BLUE ENCOUNT史上初のホールツアー「apartment of SICK(S)」
BLUE ENCOUNT | 2019.07.18
ホールでBLUE ENCOUNTを観ているという感覚は、確かにちょっと不思議なものだった。だが同時に、ブルエンというバンドが何を目指し、何を求めて走り続けているのかが、はっきりと見えるライブでもあった。ブルエンがバンドのすべてを注ぎ込んだ渾身のミニアルバム『SICK(S)』を引っさげてのツアー「apartment of SICK(S)」。地元・熊本に続き行われたツアー2日目・中野サンプラザホールでのソールドアウト公演、本当にすばらしかった。
オープニング映像と連動して、ステージ上に大量のスモークが発生する。ステージが低くて近いというのもあって、そのスモークが客席までも覆っていくと、どよめきと笑いが起きた。それが狙いかどうかは知らないが、そんな感じでお客さんの肩の力も少し抜けたところで、高村佳秀(Dr)、江口雄也(Gt)、辻村勇太(Ba)、そして田邊駿一(Vo・Gt)がステージに登場する。1曲目はさっそく『SICK(S)』から「PREDATOR」。田邊は「東京ー!」と叫び、辻村は「かかってこい!」と声をあげる。さらに「コンパス」「KICKASS」とハードなナンバーを連発、あっという間に場内の空気を熱くしていく4人。ぎゅっとタイトにまとまった演奏が、塊になって耳に飛び込んでくる。おお、仕上がってる。
「いつも以上にいつもどおりの俺らをお見せできていることが誇らしいです」。田邊はそう胸を張ったが、まさにそう。普段ライブハウスやフェスで観るブルエンそのままのテンションでライブは進行していく。いつもと違う椅子席という環境に最初は戸惑っていたかもしれないお客さんたちも、全力で声を出し腕を挙げているのが見える。江口のギターリフが空気を切り裂いたヘヴィチューン「幻聴」、辻村のスラップベースが唸りを上げた初期の楽曲「D.N.K」。それに対抗したわけではないだろうが、「HEEEY!」では田邊が口でスラップを表現しコール&レスポンスも成功させる。ブルエンらしさ全開、というか、『SICK(S)』を経て迷いのなくなったタフなバンドの姿が序盤から胸を熱くさせてくれる。
辻村がこの前日に誕生日を迎えたとのことで、MCでは田邊が「みんなであの誕生日の歌を歌おう」と提案。と言いつつ長渕剛の「乾杯」を歌い始めるというナイスギャグを挟んだり、誕生日プレゼントに何がほしいかというお題に「クルマ」(江口)「土地」(辻村)「ゲーム用のハイスペックPC」(高村)というガチな答えを返されて困惑したり、やっぱりブルエンはどこまでも普段着。観ていてもまるで近所の友達の家に来たような安心感がある。おそらく『SICK(S)』というミニアルバムまでの道のりがそうさせたのだろうが、ありのままの自分たち、等身大のブルエンを、彼ら自身がちゃんと肯定できているのが伝わってくる。
この日のセットリストを見渡しても、「#YOLO」や「ハウリングダイバー」といった『SICK(S)』収録曲はもとより、切れ味鋭い「FREEDOM」や「ロストジンクス」、洒脱なポップス「coffee, sugar, instant love」、バラードの「さよなら」など、楽曲のタイプやジャンルは本当に様々だ。音楽性「だけ」で切り取っていってもBLUE ENCOUNTというバンドの本質はどこまでいっても見えない。だからこそ、ブルエンらしさというものがどこにあるのか、彼らはずっと探してきたのだ。『SICK(S)』には余計な説明なしに「これがブルエンですが何か?」という力強さがある。その感じが、バラエティ豊かな曲たちが次から次へと繰り出されるこの日のライブにもちゃんと宿っていた。ツアーでやるのはおそらくだいぶ久しぶりの「city」には映像の演出も含めて懐かしさを感じたが、『THE END』のときはあまりにも重い意味をもっていたこの曲も、ちゃんと今のブルエンのなかで位置づけ直されているということなのだと思う。製作期間1ヵ月という短期集中で作られたという『SICK(S)』だが、この日の田邊に言わせれば「10年かけてやっとできたミニアルバム」だという。そう言い切れるだけの手応えと確信が、今の彼のなかにはあるということだろう。
