yonige 初の日本武道館公演『一本』
yonige | 2019.08.21
牛丸ありさ(Vo&G)とごっきん(B)による2人組バンド、yonige。このところ、フェスやイベントでの活躍はもちろん、地道なライブ活動でグイグイとリスナーを増やしてきた感があるが、今年1月、心斎橋BRONZEでのワンマンで8月13日、日本武道館で単独ライブを行うと発表。ファンのみならず、音楽シーンをざわつかせた。しかもライブタイトルがズバリ「一本」。武道の聖地である武道館を絡めたようにも、純粋な“一本”のライブ……という潔さにも思えてくる。果たして、どんな光景が広がるのだろうか――。
まず、会場最寄り駅について飛び込んできたのは、グッズのタオルを羽織り、yonigeのTシャツを着こんだ大勢のファンの姿。若い層だけでなく、幅広い年齢層の人々が日本武道館に吸い込まれていく。場内に入ると、2階席最後列まで埋め尽くされており、バンドの勢いを改めて見せつけられた。
19時の開演時間ピッタリに照明が暗転。総立ちのオーディエンスが待ち構える中、牛丸ありさ、ごっきん、そしてサポートメンバーの堀江祐乃介(Dr)、土器大洋(G)がステージに現れる。その雰囲気はライブハウス同様、ラフでさりげなく感じられた。だが、一曲目の「リボルバー」でガツンと曲に入ると、広い会場にシンプルなR&Rサウンドがズシリと響いていく。
ちょっと緊張している様子(だが、それもいつも通りと言えばいつも通り)の牛丸と、豪快に体を揺らせてグルーヴを作り出すごっきんは、案外平常心に見えた。だが、やはり空気をなごませたのは、最初の牛丸によるMCだったかもしれない。「yonigeです。武道館へようこそ」と、いつものように、はにかんだような小声で挨拶。そして、そのテンションから、独特の歌詞と疾走感のある「顔で虫が死ぬ」へ。ストレートで骨のあるロックサウンドと、繊細で透明感のある牛丸のボーカルのマッチングこそ、yonigeの持ち味だ。武道館でも、その味を振りまきながらライブが進行していく。
だが、「2月の水槽」では、ステージを白いカーテンで覆い、そこに水面のような映像を投影しながら、バンドが大きな水槽の中で演奏しているかのような幻想的な演出で魅了。広い空間を活かしたチャレンジには、観客も圧倒されたように聴き入っていた。彼女たちも、完璧にこのスケール感をモノにしていたように思う。
このあと、「バッドエンド週末」で再び軽快に展開し、曲が終わると今度はごっきんが口を開いた。「武道館にお越しいただき、ありがとうございます!」そして、今年の5月からサポートギターの土器が参加していることにも触れたが、厚くなったバンドアンサンブルにかなりの手応えを感じているようだ。「今、めちゃめちゃバンドが楽しいです!」と、ごっきん。続けてバンドの代表曲でもある「アボカド」がプレイされると思いきや、ドラムの椅子が壊れるというまさかのハプニングが! しかし、そんなアクシデントにも、盛り上げ上手のごっきんが「地方から来たお客さん、いますか?」と、観客と触れ合いながら想定外のMCで場をなごませる。このやりとりで、各地から駆け付けたファンが多数いたことが判明し、バンドの人気が全国区であることが実証された。ほどなく椅子問題も解決し、何事もなかったように「アボカド」へ。ファンには長く親しまれている楽曲だけに、観客の反応も熱い。ステージ上の牛丸とごっきんは、そんなファンからの熱をジワジワと受け止めつつも、淡々と曲を続ける。がむしゃらなのかクールなのか、ひたすらロックミュージックを叩き出すyonigeのグルーヴはとにかく気持ちがいい。
中盤のMCでは牛丸が「先日、新しい曲を配信でリリースしたんですけど、ジャケ写が気持ち悪いと言われていて……いい曲なんで聴いてください(苦笑)」と、自虐気味に新曲「往生際」を紹介(ちなみに、ジャケット写真は象の頭……らしい)。
続いて披露した「往生際」は、ゆったりしたサウンドの中にリアルな現実がつづられている。歌詞には切なさや弱さ、強さも混在し、聴き手に刺さってくるのが印象的だ。
