BURNOUT SYNDROMES、全国ワンマンツアー2019『明星~We have a dream~』追加公演
BURNOUT SYNDROMES | 2019.05.14
BURNOUT SYNDROMESが開催した「全国ワンマンツアー2019『明星~We have a dream~』」は、全6公演がすべてソールドアウト。バンドのスケールアップを印象づけるものとなったが、同時に彼らがライブ・バンドとして、極めてオリジナリティー溢れる存在であることを改めて物語るものにもなった。
今回は、その彼らが4月26日と5月10日、渋谷TSUTAYA O-EASTと心斎橋BIG CATで開催した追加公演から、渋谷TSUTAYA O-EAST公演の模様をレポートしながら、彼らのライブがどんなふうにオリジナリティが溢れているのかお伝えしたい。
ライブが単なる音源の再現だけで終わってしまったらつまらない。いや、大好きな曲を、ライブで聴けるだけで十二分に楽しめるというファンももちろんいるだろう。しかし、群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)という言葉がふさわしい現在の日本のバンド・シーン。毎週末、いや、ほぼ毎日、全国各地で星の数ほどのバンドがライブハウスで、ホールで、そしてアリーナで熱いライブを繰り広げているのだ。
その中から自分たちのライブを選んでもらった上で、時間とお金を掛けて、わざわざ足を運んでもらうためには、演奏する曲が魅力的であることは言うまでもないが、“ライブに来て良かった!”“この次もまた来よう!”と観客に思ってもらえる、ライブならではの感動が必要だ。もちろん、そんなライブならではの感動の作り方は、バンドごとに違うのだが、BURNOUT SYNDROMESは、“青春文學ロックバンド”を掲げる彼ららしいやり方で、自分たちのライブ・パフォーマンスを、他にはない特別な体験にしようと挑戦しつづけている。
彼ららしいやり方とは何か? それはシアトリカルという言葉で表現できる物語仕立て、かつその物語に観客を巻き込む演出だ。ホール以上のキャパのライブならいざ知らず、ライブハウスの規模で、ここまでシアトリカルなライブに挑んでいるバンドを、少なくともいわゆるギター・ロックの界隈で、筆者は他に知らない。
今年2月20日に彼らがリリースした3rdアルバム『明星』は、星の王子様のエスコートによる小さな星を巡る時空を超えた壮大な旅を、全10曲で描いたコンセプト・アルバムだったから、その『明星』をツアー・タイトルに冠した今回の全国ワンマン・ツアーは、その世界観を再現するものでもよかったはず。しかし、“それじゃあヒネリがなさすぎる”となったのか、毎回、ツアーの演出を担当している石川大裕(Ba&Cho)は、“だったらBURNOUT SYNDROMES自身が時空を超えたらどうだ!?”と考えた。
ライブ中の注意事項を伝える開演前の場内アナウンスから、すでに物語は始まっていた。BURNOUT SYNDROMESのメンバーたちが、まだ会場に到着していないというのである。開演5分前、ステージの上手と下手にあるヴィジョンに時計が映し出され、開演時刻の10秒前からカウントダウン。突如、ヴィジョンに映像が映し出され、2069年4月26日――つまり、この日から50年後の石川が、タイムマシンがついに完成したこと、そしてそのタイムマシーンで人生で一番、忘れらない日に戻ろうとしていることを、観客に伝える。忘れられない日とは、2019年4月26日。その日と言うか、この日、彼ら3人は機材車が事故って、ライブに90分遅刻。バンドが会場に着いた頃には観客は一人も残っておらず、それが原因でバンドは解散。それから50年、メンバーたちはそのことをずっと悔やみつづけてきた。そこでタイムマシーンが完成した今、50年前に戻って、バンドが到着するまでの90分間、若返りの薬を飲んだ自分たちが演奏しようというのだ。早速、石川はテキストメッセージを、送った相手の腕に浮かび上がらせるという連絡方法を使い、熊谷和海(Vo&Gt)と廣瀬拓哉(Dr&Cho)を招集する。
しかし、タイムワープするには、まだまだ必要なビートが足りない。石川が映像の中から観客に手拍子を求め、スタンディングのフロアをぎっしり埋めた観客がそれに応えると、タイムワープが実行され、ステージに出てきた熊谷、石川、廣瀬の3人が口々に観客に声をかけながら、ライブは突き抜けるような演奏が爽快なロック・ナンバー「世界を回せ」でスタート。サビでは早速、歌詞に合わせるように観客がタオルを回し始める。そこから、“最高の1日にしよう!”と熊谷が声をかけ、“1-2-3-4!”という廣瀬のカウントを合図に「エアギターガール」になだれこむと、「文學少女」から、ラップ・ロックの「エレベーターガール」、ラテンのテイストもある「あゝ」、石川がキーボード、廣瀬が大太鼓を演奏したEDM調の「POKER-FACE」と、それぞれにギター・ロックの一言には収まりきらない魅力を持った曲の数々をつなげ、序盤からぐいぐいと盛り上げていった。
