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芸の島の城を芸で再生『首里の唄会』

かりゆし58 | 2019.11.22

 10月31日未明。首里城にて火災が発生し、正殿と北殿、南殿が全焼した。一部が世界遺産にも登録されており、沖縄のシンボルの一つであり観光のメインスポットでもある首里城の今回の火災は、多くの人を悲しませ、胸を痛ませた。そんな中、首里城を想い多くの人が再建に向け行動を起こした。沖縄出身の「かりゆし58」のボーカル前川真悟もその一人であった。
馴染みでバンドにも所縁深いmusic Art & Okinawa「CanColor cafe」の店長からの「自分たちにも何か支援できないか?」との相談。それに彼らは即時に動き、急遽再建復興支援の義援金を募るライブを開催した。それは火災から7日目という大変クイックリーな行動であった。

『首里の唄会』と題された同イベントの出演者は、前川のTwitterでのつぶやきに各位自主的に賛同し参加。けっして働きかけや促しなどなく、同じく「自分たちも何かできないか?」と立ち上がった者たちであった。
この日は、かりゆし58を始め、いーどぅし、クリステル・チアリ、オモイトランス、世持桜姉弟、ポカ・ユイチン(ポニーテールリボンズ)が各々の想いを胸にここに集った。
前川はこの動きを、首里城付近に住んでいる琉球沖縄郷土芸能を深く長く継承している方に相談。しかしその返答は、「寄付金額がすごいスピードでどんどん増えていくのは本当に嬉しい。だけど同時に、自然災害で今も助けを求めている町の人たちを思うととても心が苦しい。自分が首里城だったら、自分達よりもっと大変な町の人達に義援金を届けてくれと言う」というものであった。まだまだ支援は必要なはずながら、それよりも他の災害地域を思いやる。いかにも沖縄の方らしい心遣いだ。それを受け前川は「ライブは入場無料の投げ銭形式。募金やこの日のお店での飲食の利益を現在災害等で困っている地域への義援金として支援していく」旨へと移行していった。

 開会宣言は前川が行った。「今日はここが沖縄の迎賓館です。沖縄の人たちは、ずっとおもてなしの精神で応えてきた。ここでみなさんをおもてなしいたします。今宵は通夜ではなく決起集会。復興のための宴です」と力強く宣言する。

 トップバッターは、いーどぅしが飾った。沖縄語で“いい友達”という名の、三線とアコギの女性二人組だ。昨年まで沖縄の首里城近くの音楽大学で古典音楽を学び、「沖縄の古典音楽を広めたい」という大志を胸に上京してきた彼女たち。そこで学んだ本格的な民謡も披露し、BEGINのメンバーと共作の、沖縄の空と海のブルーな光景と平和がいつまでも続くようにと歌われた「オキナワンブルー」、18歳の時に親友に向けて作った、沖縄を離れ都会へ出た友達への温かい手紙のような「エール」等が会場と首里城復興へのエールとして贈られた。

 この宴は沖縄出身者だけではなく、「何か、力になりたい」という想いを持つアーティストも集った。神戸出身のクリステル・チアリもその一人。「歌を通じて元気になって欲しい」と出演を希望した。
あえてみんなと一緒に歌える、賑やかな<おかあさんといっしょ>の歌と「にじのむこうに」。元気を出せ、涙を拭け、明日は晴れると信じさせてくれた「あしたははれる」。遠く離れてしまった友達に“また会える”と心の手紙に残した「また会える」等が歌われ、多くの人を笑顔にしていった。

 首里の城下町より元気いっぱいで出てきたオモイトランスは、当初はりーこ単独の出演予定であったが、急遽他のメンバーも沖縄から駆けつけ、この日はアコギにエレキベース、カホンにてライブが行われた。
「沖縄在住ながら、トラディショナルなことは何もできないから」と、皆を元気にすべく歌が歌われた。力強く背中を押してくれた「ずっと。」、令和へも愛おしい気持ちをしっかりと忘れずに持っていかなくちゃと思わせてくれた「Nichijo」が会場に活力を与えてくれた。

 この日は二部制。第一部は三線とアコギの石垣島出身の姉弟、世持桜と弟の世持連が締めた。哀しさを有し、張りのある民謡調の歌声も印象的な「赤土の畑」。八重山古典民謡を経て、姉弟で共作した、いつか誇りを持って故郷へ帰れ、みんなが笑顔になれるように――との想いを込めて「その日まで」が歌われた。最後は、いつまでも私は歌を歌っていくという想いと意志を込めた「三線の音」が会場の活力を誘った。

