PELICAN FANCLUB、恵比寿リキッドルームで行われた『ゼロ距離ワンマンライブ “DREAM DAZE 2019”東京編』
PELICAN FANCLUB | 2019.05.10
「ステージ」は恵比寿リキッドルームの「フロア」だった。演奏するメンバーの周りを、お客さんが360°取り囲むという特殊なスタイルで行なわれたPELICAN FANCLUB『ゼロ距離ワンマンライブ “DREAM DAZE 2019”東京編』。インディーズ時代から不定期で開催し続けているバンドの人気企画が、この日は過去最大キャパの会場で開催された。
会場に足を踏み入れると、フロアの三方をスクリーンが囲み、そこに数字やアルファベットが無限ループするバーチャル世界のような雰囲気が広がっていた。開演時間、お客さんの合間を縫って、エンドウアンリ(Gt/Vo)、カミヤマリョウタツ(Ba)、シミズヒロフミ(Dr)の3人がフロアの中央エリアにスタンバイ。混沌としたセッションが耳馴染みのあるイントロに切り替わると、「ハイネ」からライブがはじまった。『ハイネ』というワードが奇妙に形を変えながら繰り返される中毒性の高いフレーズと軽快なビートに会場が一斉に湧き上がった。「ドリームデイズへようこそ!」、「最高の夜にしようぜ、よろしく!」。エンドウとカミヤマの言葉が会場の熱狂に弾みをつけながら「Night Diver」から「アンナとバーネット」へと、序盤はアグレッシブなナンバーで攻めていく。メンバーとお客さんのあいだには遮る柵もなければ、高低差もない。その距離が極めて近く、同じ目線に立つというシチュエーションは信じられないほどの臨場感がある。
「近いですね。これがゼロ距離です」とエンドウ。「もっと自由に歌ったり、踊ったり、楽しんでください」と伝えると、思いっきり歪んだギターにのせてラップと絶叫を繰り返す「説明」、重々しいリズム隊がダークでスリリングな音像を描いた「ガガ」を続けて披露。衝動的で荒々しいロックサウンドに合わせて、スクリーンにはリアルタイムでメンバーの姿を合成した映像が映し出され、カオティックなムードに拍車をかけていく。そうやって圧倒的な闇感でフロアを支配したかと思えば、続く「朝の次へ」や「Shadow Play」では、一転して陽性のポップナンバーでまどろむような心地好さを生み出していった。
海外のインディーロックをはじめ、シューゲイザー、グランジ、ファンク、ヒップホップ、ドリームポップなど、彼らの音楽は様々なジャンルを呑み込み、陰から陽へ、次々に表情を変えていく。何よりすごいのが、そのすべてが「PELICAN FANCLUB」が鳴らす音として完全なオリジナリティを持っていることだ。昨年、ギタリストが脱退したことで、エンドウがリードギターも担うかたちで再スタートを切ってから1年が過ぎたが、いまや彼らはスリーピースバンドとして、より強靭で唯一無二のバンドへと進化を遂げていた。
摩訶不思議な歌詞に遊び心のある風刺を交えた「アルミホイルを巻いて」のあと、「アルミホイルを巻いてきた人はいますか?……誰もいません」と、独特の世界観が滲むエンドウらしいMCに、会場からクスクスと笑い声が起こったところでライブは中盤へ。空想の世界を泳ぎまわるような、イマジネーション溢れるPELICAN FANCLUBの真骨頂「ヴァーチャルガールフレンド」や「ダダガー・ダンダント」といったナンバーでは、「歌える人は歌ってもいいんですよ?」と呼びかけて、フロアを温かいシンガロングで包み込んだ。
MCではエンドウが「想像以上に異空間でした」と、初めてスクリーンを使用したゼロ距離ワンマンのシチュエーションを心から喜ぶ場面も。そして「あんまり言いたくないんだけど……もっと狂ってください。ああ、黒歴史だ(笑)」という、またもエンドウらしい煽り文句で「ハッキング・ハックイーン」へと突入すると、ライブはクライマックスに向けて加速度をあげていく。「Dali」ではエネルギッシュなシミズのタムドラムに、カミヤマの躍動感に満ちたベースが弾み、一聴して「この曲!」とわかるエンドウのギターリフに歓声が湧いた。狂暴にして繊細。妖しくも美しい。そんな対極のイメージをごちゃまぜにして突き進んでいくライブ。「Telepath Telepath」ではエンドウが輪の中心へと移動して360°を見渡すと、お客さんもその音楽に身を委ねて、どんどん自由になっていった。プレイヤーとオーディエンスのあいだに上下がない「ゼロ距離ワンマン」だからこそ、両者の興奮や熱狂がひとつの塊のように溶け合い、そこには通常のライブ以上の一体感が生み出されていた。
