FIVE NEW OLD、「乳化」を体現し成長と進化を見せつけた”Emulsification” Tour」ファイナル
FIVE NEW OLD | 2019.12.06
正直に書こう。私はこの日のライブを観るまで、FIVE NEW OLDが最新アルバム『Emulsification』を通して改めて掲げた、「Emulsification=乳化」(お互いの特性や個性を尊重し、引き出し合いながら、同居したり共存し合い一つのものが生成されていく現象のこと。詳しくはインタビュー http://music.emtg.jp/special/2019091413503a965 の冒頭リード文を参照)の最終や着地点には、てっきり「調和」や「整然」が待っていると思い込んでいた。しかしそれらが具現化され、体現化されたかのような彼らのこの日のライブを通し、実際に体感した「乳化」は、それらとは若干違った感受があった。そこに待っていたのは、己そのままに、迎合や相手に合わせることなくそれらがぶつかり合い、結果、有機的に絡み合い、触発し合い、一つのものが生み出されていく様。いわゆる混成とはまた違った類いの、各々がキチンと確立したままの融合と言うか……。当然、それは若干いびつで不揃いでもあった。が故に、そこに独特のグルーヴが育まれ、その奥には心地良さや感動といった、心も身体も動かす要素が待っていたことに行き当たったのだった。
地元・神戸からスタートし全国14ヶ所にて行われたFIVE NEW OLDの全国ワンマンツアー「"Emulsification" Tour 」が大盛況のなか幕を閉じた。その最終地点の会場でもあったEX THEATER ROPPONGIでの一夜は、新作で得た新要素や新しいテイスト、ゲストのホーン隊やギタリスト、バックスクリーンの映像や計算された照明、そしてオーディエンスとFiNOとが乳化する様をありありと見てとることが出来た。と同時に、そこで生まれたマーブル模様は、その場での各人の感受同様、二度と同じものは生まれないし、生み出すことはできない。そんな尊い刹那へとも結びついていった。
乳化は場内に入った時点から既に始まっていた。ストリングスカーテンには幾つものパターンのシンメトリーに、ゆっくりと色同士が乳化していく映像が繰り返し流れていた。
場内が暗転するとオープニング映像が映し出される。古きアメリカンシネマのような映像の上に、オイルアートがコラージュされていく。そんな中、ストリングスカーテン越しから放たれた『Emulsification』の1曲目を飾っていた「Fast Car」が。明滅するスポットの下、映し出されるメンバー各人。微かなシューゲイズ性を織り交ぜた同曲が会場全体を共に引き連れていくように走り出させていく。「Tokyo~!!」とHIROSHI(Vo./Gt.)がシャウト。パッと雰囲気が明るく華やかに豹変し、「What’s Gonna Be?」へ。ゆっくりとストリングスカーテンも上がっていき、楽し気な雰囲気が一気に広がっていく。ハンドマイクスタイルのHIROSHIを始め、広いステージいっぱいに、ゆるい弧を描くようなWATARU(Gt./Key./Cho.)、SHUN(Ba./Cho.)、中心に向き合うHAYATO (Dr./Cho.)といった彼ら独特のフォーメーションが現れる。また、WATARUのキーボードも交えた心地よいファンキーさが会場をたゆたわせた「Hole」では会場にワイパーを生み出していった。
同期によるシンセベースとクラップがつなぐ中、「今日はこの場でしか作れない素敵なマーブル模様を一緒に作り出していきましょう」とHIROSHI。ここで『Emulsification』にも参加していたゲストの是永巧一が呼び込まれる。「あなたの心の感じるままに体を揺らし、楽しんでいこう六本木!!」とのHIROSHIの言葉から、是永も参加したファンキーで情景観溢れる「Pinball」が。SHUNのグルーヴィなベースが躍動感を育み、是永も情景観のあるギターソロをキメ、WATARUもそれを引き継ぎステージフロントにてソロを披露してくれた。そのままノンストップで、会場のピースサインと共に贈られたディスコティックな「Not Too Late」に入ると、温かなコーラスも加わり会場に洗練さが満ちていく。HAYATOも立ち上がり会場のクラップを煽る。
ステージにトランペット、トロンボーン、サックスの3管が呼び込まれ、ここからはホーン隊も交えた楽曲たちが繰り出されていく。特にこのゾーンでは、強く「乳化」を感じた。トロピカルを擁した「Same Old Thing」では元来の生命力のあるサウンドにホーン隊の洗練さやオートチューンを絡ませたHIROSHIの歌が融合。この上ない至福で多幸な空間を包めば、レスリー性のあるエレピの音色も印象的であった「Magic」もオリジナルに比べムーディでソフィスティケートされて響いた。
「より踏み込んだ素敵な時間を一緒に過ごしたい。ささやかだけどちょっとアップした幸せを感じてもらえるよう最後まで懸命にやる」とHIROSHI。彼らの音楽性のエッセンスの中でも重要なゴスペルを堪能させるべく、WATARUのオルガンと生命力のある聖歌隊のようなコーラス。そして会場のクラップとともに送られた「In/Out」では、特有の祝祭感と、肉声コーラスであるが故の人肌感や生命力、活力を会場の隅々にまで行き渡らせていった。
