amazarashi 「昔を振り返る」全国ツアー「未来になれなかった全ての夜に」
amazarashi | 2019.07.19
amazarashiの全国ツアー「未来になれなかった全ての夜に」。東名阪で開催された追加公演を締め括る中野サンプラザホール公演が、7月10日に開催された。
ステージにはいつものようにメンバーの正面に紗幕がかかっているほか、背後にもスクリーンが設置され、紗幕と後ろのスクリーンに映像が流れることでそれがレイヤー構造のようになり、立体的に見せていたものも。また、ツアー本編と比較してセットリストの変更点は以下の通り。4曲目が「スターライト」から「もう一度」に、そして16曲目が「ライフイズビューティフル」から「千年幸福論」に。5~7曲目の曲順が若干変更されたほか、17曲目には秋田ひろむ(Vo/Gt)が菅田将暉に提供した「ロングホープ・フィリア」のセルフカバーが追加された。
途中のMCで今回のツアーについて「昔を振り返るツアー」と表現し、「昔言えなかったことを歌いたいと思います」と語っていた秋田。そのことを象徴するようにamazarashiとは何たるかを歌う曲、「後期衝動」からライブは幕を開けた。秋田のシルエットを映す紗幕の上ではしとしとと雨が降り、まさに雨曝しの状態になる。8ビートによる緊迫感から「リビングデッド」へ繋げると、バンド全員でジャーンと音を合わせ「ヒーロー」に突入。豊川真奈美(Key/Cho)の芯のある歌声によるコーラスが、魂のこもった秋田の歌声をさらに力強いものにさせる。この時点でまだ3曲目。ライブは序盤だがバンドサウンドの熱量は既に高く、「ありがとうございました!」と秋田が叫ぶと客席からは拍手が起きた。
そして「今日に至るまでいろいろな夜を越えてきたはずです。いろいろでは済まされない一つひとつを詳らかにするために歌いに来ました」(秋田)という言葉から「もう一度」へ。そのあとは「たられば」であり、《駄目な僕が 駄目な魂を/駄目なりに燃やして描く未来が 本当に駄目な訳ないよ》、《もしも僕がミュージシャンだったなら 言葉にならない言葉を紡ぐ》と秋田が歌う理由そのものが綴られている曲が並ぶ。また、「あの夜、紛れもなく僕はゼロでした。そういう夜の曲です」と紹介された「光、再考」、そして「若くして死んだ彼は僕にとって青春の象徴です。そしてあの日以来僕にとって青春とは安寧との闘争です。あの夜からずっと背後霊が見張ってます。あの夜からずっと……」という言葉から始まった、秋田がかつてのバンドメンバーに向けて書いた曲「ひろ」など、この日の演奏曲にはamazarashiというバンドの本質に迫る内容のものが多かった。
そんななか、(曲順が前後してしまうが)中盤で披露された最新シングル収録曲がセットリストの鍵を握っていた。ドラムパッドを使用するなど浮遊感あるサウンドに仕上げていた「さよならごっこ」。トラックの上にポエトリーリーディングと歌を重ねるという、ヒップホップに近い手法が取り入れられた「それを言葉という」。コーラス部とポエトリーリーディングを行き来するような構成をした「アイザック」――と、これら3曲は音像的にも構成的にもこれまでの曲とは異なる新鮮味があり、全19曲から成るセットリストにおけるスパイス的な役割を担っていた。また、叫びを上げる側ではなく受け止める側の視点から綴られた歌詞である、という共通点もある。《君は伝える事諦めてはだめだ それを届けて》というフレーズがある「それを言葉という」が特に顕著だ。
amazarashiの鳴らす音楽は、秋田の書く言葉は、私たちに安易で分かりやすい希望を投げかけるようなことはしない。「言葉にできない」に逃げることなく、自身と徹底的に向き合い、魂を削るように言葉を綴る。そうして生み出した曲を全身全霊で演奏する。そういう行為をただただ誠実に行うことにより、自身の生き様を曝け出し続けてきた人たちだ。
