YAKUSHIMA TREASURE (水曜日のカンパネラ x オオルタイチ) LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY とうとうたらりたらりら
YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラxオオルタイチ) | 2019.08.29
「水曜日のカンパネラと屋久島のコラボレーションを試みる作品」として、今年の4月にYouTube Originalsで発表された『Re:SET』。そこから生まれた6曲が収録されたのが、EP『YAKUSHIMA TREASURE』であった。水曜日のカンパネラとオオルタイチが屋久島と向き合い、自然が発する様々な音、島民の声などを織り込んで作り上げた音楽は、新鮮な世界を我々に届けてくれたが、果たしてライブではどのような形で表現されるのか?期待に胸を膨らませつつ会場内に入ると、普段の恵比寿リキッドルームとは、全く異なる風景が視界に飛び込んできた。フロアの真ん中に円形のステージ。その周りの360°を観客が囲んでいて、通常のライブではステージであるスペースも客席。円形ステージの上に緑の葉が茂る枝を編んで作った天蓋があるのも目を引く。「ここは本当にリキッドルームなんだろうか?これから一体何が始まろうとしているんだろう?」という、狐につままれたような感覚混じりのワクワクを観客が抱いているのを感じた。
フロアを埋め尽くしている観客の間を縫って、ステージへと歩いて向かったコムアイとオオルタイチ。和紙で作られている衣装を身に纏ったふたりの姿は、異世界の住民のようなミステリアスな雰囲気を放っていた。会場内が暗くなり、最初に届けられたのは、ウポポ(アイヌの伝承歌謡)「オロロピンネ」。祈りの言葉のように響き渡った歌声が、観客を厳かなムードで包み込んでいく。このようなオープニングを経て、EP『YAKUSHIMA TREASURE』に収録されていた5曲が披露された。「地下の祭儀」「島巡り」「殯舟」「東」「屋久の日月節」……それぞれの曲が有機的に連なり合い、大きな世界をじっくりと作り上げていったひと時であった。
EPの5曲が披露された後に突入した長尺のインプロヴィゼーションは、生々しいエネルギーを我々に体感させてくれた。コムアイとオオルタイチが、エモーショナルに音と声を交し合っていた空間に、土の入っている袋を担いで突然現れたのは、花道家の上野雄次。袋を開けて、中身をステージのど真ん中に次々と堆積させていく姿は、片時も目を離すことができなかった。コムアイとオオルタイチの間にぶちまけられた黒色の土は、少しずつ高さを増していき、やがて現れた大きな山……この非日常の光景は、人智の及ばない自然現象のような絶大な何かで観客を深く飲み込んでいた。
その後も、我々を待ち構えていたのは、ドラマチックな場面の連続であった。アカペラで届けられたのは、オオルタイチが手掛けた水曜日のカンパネラの曲「愛しいものたちへ」。続いて、観客の手拍子を自ずと誘った「宮之浦の子守唄」。そして、水滴の落ちる音がいつしか雨音と化して、「ユタ」がスタート。この曲は水曜日のカンパネラのライブでも神秘的なムードを醸し出しているが、このライブで示した存在感も大きかった。声を自由に響かせるコムアイの姿は、まるで儀式を執り行うシャーマンのよう。スリリングな展開へと突入したところで、再び現れた上野雄次は、大きな袋の口を開けて、苔のように見える緑色の何かをステージに撒き散らし始めた。徐々に色鮮やかな姿へと変化していった土の山――この曲で繰り広げられたパフォーマンスを目の当たりにしながら、ふと思い出したのは、先述の『Re:SET』の中でも触れられている、大昔の災害のことだった。約7千年前、薩摩硫黄島からの火砕流に飲み込まれたことにより、屋久島は焼き尽くされてしまったのだという。しかし、その後に少しずつ生命が甦り、現在のような豊かな自然が広がる場所となっていった。「屋久の日月節」の後に続いたインプロヴィゼーション、「ユタ」へと至るまでの起伏に富んだ展開は、屋久島の誕生、大災害、再生のストーリーを表現していたのではないだろうか?そんな解釈を思い浮かべながら受け止めた音は、たくさんの天変地異を経ながらも生命が芽吹き続けた地球への讃歌のように感じられた。
力強いビートが鳴り響いた「パンニャ」と、インプロヴィゼーションによるパフォーマンスの後、明るいライトで包まれた会場内。夢から覚めたようなムードとなったところで、コムアイは、このライブを共に作り上げたスタッフたちを観客に紹介した。音響を担当したサウンドエンジニアの葛西敏彦。サラウンドの音響システムで、臨場感に溢れた空間を生み出した久保二朗(ACOUSTIC FIELD INC.)。照明を担当した高田政義。その他、舞台監督や撮影スタッフも紹介したコムアイは、信頼している人々と作り上げたものを、観客に届けることができた喜びに溢れていた。YAKUSHIMA TREASUREは、今後、様々なイベントに出演するが、そこでも唯一無二の表現で人々の心を揺さぶるに違いない。
【取材・文:田中 大】
【撮影:Saki Yagi】
リリース情報
デジタルEP「YAKUSHIMA TREASURE」
2019年04月03日
WM Japan
02.島巡り
03.殯舟
04.東
05.海に消えたあなた
06.屋久の日月節