ツアータイトルの「apartment of SICK(S)」について、田邊は「ひとつひとつの座席があなたの居住区、居場所」だと説明した。「あなたの街になりたい」と言っていた「city」の頃と本質は変わらない、だがより具体的で近い、そんなメッセージが、今回のライブのかたちにも表れている。このホールツアーは『SICK(S)』ができる前から決まっていたが、こうしてちゃんとすべてが意味を持っていくというのも、またロックバンドのマジックだ。そんな言葉をもらったオーディエンスは、終盤に向けてますます自分を解放し、感情をさらけ出していった。「NEVER ENDING STORY」ではシンガロング、「DAY×DAY」では手拍子と、中野サンプラザ全体を巻き込んで過熱していくライブ。だが田邊はまだ足りないらしく「頼むよ、もっと来て! 一緒の場所に住む仲間だと思って、思いっきり来てほしい」と客席に向かって叫ぶ。そうして演奏された「もっと光を」ではほとんどすべてのお客さんがまるでリードシンガーのように声をからしていた。
本編最後の「それでも、君は走り続ける」で、田邊は「やめてしまいたいときなんて山ほどあるよ。あなたと一緒に前に進みたくて歌ってるだけ。俺たちがあなたを最高の景色に連れていきます」と語りかけた。それを聞いて目頭が熱くなった。個人的な話で恐縮だが、初めて彼らのワンマンを観たときのことを思い出したのだ。小さいライブハウスで、田邊は全く同じことを叫んでいた。「いい場所に連れていく」と。ただし、人目もはばからず泣きじゃくっていたあの日とは違って、今の田邊は強い目と強い声でそのメッセージを伝えていた。芯の部分は少しもブレず、しかしより強固なものとなって、ブルエンはこの場所に帰ってきたのだと思った。
アンコールでは日本テレビ系のドラマ「ボイス 110緊急指令室」の主題歌となるニューシングル「バッドパラドックス』が9月にリリースされること、そしてそれにともなって秋からライブハウスツアーが開催されることを発表。止まることなく走り続けるブルエンに、客席からも大きな歓声が送られる。そんななか最後に披露されたのは『SICK(S)』の最後に収められた「アンコール」だった。「ここまで来た」の先で「これから」を照らすこの曲が、次への狼煙のように響いた。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:浜野カズシ】
リリース情報
バッドパラドックス
2019年09月11日
Ki/oon Music
02.VS(HALL TOUR 2019 apartment of SICK(S)@中野サンプラザ06.21)
03.もっと光を(HALL TOUR 2019 apartment of SICK(S)@中野サンプラザ06.21)
セットリスト
HALL TOUR 2019 apartment of SICK(S)
2019.6.21@中野サンプラザホール
- 01. PREDATOR
- 02. コンパス
- 03. KICKASS
- 04. FREEDOM
- 05. 幻聴
- 06. D.N.K
- 07. HEEEY!
- 08. ロストジンクス
- 09. #YOLO
- 10. SUMMER DIVE
- 11. coffee, sugar, instant love
- 12. さよなら
- 13. city
- 14. ハウリングダイバー
- 15. ワンダーラスト
- 16. NEVER ENDING STORY
- 17. DAY×DAY
- 18. VS
- 19. もっと光を
- 20. それでも、君は走り続ける 【ENCORE】
- EN01. VOICE
- EN02. だいじょうぶ
- EN03. アンコール
お知らせ
BLUE ENCOUNT 2019ライブハウスツアー
09/25(水) 千葉LOOK
10/01(火) 仙台Rensa
10/02(水) 石巻BLUE RESISTANCE
10/04(金) 札幌PENNY LANE24
10/06(日) 北見ONION HOLL
10/09(水) 金沢EIGHT HALL
10/10(木) 新潟LOTS
10/12(土) 浜松 窓枠
10/14(月・祝) 高松festhalle
10/16(水) 京都MUSE
10/17(木) 和歌山SHELTER
10/19(土) 周南RISING HALL
10/20(日) 広島CAVE BE
10/26(土) 鹿児島CAPARVO HALL
11/01(金) Zepp Osaka Bayside
11/02(土) Zepp Osaka Bayside
11/08(金) Zepp Fukuoka
11/09(土) Zepp Fukuoka
11/15(金) Zepp Nagoya
11/16(土) Zepp Nagoya
11/20(水) Zepp Tokyo
11/21(木) Zepp Tokyo
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。