ドミコ、過去最大規模『Nice Body Tour?』ツアーを通して成長を見せつけた
ドミコ | 2019.05.21
リキッドのライブ終演後にさかしたひかる(Gt/Vo)に現在のメインギターについて訊いてみた。リバースヘッドが特徴的なそれはドイツ製で、あえて右利きの彼が使っているのは6弦が一番長くなり、それによって倍音がよりよく出るから、という答えだった。一見、ラフで奔放なロックンロールを鳴らしているように見えるさかしただが、ライブでのループ・サンプラー然り、エフェクター使い然り、音源で聴けるカタルシスをライブでもなるべくそのまま届けたいタイプのミュージシャンなのだと思う。つまり完成した楽曲のサウンドとフォルムにいい意味で執着があるのだ。ライブだからラフでも逸脱してもOKでは、ドミコの音楽はカタルシスを生まない。そして曲という概念に愛着があることを彼らのライブは知らせてくれる。
過去最大規模のツアーを巡り、沖縄公演を控えたセミ・ファイナルの東京公演。ワンマン最大規模のリキッドルームはソールドアウト。今のドミコに注がれる視線の熱さを実感する。オーディエンスは洋楽邦楽隔てなく聴いていそうな、音楽ファンといった印象だ。中にはジャック・ホワイトやジョンスペ(ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン)のシンプルにして、破壊力抜群のロックンロールやブルースを愛していそうなミドルエイジ層も見受けられる。が、おそらく現在の動員はサブスクリプション・サービスの影響も大きいと見た。イケてる現行のインディーロックをフォローしていれば必ずと言っていいほどドミコもレコメンドされる。一度聴いたら耳から離れない、その音楽性の強みを最も発揮したのが今回のアルバム『Nice Body?』のリードトラック「ペーパーロールスター」なのは自明だ。普段、オルタナティヴR&Bやヒップホップを聴いているリスナーも思わずリピってしまう中毒性。今回初めてライブを見る人の中にはそういうリスニング傾向を持つ、フェスフレンドリーな人が多い印象を持った。
何が本来なのかはわからないが、届いて欲しいリスナーにリーチするようになった状況でのワンマンである。が、相変わらずさかしたも長谷川啓太(Dr)も「さぁやりますか」ぐらいのテンションで登場する。二人の間で存在感を示す「domico」のネオン管がアメリカのダイナーのようでいい雰囲気。照明もアメリカのバー付属のステージみたいだ。フラットな気分でいると一発目の「アーノルド・フランク&ブラウニー」では意外にも叫び気味なさかしたのボーカルに驚く。そして音源同様、これまでに比べて圧倒的に音が太い。長谷川のキックもローがよく出ている。「バニラクリームベリーサワー」のヴァース部分のアルペジオの中毒性の高さも再認識。歌いながら裏のフレーズを弾くさかしたはギターと一体化しているように見える。隙間の多いプロダクションだからこそ、ねっとりしつつ中性的なボーカルもよく通る。いきなり変なたとえだが、さかしたのボーカルはチーズみたいだと思う。往々にして“チーズ入り”は悪魔的な誘惑感がある。それは美味しいから。味覚中枢が満たされるから。それを聴感に置き換えるとわかりやすいと思う。ヤバイヤバイ、食べ過ぎたらヤバイと思いながら、手が出る魅惑の存在。
話が逸れた。新譜からの曲と以前の曲のナイスな流れで言うと、ぐっとベースラインが太く重い「裸の王様」。中盤のダビーで重いサイケデリアに飲み込まれて、意識が遠のく感覚を経て、ウォール・オヴ・サウンドを形成するBメロが怒涛だった「家出をして」は、これまでにもあった自分の内側にダイヴするようなタームだったが、より空間ごと別次元にほりこまれるような音像を実現。この感じ、OGRE YOU ASSHOLEとかD.A.N.のズブズブにハマっていくサイケなニュアンスに近い。エクスペリメンタル・ミュージックの堂々たる体現だった。
対照的に軽妙なリフのイントロに歓声が上がる「ロースト・ビーチ・ベイビー」。そう、ドミコのレパートリーはリスナーそれぞれの嗜好にジャストフィットするツボが多数存在していて、概ねどの曲も好きだが皆それぞれマイ・ベスト的な曲を持っているのだ。この曲のエンディングはハーモナイザーなのか?音をつないで水中深く沈んでいくようなサウンドに移行し、とびきり現実離れしたドリーミーでちょっと悪夢的な「ベッドルーム・シェイク・サマー」へ。音源でも相当BPMは遅い曲だが、ライブの流れで聴くとさらにたゆたうような遅さが、寝落ちするかしないかのあの体感を生む。この演奏も非常にエクスペリメンタルだ。ギターのリバーヴやエフェクトのちょっとしたさじ加減でここまでヤバイ音像を立ち上げてみせる二人の曲への献身が素晴らしい。残響がなくなっていっても拍手をしていいのか、それぐらい酩酊し、かつ集中したオーディエンスの反応も静のベクトルで一体感が保たれていた。揺らめく淡い光から、ぐっと黒々としたカオスに突入した「服をかして」は、クラウトロックのような反復が呪術的で、瞬間的にはドアーズを連想させる部分も。アルコールすら一滴も摂取していないのに、明らかに何かに酔っている。考えられるのは今ドミコが鳴らしている音楽なのだけども。
