FINLANDS、9月から11月にかけて全国を回った「REMOTE CULTURE TOUR 2019」ファイナル
FINLANDS | 2019.11.25
きっぱりと前だけを見つめる人の瞳がこんなにも透明で強いことを、立ちすくむことなく未来への覚悟を決めた人の歌や言葉がこんなにも熱く鋭く対峙する者の胸を射抜くことを、この日の塩入冬湖(Vo.& G.)に改めて知った。11月12日、東京・恵比寿LIQUID ROOM。結成からずっとバンドの片翼を担ってきたコシミズカヨ(B.)が今年4月に脱退、塩入の1人体制となったFINLANDSにとって新体制初となる全国ワンマンツアー“REMOTE CULTURE TOUR 2019”の、ついに辿り着いたファイナルだ。9月にスタートした今ツアーは2ヵ月に渡り、この日までに全国9ヵ所を回ってきた。10本目となる今日は、そうした旅の集大成であり、ここから始まる“これから”をきっと大いに予感させるだろう。すし詰めのフロアにはそんな期待がみっしりと充満していて空気が濃い。まだ人影のないステージにはセッティングを終えた楽器と機材が並び、その後ろにはシンプルなデザインのバックドロップが掲げられていた。黒地に白抜きのロゴマークとバンド名、なかでも目を惹かれたのはFINLANDSの頭文字“F”をモチーフとしているであろうロゴマークだ。バックドロップのど真ん中に凛と佇むそれは闇を切り裂く稲妻を彷彿させた。
開演時刻の19時ジャストに暗転した場内。盛大な拍手に迎えられ、まずはサポートメンバーのイラミナタカヒロ(B.)、鈴木駿介(Dr.)、澤井良太(G.)が、続いて塩入が登場した。今までと同様、全員が厚手のファー付きコートを纏い、メンバー同士が向かい合ってジャーンと一斉に音を鳴らす。「こんばんは、我々がFINLANDSです! 素敵な夜をお届けします」と塩入の開口一番、それを合図にオープニングナンバー「ウィークエンド」が勢いよく迸った。ちなみに今回はCDではなく、ツアー開幕に先駆け、9月4日にリリースされたFINLANDS初のライブDVD『”BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO~』のリリースツアーという位置づけらしい。このDVDには昨年行なわれた“BI TOUR”のファイナル公演が収められているわけだが、言うなれば過去を携えて回るツアーというのは実はあまりないのではないだろうか。しかもDVDには映っているコシミズの姿が今のステージにはないのだから、なんだか不思議な気持ちになってしまう。だが、そこにこそFINLANDSの在り方、塩入の決意表明が宿っているようにも思えた。過去も喪失もけっして切り離さず、すべてを抱えて今を、この先をFINLANDSは進んでいく。そうした決意をツアーという形で明示したかったのかもしれない。それを裏付けるかのごとく、「フライデー」「ゴードン」「クレーター」と自らの歴史を追うようにして次々に繰り出される楽曲たち。まるで色褪せない、むしろ新たな輝きさえまとった強靭なバンドサウンドがオーディエンスを激しく揺さぶる。
ツアー初日の仙台へと向かう朝、人生で初めての露出狂に遭遇したという衝撃的なエピソードを告白、何か起こるんじゃないかと不安だったけれど、こうして無事にファイナルを開催できた今となってはそれも許せると語って笑いを呼ぶ塩入。しかしそんな緩めのMCのあとは、明るいテンポ感のなかに潜む「恋の前」の退っ引きならなさ、おとぎ話と現実の間を彷徨う「シンデレラストーリー」の苦々しい痛みがキュッと空気を引き締めた。続く「あの子のお祭り」では不穏なベースラインにずっしりと絡むドラムビート、和風のギターフレーズが郷愁を立ちのぼらせて、聴き手を独特の緊張感に誘う。時に剣呑を孕み、時に甘くキュートに震え、時にトーンを抑えて囁くような塩入の変幻自在な歌声も健在、歌詞に綴られた一語一句に生々しさを伴わせて楽曲の世界観を増幅させゆくダイナミズムには陶然と浸るしかない。「きっとみなさん、大なり小なり寂しいなと思うことがあると思います。私もあります。でも寂しいことが恥ずかしいことだとは一切思いません。自分のやりたいこと、正しいと思うことに誰かが頷いてくれなくても、自分がいちばんに頷けているならそれでいい。そう思って進んでいきたい」、そう塩入が告げて奏でられた「さみしいスター」の朗々とした希望感。「もしも大切な人が亡くなってしまったり、遠くに行ってもう二度と会えないとしても、一緒に過ごしてきたことやその人が教えてくれたこと、どう足掻いたって消えない経験や思い出はお守りになる思う」とつぶやくように言って、とても丁寧に歌声とアンサンブルを紡いだ「銀河の果てまで」は、まさにひとり一人がそのお守りであるみたいにオーディエンスを柔らかく包み込んだ。
