前へ

次へ

sumikaが架けた橋――一方通行じゃなく相互通行で直接伝えてくれた「sumika Live Tour 2019 -Wonder Bridge-」

sumika | 2019.11.18

 熱量や圧、香りや硬軟の感触等々……。テキストや写真、映像といった表層を映し出す類いでは未だ伝わりづらい「そこに込められたもの」が存在する。いかにVRやIMAX、ホログラムやAIが発達してきた現代でも、なかなかそこまで補完できるシステムやデバイスは現在のところ見当たらない。言い換えると、それらは直接的に体感しないと、ちょっとした相違や誤解、誤想や曲解にも結びついてしまう類いのもの。いくら物事を便利にスピーディーに時短や要領よくする力を高めても、その本質がキッチリと伝わらないのはなんとももったいないし、やるせない。そう考えると、会って直接伝えることは、より物事の本質を伝えるにはとても大切な行為だし、最も着実に確実に伝達できるメソッドと言える。

 今やホールやアリーナでライブを行うことも多いsumikaだが、自身の出自や立脚地を想い出す為かのように、全国ツアーが、「sumika Live Tour 2019 -Wonder Bridge-」と銘打ち、追加公演も含め全国9都市18公演にて行われた。そのツアー後半にさしかかった、10月18日のZepp Tokyo公演では、「一方通行じゃなく、お互いにありがとうの交換が出来る場所。それらはネットを通してじゃ決して伝え切れないものだから、今日は直接ここで伝えに来た」ということをライブ中に語った片岡健太(Vo/Gt)の言葉通り、まさに直接、大切に、まるで想いや気持ちのこもった手渡しのプレゼントのように各曲が我々の下、直に届けられるのを感じた。

 「自分たちの原点でもあるライブハウスでやりたいとの思いが実現した」と語る今回のツアー。今春~夏での全国ホール/アリーナツアーでの大々的なセットや舞台演出に対し、このツアーのセットはいささかシンプル。配置されているのは各楽器とステージ背後の今回のツアーロゴのみだ。ところがライブが始まるとあら不思議。気持ちの機微にシンクロするかのような各種照明や明暗が最大限に活かされ、そこに集ったみんなの気持ちやノリも合わさり、この上ない演出がそこには施されていった。

 スッと場内が暗転。真っ暗なステージにピンスポットが当たり、その先のアコギを持った片岡を照らす。指弾きに合わせ「春夏秋冬」を歌い出す片岡。これまでパッとした華やかさやバイタリティのある楽曲が多かった彼らのオープニングにして、このゆったりとした滑り出しはやや意外でもあった。同曲の進行と共にバンドサウンドがゆっくりと生命力を育ませていく。合わせてステージも徐々に温かさを取り戻すように光を帯びていく。黒田隼之介(Gt/Cho)のエモいギターソロも交え、愛しさと共にだんだんと場内に温もりと優しさが満ちていくのが伝わってくる。「東京ーいきまっせ! 今からsumika始めます!!」と片岡の開会宣言に続き、「Lovers」に入ると一転。華やかで楽しげな雰囲気が拡散。満場が一気にステージに求心されていく。荒井智之(Dr/Cho)のドラミングとサポートの井嶋啓介(B/Cho)のベースも躍動感を寄与。♪僕らを見ていて欲しいのです、♪最後の最後まで愛しぬいて欲しいのです、の求愛フレーズに満場が魅了される。「東京ー! 限界を突破してくれるかい? 今よりもっと近づきたいよ」と「カルチャーショッカー」に入ると、場内もクラップで一緒に名場面づくりに加担。同曲では歌詞を♪東京のあなたとダンスするよ、と変えるサービスと小川貴之(Key/Cho)のオルガンの音色も耳を惹いた。
 「もっともっと飛ばしていくよ。ホームタウンなんでただいまの気持ちを直接届けたい」と片岡。その彼がハンドマイクに持ち替えた「Flower」では会場に笑顔の花を繚乱させ、その心嬉しさを継ぎながらも、シフトを急変させるようにアッパーモードへと突入した「ペルソナ・プロムナード」にて会場と共に走り抜けにかかる。同曲では黒田もステップにて大歓声の中、ガシッとギターソロをキメてくれた。

 この日の観客は男性の比率が高かったらしく、それもあり比較的力強いリアクションも目立った。その低くて重い声援には、これまで以上の幅の広がりや、すそ野の拡大を感じた。「最後の一音まであなたの目を見ながら、心にブッ刺していきますから」と片岡。続くゆったりとスウェイな「いいのに」では、ホーンの音色の同期も混じり、小川もオルガンの音色を交え、セカンドラインのリズムが会場を心地よく左右に揺らせていく。また小川の鍵盤と歌声から入った「enn」では、ステージ下の左右の二機のミラーボールが幻想的な世界を作り出していく。対して「Traveling」ではいきなり大人な世界が広がり、ちょっとした背徳感に場内が包まれる。片岡もハンドマイクにてステージを左右に移動しながら、たゆたうようなその歌声を広げていく。同曲ではポツンと加えた「おかえり」の一言が胸をつき、長いアウトロもより余韻感を与えてくれた。

