THE PINBALLSの集大成を魅せるツアーファイナル
THE PINBALLS | 2019.04.18
「魅」という字は、ロッカーにとってたいへん吸心力を持つ漢字のようだ。魅力や魅惑、魅了といった「人の心を惹きつけ惑わす」雰囲気をまとい、かたや魑魅魍魎、鬼魅(きみ)、魔魅(まみ)といった「妖しさ」や「得体の知れなさ」、「迷宮感」をも想起させる。カッコ良さと妖しさを併せ持った漢字「魅」。なんともロッカーな漢字ではないか。そして、この「魅」が時たまライブ中に筆者の中に思い浮かぶことがある。まさに、この日のTHE PINBALLSのライブも筆者の中に何度もこの「魅」を去来させた。
THE PINBALLSのツアーファイナルは、佇まいにしろ、プレイにしろ、ハイライトへのなだれ込み方にしろ、目を見張る本格的なライティングやセットリストのストーリーにしろ、これまでのライブから一皮むけ、より自分たちを「魅せ」、「映えさせ」、「どう映らせるか?」を意識し挑まれていたように振り返ると映る。
THE PINBALLSは、恵比寿LIQUIDROOMにてリリースツアー『end of the days tour』のファイナルを迎えた。今回のツアーは10本。その全てがワンマンであった。北海道から九州まで全国の主要都市をメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』を携え、持論のロックンロールをぶちかましながら回ってきた。
場内にボブ・ディランの楽曲が心地良く流れている中、定刻を過ぎること10分。BGMの音量が大きくなると合わせて場内も暗転。まるで舐め回すようにステージからのサーチライトがフロアを徘徊する。大音量でSEが流れ出し、石原天(Dr)、森下拓貴(Ba)、中屋智裕(Gt)、古川貴之(Vo&Gt)の順にステージに登場。古川がステップに上がりウェルカムの仕草で満場を迎え入れる。そのままSEが作品同様リバースしていき、ニューアルバム収録のインスト曲「回転する宇宙の卵」へと入る。タイトなドラムに歪んだベース、そこに泳ぐギター、そして古川のシャウトが絡んでいく。同曲をデモンストレーションに「遊ぼうぜ!」と誘う古川。さらに、「蝙蝠と聖レオンハルト」へ移るとタイトな同曲がフロアに突っ込んでくる。対してフロアから抗うように上がる無数のコブシ。これまで以上に粗々しい一夜になりそうだ。そんな予感がした。
石原が4つ打ちハイハットでつなぎ更にライブは深部へ。ここからは新作からの曲が立て続けに放たれた。「水兵と黒い犬」が怪しさを場内に呼び込めば、「DAWN」がフロアをガシッと抱きしめるかのようにライブをストレートに走り出させていく。森下による「今日はツアーファイナルだけど、そんなのどうでもいいんだよ! 今日はお前たちと俺たちとで最高のロックンロールをする日だ!」とのシャウトと共になだれ込んだ「CRACK」がヒステリックに加速度を上げていき、フロントの3人が向かい合いプレイする場面も魅せつけてくれる。
「ヤードセールの元老」からは再び怪しさが呼び込まれた。同曲は詰め込むだけでなく抜き差しも特徴的。それがよりメリハリと後の起爆へと結びついていく。そして人気曲「片目のウィリー」の際にはさらに場内も坩堝に。彼らの武器の一つでもあるライジング感のある楽曲が会場に活力を与えゆく。
7曲を立て続けに放った後、古川が語る。「ツアーファイナル恵比寿、戻ってきました。ただいまベイベー。ここまで色々な景色を見れてここに来れて本当に嬉しい。今日のこのツアーファイナル、みんなと最高になって帰れるように、今日はこの時間だけは俺たちのものにします」と、ここからはニューアルバムの特性にもあった彼らの多面性が楽しめた。心のどこかでは君を待っていたと言うような「DUSK」が会場をたゆたわせれば、カントリータッチの「ヤンジュバイクマイエルの午後」がハメルンの笛吹きのようにみんなを牧歌性へと誘う。また、美しい日を楽しんでいこうぜの気持ちと共に歌われた「BEAUTIFUL DAY」を経て、その牧歌性を保ったままノリの良いカウパンクのビートへとシフトした「風見鶏の髪飾り」の際には、別れを予感させるべく作った楽曲ながら、ライブでの会場を交えて楽曲完成に至らせた光景が、逆にハッピーエンドへと響かせた瞬間に立ち会うことができた。
「今日はソールドアウトしました。ありがとう。だけどみんなの顔を見ていたら、そんなことはどうでもよくなってきた。このソールド出来たことが自分の夢なんかじゃなく、みんながここに居てくれたことこそが嬉しい。お客さんの大小関係なく自身の音楽を精一杯放つアーティストにこれまで憧れてやってきた。だから今日は俺とお前しか歌えない唄をうたいにきた」(古川))と、ここからはより会場も参加できる曲たちが放たれた。「失われた宇宙」では、美しく神々しい尊さを感じられたし、再びスリリングさが呼び込まれた「COME ON」、「これがピンボールズの全てだ!」(森下)と入ったニューアルバムの冒頭を飾っていた「アダムの肋骨」では、会場を激しくバウンスさせていくと同時に各人のソロをつなぎハイライトを作り出していく。また、さらに場内を坩堝に叩き込むべく「carnival come」が熱いカーニバルの夜へと誘えば、もっと会場を坩堝にすべく、怒涛の落雷のようなドラムソロ、ベースソロとつなぎ、中谷のギターソロの際にはフロアにてお客さんの上、フロウしながら長いギターソロをキメてくれた。対して、「七転八倒のブルース」ではフロント3人がステップに乗りプレイ。ストロボライトとの一体化を見た。また、さらに深部へと引っ張り込むように「劇場支配人のテーマ」を経て、本編ラストはニューアルバム中、最も名曲感が溢れていた「銀河の風」が気高く誇らしく鳴り響いた。「みんなのおかげでまだ見たことのない景色を見ることができた」とは古川。背後の神々しいライトと共にミラーボールも回り場内を銀河へと誘う。最後は背後の白色ライトの光量も上がりステージがホワイトアウト。神々しさとフィードバック音を置き去りに彼らはステージを去った。