この日は今ツアーで初めて新曲が披露された日でもあった。しかも2曲も、だ。「我々は今年、何もしてないみたいですよね。CD1枚、DVD1枚……結構出してるじゃん!」とおどけ、「何もしていなかったわけではないんです。新曲を作りました!」という威勢のいい塩入のコールと同時になだれ込んだ最初の新曲は、弾むようなテンポ感が小気味よいFINLANDS節の進化形。初聴きにも関わらずオーディエンスも一緒になってクラップ、今後はさらに化けそうなライブ映えする1曲だった。しかし、ひときわ目を見張ったのはその次だ。改元を例に挙げ、今年はいろいろあったと振り返りつつ「音楽をもう10年以上やっていますが、前提として音楽で世界を平和にすることも変えることもできないと私は思ってるんですけど、それでも自分がすごく平和ボケしてるんだなって思ったことがあって」と切り出した塩入。そうして、最近よく観ている海外の女の子のメイク動画のこと、同じ子のインスタグラムには綺麗な化粧品やメイク道具に並んで、グチャグチャになった街の写真とかプラカードを掲げて泣いている人たちの写真がアップされていて、“この街に平和が訪れますように”“この街から紛争がなくなりますように”などと綴られていたこと、わかっていたつもりなのに結構なショックを受けたこと、などを訥々と明かし、「好きなことをやれる日常が当たり前じゃないって、すごく悲しいことだと改めてわかりました。家族や友達や恋人、“また明日ね”って別れた人に次の日に会えないなんてことは当たり前になってほしくない。もっと当たり前に日常を自慢していい世の中になってほしいし、私は当たり前にあなたのことを願っていたいと思って作った曲です」と言って演奏されたその新曲のなんと大きく、なんと切実で、なんと美しかったことか。ミディアムスローに展開するサウンドと、塩入冬湖というごくごく小さな存在の、けれどかけがえのない祈りが、やさしく融け合ってフロアに注ぐ。それでいて客席を見据える驚くほどに冷静な視線、その目がまたいっそう彼女の本気を訴えかけてくるようだ。
「カルト」からの後半戦はとびきりアッパーに畳み掛けた。ライブのみならずFINLANDSの制作にも参加している澤井と鈴木はもちろん、今ツアーから加わったイラミナと塩入の息もぴったりで、たとえ正式メンバーは1人であっても、FINLANDSはバンドなのだとはっきり確信する。ソングライティングを一手に担ってきたとはいえ、コシミズの脱退は少なからぬダメージを塩入に与えたことだろうが、すぐさま前を向き、進むことを選んだ彼女。このツアーが彼女にもたらしたもの、このツアーによって彼女が手にしたものはきっと計り知れない。今、目の前で堂々とバンドの中心に立って歌い、活き活きとギターを弾き鳴らす塩入はこれまでにも増して存在の輪郭線が太く、濃く見える。毛皮のコートに身を包んでいながら剥き出しのエモーション。夢も、希望も、不安も、貪欲さも、全部を赤裸々にしてバンド道を突き進んで行こうとする彼女はただひたすらに神々しく、その遮二無二でしなやかな姿がバックドロップのロゴにも重なる。そうか、彼女は1人という闇を果敢に切り裂いたのだ。そんなふうにも思えた。ツタタタ、ツタタタと高速で刻まれる鈴木のドラムに塩入と澤井のツインギターが唸りをあげ、イラミナのベースがうねる「バラード」のイントロ、繰り広げられる抜き差し激しいセッションにオーディエンスの熱狂がとめどない。曲中、メンバー紹介をする塩入の表情ときたら、なんと誇らしげなのだろう。