こうしてライブのボルテージが上がったところで、牛丸が「沙希」の出だしでギターを間違えるというハプニングも……。一瞬、緊張感がゆるんだものの、牛丸は落ち着いて出だしをやり直す。しっとり聴かせる楽曲は、ミラーボールの演出によって、武道館はドリーミーな空間に包まれた。
「サイケデリックイエスタデイ」からはアコギを駆使し、演奏に深みを持たせる。特に「しがないふたり」では、曲間の間合いが絶妙。度胸のある側面が感じられた。
本編の大詰めは「さよならアイデンティティー」。リアリティーのある喪失感を歌っているところに共感を覚えるリスナーは多い。そして、ラストナンバーは「春の嵐」。曲の後半では紙吹雪が噴出され、真夏に桜が舞うという、印象的な景色を生み出した。少ないMCで本編の全20曲が完走したが、どれも密度が濃く、充実の内容だった。この日、yonigeのライブが初体験だったというファンも多かったようだが、間違いなくまた観たいと感じたはずだ。
ライブはそのままアンコールへ。声援に応えてステージに戻ってきたメンバーは、さりげなくスタンバイ。「さよならプリズナー」でアンコールをスタートさせた。場内の照明が明るくなり、ビッシリ埋まった客席が照らし出される。ステージからも素晴らしい景色が見えたに違いない。曲終わりのMCではごっきんが「マジでソールドアウトしてます。ありがとう!」と感謝の言葉を述べた。また、9月から武道館が改修工事に入ることを受け、「改修工事前のバンドの公演は、ウチらが最後らしいです」と、初武道館が改修前最後のバンド公演にあたったという偶然を告白。場内からは拍手が起こり、いろんな意味で“持っているバンドだな”と再確認することができた。
大ラスは「さよならバイバイ」。“さよなら”しばりで締めくくるあたりもyonigeらしいこだわりである。
終演後には「往生際」のMVが公開されたが、これまた独特の世界観で、熱いライブのあとに不思議な感覚を呼び起こした。ショートドラマ仕立ての映像は、メンバーも町工場の従業員として出演しているという内容。これはオフィシャルサイトでも公開されているので、ぜひご覧いただきたい。
そして、今後についても9月13日に配信限定シングル「みたいなこと」のリリースがあったりと、話題がつきないyonige(ちなみに「みたいなこと」は、映画『おいしい家族』(9月20日全国公開)の主題歌として書き下ろされた楽曲)。武道館での“一本”によって、今後は大きな会場やライブハウスを自由に行き来する逞しさを身につけたのは間違いない。これからも、今まで以上に多くの人の心に響くロックミュージックを届けてくれそうだ。
【取材・文:海江敦士】
【撮影:太田好治、立脇卓】
セットリスト
yonige 日本武道館「一本」
2019.8.13@日本武道館
- 01.リボルバー
- 02.our time city
- 03.最終回
- 04.顔で虫が死ぬ
- 05.2月の水槽
- 06.バッドエンド週末
- 07.アボカド
- 08.センチメンタルシスター
- 09.悲しみはいつもの中
- 10.ワンルーム
- 11.往生際(新曲)
- 12.どうでもよくなる
- 13.沙希
- 14.サイケデリックイエスタデイ
- 15.ベランダ
- 16.しがないふたり
- 17.最愛の恋人たち
- 18.トラック
- 19.さよならアイデンティティー
- 20.春の嵐
- 01.さよならプリズナー
- 02.さよならバイバイ
お知らせ
WILD BUNCH FEST.2019
08/25(日) 山口きらら博記念公園
NEW DIRECTION 2019
10/17(火) 名古屋CLUB QUATTRO
w)くるり
REDLINE ALL THE BEST 2019
~10th Anniversary~
12/01(日) 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
w)クリープハイプ/My Hair is Bad/ハルカミライ/SHANK/SiM/KOTORI/FOMARE and more
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。