SUGA SHIKAO TOUR 2019 ~労働なんかしないで 光合成だけで生きたい~
スガ シカオ | 2019.07.01
『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』――パッと見、過激なこのアルバムのタイトルが発売前から大きな反響を呼んだスガシカオ。今作をひっさげて全国13都市15公演に及ぶ9年ぶりのホールツアーが開幕し、東京・NHKホール公演では、ホーン・セクションやコーラスを含むバンドとオーディエンスの一体感をステージ中央で統率する、スガの存在感や発するエネルギーに序盤から圧倒されっぱなしだった。
そもそもアルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』という作品はタイトルだけでなく中身も、これまで以上に人間の生活や愛情や思い出や幸せや苦しみがエグい程リアルに描かれているものだった。例えば今作のラストに収録されている「深夜、国道沿いにて」には、家族でよく行ったラーメン屋さんの思い出が描かれながらも、その物語には予想もつかなかったような苦味が添えられる。ただの温もり溢れるノスタルジーに終始しないところがスガシカオの凄まじさなのだが、個人的には、ライブではこの物語やこのアルバムそのものが、どのようにオーディエンスに共有され、エンターテイメントとなるのかを確かめたいという、そんな気持ちを持って今回この会場に足を運んだ。
開演時、3人のホーン・セクションが「夜空ノムコウ」のメロディを高らかに響かせたオープニングと共に、軽快に滑り込むようにステージに登場したスガ。1曲目から今作の表題曲「労働なんかてしないで 光合成だけで生きたい」を披露してファンキーに盛り上がると、MCでは「今回のアルバムは自分のスタイルを変えてみました。めちゃくちゃいいアルバムになったと思います。この歳になっても新しい扉が開けて、NHKホールをいっぱいにできてありがたいです!」と挨拶。「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」から続けて「おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった」へなだれ込むと、曲が進むにつれて恐ろしいほどスガとバンドのボルテージが上がっていく。そしてイントロから大きな手拍子が沸いた「Progress」では体の芯から力が漲っているような演奏と熱唱だった。一体彼のどこからこのエネルギーは沸き上がってくるのだろう。
今回は9年ぶりのホールツアーということで「いきなりリクエスト」コーナーが設けられているのも見どころ。事前に会場でお客さんに1個100円のスーパーボールを購入してもらい、候補曲の中から演奏してもらいたい曲に投票できるという仕組みも面白い(ちなみに収益はNPO法人を通じて寄付される)。しかもこの日は投票ボックスからスーパーボールが溢れるほどの盛況ぶりで「溢れた曲は全部やったほうがいいんじゃないか?」と、3曲の予定だったが特別に4曲披露されるというサービスぶり。というわけで「夜空ノムコウ」「イジメテミタイ」「ヒットチャートをかけぬけろ」「フォノスコープ」をアコースティック編成で演奏。曲ごとにフルートやサックスなどが加わるセッションを、時にメンバー間のやりとりで笑いを誘ったりして和ませてくれながら、じっくりと味わうことができた。
やっぱりハイライトは終盤に差し掛かった頃に披露された「深夜、国道沿いにて」だった。歌う前にスガはこんなMCをした。いわゆるコミュ障だった父親とはほとんど話をしたことがなかったこと。父親はファッションセンスが悪くて趣味は習字。1996年に癌が見つかり「もしもの時は母さんを頼む」と言われたこと。その時の自分は28歳くらいでミュージシャンとしても全然芽が出てなくて、そう言われた時に生返事しかできなかったこと。そして「若さって辛いなと思う。可能性と同じくらい、辛いこともたくさんある」。そう言うと「俺と母親と父ちゃんと3人で一生懸命生きてた頃を思い出して作った歌です」と、この曲を紹介した。ゆったりとしたテンポで始まる歌、ふと思い出したあの頃のことをなぞるようなバンドの演奏はとても優しい。この日、ライブで聴いた「深夜、国道沿いにて」はあったかいけど苦しい、永遠に届かないラブソングだった。この曲の中の残酷なエピソードと、そこに重なる亡き父親の影、今も残る後悔……。しかし「虚無」なんかではなく「空洞を抱きしめる」ための強さと熱気を帯びて、この歌は届けられていた。こういう人が作る歌だからこそ、ちゃんと届くんだとあらためて感じた。だからこそ、スガシカオは愛されるんだと、あらためて確信した場面だった。