そして、一息入れるように50年後の未来から持ってきた、それを掛けると未来がわかるという“お見通しメガネ”を使いながら、石川が熊谷を漫才に巻き込み、客席を笑わせると、過去もわかるという“お見通しメガネの機能を使って、昨日1日、廣瀬が何をしていたかヴィジョンに映像を映し出しながら、バンドは「君のためのMUSIC」から「斜陽」まで、その映像にリンクした歌詞を持つ(と言うか、正確には歌詞に合わせ、映像を作った)メロウな曲の数々をメドレーで披露して、序盤の激しさとは打って変わって、温もりに満ちた演奏をじっくりと聴かせる。
この日、バンドが演奏したのは、そんな“お見通しメドレー(一日メドレー)”を含む全20曲。追加公演ということで、セットリストを大幅に変え、ツアー・タイトルに冠した『明星』だけにこだわらず、1stアルバム『檸檬』、2ndアルバム『孔雀』、インディーズ時代の『文學少女』からもふんだんに選曲。まさにベスト選曲と言えるセットリストは、、「SUPER EXTRA STAGE」と謳った追加公演に相応しいものとなった。
『文學少女』収録のインディーズ時代からのライブ・アンセム「セツナヒコウキ」から始まった後半戦は、ノックする回数によって行く先が変わる“どこでも窓”を使って、時空を超えながら(というシチュエーションをSEで表現)、人類の進化を謳いあげる「ダーウィンに捧ぐ」、公民権運動真っ只中のアメリカに飛んで、石川が見事な英語のスピーチを披露した「SPEECH」というアンセミックな2曲につなげ、“過去の失敗はこれからの行動で取り戻せる”と石川が訴えかけているうちに現代の3人が到着。タイムパラドックスによるビッグバンを回避するため、慌てて未来に帰っていった3人と入れ替わるように、客席を、観客とハイタッチしながら通ってステージに上がると、“みんな、待っててくれたの!?ワンマン・ライブ始めていいですか、東京!”(石川)と一気にテンションを上げる。ストーリー上、彼ら3人はここから演奏を始めたことになっているが、すでに90分、熱演を繰り広げてきて、その勢いをさらに超えるように「花一匁」から掛けたラストスパートは、ライブ・バンドとしての底力を物語るものだったし、バンドの渾身の演奏にシンガロングで応える観客の盛り上がりもクライマックスという言葉が相応しいものだった。
そして、EDM調のダンス・ナンバー「ナミタチヌ」で観客をジャンプさせ、本編を締めくくる前に12月20日、Zepp Tokyoでワンマン・ライブを開催することを発表。
“バンドのことを広めるため、がんばっていきます。曲も作るし、フェスも出るし”と語った石川は、“内弁慶の自分たちは、フェスが苦手だったけど、(今日のお客さんの盛り上がりから)このまま戦っていけばええやんって勇気をもらいました。ここからが新しいスタートです。この勇気を使ってフェスも戦っていきます”と観客の前で宣言。アンコールでは、“最後にもう1回、時間旅行しましょう。中学の時に作って、今も俺たちの気持ちを全部語っている曲です。愛を込めて歌います”と「ラブレター。」を披露。新たな一歩を踏み出しても、自分たちの気持ちはバンドを始めた頃から変わっていないことを謳いあげ、ライブは大団円を迎えたのだった。
観客の拍手喝采の中、達成感に浸っていると、突然、“腕がかゆい”と言い出した石川が袖をめくってみると、そこには未来の自分からのメッセージ――“Zepp Tokyoはもっとすごいことになるぞ”が!
冒頭の伏線を見事、回収した心憎いに演出に思わずニヤリ。そして、練りに練った演出に脱帽。BURNOUT SYNDROMESは、ライブバンドとしても、シアトリカルな演出で楽しませるバンドとしても、もっともっと見応えある、すごいライブを見せてくれるに違いない。そんな可能性を大いに感じさせる2時間半の熱演だったのだ。
【撮影:Jumpei Yamada】
【取材・文:山口智男】
リリース情報
明星
2019年02月20日
Epic Record Japan
2.世界を回せ
3.ダーウィンに捧ぐ
4.ナミタチヌ
5.SPEECH
6.MASAMUNE
7.あゝ
8.我が家はルーヴル
9.国士無双役満少女
10.星の王子さま-Fin-
お知らせ
全国ワンマンツアー2019→2020
【2019】
12/15(日) [愛知]THE BOTTOM LINE
12/20(金) [東京]Zepp Tokyo
【2020】
1/11(土) [宮城] RENSA
1/24(金) [福岡] BEAT STATION
1/25(土) [広島] VANQUISH
2/11(火・祝) [大阪] なんばHatch
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。