くるり 『songline』リリースツアー「列島Zeppェリン」最終公演
くるり | 2019.06.03
ここ数年を振り返っても、もっともシンプルで、にもかかわらず(いや、だからこそ、かもしれないが)音楽的にもっとも豊潤なくるり。僕たちが今回のツアー「列島 Zeppェリン」で目撃したのは、そんなくるりの姿だったのかもしれない。昨年9月にリリースしたアルバム『ソングライン』もまさにそうしたアルバムだったが、楽器の音色とメロディに宿る歌心、そしてバンドの密な絆――まさにロックの、というかバンドミュージックのエッセンスをじっくりと凝縮したようなライブを、Zepp Tokyoでのツアーファイナルで彼らは見せてくれた。
今回のツアー、メンバー構成は岸田繁、佐藤征史、ファンファンの3人に加え、ギターに松本大樹、キーボードに野崎泰弘、そしてドラムにクリフ・アーモンドという間違いのない顔ぶれ。案の定、「琥珀色の街、上海蟹の朝」「ふたつの世界」、そして美しいコーラスワークも印象的な「シャツを洗えば」という冒頭の時点ですでに最高である。「Morning Paper」ではスーツ姿の岸田がスポットライトを浴びつつあのギターリフをかき鳴らす。この曲、こんなにもみずみずしく艶のあるロックンロールナンバーだったのか。音にピンとしたハリがあってすがすがしい。そんなイメージを支えているのがクリフのドラムだ。巧いのはもちろんだが、軽やかなのに肉感豊かで力強い。
岸田によるメンバー紹介を挟んでここで新曲を披露。「といっても、くるり王道のプログレでございます。歌はなくてもメッセージはあるような、ないような……」(岸田)確かに岸田の言う通りまごうかたなきプログレなのだが、なんだろう、この喉越しのよさは。主旋律を担う楽器が次々と移り変わり、多層構造的に展開する複雑なインストゥルメンタル楽曲ではあるが、その真ん中にちゃんと「歌」が存在していることがわかるというか。「Tokyo OP」もまったくそうで、たとえば『ソングライン』からこの日披露されたほかの楽曲――「その線は水平線」や「風は野を越え」や「忘れないように」と同じくらい、そこにはちゃんと届けるべき親密な「歌」が鳴っていた。
「忘れないように」はブリットポップからぐーんと歴史をさかのぼって「Hey Jude」までたどり着くみたいな、まるでロックミュージックの卒業アルバムみたいな懐かしさを覚える曲だし、ギター1本から曲に入っていった「どれくらいの」やビリー・ジョエルへオマージュを捧げながら「気付けば俺も親父だ」と歌う「News」のどこまでもシンプルでフォーキーな佇まいは、まるで50年前から歌い継がれてきたスタンダードナンバーのような耳馴染みのよさ。曲によって歌われる言葉もサウンドの方向性もさまざまだが、その「ずっとそこにあった感じ」は『ソングライン』で辿り着いたくるりのひとつの境地だろうと思う。そんなアルバムの曲が柱にあるからこそ、絶え間ない変遷を重ねてきたくるりの楽曲たちが、ひとつのソングブックに束ねられるかのように自然と同居できているのだ。サポートメンバーが一旦ステージを去り、メンバー3人だけで披露された「宿はなし」「キャメル」「ブレーメン」のパートでも、その自然体の姿を感じることができた。岸田は「寂しいコンサートになってきたな」とか言っていたが、とんでもない。ギターとベースとトランペット、そして3つの声。それが重なればどうしようもなく血の通った表情豊かな音楽になる――そこに対する無条件の信頼と愛情が溢れている。
再び6人編成に戻り、いよいよライブは後半戦。「スラヴ」では松本が弾くはずだったバンジョーが機材トラブルで鳴らず急遽ギターで代用するなどちょっとしたハプニングもあったが、「お祭りわっしょい」ではファンファンがドラムのライザーに上がり銅鑼を叩いて満面の笑顔を見せたり、「すけべな女の子」ではクリフの鬼神のごときビートが轟いたり、怒涛の展開で一気に会場のボルテージを高めていく。クリフのドラムによってぐっと躍動感を増した「ワールズエンド・スーパーノヴァ」ではイントロから大きな歓声があがり、「Liberty&Gravity」ではオーディエンス総出での手拍子もばっちり決まる。そして「みなさまの心身のご健康と次なる一歩のために」という岸田の口上から本編最後の「HOW TO GO」へ。6人の音がひとつの塊になって押し寄せてくる様はまさに圧巻。アウトロの高揚感は、これがこのまま永遠に続けばいいのにと思うほどだった。
