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Sou 「一生音楽をやっていきます」――21歳の誕生日を迎えた 2019 Summer Tour「深層から見た景色」

Sou | 2019.08.30

 この先いくつものチャンスがあるなかで、「音楽」という向き合えるものをすでに見つけているSou。音楽と共に走り続けていくことを選んだ、あの日のSouの表情は誇らしく、Souの音楽性がまだまだ洗練されていくことを示唆していたように思う。今年の5月12日に東京・マイナビBLITZ赤坂で開催した初のワンマンライブ「Salir」の大成功、7月31日にリリースした、1stアルバム『水奏レグルス』から3年8ヶ月ぶりとなる2ndアルバム『深層から』が、オリコンの週間アルバムランキング(8月12日付)で、自己最高となる6位を記録……と、確かにSouは軌道に乗っている。

 自身の誕生日である8月19日に開催したのは、『深層から』に伴った東名阪ツアー「深層から見た景色」のファイナル公演。Souが、「すげー……本当、横に長いね」と口にしたように、自身最大規模となる東京・品川ステラボールは広く、終始、観客のペンライトの蒼色が輝きを放っていた。

 会場が青一色に染まり、流れ出すのは、気泡が弾ける音や雫が落ちる音に加え、エレクトロニカなSE。そんな海中を彷彿とさせるステージへSouが現れると、イントロが鳴り、感嘆の声が上がった。「行くぞー、東京!!」と躍動的にスタートを切った「愚者のパレード」は、今年の3月29日に動画サイトに公開し、すでにYouTubeでは188万回再生(8月23日現在)を突破している初のオリジナル楽曲。〈ねえ誰か救ってよ〉と体内の深層まで感情を行き渡らせるようにして叫んだ歌声が、本来の自分と理想の自分とのせめぎ合いのなかで生まれたエモーショナルな心情を浮き彫りにする。続いた「トーキョーゲットー」「ハングリーニコル」では、Sou/観客の声が寄せては返すリズミカルな波を作り、一体感を高めていく。

 『深層から』には、自身が作詞作曲した「愚者のパレード」「ノイド」、書下ろし楽曲のほか、ボカロ曲のカバーを収録していることや、オリジナル曲の制作に着手し始めた今でも、動画サイトには定期的にボカロ曲のカバーを投稿し続けていることからも一目瞭然であるように、Souはボカロ曲に対する想いが人一倍強い。このことは、ひとつの美点ではないだろうか。

 洒脱な曲調の「flos」、ミディアムバラード「いかないで」から、この界隈で和テイストの曲を作るのは彼(羽生まゐご)しかいないと告げると、「ハレハレヤ」「鯰」へ。ステージ上の2ヵ所にシンメトリーに投影される愁いを帯びた歌詞と歌声が、雨のように降る。



 「中学生の終わり頃から活動し始めて、6年は経つんですけど、時間が経つのがあっという間で、よくこんな続いたなと思って」

 そう振り返る一幕もあったが、音楽活動を長きに亘って続けることができたのは、周りの支えがあったからこそのことだろう。まふまふ主催の「ひきフェス」で共演したまふまふや、そらる、天月-あまつき-、Eveなど、同世代で活躍しているアーティストのなかでも、Souは最年少。5月の「Salir」が初のワンマンライブであるものの、以前にも複数の歌い手が出演するライブに共演したり、盟友・Eveとのツーマンライブ「蒼」を開催したりと、ライブの経験を重ね、決してひとりではない環境に身を置いていた。それらの延長線上に、いまがある。

 後半戦に差し掛かると、「早いよね、早いといえばさ……僕、今日誕生日でしたー!」「やばくないですか、21歳」「活動も今日のライブも一瞬だし、人生結構早くね?って焦り始めております。報告です!」とお茶目な切り出しで自身の誕生日を告知。