一方今回のツアーでは、その一歩先――自らの生を肯定するということを通じて、それでいいのだと聴き手をも肯定するというところにまで踏み込んでいたように思う。先述のように、最新シングル収録曲群が「叫びを受け止めてくれる人が存在するという事実」を描くものだったこと。この日のセットリストに、メジャーコードで比較的明るい響きをした曲が多かったこと。MCで繰り返し「新しく始めるために終わらせる」という話をしていたこと。ラストに披露された新曲のタイトルは「未来になれなかったあの夜に」なのにツアーのタイトルは「未来になれなかった全ての夜に」であったこと。それらの背景には、聴き手へ向けられた穏やかなやさしさがあったのではないだろうか。
秋田と豊川の二重奏に同期のストリングスが色を添え、やがてバンドが加わっていき……といつになく温かなアンサンブルで「ひろ」を届けると、「空洞空洞」のハードなサウンドからクライマックスへ。「空に歌えば」、「千年幸福論」のあとには秋田によるアコースティックギター弾き語りで「ロングホープ・フィリア」が演奏された。バンドサウンドとともに疾走し、少年漫画的な爽やかさと泥臭さを体現する菅田将暉バージョンとは異なり、秋田バージョンは、テンポや強弱の起伏で以って感情の揺らぎを表現。孤独に苛まされもがきながらも、どうにか希望の方へ手を伸ばす主人公の姿が浮かび上がる。
「独白」を経て、スクリーン上に流星が流れるなか、まだ音源化されていない新曲「未来になれなかったあの夜に」が最後に演奏された。印象的な言葉はたくさんあったが、《僕のことは忘れて 他に行きたい場所があるなら》というフレーズが特に記憶に残っている。このツアーが終わったらamazarashiは制作活動に入るそうだが、やはり彼らはここから新しい世界に踏み入れるつもりなのではないだろうか。
そう考えると、次の作品の到着が心から楽しみである。秋田が「amazarashiはあのツアーでひとまず、当初目標としていた表現に到達した」と称した昨年春のホールツアー、そして秋の日本武道館ワンマンまでがamazarashiの第一章だとしたら、第二章はもう既に始まっているのかもしれない。
【取材・文:蜂須賀ちなみ】
【All photo by Victor Nomoto】
リリース情報
amazarashi LIVE 朗読演奏実験空間 新言語秩序
2019年03月27日
ソニーミュージック
2.ワードプロセッサー
3.リビングデッド
4.空洞空洞
5.季節は次々死んでいく
6.新言語秩序1章「私は言葉を殺さなくてはならない」
7.自虐家のアリー
8.フィロソフィー
9.ナモナキヒト
10.命にふさわしい
11.新言語秩序2章「出会いと暴力」
12.ムカデ
13.月が綺麗
14.吐きそうだ
15.しらふ
16.新言語秩序3章「言葉を消した、という言葉は消えなかった」
17.僕が死のうと思ったのは
18.性善説
19.空っぽの空に潰される
20.カルマ
21.新言語秩序4章「デモ、そして独白」
22.独白
23.エンドロール
セットリスト
amazarashi Live Tour 2019
「未来になれなかった全ての夜に」
2019.7.10@中野サンプラザホール
- 01.後期衝動
- 02.リビングデッド
- 03.ヒーロー
- 04.もう一度
- 05.たられば
- 06.さよならごっこ
- 07.月曜日
- 08.それを言葉という
- 09.光、再考
- 10.アイザック
- 11.季節は次々死んでいく
- 12.命にふさわしい
- 13.ひろ
- 14.空洞空洞
- 15.空に歌えば
- 16.千年幸福論
- 17.ロングホープ・フィリア
- 18.独白
- 19.未来になれなかったあの夜に
お知らせ
SUMMER SONIC 2019
(Spotify on Stage in MIDNIGHT SONIC)
08/16(金) 幕張メッセ
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。