あっという間に18曲が終わり――体感としては40分ぐらいだ――、本編終盤に間違いない2曲をセットした今日のドミコは素直だと思った。なんたってこれを待ってました! と言わんばかりのフロアのはじけっぷりを誘発する「こんなのおかしくない?」と「ペーパーロールスター」の連続。ドライヴするロックンロールに身を任せて、歌えるところは歌ったりしながら、ふと涙腺がヤバイことに気づく。なぜだろう? 「ペーパーロールスター」の「私は怖がりもしない」という歌詞に前後の脈絡なく虚をつかれた。聴き手の勝手な解釈を許してくれるドミコの歌詞だが、好きなこと以外どうでもいい――そんな印象を熱さを感じないさかしたの声で聴くと、悔しいが痺れる。今、みんなが最もライブで聴きたい、踊りたい曲を期待以上のグルーヴ感と期待を裏切らない正確さでプレイしきった二人に送られる拍手と歓声は、オーディエンスの側もタガが外れたようにこれまでにない歓喜に溢れていた。アンコールはもちろん、それでも飽き足らないファンはダブルアンコールを求めてその場をなかなか立ち去らなかった。
リアルタイムで音を重ねてアンサンブルを構築していく従来の手法に加えて、正真正銘、歌とギターとドラムだけで成立するレパートリーも登場した今。スタイルのユニークさはもはや前提として、ドミコという音楽、ライブそのものがいよいよ突出した。この狼煙は相当高く上がっている。
【撮影:森好弘】
【取材・文:石角友香】
リリース情報
NiceBody?
2019年02月06日
RED Project Room, a division of Sony Music Entertainment(Japan)Inc.
2.さらわれたい
3.MyBodyisDead
4.裸の王様
5.服をかして
6.わからない
7.アーノルド・フランク&ブラウニー
8.あたしぐらいは
9.マイダーリン
10.ベッドルーム・シェイク・サマー
セットリスト
Nice Body Tour?
2019.4.19@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.アーノルド・フランク&ブラウニー
- 02.マカロニグラタン
- 03.バニラクリームベリーサワー
- 04.Pop,Step,Junk!
- 05.さらわれたい
- 06.裸の王様
- 07.家出をして
- 08.わからない
- 09.おーまいがー
- 10.マイララバイ
- 11.旅行ごっこ
- 12.ロースト・ビーチ・ベイベー
- 13.ベッドルーム・シェイク・サマー
- 14.服をかして
- 15.まどろまない
- 16.united pancake
- 17.My Body is Dead
- 18.地球外生命体みたいなのに乗って
- 19.こんなのおかしくない?
- 20.ペーパーロールスター
- 01.幽霊みたいに
- 02.くじらの巣
- 03.my baby
お知らせ
環七フィーバーズ
6/14(金) 新代田FEVER
w) 秋山黄色 / 錯乱前戦 / and more...
Age Factory presents「Fight Club」
7/1(月) 代官山UNIT
7/4(木) 心斎橋JANUS
w) Age Factory / ENTH
JAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2019 SUMMER
7/13(土) 渋谷
FUJI ROCK FESTIVAL’19
7/26(金)~28(日) 新潟・苗場スキー場
※ドミコは28日出演
NQ 30th Anniversary FIND OUT presents MUST GO-GO Vol.3
8/27(火) 名古屋 CLUB QUATTRO
w) 2 / TENDOUJI
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。