ドレスコーズ 「世界の終わり」を題した“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR
ドレスコーズ | 2019.07.16
インタビューで志磨遼平は新作『ジャズ』の登場人物たちを「進化の果てに、スマホなどのデバイスでは繋がれてはいるものの、各々のベッドルームにおり、この種の終わりを感じつつ、しかしそれを俯瞰している」(大意)と言っていた。苛立つほど情報は錯綜し、SNS上で一人称で罵り合う人たちも、すぐに怒りを忘れて次のネットミームに乗り換えていく、そんな日常に、「一旦、人類終わりって視点を持ち込んだらどうでしょう。感覚的にはそういうところないですか?」と、やんわり提示された気分だった。そして、非常にしっくりきた。
だが、このアルバムを携えたその名も「世界の終わりのパーティー」は、むしろ生きている実感を物理的にでも発生させて、「行こうぜ、次へ」というニュアンスのものだった。
ツアー最終公演の地は横浜の中でもまさに海に面した会場で、船を手配すれば航海に出られそうな立地だ。しかも80年代後半のディスコの佇まいを残すホールの構造、天井から下がるシャンデリア、そしてあまり効いていない空調(これは憶測だが、他都市の会場も暑かったらしいので、会場設備のせいではないかもしれない)。ちなみに今回のバンド名であるドレスコーズA.K.Aの「A.K.A」はAs Known As(=と呼ばれている)でもあり、スペシャルズが後年、分裂、ジェリー・ダマーズ主体になったスペシャルAKAのことも想像させる。グッズ・デザインのフォントも2トーン風。新作のロマ要素はアルバム・ジャケットの顔ハメ・パネルで堪能するもよし。パーティーへの導入は愉快な演出に満ちていた。
相反してライブは葬送の儀式めいたインスト「銃・病原菌・鉄」を福島健一(Sax)、廣瀬貴雄(Tb)が奏でながらの開幕だ。他のメンバーも位置につき、ローブのフードを被った志磨が姿を見せると熱狂は一気に頂点に。フードをはらい、強い視線でフロアを睨む志磨の扇動者の合図で放たれた「プロメテウスのばか」でファンは熱した鉄板の上にいるかのように跳ねる。続く「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」は音源の何倍もカオティックなアレンジで狂騒が止まらない。さらには場末のディスコ感が異様にマッチした「チルってる」。福島の激しいブロウに拍手が送られ、ここはチルどころじゃない。沸騰している。
さらに吉田一郎不可触世界(Ba)のバイオレントなまでの低音に導かれ、ホーンが強烈に人間の呼吸や絶叫を感じさせる「規律/訓練」。志磨が吹くサンバ・ホイッスルでさらに煽られ、さらに切り込むような有島コレスケ(G/arko lemming)のノイジーなソロで、無二の図太いファンクが醸成されていく。続く「平凡アンチ」の反復するグルーヴに乗せ、ステージ上もフロアもある種のトランス状態に入ったかのよう。エンディングで志磨が挙げた右手はフィンガークロス状態で上機嫌だ。
「こんばんは。ドレスコーズA.K.A、世界の終わりのパーティーです。最近聞こえてくるニュースは最低なニュースばかりです。僕らのこのくだらない世界が変わりませんように。そして最低な世界がとっとと終わりますように」――胸がすくようなMCを受けて、『ジャズ』の中でも私たちの日常と地続きな歌詞表現の「もろびとほろびて」へ。エフェクトがかかったボーカルはヴァースではか弱く無垢な少年のようであり、ラップ部分では“メカニカルなKOHH”のような硬質な印象を受けた。ライブ・バージョンでは後半にメロウなフレージングでホーンとギターが入り、少し人肌な感覚を加味していたことが特徴的だった。もうすぐ始まるオリンピックやその時の街に対しては、相変わらず俯瞰している自分に気付かされたが、このモダンな楽曲が最もリアルにすぐその先の破綻を予感させて、悲しいのか切ないのかよく分からない涙が零れそうになる。そこにレゲエ・アレンジされた「しんせい」が接続された意味合いも深い。照明がトップライトのみになりフードを被ると存在がダークマターのように見えたり、フードをはらいステージからフロアの歓喜を浴びているときは生身の扇動者にも見える。同じ人間でありつつ相反する意味を身一つで演じる志磨遼平という存在自体の不思議さが、このパーティーを成立させている。