アンコールでは開口一番「新曲言うてプログレやったりしたんですけど……すんませんでした」と言っていた岸田だが、その後披露されたのはプログレとは対極にある、朗らかでファニーな「SAMPO」だった。NETFLIXのオリジナル作品『リラックマとカオルさん』に書き下ろした1曲だ。そこからディープな「尼崎の魚」へと舵を切る落差の大きさもくるりらしい。そしてここからがある意味ハイライト。今回のツアータイトルは「列島Zeppェリン」、というわけでレッド・ツェッペリンのカバーを2曲立て続けに披露である。ファンファンもボーカルを取った「Good Times Bad Times」と「Communication Breakdown」で壮大な伏線を回収してみせたあとで、ラストは「ロックンロール」。改めてバンドのアンサンブルの凄みを見せつけた。
この「列島Zeppェリン」に続き、6月には「列島ウォ~リャ~Z」という全国ライブハウスツアーが控えているくるり。お近くに彼らが来た際にはぜひ足を運んで、今のくるりの伸びやかで心に染み入るような魅力を、ぜひ体感してほしい。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:岸田哲平】
くるり『songline』リリースツアー「列島Zeppェリン」より、2019年5月24日にZepp Tokyoで行われた最終公演のセットリストをプレイリストで公開!
リリース情報
ソングライン
2018年09月19日
ビクターエンタテインメント
2. landslide
3. How Can I Do?(Album mix)
4. ソングライン
5. Tokyo OP
6. 風は野を越え
7. 春を待つ
8. だいじなこと(Album mix)
9. 忘れないように(Album mix)
10. 特別な日(Album mix)
11. どれくらいの
12. News
セットリスト
『songline』リリースツアー
「列島Zeppェリン」
2019.5.24@Zepp Tokyo
- 01.琥珀色の街、上海蟹の朝
- 02.ふたつの世界
- 03.シャツを洗えば
- 04.Morning Paper
- 05.新曲(タイトル未定)
- 06.その線は水平線
- 07.ソングライン
- 08.Tokyo
- 09.風は野を越え
- 10.忘れないように
- 11.どれくらいの
- 12.News
- 13.宿はなし
- 14.キャメル
- 15.ブレーメン
- 16.Tonight Is The Night
- 17.スラヴ
- 18.お祭りわっしょい
- 19.すけべな女の子
- 20.Hometown
- 21.ワールズエンド・スーパーノヴァ
- 22.Liberty&Gravity
- 23.HOW TO GO
- 01.SAMPO
- 02.尼崎の魚
- 03.Good Times Bad Times
- 04.Communication Breakdown
- 05.ロックンロール
お知らせ
くるりライブハウスツアー「列島ウォ~リャ~Z」
6/14(金) 仙台Rensa
6/15(土) 郡山HIPSHOT JAPAN
6/19(水) 新潟LOTS
6/21(金) 札幌ペニーレーン24
6/22(土) 帯広MEGA STONE
6/27(木) 福井響のホール
6/29(土) LiveHouse浜松窓枠
6/30(日) 岐阜club-G
7/6(土) 宮崎WEATHER KING
7/7(日) 鹿児島キャパルボホール
7/12(金) 高知キャラバンサライ
7/13(土) 高松festhalle
7/15(月・祝) 広島クラブクアトロ
7/17(水) 京都磔磔
7/18(木) 京都磔磔
京都音楽博覧会 2019 in 梅小路公園
9/22(日) 京都梅小路公園 芝生広場
出演:くるり 他 後日発表
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。