日食なつこ、自身最大キャパでのライブにして史上最高のツアーを見事完遂!
日食なつこ | 2019.04.12
今年1月に2ndフルアルバム「永久凍土」をリリースした日食なつこ。2月9日の大阪・なんばHatchから『▲Sing well▲Tour』がスタートし、3月30日、彼女の地元である岩手・岩手県公会堂でのファイナルまで全13公演を駆け抜けた。彼女のライブのスタイルは、ピアノ弾き語り(といっても1人で全パートを鳴らしているような戦闘力)、ステージ上で向き合うグランドピアノとドラムがバッチバチの火花を散らす、(タイマンスタイルとでも言うべきか)日食なつことkomakiセット、そこにギターの永田”zelly”健志とベースの石村 順を迎えたバンドセットと様々だ。今回のツアーも曲によって、また会場によって編成を変えつつ行われてきたのだが、唯一2月の東京公演のみ、その3つのスタイルに加えて5組のゲストミュージシャンが出演するというスペシャルな仕様となっていた。会場は、東京・EX THEATER ROPPONGI。日食なつこのワンマンとしては過去最大規模の会場であり、これだけのゲストを呼び込むのも初の試みだ。映像を使った視覚的な効果もプラスされ、アルバム『永久凍土』の世界観をより濃厚な空気の中で体感することができた。
客電が落ちると同時に、その日の東京の寒さなんて足下にも及ばないことが容易に想像できる吹雪の音。軋むドアがゆっくり開いて閉まると、ずいぶん長い間、時を刻んできたような風格すら感じる振り子の音が聞こえてきた。一筋の明かりの下に、真っ黒い輝きを放つピアノ。白いスカートの裾を静かに揺らしながら日食なつこが現れると、時計の音がかき消されるほどの拍手と歓声に包まれた。大きく手を広げて応え、定位置へ。ライブは弾き語りの「ヒューマン」から始まった。こんなに大きな会場なのに、その息遣いや指先の温度までもが伝わってくるよう。お互いの集中力が、物理的な距離をも超えてしまったみたいだ。続く「黒い天球儀」のイントロを彼女が弾き始めると、ステージ上手からスッ…と現れたドラムのkomaki。呼び込まれるでもなく、登場感を客席にアピールするでもなく、むしろ気配を消すようにしてやってきたのに、本線で加速していく日食の気迫にスルリと合流。あっという間に最高のグルーヴを作り上げた。
「今日この会場を満員で埋めてくれたこと、誇りに思います。今日はかなりボリューミーな夜になると思うので、どうぞ迷わないように、迷子になってしまわないように、しっかりと私の後ろについて歩いてきてください。必ず素晴らしい景色へ連れて行ってあげます。今日は、ここで砕け散るつもりで歌っていきます」
そう短く感謝と意気込みを伝え、4曲目は「モア」。ピアノに向かう日食の後方に現れたのはフィドルの大渕愛子だ。プロだから当たり前なのかもしれないが、アイコンタクトも取れない位置で、リズムを刻むドラムもいないのに、2人の音がひとつの景色を作っていくスリリングさがたまらない。曲終わりの拍手が響く中、「seasoning」で強烈なインパクトを放ちながらステージに飛び込んできたのはタップダンスのSARO。日食の目線の先、ステージのほぼ中央で、繊細さとダイナミクスを併せ持った躍動で魅了する。「お役御免」ではそこに再びフィドルも加わり、3者がそれぞれの場所で、それぞれの音で作り上げる人間像を交差させていった。アカペラから始まる「メイフラワー」では、谷崎カルテットによる美しい弦の音色が伸びやかなメロディーラインに寄り添い、「vapor」では空間を浮遊するようなキダ モティフォ(from tricot)のギターがひんやりとした湿度を運んでくる。クリスタルキングのカバー「大都会」を弾き語りで熱唱した後は、ドラムのkomakiと2人で「100」「エピゴウネ」「青いシネマ」の3曲を。「水流のロック」からはベースの石村、「空中裁判」からはギターのzellyも加わって、もともと屈強なこの4人のバンドサウンドがとんでもない熱を帯びていった。