「深夜、国道沿いにて」に続き「あんなこと、男の人みんなしたりするの?」でアルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』の核心部分を伝えた後、本編終盤を飾った「91時91分」からの畳み掛けるような盛り上がりも本当に素晴らしかった。感動的に胸を打つ「アストライド」、この日一番の高揚感を生み出した「Re:you」、オーディエンスが踊り叫んだ「コノユビトマレ」で最高のフィナーレ。アンコールでは「俺はこれからも日本でファンクをやり続けます!」と宣誓し、「俺たちファンクファイヤー2019」や「ドキュメント2019」まで完全燃焼し、アルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』の収録曲を全て網羅しつつの23曲を届けた。
キャリアを重ねても今もなお作家として攻めの姿勢を崩さず、それでいてステージでも最高のパフォーマンスを届け続けるスガシカオと、彼の音楽世界の深い理解者であり支持者であり続けるオーディエンスの絆が、かけがえのない夜に確かな幸せを生み出した。『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』――そう背中に小さく刻まれたツアーTシャツを着たお客さんの多くは、きっと次の朝にはまた、それぞれの職場や学校に向かうことだろう。スガシカオが描き出す、パッと見は過激だけれど、誰もが胸の奥底に宿しているリアルな感情をエンターテイメントに昇華するクリエイティヴィティは唯一無二の日本人の宝であると、このライブを通じてつくづく思った。
【取材・文:上野三樹】
【撮影:岸田哲平】
リリース情報
労働なんかしないで 光合成だけで生きたい
2019年04月17日
ビクターエンタテインメント
02.遠い夜明け
03.あんなこと、男の人みんなしたりするの?
04.am 5:00
05.おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった
06.ドキュメント2019 feat.Mummy-D
07.スターマイン
08.黄昏ギター
09.マッシュポテト&ハッシュポテト
10.深夜、国道沿いにて
セットリスト
SUGA SHIKAO TOUR 2019
〜労働なんかしないで 光合成だけで生きたい〜
2019.6.23@NHKホール
- 01. 労働なんかしないで 光合成だけで生きたい
- 02. バナナの国の黄色い戦争
- 03. 遠い夜明け
- 04. あなたひとりだけ幸せになることは 許されないのよ~おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった
- 05. スターマイン
- 06. 黄昏ギター
- 07. Progress
- 08. フォノスコープ
- 09. ヒットチャートをかけぬけろ
- 10. 夜空ノムコウ
- 11. イジメテミタイ
- 12. am 5:00
- 13. 黄金の月
- 14. ひとりごと
- 15. 深夜、国道沿いにて
- 16. あんなこと、男の人みんなしたりするの?
- 17. 正義の味方
- 18. 91時91分
- 19. アストライド
- 20. Re:you
- 21. コノユビトマレ [ENCORE]
- 22. マッシュポテト&ハッシュポテト
- 21. 俺たちファンクファイヤー2019
- 22. ドキュメント2019 feat. Mummy-D
お知らせ
J-WAVE LIVE 20th ANNIVERSARY EDITION
07/13(土)横浜アリーナ
オハラ☆ブレイク’19夏
08/10(土)猪苗代湖畔 天神浜
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
08/16(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージb
風とロック芋煮会 2019 イモニー村祭り
09/07(土)~08(日)
しらさかの森スポーツ公園
New Acoustic Camp 2019
09/14(土)~15(日)水上高原リゾート200
*出演日は後日発表となります。
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。