GLIM SPANKY、サイケデリックに彩り未来への前進も感じさせた「Velvet Theater 2019」
GLIM SPANKY | 2019.12.09
GLIM SPANKYが「Velvet Theater 2019」と名付けて、名古屋・DIAMOND HALL、大阪・味園ユニバースに続き、東京・キネマ倶楽部では2日にわたり行ったツアーの最終日となった11月29日。そのライブは、秘密の入り口を開いた先の劇場に迷い込んだようだった。そこで彼らが描き出したのは、これまでも彼らが大切にしてきた音楽を五感で楽しみ感性を研ぎ澄ます時空間だ。ダイナミックなバンド・サウンドと凝った照明が彩なして、この夜限りの幻の街へとオーディエンスを導いた。松尾レミ(Vo,G)と亀本寛貴(G)は、おなじみのサポート・メンバーとともに、今まで以上にダイナミックな演奏で最後までオーディエンスを惹きつけた。
「Velvet Theater」は2015年から不定期に彼らが行ってきたコンセプチュアルなライブで、彼らの大事な一要素である幻想的な世界を音楽で表現しようというものだ。この夜その扉を開いたのは、松尾がアコースティック・ギターを鳴らしながらポエトリー・リーディングで始めた楽曲。じっくりと体に染み込ませるようなボーカルで、真夜中にしか現れない夜の街へ誘う歌だ。ライブでは演奏してきているが音源化されていないこの曲でスタートしたのは、この夜に向けた彼らの本気ぶりの表れだろう。幻想的な歌詞の「NIGHT LAN DOT」を続けてもう一歩先へと誘うと、「MIDNIGHT CIRCUS」「ダミーロックとブルース」はイントロで亀本が前に進み出て即興的なギターソロをたっぷり聴かせ、オーディエンスを沸かせた。いずれも初期から演奏している曲だが、ファンファーレを鳴らすようなセッションを加えたことでバンドも次第に熱を帯びていき、ダンサブルな「いざメキシコへ」では高く上げられた腕がフロアで揺れた。オーセンティックなブルース・ロックから一気に4つ打ちに持っていく小気味のいい振れ幅はGLIM SPANKYならでは。
MCで松尾は「いつもと違うディープな企画、GLIM SPANKYのアンダーグラウンドな面をフィーチャーしたイベント」と「Velvet Theater」を紹介し、「初めてきた方は?」の問いかけに少なからぬ手が上がったのを見て「これが最初というのはかなりヤバい」と言いながらも、「来てくれるみんながGLIM SPANKYの最高のリスナーだと思います」と笑顔を見せた。
「闇に目を凝らせば」「Velvet Theater」と曲が進むほどに、バンドもオーディエンスも更に熱を増しながらもリラックスして楽しんでいる様子。ステージには松尾が長年熱望していた、リキッドライトと呼ばれる手法の照明と、CGなどを使ったVJの投影する映像が重なって、サイケデリックな色の洪水に。リキッドライトを手がけたOverLightShowは、60年代のアナログな手法を踏襲しながら今日的なセンスで細やかにカラフルな光を踊らせる。そんな空間にGLIM SPANKYが鳴らす音は実にふさわしい。力強い松尾のボーカルに応えるように自然とシンガロングが起きた「ハートが冷める前に」は会場がひとつとなり、「新曲やります!」と告げた「Breaking Down Blues」は一段とパワフルな演奏でオーディエンスを引き込んだ。
「ここからはアコースティック・コーナー」と松尾が告げるとメンバーがステージを離れ、ギターを置きマイクを手に持った松尾とアコースティックギターに持ち替えた亀本の二人で、浅川マキの「ジンハウスブルース」をカバー。体を揺らしながら、ちょっと蓮っ葉に歌う松尾が新鮮で、オーディエンスから歓声も飛んだ。童謡のように可愛らしい「お月様の歌」、松尾がお手製のチャイムやベルを鳴らした「白昼夢」では、他のメンバーはいるのにベースの栗原大が「いない」と皆が慌てるシーンもあったりと、ナチュラルな手触りを感じさせるコーナーだった。武並J.J.俊明(Dr)がカホンを叩き、栗田祐輔(Kb)が柔らかなオルガンを鳴らし、栗原もアップライト・ベースを手にした「美しい棘」で、アコースティックは終了。こうしたアシッド・フォーク風の曲もGLIM SPANKYにはよく似合う。