 ギターの音を前面に押し出しステージを彩った「Q」、大いに盛り上がりを見せた「アイラ」、Souにスポットライトが当たった「シンソウ」。とりわけ、楽曲とSouが混然一体となったのは、幻想的な空間を生み出すことを可能にした、Eveが書き下ろしたトラップ系の「グレイの海」。信頼しているからこそお任せしたという同曲は、期待を超えたものだったそう。そのことは紛れもなく、ステージにおける伸びやかな歌声と縦横自在な佇まいに表われていた。関係性は曲にも色濃く反映している。

 「僕はちょっとずつこれを辞めたいなと思っているけど……」と言いつつも、観客の辞めないでとの声援を受けて、「Souだけに?」「爽快!」のコール&レスポンスを3回繰り返す。馴染み深い光景には、まとまりを作る以上の安心感があった。

 「これだけ長い間音楽をやれば、いろいろと変わっていってしまったこともあるけど、音楽が好きっていう一点だけは変わらず、続けられたなって思ったんで、これからもどんな形であれ一生音楽をやっていきます。ぜひ見届けてください!」

 丁寧に言葉を選んでから、一層のダイナミズムを描き出したのは、多くの人に認知を広げることとなった「心做し」。2015年に届けた楽曲を、いま披露すれば、歌い方も曲に対する心象も変化しているところはあるだろう。そのなかで、変わらない唯一の証は、Souの言う、音楽が好きという気持ちと同じこの曲が好きな気持ち。美しいピアノの音色の調べを途切れさせることなく、続編として書き下ろされた「証として」も、心を込めて歌いきった。他の人の曲が自身のターニングポイントとなったことへの深謝があるから、カバーを続けている、楽曲の主人公の情緒を読み取って、一心に歌う姿を見て、そう思った。



 アンコールに持ってきたのは、「ロケットサイダー」「サマータイムレコード」に続いて、今年の7月15日に公開した「ノイド」だった。



 可愛いもかっこいいも見せられるのは、ひとりではないのは、たくさんのボカロ曲を愛おしみ、歌ってきたことにある。写真撮影に入ると、誕生日を祝うBGMが流れ、ケーキが運ばれてくるというサプライズもあったこの日。食べていいよという観客の声に応え、ブルーベリーを食べると、“可愛い!”の一言が上がった。

 『深層から』のジャケットのアートワークには、海の深層から水面を見上げるSouの姿が描かれている。多くの支えがあるなかでSouが浮上する日は、もう近い。

【取材・文:小町碧音】
【撮影:清水基揮(Styler86)】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Sou

リリース情報

深層から

深層から

2019年07月31日

ユニバーサルミュージック

01.愚者のパレード(オリジナル曲)
02.トーキョーゲットー
03.ハングリーニコル
04.鯰(羽生まゐご 提供曲)
05.flos
06.ノイド(オリジナル曲)
07.シンソウ(有形ランペイジ(Sasakure.UK)提供曲)
08.波に名前があること、僕らの呼吸に終わりがあること。
09.エリカ
10.グレイの海(Eve 提供曲)
11.Q
12.心做し
13.証として(蝶々P 提供曲)

セットリスト

2019 Summer Tour
「深層から見た景色」
2019.8.19@品川ステラボール

  1. 01.愚者のパレード
  2. 02.トーキョーゲットー
  3. 03.ハングリーニコル
  4. 04.もう生きているだけで褒めて頂戴
  5. 05.エリカ
  6. 06.波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
  7. 07.flos
  8. 08.いかないで
  9. 09.ハレハレヤ
  10. 10.鯰
  11. 11.Q
  12. 12.アイラ
  13. 13.シンソウ
  14. 14.グレイの海
  15. 15.心做し
  16. 16.証として
【ENCORE】
  1. 01.ロケットサイダー
  2. 02.サマータイムレコード
  3. 03.ノイド

お知らせ

■ライブ情報

Sou [深層から見た景色] 追加公演
10/13(日) 東京・Zepp DiverCity

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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