「暑ーい! 大丈夫?」と、誰より汗びっしょりになりながらファンを気遣う“ローブを着た神”の自然体の一言がなんだか尊い。廣瀬が吹くピアニカが哀愁を醸す「カーゴカルト」が、後半16ビートに変化し、そのまま「ストレンジャー」にシームレスにつながる。70年代の歌謡曲的なメロディラインに乗る極めて現代的なオンライン上の薄い関係性。前作『平凡』収録曲だが、『ジャズ』における人類の衰退というか、生き物としての後退となんと地続きなことか。しかし、だからこそ私たちは今、足が立たないぐらいまで踊っているのではないのか? 未来予想に抗うために。
終盤のブロックは、まるで最低な世界を終わらせて、僕らの世界を生きるための旅の最後の道を歩くようだった。「わらの犬」はクラリネットに導かれて荒涼とした地に立っているような序盤から、ダビーなベースの処理を経てすべての楽器がとぐろを巻き、そのカオスに翻弄され転生するように志磨はぐるぐる回る。ロマ音楽からハードロック的なアンサンブルに変質していくアレンジも転生のニュアンスを感じた。重い「わらの犬」から一転、志磨が小さい銅羅を叩いて、今まさに横浜にいることも思い出しながら踊る「上海姑娘」ではチャイニーズなフレーズでエキゾチックにダンス。イントロでさらに歓声が大きくなる「Lolita」での勝手にはみ出るロックスター感。こればかりは止めようがない。
「ここが天国!」と、世界の終わりのパーティーにセットするには絶好のビッグバンド的なアレンジの「贅沢とユーモア」で世界をフルカラーにしていく。特にあらゆるジャンルをドレスコーズA.K.Aのグルーヴに昇華するリズム隊、吉田とsoki-木村創生(Dr/オーサカ=モノレール)の音楽的筋力に感服してしまった。
「どうもありがとう! 横浜どうもありがとう! バイバイ!」とだけ言い残し、ラストはブルーのバックライトに照らされて「ニューエラ」へ。滅びの歌だが、ホーンが作り出す響きはファンファーレのようで、淡々と歌う志磨はステージを降りてもことさら煽るような歌唱は見せなかった。ステージに戻りバンドを指揮するような身振りで、音量は上がりアンサンブルは厚くなっていき、最後は美しいノイズの中を昇天するようにステージを後にした。
アンコールでは、終わりの始まりに手を振るような「Bon Voyage」、そしてきっといきていれば繰り返すだろう愛とか恋とかを実は祝福する「愛に気をつけてね」で「Baby Baby あんたなんか」のシンガロングが起こり、茹だりまくったクラウドに志磨がダイブ。終わりたくない夜は誰かが与えてくれるものじゃなくて、命を燃やしたあなた自身が獲得するものなのだ――そうして我々は再会を祈る。
人類はもうどん詰まり? 確かに俯瞰すればそうかもしれない。しかし観念を超えるからこそライブ・パフォーマンスの意義がある。なかなかに周到な『ジャズ』とその先、だった。
【取材・文:石角友香】
【撮影:森好弘】
リリース情報
“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR[DVD](仮)
2019年11月20日
キングレコード
セットリスト
“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR
2019.7.6@横浜BAY HALL
- 00.銃・病原菌・鉄
- 01.プロメテウスのばか
- 02.エリ・エリ・レマ・サバクタニ
- 03.チルってる
- 04.規律/訓練
- 05.平凡アンチ
- 06.もろびとほろびて
- 07.しんせい
- 08.カーゴカルト
- 09.ストレンジャー
- 10.わらの犬
- 11.上海姑娘
- 12.Lolita
- 13.贅沢とユーモア
- 14.ニューエラ
- 01.Bon Voyage
- 02.愛に気をつけてね
お知らせ
12月24日のドレスコーズ
12/24(火) 恵比寿 The Garden Hall
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019
08/11(日) 国営ひたち海浜公園
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
08/16(金) 北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。