ここまで18曲。時間にして1時間ちょいであったが、かなり濃厚であった。しかしまだやり足りなかったのだろう。ここからはまだまだ止まってらんねぇ!との気概が各曲から溢れ出していった。
とその前に、「これでゴールじゃなくまだまだ楽しいことがやりたい」と、初心に戻って自主企画を行う告知が。併せて、「みんなのために魔法使いになりたいんだ!」と伝え、ここからはシングルからのタイプの違う2曲が会場を魅了していく。「Voo Doo」が怪しくねっとりとまとわりつくようなグルーブにて場内を腰で踊らせれば、脳天に一撃と言わんばかりの「Lightning strikes」では会場もこの日一番のスパークを見せる。
ダブルアンコールでは、「俺がラジオから流れてきて衝撃を受けた曲と同じ気持ちにさせてやる!!」と「アンテナ」を。今この曲がラジオから流れてきたら完全に虜になるだろうことを皆が想起した。これでは逆に今度は会場の熱の方が収まりがつかない。トリプルアンコールでは「真夏のシューメイカー」が客電全開のステージ/フロア関係なく叫び歌った。
まさにこの日は、「魅せる」の言葉が似合った。おおよそこの会場規模にはそぐわないほどの本格的なライティングを導入し、ステージングや佇まいも意識され、それが彼らのニューアルバムの特徴の一つでもあったキャッチーさとの相乗を見せ、よりエンタテインなライブとして楽しむことが出来た。とは言え正直、今回はこのライティング規模が初の挑戦でもあったのだろう。時々ライティングの凄さや本格さの方に目を奪われる瞬間も幾度かあった。いやしかし、彼らは近いうちのその規模とのギャップを埋めていき、逆に似合ったり映えたりするバンドへと更に成長していくことだろう。そう、彼らはもっともっと「魅せる」バンドへとグローイングアップしていく。その萌芽を強く確信した一夜でもあった。
【撮影:上原 俊】
【取材・文:池田スカオ和宏】
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リリース情報
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時の肋骨
2018年11月14日
日本コロムビア
02. 水兵と黒い犬
03. DAWN
04. 失われた宇宙
05. BEAUTIFUL DAY
06. CRACK
07. ヤンシュヴァイクマイエルの午後
08. 風見鶏の髪飾り
09. 回転する宇宙の卵
10. DUSK
11. COME ON
12. 銀河の風
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セットリスト
『end of the days tour』 2019.3.22@恵比寿LIQUIDROOM
- 1.回転する宇宙の卵
- 2.蝙蝠と聖レオンハルト
- 3.水兵と黒い犬
- 4.DAWN
- 5.CRACK
- 6.ヤードセールの元老
- 7.片目のウィリー
- 8.DUSK
- 9.ヤンジュバイクマイエルの午後
- 10.BEAUTIFUL DAY
- 11.風見鶏の髪飾り
- 12.失われた宇宙
- 13.COME ON
- 14.アダムの肋骨
- 15.carnival come
- 16.七転八倒のブルース
- 17.劇場支配人のテーマ
- 18.銀河の風 【ENCORE】
- En-1.Voo Doo
- En-2.Lightning strikes 【ENCORE1】
- En1-1.アンテナ 【ENCORE2】
- En2-1.真夏のシューメイカー
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お知らせ
RUSH BALL☆R
05/12(日)大阪城音楽堂
百万石音楽祭2019〜ミリオンロックフェスティバル〜
06/02(日)百万石音楽祭2019〜ミリオンロックフェスティバル〜 @石川県産業展示館1〜4号館
Large House Satisfaction × Yellow Studs × THE PINBALLS SPLIT TOUR"KERBEROS ?"
06/07(金)下北沢GARDEN
06/28(金)池下CLUB UPSET
07/26(金)梅田Shanguri-La
THE PINBALLS presents "WIZARD"
07/12(金)新宿LOFT
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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