クリープハイプ 「こんな日が来るなら、もう幸せと言い切れるよ」ライブレポート
クリープハイプ | 2019.04.24
クリープハイプの全国ホールツアー「こんな日が来るなら、もう幸せと言い切れるよ」、神奈川県民ホール公演。2018年10月から12月にかけて開催された全国ライブハウスツアー「今今ここに君とあたし」の追加公演として行われたこのツアーのなかで彼らは、アルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」の奥深い魅力を伝えると同時に、クリープハイプの音楽自体がさらに豊かさを増していることを証明してみせた。
会場に入ると、「威風堂々」(エドガー)が聴こえてきた。その後もクラシック系のBGMが続き、最後は「ボレロ」(ラヴェル)。勇壮なメロディが響くなか、客席の照明が落とされ、クリープハイプのコンサートが始まる。小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(Ba)、小泉拓(Dr)、そして尾崎世界観(V&G)が姿を見せると、客席からは大きな歓声と拍手が。1曲目は「exダーリン」。尾崎が弾き語りで“ハニー 君に出会ってから色んな事わかったよ”と歌う始めたとたん、すべての観客がスッと引き込まれていく。2番からはバンドの演奏が加わり、クリープハイプにしか生み出せない、悔しさと愛おしさが混ざり合った雰囲気が広がる。
「手を上げたい人は上げればいいし、下げたい人は下げてもいいし、好きなように楽しんでもらえればいいと思います。ステージに寝そべって写真を撮ったり、カオナシにツンツンしたりしなければ、何をしてもいいです(笑)」という挨拶の後は、ニューアルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」の楽曲が続けて披露される。鋭さと切なさが溶け合うようなメロディとともに“その時言葉にならなくて/大切な物はやっとわかる”という誰もがグッと来るはずのフレーズが突き刺さる「泣き笑い」、長谷川のしなやかなベースライン、小川のポップでいなたいギターフレーズ、小泉が叩く骨太のリズムが絡み合い、観客の高揚を引き上げた「イト」、何気ない日常の恋人たちの会話と“この人とずっといたい”という口には出せない思いを描き出す「一生のお願い」。当たり前の日々、どうしようもない日々を切り取り、そのなかに存在するはずの幸せの欠片を照らし出すような楽曲にじっくり聴いていると、アルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」の素晴らしさが改めて実感できた。
壮大なストリングスを取り入れたバンドサウンドのなかで“タバコを止める”という行為を介した“2人”の繊細な関係を描いた「禁煙」からは、ツウ好みの楽曲を通し、クリープハイプの豊かな音楽世界を感じられるシーンが続いた。長谷川カオナシがボーカルを取る、童謡的なメロディと“悪役の因果”をテーマにした生々しい歌がひとつになった「かえるの唱」。「(観客に対して)愛おしいなと思います。派手に動いたり、大きな声を出すことが偉いわけではないし。そういう人の居場所でありたいです」という尾崎の言葉に導かれ、“大丈夫だよ 君は君で良いから”というフレーズが手渡された「さっきの話」。カントリーのテイストを感じさせるアンサンブルのなかで、“あの娘とアノ事”を検索して落ち込む男子の姿を描いた「グルグル」。同棲を解消し、引っ越しの準備をしている恋人たちをどこまでも軽やかに歌った「お引っ越し」。まるで短編小説ような物語性を含んだ歌、そして、そのストーリーを際立たせ、色味を与えるバンドサウンド。尾崎世界観の独創的なソングライティングと卓越した表現力を備えたサウンドを両軸にしたクリープハイプの表現は、ここにきてさらに向上しているようだ。
「そろそろ桜も散っていい季節になってきたと思うんですけど、どうでしょうか?」(尾崎)という呼びかけから始まり、銀テープが客席に向かって放たれた「栞」からは、キャリアを代表するナンバーが惜しげもなく披露された。クリープハイプのブレイクのきっかけとなった「オレンジ」ではオレンジ色の照明のなかで“きっと2人なら全部上手くいくってさ”というラインが高らかに響き、映画「百円の恋」の主題歌としてヒットした「百八円の恋」では、小川、長谷川がステージの前方で観客を煽りながら、凄みと厚みのある演奏でロックバンドとしての強靭さを叩きつける。“余計なお世話だよ馬鹿”という歌詞でつながる、怒りと攻撃性に満ちた「社会の窓と同じ構成」「社会の窓」を続けて放つと、会場の興奮は一気に頂点へ。「HE IS MINE」ではおなじみの“セックスしよう!”の大合唱が響き渡り、ライブはクライマックスを迎えた。