HIROSHには今回の「乳化」への委ねる覚悟を感じ、完全にボーカリスト然とした佇まいも頼もしかった。中でもロングなサックスのソロも光った「Ghost In My Place」はその最たるもの。まるでフリーハンドを謳歌するように、ハンドマイクにてステージを右に左に走り回った。
HAYATOのドラムソロを挟み、ホーン隊も去り、ここからはまた4人のみで数曲が贈られた。ウェービーなシンセとグリッジ音を乳化させた軽快な「Black & Blue」、「Last Goodbye」では曲が進みゆく度にダイナミズムを得られたし、「Set Me Free」の際には悲痛なまでの♪俺を自由にしてくれ♪の切なさが場内いっぱいに広がっていった。
後半戦からはライブに激しさとドラマティックさが呼び込まれていく。「Liar」では擁したエモさがとめどなく溢れ出していくのを感じた。
「このツアーはみんなで作ってきた。今日はそんなファイナルだからこそ最高の時を作らねば。でもみんなとなら作れる気がする」とHIROSHI。ここからは再びホーン隊も合流し、アフリカンとマーチング性溢れる「Keep On Marching」が場内を一つにしていく。同曲のクライマックスでは金テープも放射。盛り上がりの最高潮を更新していく。
ここからはラストスパート。「Sunshine」が擁するドライブ感とブロークンビーツのグルーヴィさで再び会場の熱を加速させれば、生ホーンが加わり、その至福さもまた格別だった「Gotta Find A Light」、本編最後は「By Your Side」が持ち前のゴスペル性にてこの上ない祝祭感を寄与してくれた。ホーンが加わった同曲は最高。最後は圧巻のHIROSHIによる超ロングブレスとハイトーンボーカルが場内を魅了していった。
アンコールは、現在とこれからを感じさせる曲や、来年の結成10周年に向け、自身の出自や立脚点的な楽曲が放たれた。
アコギを持ったHIROSHIが、「沢山の愛とエネルギーを得られたツアーだった」とツアーを振り返り、映画『ガタカ』からインスパイアされ、書かずにはいられず、アルバムのラストに収めた「Bad Behavior」を。<運命に抗ってでも突き進んでいけ!!>との想いを込めて同曲が力強く放たれた。また「一緒に歌いましょう」と誘った「Please Please Please」ではメンバーも揃いのサイドステップを踏みながら歌い演奏。会場も心地良くたゆたうように揺れていた光景も印象深い。同曲の圧巻は、ラストでの会場の歌声で楽曲を完成させていったシーン。そして、ここで大団円……と思いきや。「東京! これで終わりだと思っただろう!!」と、ここからは一転。パンクバンド時代へとフラッシュバックさせるような疾走感と開放感あふれるポップパンクな「Ashes To Ashes」が久々に放たれ、場内を驚喜させた。
何かの先鞭付けのように自らの出自や立脚点的な曲でバシッと締めた感のある、この日。「来年は10周年。何かどデカいお祭りをやろうと考えている」と、次のビッグプレゼントの予定も彼らはライブ中に匂わせた。
混成でも調和でも整然でもなく、あくまでも「乳化」。その方法論での同居性や融合性は彼らをますます強くし、磨きをかけていくことだろう。これまで通り、「彼らが彼らのまま」成長し、進化し、繁栄していくためも、FiNOはこれからも乳化し続けていく……。それらを経て届けられた曲毎に驚いている自身を想像し、ニンマリとしている自分が居た。
【撮影:JON...】
リリース情報
Emulsification
2019年09月11日
TWILIGHT RECORDS
02.Keep On Marching
03.Magic
04.What’s Gonna Be?
05.In/Out
06.Last Goodbye
07.Pinball
08.Same Old Thing
09.Set Me Free
10.Gotta Find A Light
11.Always On My Mind
12.Please Please Please
13.Bad Behavior
セットリスト
FIVE NEW OLD "Emulsification" Tour
2019.11.29@EX THEATER ROPPONGI
- 01.Fast Car
- 02.What’s Gonna Be?
- 03.Hole
- 04.Pinball
- 05.Not Too Late
- 06.Same Old Thing
- 07.Magic
- 08.In/Out
- 09.Ghost In My Place
- 10.Black & Blue
- 11.Last Goodbye
- 12.Set Me Free
- 13.Liar
- 14.Keep On Marching
- 15.Sunshine
- 16.Gotta Find A Light
- 17.By Your Side
- 01.Bad Behavior
- 02.Please Please Please
- 03.Ashes To Ashes