「いろんな変化があって、いろんなことを選ばなきゃいけなくて、それでも自分が選んだことにひとつも絶望はなかったし、未来に対して勝算しかありませんでした。どうなっていくのかわからないなと思ってたけど、やっぱり楽しくなったじゃんって、自分で選んだことを誰かのせいにしない未来が自分のもとに訪れてよかったなって、今すごく思ってます」
そう言って塩入はこのツアーを支えてくれたメンバー、スタッフ、そして全国各地に足を運んでくれたオーディエンスに心からの感謝を告げる。ラストは「USE」、『BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO~』に収録の、まさしく彼女の覚悟と決意を宿した新生FINLANDSの未来讃歌でツアーは締めくくられた。来たる2020年は果たしてFINLANDSにとってどんな年となるだろう。手始めとして3月28、29日に東京・下北沢BASEMENT BARにて“記録博”が開催されることがこの日、塩入によって告知されたが、アルバムもツアーもとどんどん欲張ってしまいそうだ。今はただ、前に前に。FINLANDSともに歩いていこう。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:小野正博】
リリース情報
FINLANDS”BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO~
2019年09月04日
LD&K
02. カルト
03. yellow boost
04. バラード
05. sunny by
06. 恋の前
07. Hello tonight
08. フライデー
09. ブームダンス
10. electro
11. 勝手に思って
12. プリズム
13. planet
14. 衛星
15. ULTRA
16. リピート
17. オーバーナイト
18. ガールフレンズ
19. ウィークエンド
20. クレーター
セットリスト
「REMOTE CULTURE TOUR」
2019.11.12@東京LIQUIDROOM
- 1.ウィークエンド
- 2.フライデー
- 3.ゴードン
- 4.クレーター
- 5.恋の前
- 6.シンデレラストーリー
- 7.あの子のお祭
- 8.さみしいスター
- 9.ランドエンドビート
- 10.アストロ
- 11.銀河の果てまで
- 12.プリズム
- 13.新曲
- 14.新曲
- 15.カルト
- 16.yellowboost
- 17.ダーティ
- 18.リピート
- 19.callend
- 20.バラード
- 21.BI
- 22.USE
お知らせ
WALL OUT
2019/11/30(土)調布Cross(11/14 OPEN)
下北沢にて’19
2019/12/7日(土)-8日(日)GARDEN / SHELTER / 251 / 440 / BASEMENTBAR / THREE / 近松 / MOSAiC / Daisy Bar / Laguna / ERA / GARAGE / WAVER / ReG / mona records
rockin’on presents JAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2019 WINTER
2019/12/8日(日)
TSUTAYA O-EAST / duo MUSIC EXCHANGE/ TSUTAYA O-WEST / clubasia / TSUTAYA O-nest / TSUTAYA O-Crest / VUENOS / Glad
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2019/12/10(火)吉祥寺WARP
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LOGBOOK vol.2
2020/01/8日(水)横浜F.A.D
BOY’S of FLOWER
2020/01/29日(水)西永福JAM
2デイズ・ワンマンライブ 第三回「記録博」
2020/03/28日(土)・29日(日)会場:下北沢 BASEMENTBAR
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。