲……夢が叶ったのか終わるのか。さっきも話した通り、3年前にここでライブをやった時に数えるぐらいしかいなくて。ここでライブをやりたいと思ったのが4年前。お先真っ暗で坂道をずっと下っているような状態だったんですけど、悔いのないように生きるために音楽をやりたい、アルバムを作りたいって気持ちに変わって。その気持ちのままにCDを発売して、本当に届いているのかなとずっと不安に思っていたんですけど、こんなにたくさん。夢でずっと見てたけど、俺が見たかったのはこれだって、今ちょっとね、昔の自分に話しながら喋ってるけど、すごく嬉しいです。最後の曲一緒に歌えたらいいと思うし、心で噛み締めてもいいし。今日はどうもありがとうございました」
忌憚なく自分の過去を語りながら喜びを表す彼に、大きな拍手が送られた。最後の2曲はシンガロングが起こった「髪の花」と、ダンサブルなリズムにフロアが揺れた「raining like hell」。歌い終わると大きく両手を広げて拍手を受け止め、彼は手を振りながらステージを降りた。
アンコールはTシャツに着替えて登場し、「自分のTシャツでアンコールに出るのも夢だった」と笑いを誘った後で、最新ニュースを報告。
「6月19日、ファースト・フル・アルバムをユニバーサルミュージックのEMI Recordsから発売します。いわゆるメジャーデビューです。インディーズもメジャーも関係ない時代といわれますけど、個人的にはフル・アルバムを出せることの喜びの方が強いんです。この景色もすごいけど、もっともっと上に行きたいので、これからもよろしくお願いします!」
新しい門出を示唆するように、この夜のフィナーレは6月に出る予定の新作『Version』収録曲「Last Haze」。力強いサウンドとヴォーカルに彩られた曲がフロアを満たした。そして『Version』のリリースに合わせ、7月1日に東京・リキッドルーム、7月4日には大阪・シャングリラでのライブもアナウンスされた。夢から目覚めたGhost like girlfriendは、リアルな世界を確かな足取りで進んでいく。
【取材・文:今井 智子】
【撮影:神藤 剛】
リリース情報
WINDNESS
2019年01月16日
Beacon LABEL
2.Tonight
3.cruise
4.you’re my mirror
5.raining like hell
セットリスト
-WEAKNESS,WITNESS,WINDNESS-
2019.03/07@渋谷WWW
- 1.sands
- 2.(want) like (lover)
- 3.Tonight
- 4.煙と唾
- 5.cruise
- 6.雨降る夜にさよならを
- 7.room
- 8.you’re my mirror
- 9.fallin’
- 10.shut it up
- 11.Othello
- 12.髪の花
- 13.raining like hell
- 【ENCORE】
- EN-1.Last Haze
お知らせ
SYNCHRONICITY’19
04/06(土)渋谷エリアライブハウス
春の緑音祭り
04/20(土)服部緑地野外音楽堂
VIVA LA ROCK 2019
05/04(土)さいたまスーパーアリーナ
Tour Virgin
07/01(月)Ebisu Liquidroom
07/04(木)Shangri-La
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