次のMCでは亀本が、例年アルバムを出してきたが今年リリースしたのはシングルとコンピレーションに提供した4曲のみということから、「今年のエネルギーはその楽曲たちに込めたんで、しっかり聴いてくれたら嬉しいです」と、新シングルのリード曲「ストーリーの先に」と、手塚治虫生誕90周年記念コンピレーション盤『NEW GENE, inspired from Phoenix』に提供した「Circle Of Time」を演奏。「火の鳥」にインスパイアされた曲は、伸びやかな松尾のボーカルとひときわスケールアップした演奏で本編のフィナーレを飾った。
アンコールで松尾は「表現したいものができて、個人的には満足しています」と言った。松尾が欧州を旅して見つけたというロングドレスも、見事なサイケデリアを描き出したリキッドライトショーとVJも、歌に込められた幻想文学も、この日の会場の片隅に飾られた、松尾の恩師である井原靖章によるオリジナルポスターも、そしてこの日演奏した曲たちすべてを含めたものが「Velvet Theater」。彼らが影響を受けて来たものがオーセンティックなロックや60~70年代のユース・カルチャー、ファッションやアートであるのは明らかだが、懐古趣味に収まるのではなく2020年に向けて発信するものとしてクリエイトしている。
アンコールで演奏したのは、松尾が上京まもない頃に書いた「夜風の街」と、新シングル収録の「Tiny Bird」。「君の作った歌は、東京では流行らない」(夜風の街)と折れそうな心を吐露する10代の歌から、「どこかに渡る鳥みたいに進め」(Tiny Bird)と自分を鼓舞する歌が、自然につながって響いた。来年はアルバムを出すと亀本は言ったが、ここで見せた自分たちの持ち味を大切にしながら、彼らは確実に未来へと足を進めていることを感じさせる手応えのあるライブだった。
【取材・文:今井智子】
【撮影:上飯坂一】
リリース情報
ストーリーの先に
2019年11月20日
ユニバーサルミュージック
02. Breaking Down Blues
03. Tiny Bird
セットリスト
「Velvet Theater 2019」
2019.11.29@東京キネマ倶楽部
- 01.題名未定曲
- 02.NIGHT LAN DOT
- 03.MIDNIGHT CIRCUS
- 04.ダミーロックとブルース
- 05.いざメキシコへ
- 06.闇に目を凝らせば
- 07.Velvet Theater
- 08.grand port
- 09.ハートが冷める前に
- 10.Breaking Down Blues
- 11.ジンハウスブルース (Acoustic ver.)
- 12.お月様の歌(Acoustic ver.)
- 13.白昼夢(Acoustic ver.)
- 14.美しい棘(Acoustic ver.)
- 15.Sonntag
- 16.ストーリーの先に
- 17.Circle Of Time 【ENCORE】
- EC1.夜風の街(Acoustic ver.)
- EC2.Tiny Bird
お知らせ
エアトリ presents 毎日がクリスマス 2019〜KING ROCKERS Vol.6〜
2019/12/10(火)横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
夜の本気ダンス「AUTUMN JACK OF SEA TOUR」
2019/12/14(土)金沢EIGHT HALL
CHAI presents CHAIとみてみチャイ
2019/12/19(木)マイナビBLITZ赤坂
FM802 RADIO CRAZY 2019
2019/12/26(木)インテックス大阪
NO MATTER LIVE
2020/01/12(日)Zepp Sapporo
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