しかしここは日食なつこ、このまま本編ラストへと雪崩れ込むはずもなく、圧倒的な孤独感が表現されていた「8月32日」で時空を揺らし、堂々たる雪山の映像に地鳴りのようなティンパニ(田中佑司)が轟いた「white frost」へとオーディエンスを牽引。ストリングスとピアノが丁寧に鳴らした最後の1音が、しんしんと降る雪に吸い込まれていくような美しいエンディングとなった。アンコールでは、アコギ弾き語りで「話」を披露し、リクエストによる日替わり曲は「シーラカンス」を。そして最後に、日食と共に1本の舞台を作り上げるべく、自らのプレイのみを全うしてステージを去っていったゲスト・ミュージシャン全員を呼び込み改めて紹介。ステージも客席もいい意味で緊張がほぐれたのか、バンド編成でぶちかました最終曲「ログマロープ」は凄まじい盛り上がりとなっていた。
東京はこのEX THEATER ROPPONGIともう1ヶ所、3月27日にキネマ倶楽部での追加公演も行われた。こちらはkomaki(Dr)、永田”zelly”健志(G)、石村 順(B)のみが参加。ある意味ホーム感すら出てきたキネマ倶楽部ならではの安定感と、セミファイナルというタイミングの高揚感などがクロスした、非常に前のめりなライブが展開されていた。EX THEATER ROPPONGIの挑戦を終え、その後のライブを重ね、まだまだ行けるという確信が掴めたのだろう。いや、正確に言うとまだまだ行くから! という覚悟や決意を新たにしたからかもしれない。
このツアータイトルにある「Sing well」について彼女は、今回のジャケット撮影で訪れたニュージーランドの氷山で、ガイドのおじさんに言われた言葉だとMCで語っていた。別れ際、自分の仕事の域を超えてまで撮影に協力してくれたことへの感謝を伝えたところ、「ニヤッと笑って、またニュージーランドにおいでとか、これからも頑張れじゃなく、ただ一言「Sing well」と言って送り出してくれた」。直訳すれば“上手に歌えよ”だけど、自分にとっての「Sing well」はきっと美しい声で伸びやかに歌うことでも、楽譜に書かれた通りピアノを弾いて再現することではない。その意味を考えながらアルバムを仕上げ、ツアーの構想を練っていると、見えてきたものがあったそうだ。
<心臓の真ん中を、えぐるような衝撃をーー>
みんなの心に一直線に届く歌を歌って、心臓の真ん中をえぐり取る。そんな衝撃をみんなに与えることだと気付いたそうだ。「日食なつこ」と名乗って10年。記念すべき年に、2000m級の氷山で思いがけず手に入れた言葉は、これから先も一生の指針となって彼女をまだ見ぬ高みへと導いてくれるはずだ。
【撮影:タマイシンゴ】
【取材・文:山田邦子】
リリース情報
永久凍土
2019年01月09日
living,dining&kitchen Records
02.空中裁判
03.100
04.モア
05.seasoning
06.メイフラワー
07.Misfire
08.お役御免
09.致死量の自由
10.タイヨウモルフォ
11.8月32日
12.white frost
13.話
お知らせ
春の緑音祭り
04/20(土)服部緑地野外音楽堂
MOROHA地方自主企画
「破竹」第二十四回
05/02(木)盛岡 the five morioka
LIVE HOUSE FEVER 10th anniversary
「New Generation Country -3-」
05/15(水)新代田FEVER
欄干わたり
05/18(土)福岡 永明寺
05/19(日)広島 本覚寺
06/01(土)京都 龍岸寺
06/02(日)大阪 萬福寺
06/08(土)仙台 慈眼寺
06/09(日)山形 常信寺
06/15(土)愛知 楽運寺
06/16(日)山梨 法源寺
06/22(土)岡山 蔭涼寺
06/23(日)徳島 醫光寺
06/29(土)札幌 地蔵寺
アダムと日食
05/31(金)心斎橋Music club JANUS
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。