sumika 自身最大規模のツアーとなる『Chime』 Release Tour
sumika | 2019.06.30
「軽やか」……そんな言葉が何度も胸に去来した一夜であった。
「自分たちで<いいライブ>と実感する際は、なんか追い風みたいなものに吹き上げられている感じがする」。という話を以前ベテランバンドから聞いた。もちろん実際は起こってはいない。だが、空気の重さや抵抗を感じず、逆に何か後から力強く押し上げてくれる風をライブ中に感じるそうだ。そして、そこに乗るかのようにライブがグングン昇華していくのを感じるのだという。
まさにこの日のsumikaのライブからは、その際の言葉を想起させる瞬間が多々あった。加え、何かその追い風のようなものが実際に吹いていた錯覚をも……。それが生み出された会場全体を巻き込み、更なる軽快さや弾力、心躍ったり胸熱になったりしたこの日のライブは、ステージ上のみならず、会場全体でもそれらを分かち合うことが出来た。
sumikaが自身最大規模の全国16都市24公演を行った。今春発売されたニューアルバム『Chime』と共に回った今回の全国ツアー。そのラストスパート的な22公演目は、メンバー全員が神奈川県出身の彼らにとっては地元とも呼べる横浜アリーナであった。同県の屋内最大規模を誇る同会場にて、自身単独としても最大のキャパをも大成功に収めたこの日。やはりその辺りの嬉しさも隠し切れなかったり、滲み出たり、溢れ出てしまったのだろう。この日の彼らは終始、この上ない幸甚そうな表情や態度にて我々を次々に表す歌物語へと佇ませてくれた。
会場に入ると正面のステージのバックには、彼らのロゴを実現化させたかのようなログハウスの外見が我々を歓迎してくれた。
なじみの登場SE「ピカソからの宅急便」が賑やかに場内に広がっていく中、メンバーが次々とステージへ。間を置き登場した片岡健太(Vo./Gt.)が、<ようこそ。よく来たね>的な歓迎の仕草で我々を部屋内へと招き入れる。1曲目の「10時の方角」が♪はじまり はじまり♪とばかりにライブを華やかに色づけていく。しっかりと自身の歌世界へと誘う間口の広い導入だ。「飛ばしていくよ!!」(片岡)と入った「フィクション」ではストリングス音も加わり、弾んだ気持ちが場内に寄与されていく。「スタンドもアリーナも、よく見えてるよ! 横アリ気持ちいい~!!」とは片岡。集まったオーディエンスの胸中にシッカリと忘れられない心の付箋をつけていく。続く「1.2.3..4.5.6」では小川貴之(Key./Cho.)も場内に煽りを加えていく。ここでは途中、一瞬現れるミラーボールによるハッと息をのむかのような演出に思わず「美しい……」と心の声が。グイグイと惹き込む曲は続く。黒田隼之介(Gt./Cho.)の鋭利なギターから「グライダースライダー」に入ると、歌中描かれるスライダーが美しい軌跡を見せ、横アリに会心の一撃を見舞うべく放たれた「ふっかつのじゅもん」では、スカの裏打ちが軽快さを寄与してくれた。
このタイミングを含め何度か片岡はこの日、「長い拍手をありがとう」と場内に告げた。これはけっして拍手の時間が長いことではなく、拍手がステージへと届くタイムラグが後方に行けば行くほど生じ、一つの拍手の様に長く続いて響くことを指す。それはそれほど奥にまで人がギッシリとおり、みながしっかりとリアクションしているからの現象に他ならない。そんな拍手や呼応のディレイは、この日何度も見受けられ、歌での身近さとは対照的に、彼らが大会場で演っている実感へと繋がっていった。
「今日はツアーファイナルのつもりでやる。神奈川県民だからこの横浜アリーナには憧れがあった。最初の横アリでのライブは後にも先にも一度きり。楽しみ残しの無いように行きます!!」と片岡。場内に更にライブを楽しむ際の飛びっきりの魔法をかけるべく歌われた「MAGIC」では、同期によるホーンも加わり、歌詞通りの♪目に留らない 耳の住処で起こすよマジック♪が味わえた。
ここからは比較的メローな曲が続いた。ややアダルトな雰囲気とセクシーさが場内に満ちた「Monday」では、左右に伸びたステージを通じスタンド席とのコミュニケーションを取る片岡の姿や、荒井智之(Dr./Cho.)によるシャッフルのドラミングブラッシングも特徴的な、同じくアダルティな雰囲気の「Strawberry Fields」。同曲では黒田のジャジーなギターソロを筆頭に、小川のピアノソロ、サポートベーシストの井嶋啓介(B.)もウッドべース風のソロとアドリブによるソロ合戦も魅惑的であった。
「かっこいい。納得。最高な場所でやれてマジ最高です」と同曲を終えた片岡の一言。続けてここではメンバー各人からこの横浜アリーナでライブを行った感想が告げられる。
「この会場には高校の頃、コンテストで3回立った経験がある。今日はここで人生を賭けたバンド(sumika)のワンマンで帰って来れて嬉しい」(黒田)
「ある意味この横浜はホーム(彼を含むメンバー三人の出身は隣市の川崎)だと思ってる。ツアー中に太り、文字通り一回り大きくなって帰ってきました!」(荒井)
「横浜のライブハウスでもがいてきた横浜のバンドマンです。このステージに立てて最高です。みんなの声援を糧に頑張ります!」と地元・横浜出身の小川が続ける。
「本当に難しいのは嘘をつかずに生きていくこと」と片岡が告げ、入った「ホワイトマーチ」では季節は冬にフラッシュバック。ステージバックの幕が開き夜の森林のシルエットが現れる。ステージ上に配された複数のミラーボールが描き出す無数の光の矢が、星のように流星のように雪のようにハッとする美しさを交えた至福感を与えてくれた。また、それらを切り裂くように現れた「ファンファーレ」では、黒田のエモいギターも含め疾走感のあるサウンドがライブを再び走り出させ、満場も気持ちで並走していく。
「ここからは座って楽しむのが似合う曲をやります」とアコギに持ち替えた片岡。君の声を聞かせてよと歌われた「リグレット」、鍵盤とともに送られた「ゴーストライター」、ハンドマイクでしっかりと包み込むように歌った「秘密」に於いてはアウトロがとてつもない高みへと誘った。
