湯木慧 バンドセットで行われた、ワンマンライブ『繋がりの心実』
湯木慧 | 2019.09.06
2ndシングル「一匹狼」をリリースした湯木慧が、8月24日、東京・キネマ倶楽部でワンマンライブ「繋がりの心実」を開催した。
自身の誕生日であり、記念すべきメジャーデビューの日である6月5日に、彼女にとっての原点でもある四谷天窓で行なったワンマンライブ「誕生~始まりの心実~」の際には心臓の音がSEとして流れていたが、この日会場に足を踏み入れて聴こえてきたのはひぐらしの鳴き声だった。夏休みを過ごした懐かしい田舎の景色、そして最近では湯木慧の創作に――もっと言うならば、彼女が彼女らしく生きていくために必要な場所として何度も話題に上がってきた、大分県・阿蘇野の風景などがゆっくりと脳内に広がっていく。ステージに目を向けると、たくさんの機材の間に大小10体のトルソーが点在。物言わぬ登場人物達が、静かに開幕の時を待っていた。
森の空に響く遠くのサイレンやカラスの鳴き声が止んだ次の瞬間、そびえ立つ塔のようにも見える真っ白いステージの中に湯木慧の姿があった。1曲めは「一匹狼」。MVでも着用していた真っ黒の大きなフードを目深に被り、表情や感情を読み取られることを拒否するかのように歌い出した。中盤になるとオーディエンスの方へと進み出て、強い意志を湛える瞳で真っ直ぐ前を見つめながら歌っている。楽曲の世界観がしっかりと伝わるように演出された、印象的なオープニングだ。即興性の濃いパーカッションが導いた「人間様」、短いMCを挟んで披露された「アルストロメリア」、「万華鏡」と続いた前半戦は、人間、または自分というものをどこか俯瞰するような視点を持った楽曲が並ぶ。音源とは全く違う呼吸感と生々しさを全面に押し出したアレンジが、彼女の楽曲が持つ底力と、バンドメンバー同士の信頼を伝えていたようにも思う。
「丁寧に聴いてくれてありがとう!」
心地よい緊張感から解放されたような笑顔で、改めてオーディエンスに向き合う湯木。「せっかくこれだけの人が集まっているのだから、みんなで一緒に歌を歌いたいなと思って」と、彼女のライブではお馴染み「魔法の言葉」のコール&レスポンスをおさらいしようと提案したのだが、念のため「今日、初めてライブに来た人―?」と問いかけると結構な数の手が上がり、「今まで何してたんだよ(笑)!!」と思いがけない湯木の返しに客席は大爆笑。リラックスしたムードでコミュニケーションを取りながら、「タラリラ~」と声を合わせていく。”オジさん”も(笑)、女の子も、関係者もみんな大きな声で歌って楽しそう。だけどたぶん一番楽しんでいたのは、本番でマイクを向けられたバンドメンバー達だろう。湯木が思わず「茶番が過ぎるぜ(笑)!」と漏らすほどのユニークなレスポンスが最高で、ここでもまた会場は爆笑の渦に包まれていた。
ムードは一転し、SEとして聴こえてきたのは街の音。誰もいなくなったステージでは、トルソーがぼんやりと色彩を浮かび上がらせている。この日のために湯木自身が手がけたその”体”は、よく見るとおへその部分から透明なチューブが伸びていて、一体一体が繋がっている。前回の取材の際も、そしてこの日のMCでも語られていたが、「1人では絶対に生まれてくることはできないのに、へその緒が切れた瞬間みんな”個”になる」という持論から生まれた、湯木らしい発想のステージ装飾だ。へその緒が切られないままだとしたら、人間はこんな風にみんな繋がっている。だけど、たとえ切られてしまったとしても、目には見えなくても、思いとしては繋がり続けているのではないか。誰かを傷つけたら自分の心が痛むのは、きっとそういうことだ。
「それが繋がりの心実だとするならば、私は目の前にいる人のことを心から愛して、大事にして、支え合いたい。そうすれば自分も大切にしてもらえるし、守ってもらえると思っている。大事にしたら、大事にされると思っている。今日は、ここにいる全ての人を愛したいなという思いを込めて歌いました」(本編最後のMCより)
