Saucy Dog、日比谷野外大音楽堂で見せた集大成 『YAON de WAOOON in Tokyo』
Saucy Dog | 2019.05.20
4月13日に大阪城音楽堂で開催されたワンマン『YAON de WAOON in Osaka』に続き、東京でも実現したSaucy Dogの野外ワンマン。平成最後の日、快晴に恵まれた大阪とは対照的にあいにくの空模様となったが、その天候ももしかしたら演出の一部なのかもしれないと思えるくらい、彼らの放つ歌の物語性や叙情性を堪能できる、スペシャルなライブとなった。ライブ中メンバーは口々に「幸せ」「嬉しい」という言葉を発していたが、Saucy Dogというバンドが歩んできた道、そしてこれから歩んでいく道がはっきりと見える、つまり後々振り返ったときにひとつのマイルストーンとして間違いなく記憶されていることになるであろう一夜。そこに立ち会えたすべての人が、メンバーと同じように幸せを噛み締めていたはず。このレポートで、その幸せの一端を味わっていただければ幸いだ。
開演時刻。まだ明るさの残るステージに石原慎也(Vo/Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr・Cho)が登場する。石原が「Saucy Dog、はじめます!」と叫んで「真昼の月」からライブはスタートした。伸びやかな歌声が空を厚く覆った雲を突き抜けるかのような勢いで放たれる。続く「ナイトクロージング」「ジオラマ」ではオーディエンスも手を挙げ、ハンドクラップを鳴らし、全身でバンドをサポートしてみせる。ドラムスティックで手拍子を煽っていたせとも開口一番「楽しい!」と笑顔だ。「今日の野音は雨が降っていたからこそめっちゃよかったと思えるようなライブにしようと思います」という言葉に大きな歓声があがる。
「あとの話」では大量のシャボン玉が客席に向けて放たれる演出。ステージ照明の光を受けてきらきらと輝く様子がとてもきれいだ。続けて今日のような日のために作られたかのような「曇りのち」。メロディと言葉の力で、雨で少し冷えた体がじわじわと温まっていくのを感じる。ここで少し間をおいて、ギターのコードに合わせて石原が歌い出す。「マザーロード」だ。その音と声が雨音と重なっていくような感覚を覚える。Saucy Dogの音楽は、決して奇をてらったアレンジや過剰なドラマ性を求めたりはしない。いつもその真ん中には真摯で繊細な歌心があって、それを優しく包むようにバンドは音を鳴らしている。その優しい手触りが、石原の個人的な思いや物語をみんなのものにしていく。抽象的な言い方をすれば、心と心の境界線をやわらかく融かしていくような、そんな音楽だ。だから、鳴っている風景やそこに集まった人々の思いすらもその一部になったかのように共振する。いまだやまない雨も、少しずつ夜が近づいてくる日比谷の空の色も、すべてがSaucy Dogの音楽になる。
中盤、新曲を披露したあとで、石原に「和貴、しゃべっていいよ」と促され、ベースの秋澤が口を開く。「13年前の日比谷野音、僕の人生を救ってくれたバンドがライブをしました」。そのバンドとはフジファブリック。4人体制で再出発した彼らの新体制初ライブが、2006年5月に行われた。その場所に自分たちが立てていることの喜びを、秋澤は言葉少なに語っていた。それを受けるように石原も「バンドマンの聖地と呼ばれているこの場所でライブができて嬉しいです」と喜びを口にする。石原はライブの最後に「いつか武道館でもやりたい」と夢を語っていたが、音楽のあり方やバンドとしてのあり方も多様になっていく中で、Saucy Dogのような夢を描くことが唯一の正解ではなくなっているのかもしれない。だがそれを真正面から信じ、喜んでいくことが、Saucy Dogの強さとなっているのだと、改めて実感する。
「いつか」、そして「コンタクトケース」というSaucy Dogを代表する2曲を立て続けに演奏したあとには、ステージ上にはキーボードが用意されての特別なセットも。そのキーボードの前にはせとが立ち、秋澤はベースをエレキギターに持ち替え、石原はアコギを携える。そんな編成で歌われたのはせとがボーカルを務める「へっぽこまん」、そして石原がメンバーと視線を交わしながら歌い上げる「世界の果て」の2曲だ。いつの間にかすっかり夜になった野音に、その歌声が力強く響き渡る。
この日の石原は白いTシャツに色の薄いジーンズという出で立ち。じつはこれはSaucy Dogがこの3人で初めてライブを行ったときに着ていた衣装と同じものだそうで、前夜にタンスをひっくり返して引っ張り出してきたのだという。でもTシャツがどうしても見つからなくてそれだけは新調したらしい。「着る服が新しくなっても中身は変わらないでいたい。俺ららしさを残したままずっと音楽やっていきたいなと思います」。そう言って歌い始めたバンドの新たなテーマソング「バンドワゴンに乗って」。いきなり石原が歌詞をすっ飛ばしてやり直すというハプニングもあり、せとは「MCも締まっていていい感じと思ってたら……」と苦笑いを浮かべていたが、忘れた歌詞をお客さんにも聞いたりして思い出す様子は、いかにもこのバンドらしかった。本編最後には4月5日に配信リリースされた「ゴーストバスター」を披露。「サウシ―!サウシ―!」というコールで再び呼び戻されたアンコールでは、グッズ紹介を経て、再び新曲を聴かせてくれた。ミディアムテンポの中に力強さも感じさせるその曲に加え、最後は爽やかに「グッバイ」で締め。終わって記念撮影をする頃には雨もほとんど上がっていて、記念すべき「平成最後」の野音に笑顔が広がった。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:白石達也】
リリース情報
[配信リリース]ゴーストバスター
2019年04月05日
MASH A&R
お知らせ
Saucy Dog Two-Man Live
「One-Step Tour」
07/12(金) 大阪 BIGCAT
07/14(日) 名古屋 ダイアモンドホール
07/25(木) Zepp DiverCity(TOKYO)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。