 またこの日は、彼らをライブで初体験する方々も多く窺えた。sumikaの初ライブ体験がこんな至近距離だなんて、なんて幸運な方々なんだ。そしてここで、アッパーな曲の「イナヅマ」か? 聴かせる曲の「ここから見える景色」か?のどちらかのリクエストに応えてくれるコーナーが。結果、観客から選ばれたのは「イナヅマ」。ライトも目まぐるしく回る中、アッパーなラテンポップとロックンロールリバイバル的なサウンドが会場を引っ張っていく。打って変わり、小川によるピアノの伴奏のみで、スタンドマイクを大切そうに握った片岡がしっとりと終始歌った「ゴーストライター」では、会場もしっかりと一言一句聞き逃すまいと聴き入っていた。また同様にミディアムな「まいった」では、オレンジの暖色な照明の中、ダイナミズムを味合わせてくれた。
 幻想的なインストを挟み、シーンはパっとした明るい光景に辿り着いた。作品以上に素朴でカントリーテイストも増したような「フィクション」が、その歓喜のファンファーレを鳴らしながらライブに再び楽しさを呼び込んでいく。

 続く「ふっかつのじゅもん」では、この日最大と言えるほどの観客の呼応とリアクションを見たし、ここでは黒田と片岡のギターの掛け合いも堪能。また「FUN」では各人の演奏のプレイヤビリティが会場の盛り上がりの火に更なる油を注いでいく。対して心に突き刺して一瞬であなたの人生を変えるべく、これまでも大切に歌われてきた「「伝言歌」」が、来る時よりも帰り道の方が少しでもカッコよくなって欲しいとの気持ちが込められて歌われ、満場もそれに気持ちを重ねながら一緒に歌っている様を見た。
 本編ラストは理想と現実を結ぶべく「イコール」を、豊かなダイナミズムで場内いっぱいに染み渡らせていく。爽快感と、何でも出来そうで、どんな壁でも超えられそうな気持ちにさせてくれた同曲。4人は手を振りながらゆっくりと一度ステージを去った。

 アンコール。ここではこれまでの彼らの定番のアンコール群とは違った意外な曲たちがライブを占め、出ていく扉の向こうに待つ現実と対峙させてくれるだけのバイタリティを寄与してくれた。
 まずは再び会場を「坂道、白を告げて」で並走させれば、セクシーで艶かしくもサビの上昇感のある四つ打ちが会場を一つにした「KOKYU」も、その持ち前のグルーヴィーさで満場をたゆたわせた。
 「今日会う自分たちよりも、次に会う自分たちの方がドキドキしてもらえる存在でいたい。次に会った時には、更にかっこいい自分として出会いたい。あなたがsumikaを好きでいてくれることを決して裏切らないバンドでいたい」と片岡。最後はあえてライブハウスで生まれた歌で締めるべく、客電大全開の中、ステージもフロアも関係なく一緒に「彗星」が歌われた。
 「傷だらけでもいい。泥だらけでもいい。いつでも門は開けておく。男性だろうが女性だろうが関係なく抱きしめてあげるから」。そんな力強い再会の約束を残し、彼らはステージを去った。会場にはしばらく温かく力強い、sumikaが込めた想いが残り続けた。

 ある意味フェイス・トゥ・フェイス以上に、各楽曲に込めた想いや集まった人たちに伝えたかった気持ちや感謝をしっかりと伝え切ったかのように窺えた、この日。集まった方々が会場を出る際に、しっかりと受け取った、明日に向け何でも出来るような、あの気持ちや気分。是非ともこれを今度はあなたが、「この人!!」という方に直接伝えて欲しい。まるで手渡しでもらった心のこもったプレゼントのように、その物自体がなくなっても、その気持ちやその時の感受だけはいつまでも残り続けていく。そんなsumikaが歌や演奏に込めた気持ちやメッセージを胸に、確実に来た時よりも軽くなった足取りと共に帰路についた。外は冷たい雨が降ってはいたが、心はなんだかとても温かかった。

【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:後藤壮太郎】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル sumika

リリース情報

願い / ハイヤーグラウンド【初回生産限定盤A】

願い / ハイヤーグラウンド【初回生産限定盤A】

2019年12月11日

SMR

1.願い
2.ハイヤーグラウンド
3.願い (Instrumental)
4.ハイヤーグラウンド (Instrumental)

セットリスト

sumika Live Tour 2019
-Wonder Bridge-
2019.10.18@Zepp Tokyo

  1. 1.春夏秋冬
  2. 2.Lovers
  3. 3.カルチャーショッカー
  4. 4.Flower
  5. 5.ペルソナ・プロムナード
  6. 6.いいのに
  7. 7.enn
  8. 8.Traveling
  9. 9.イナヅマ
  10. 10.ゴーストライター
  11. 11.まいった
  12. 12.フィクション
  13. 13.ふっかつのじゅもん
  14. 14.FUN
  15. 15.「伝言歌」
  16. 16.イコール
  17. 【Encore】
  18. En1.坂道、白を告げて
  19. En2.KOKYU
  20. En3.彗星

お知らせ

■ライブ情報

sumika Arena Tour 2020
-Daily’s Lamp-

[2020]
03/28(土)愛知県体育館
03/29(日)愛知県体育館
04/04(土)大阪城ホール
04/05(日)大阪城ホール
04/11(土)朱鷺メッセ
04/18(土)さいたまスーパーアリーナ
04/19(日)さいたまスーパーアリーナ
04/29(祝)マリンメッセ福岡
05/02(土)愛媛県武道館
05/16(土)広島サンプラザホール
05/23(土)ゼビオアリーナ仙台
06/06(土)北海道立総合体育センター北海きたえーる



MERRY ROCK PARADE 2019
12/22(日) ポートメッセなごや 1号館-3号館

FM802 30PARTY FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019
12/25(水) インテックス大阪

COUNTDOWN JAPAN 19/20
12/29(日) 幕張メッセ国際展示場1-11ホール、イベントホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る