この日繋がったトルソーについて具体的に説明される場面はなかったが、そんな風に思いを伝えていた湯木。順序は逆になってしまうが、中盤の弾き語りコーナーにて――白いステージの中で歌われた「記憶」、全ての照明を落とし、目からの情報をシャットアウトして歌われた「74億の世界」、小さなランプに明かりが灯った「追憶」の3曲にはより強く、その繋がる想いというものが込められていたように思う。(ちなみに、その弾き語りで座っていた木の椅子は、バンドメンバーと一緒に手作りしたものなのだと終演後に教えてくれた。弾き語りの時間も、彼女の歌はメンバーの愛に支えられていたのだ)
ひとりひとりのキャラクターを掘り下げながらバンドメンバーを紹介し、ライブはいよいよ後半へ。「極彩」、「金魚」、そしてこれはアンコールの楽曲にも通じることだが、それぞれのプレイヤーが”エモーショナル”なんて言葉では括り切れないほどの熱を持って楽曲にぶつかっていたのが印象的だった。繊細かつ大胆に、踏み込めば踏み込むほど、湯木の歌はその輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。以前このメンバーで行ったワンマンライブ「水中花」の時とは明らかに違うエネルギーとアンサンブルが、この日のライブを引っ張っていた。
「一番命の力が強い歌声は、産声だと思っています。みんな、その声を持って産まれました。みんな、強い。どこまで行っても、どうしようもなく1人なんだけど、絶対にひとりぼっちじゃない。今日は来てくれてありがとうございました」
そんな風に愛と感謝の言葉を添え、本編最後に歌われたのは「産声」。アウトロでバンドメンバーが1人、また1人とステージを後にし、最後はアコギを弾く湯木だけがライトの中にいた。美しいエンディングの余韻はそのままアンコールを求めるみんなの手拍子へと繋がり、まずは「バースデイ」を情感豊かに、そして「網状脈」はバンド感たっぷりなサウンドで届けられた。
「バンドセットもあったけど、これまでのライブはほぼ弾き語り。いろんなことを1人でやっていたし、不安や責任や恐怖も1人で背負いこんでいたから、苦しくてライブが苦手だった。でもこの4人に出会って、楽しいなと思えるようになった。バンドというものを理解させてくれたメンバーに、ありがとうを言いたいです」
愛すべきバンドメンバーがいて、ライブを作り上げるために動いてくれるたくさんのスタッフがいて、迷いそうになった時は道しるべとなって照らしてくれるリスナーのみんながいる。本番前のリハーサル中、そんな出会いの尊さを噛み締めていたら思わず泣けてきたというエピソードを交えながら、彼女は何度も感謝の言葉を口にしていた。そうして迎えたアンコール最後の曲はもちろん、ありったけの想いが込められた「一期一会」だ。またひとつ、みんなで大切な時を刻んだこの夏の一夜が次はどんな景色へと繋がっていくのか、これからも彼女の声に耳を澄ませながら追いかけていこうと思う。
【取材・文:山田邦子】
【撮影:小嶋文子】
ワンマンライブ『繋がりの心実』セットリストのプレイリストを公開!
2019年8月18日に大阪 Shangri-La、24日に東京キネマ倶楽部で開催された東阪ワンマンライブのセットリストをほぼ再現したプレイリストを本日から公開!!
湯木慧ワンマンライブ『繋がりの心実』セットリスト
https://jvcmusic.lnk.to/yukiakira_20190824
リリース情報
一匹狼
2019年08月07日
ビクターエンタテインメント
2. 一匹狼
3. 金魚
セットリスト
東阪ワンマンライブ『繋がりの心実』東京
2019.8.24@東京・キネマ倶楽部
- 1. 一匹狼
- 2. 人間様
- 3. アルストロメリア
- 4. 万華鏡
- 5. 魔法の言葉
- 6. 記憶
- 7. 74億の世界
- 8. 追憶
- 9. 極彩
- 10. 金魚
- 11. 産声
- EN1. バースデイ
- EN2. 網状脈
- EN3. 一期一会