インタールードインスト「Hummingbird’s Port」を経てステージバックのログハウスも室内仕様へとチェンジ。よりアットホームな居間感が醸し出される。
後半戦への突入宣言は「Lovers」が告げた。ずっとずっと離れぬようにとの愛し抜く宣言がアライアンスのようにステージと場内とで固く交わされていく。また、「sumikaのライブは特に後半戦に定評がある」とは片岡。それを立証するが如く、「Flower」がグルービーなサウンドに乗り場内を惹き込めば、ライブが激化を見せたのは「ペルソナ・プロムナード」であった。場内丸ごとここではないどこかへと連れ去っていった同曲。会場中に仕込まれたライトも本領を発揮。ここでは黒田のギターソロも炸裂し、場内を魅了していく。そして、「今までの人生で今日が一番、この歌をみんなに伝えたい。ここでこの気持ちが伝わらなきゃ、伝え切れなくちゃ全部嘘だ!!」との片岡の言葉と共に、音楽の中の効力の一つでもある、聴けば同時に当時の想い出も溢れ出して行くそんなメカニズムを想い出させてくれたのが、次曲の「「伝言歌」」であった。あの日あの時の自分からのタイムマシンのような同曲が、記憶を超え、記憶を塗り替えるべく、この日も会場のみんなに放たれる。伝えたい気持ちを伝えなくちゃ、伝え切らなくちゃとの気持ちが溢れていく。
「自分は恥ずかしがり屋だから、曲を作りライブをしに行く口実を作り、これからもあなたに会いに行く。何度でも口実を作りますから、また会いましょう」と最後は「Familia」が。家族は最後の最後まで家族。なんかsumikaともそんなファミリアになれた気がした。
「とんでもない確率で出会ったことに感謝。出会ったが最後、離さないから!」(片岡)。そんなギュっと抱き寄せるかのような言葉を残し彼らは一旦ステージから消えた。
アンコールでは共に今後も歌い続けていくべく新旧大切な曲たちが気高く鳴らされた。まずはライブでは初披露の新曲「イコール」が元々擁したダイナミズムも合わせ、このような広い会場でより効力を発揮していく。フロアタムが生命力を与え、雄々しく誇らしいアンセム部が大会場の隅々にまでバイタリティを行き渡らせる。今後同曲はライブの1曲目に持ってきても面白そうだ、なんて思った。
各地各会場にて好評だった、ログハウス内にご当地のものを忍ばせるコーナー。この横浜では崎陽軒のシウマイ(実際は模したクッションを掲示)が神奈川の代表的なお土産に認定され、みなに披露された。
「ここでこの曲が歌える日が来るとは思ってませんでした」と入った「Amber」では、スタックスビートが場内に軽やかさを生み、また、「18歳の頃よりこの曲があったからこそ、心が折れずにここまでこれた。自分にとって心の中のお守りのような曲」(片岡)と紹介された「雨天決行」がこの日のステージを締めくくった。自身としてもあの時とは違った胸中で歌ったであろう同曲。まだ進んでいく! まだまだ歌い続けていく! そんな改めての決心のように、この日のこの曲は響いた。
「泥だらけになっても、決して俺たちは笑わずに『かっこいいね』と言ってあげる。今後も一緒に闘って、一緒に傷ついていきましょう」との言葉と、長く深いお辞儀を残し、彼らはステージを去った。メンバーの消えた後も無人のステージには、しばらく長い拍手が続いた。それらがフェードアウトし消え入った後、会場に残された私の心は、入る前より確実に軽やかになっていた。なんだか追い風に吹き上げられているような、あの時の気持ち……。それらをこぼれないように大事にしながら、気持ちのいい軽さに包まれた身体で、私は会場の扉を開け、また明日へと向かった。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:後藤壮太郎】
リリース情報
イコール / Traveling
2019年06月12日
SMR
02.Traveling
03.イコール (Instrumental)
04.Traveling (Instrumental)
セットリスト
『Chime』 Release Tour
2019.6.9@横浜アリーナ
- 1. 10時の方角
- 2. フィクション
- 3. 1.2.3..4.5.6
- 4. グライダースライダー
- 5. ふっかつのじゅもん
- 6. MAGIC
- 7. Monday
- 8. Strawberry Fields
- 9. ホワイトマーチ
- 10. ファンファーレ
- 11. リグレット
- 12. ゴーストライター
- 13. 秘密
- 14. Lovers
- 15. Flower
- 16. ペルソナ・プロムナード
- 17. 「伝言歌」
- 18. Familia Encore
- En-1. イコール
- En-2. Amber
- En-3. 雨天決行
お知らせ
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07/13(土) いわみざわ公園
NUMBER SHOT 2019
07/20(土) 海の中道海浜公園
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08/03(土) 国営ひたち海浜公園
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08/25(日) 国営讃岐まんのう公園
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08/31(土) 山中湖交流プラザ きらら
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09/05(木) 新木場STUDIO COAST
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。