 二部は、かりゆし58から始まった。ドラムの中村洋貴とサポートドラムの柳原和也を交え、エレキギター、5弦ベース、カホンにパーカッションといった特別な5人編成で挑んだ、この日。1曲目は「手と手」が飾った。レゲエ調で温かいアレンジも印象的だった同曲が「さぁ、心を一つにしよう」と誘った。メローでウォームなギターソロや掛け合いもいつもより断然長く、会場を楽しそうに左右に揺らせていく。「首里城は王宮ではなく子宮なんだ」と入った、母への感謝の手紙のような人気曲「アンマー」。同じくレゲエ調ながらこちらはなおさら心地良く、感動と暖かさで会場を包んでいった。全体的にいつもよりもアットホームに響き、アウトロも余韻が残りエモかった。
前川がアコギを手に、誰かにとっての故郷を思い返すような温かい気持ちにさせてくれた「ユクイウタ」。今では沖縄を離れてしまった友への手紙のような、距離は離れていても心は常に傍にいるような気持ちにさせてくれた「オワリはじまり」が、「かけがえのない時を刻み込んだかい?」と慈しみの問いと「元気を広げていい城を建てましょう」とのメッセージ、明日への活力をしっかりと与えてくれた。

 ここからは、「笑って明日を迎えられるように」とエンターテインメント豊かに無礼講で進められた。「俺が一番笑わす。ここからは面白さとちょっと不謹慎を」とポカ・ユイチンがステージに登場した。80年代アイドルのような出で立ちで、バックトラックと共に笑いと踊りを披露。場内を朗らかにしてくれた。

 締めは、店長のこの会への想いが満場に告げられた。幼い頃から身近にあり、常に見守ってくれていた存在でもあった首里城が、今回このようなことになり、それを沖縄の母に「寂しいな、悔しいな…」と連絡をした。ところが母は「首里城は強いから大丈夫。いつだって、どうしたっても直せる。それよりも内地(本土)では、今もっと困っている人たちがいる。その人たちに声をかけてあげるべき」との回答だったと語る。「でも、やはり首里城の為に何かしたく、先輩でもある真悟さんに相談したのが始まりでした。そして真悟さんは「分かった、ゆうき(店長)すぐやろう!」と、この日に繋がりました。今日の気持ちや他者を思いやる気持ちが、今後日本を良くしていくと自分は思う。本当にこの会を開催して良かったです」と会を締めた。
そして自身もエレキギター、アコギ、ハーモニカをバックにBEGINの「防波堤で見た景色」をブルージーかつソウルフルに歌い、この会の幕を閉……いや、この後も宴は続き、出演者たちが入り乱れてのセッションタイムへと流れ、沖縄らしいエンドレスな歌によるおもてなしがこの後も続いていった。

 この日のライブの模様は、当日Rakuten LIVE、YouTubeかりゆし58チャンネルにて生配信され、クレジット課金による投げ銭も受け付けられた。またこの後の募金の方法や寄付先等は別途案内される予定だ。

 正直もっと哀しみを帯び、慈しみがある会を予想していた。しかし実際は逆に「明日も頑張ろう」との活力を多分に与えてもらった自分が居た。哀しいことがあっても、胸に哀しみを秘めながら元気に明るく生きていく。戦後沖縄はそうやって逞しく育まれていった。そして他者に対しての優しさや思いやり、それら沖縄の真心みたいなものを直に感じ取れたイベントでもあった。
これから首里城はまた再建に向かう。過去何度も火災に遭い、その度に数十年をかけて再建、復興してきた首里城。今回も再建には長い期間を要するようだ。例え何十年経とうがまた城は再建され、そこを中心にまた人も気持ちも集まっていく。まだ今は焼け野原だが、その後に建つであろう、また一段と逞しく美しい姿の首里城。それを思い浮かべ私も最後は楽しく逞しく、生命力たっぷりのその歌たちを一緒に歌っていた。

【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:Photography樹】

tag一覧 かりゆし58 ライブ 男性ボーカル

リリース情報

[配信限定]シャララ ティアラ

[配信限定]シャララ ティアラ

2019年10月09日

LD&K

01.シャララ ティアラ
02.Go!MangoMan

セットリスト

-首里の唄会-
2019.11.8@Can Color cafe

  1. 1.手と手
  2. 2.アンマー
  3. 3.ユクイウタ
  4. 4.オワリはじまり

お知らせ

■ライブ情報

元祖大四畳半酒場ポン20周年秋の宴"BACK TO THE 1999"
11/23(土)京都 KBSホール

エアトリ presents 毎日がクリスマス 2019〜かりゆし58×Bentham〜
12/14(土) 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

オリオンビール presents 令和初CountDown Live in OKINAWA
12/31(火)沖縄コンベンションセンター 展示場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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