疾走感溢れる「ノン・メリー」まで一気に畳みかけたところで、「また会いましょう。PELICAN FANCLUBでした」と伝えて、ラストソング「記憶について」で終演。その美しい光景を見ながら、昨年11月にミニアルバム『Boys just want to be culture』でメジャーデビューを果たしたPELICAN FANCLUBが作りたい“カルチャー”とは、まさにこういう空間のことなのかもしれないと思った。音楽やアートを発信する側と、そこに共感する人たちとが、無邪気な子どものように胸をドキドキと高鳴らせながら、心を解放できる場所。そこでは誰の目も気にする必要はないし、楽しみ方だって自由だ。
アンコールでも本編で作り上げた最高の流れを引き継いだまま「Luna Lunatic」を届けると、6月26日に約半年ぶりの新作EP『Whitenoise e.p.』をリリースすることを発表。続けて披露された新曲は(おそらくEPに収録される曲だろう)シミズのシンバルカウントから突入したパワーポップで、ふと聞き取れた《ベートーヴェンも人間だっけ》というフレーズが印象的だった。ラストソングは「Esper」。お客さんと一緒に《あはは》と笑い合う陽気なライブアンセムで、バンド史上最大キャパのゼロ距離ワンマンを締めくくった。
なお、この日のライブでは、翌日に「ゼロ距離ワンマン」の原点である幡ヶ谷forestlimitで「DREAM DAZE 2019」の追加公演を開催することを発表した。まさかの発表に会場はざわついたが、「俺たちがやるといったらやるから!」というカミヤマの言葉のとおり、現在のPELICAN FANCLUBにはすっかり手狭になった、キャパシティ80人ほどの会場(※通常のステージの場合)で前代未聞の緊急ライブがおこなわれた。彼らのなかに「予定調和」という言葉はない。捻くれた感性で自分たちの「楽しい」を追求して、新しいカルチャーの中心地を目指していく。それが、PELICAN FANCLUBのやり方なのだ。
【取材・文:秦理絵】
【撮影:伊藤惇】
リリース情報
Boys just want to be culture
2018年11月07日
Ki/oon Music
2.ハイネ
3.ハッキング・ハックイーン
4.ヴァーチャルガールフレンド
5.アルミホイルを巻いて
6.VVAVE
7.to her
8.ノン・メリー
セットリスト
ゼロ距離ワンマンライブ
“DREAM DAZE 2019”東京編
2019.4.13@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.ハイネ
- 02.Night Diver
- 03.アンナとバーネット
- 04.説明
- 05.ガガ
- 06.VVAVE
- 07.朝の次へ
- 08.Shadow Play
- 09.M.U.T.E
- 10.新曲
- 11.アルミホイルを巻いて
- 12.to her
- 13.ヴァーチャルガールフレンド
- 14.ダダガー・ダンダント
- 15.ハッキング・ハックイーン
- 16.Dali
- 17.Telepath Telepath
- 18.ノン・メリー
- 19.記憶について
- En-1.Luna Lunatic
- En-2.新曲
- En-3.Esper
お知らせ
PELICAN FANCLUB ONEMAN LIVE 2019
7/5(金) 千葉・LOOK
NoisyCell 2019 Tour”ReFocus”
5/22(水) 岩手・盛岡change
w)NoisyCell / World’ End Super Nova / w.o.d
NoisyCell 2019 Tour”ReFocus”
5/23(月) 宮城・enn 3rd
w)NoisyCell / World’ End Super Nova / w.o.d
shimokitazawa SOUND CRUISING 2019
5/25(土) 下北沢全域にて
MiMiNOKO ROCK FES JAPAN in KICHIJOJI
5/26(日) CLUB SEATA / Planet K / SHUFFLE / WARP / CRESCENDO / SILVER ELEPHANT / eos BASEMENT
KANA-BOONのGO!GO!5周年!シーズン5
KANA-BOONのOSHI-MEEN!!
6/15(土) 東京・Zepp DiverCity
OTOSATA Rock Festival 2019
6/22(土)・6/23(日) 長野・茅野市民館
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。