「(『泣きたくなるほど嬉しい日々に』というアルバム)を出して、ライブハウスツアーを回って、もう1回ホールツアーを回って。アルバムは全部、一生懸命作っているんだけど、今回は“長く聴いてもらいたい”と思って、わがままを聞いてもらった」「アルバムを伝えたいと思えば思うほど、よくわからなくなって、答えが滲んで来る気がします。でも、それでいいと思っていて。アルバムの曲も新しい曲も古い曲も、何回でも演奏したいと思っています」。このツアーに対する尾崎の思いが込められたMCを挟んで演奏された「燃えるごみの日」はまちがいなく、この日のハイライトだった。「誰かが決めた記念日に 散々付き合ってきたんだから/一日くらい どうか好きに 特別な日にして欲しい」というラインではじまるこの曲は、抜き差しならない、八方ふさがりの日々を送る人たちーー筆者を含め、この日の会場にもたくさんいたと思う――にわずかな希望を与えてくれる。痛み、切なさ、葛藤といった感情に焦点を当てるクリープハイプの歌は、決してネガティブでもなければ暗くもない。現実の先にあるはずの温かさがじんわりと感じられることこそがこのバンドの本質であり、オーディエンスの強い支持を集め続けている理由なのだ。フォーキーな響きをたたえた「燃えるごみの日」に耳を傾けながら、そのことを改めて感じ取ることができた。
「イノチミジカシコイセオヨトメ」「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」というアンセム2曲でライブは終了。全キャリアを網羅するようなセットリストを通し、現在のクリープハイプの充実ぶりをたっぷり堪能できるライブだったと思う。
【取材・文:森朋之】
【撮影:冨田味我】
リリース情報
泣きたくなるほど嬉しい日々に
2018年09月26日
ユニバーサルシグマ
2. 今今ここに君とあたし
3. 栞
4. おばけでいいからはやくきて
5. イト
6. お引っ越し
7. 陽
セットリスト
こんな日が来るなら、もう幸せと言い切れるよ 4月11日
2019.4.11@神奈川県民ホール
- 01.ex ダーリン
- 02.泣き笑い
- 03.イト
- 04.一生のお願い
- 05.炭、酸々
- 06.禁煙
- 07.おばけでいいからはやくきて
- 08.かえるの唄
- 09.さっきの話
- 10.グルグル
- 11.目覚まし時計
- 12.お引っ越し
- 13.栞
- 14.オレンジ
- 15.百八円の恋
- 16.私を束ねて
- 17.社会の窓と同じ構成
- 18.社会の窓
- 19.HE IS MINE
- 20.燃えるごみの日
- 21.陽
- 22.イノチミジカシコイセヨオトメ
- 23.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
お知らせ
「尾崎世界観の日 特別篇」2019
5/18(土) 日比谷野外大音楽堂
5/25(土) 服部緑地野外音楽堂
VIVA LA ROCK 2019
5/5(日・祝) さいたまスーパーアリーナ
rockin’on presents JAPAN JAM 2019
5/6(月・休) 千葉市蘇我スポーツ公園
FM802 30 PARTY SPECIAL LIVE RADIO MAGIC
6/1(土) 大阪城ホール
森、道、市場2019
6/2(日) ラグーナビーチ&遊園地ラグナシア
SUPER BEAVER「都会のラクダ”ホール&ライブハウス”TOUR2019~立ちと座りと、ラクダ放題~」
6/7(金) 仙台GIGS
w/SUPER BEAVER
東京スカパラダイスオーケストラ 30th Anniversary「Traveling Ska JAMboree」
6/9(日) 高松festhalle
w/東京スカパラダイスオーケストラ
Saucy Dog Two-Man Live「One-Step Tour」
7/14(日) 名古屋ダイアモンドホール
w/Saucy Dog
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。