Nulbarich、さいたまスーパーアリーナで開催された「Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-」
Nulbarich | 2019.12.16
武道館から1年後、彼らは遂にここまで来た。2019年12月1日、さいたまスーパーアリーナ。JQいわく「広く遠くまで届けられる音を」(アルバム・インタビューより)目指した最新作『2ND GALAXY』の世界観を、生で体感できる特別な時間。開演前のスクリーンで、JQがしゃべってる。「今のNulbarichから次のNulbarichへ。次の野望を手に入れるためのライブ。中途半端な気持ちではできない」――声は穏やかだが、気迫は満点。18:00、場内暗転。さあ〈Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-〉の開幕だ。
七色に変光する無数のバルーン、ステージの縁を走る光の帯。バンドが強烈なグランジ・ロックのインストを奏で、オーディエンス全員に配られたリストバンドが発光する、オープニングはまるで壮大な光のページェント。1曲目は『2ND GALAXY』の中から、スペイシーな浮遊感とサイケデリックな多幸感みなぎる「Rock Me Now」だ。JQが「Are you Redy!What’s Up!」と叫ぶが、スポットは当たらない。主役は音楽、と言いたいんだろう。スクリーンには色鮮やかな幾何学模様が流れ、ステージ上空では不思議な光の粒がオーロラのようにうねる。ハード・ロッキンなダンス・チューン「Zero Gravity」から「Focus On Me」へ、ドラムとパーカッションを含む7人編成のバンドは非常にファット、タイト、そしてワイルド。ラウドなエレクトリック・ギターを筆頭に、Nulbarichとしか名付けようのないミクスチャー・サウンドを、一丸となって奏でてる。
「ain’t on the map yet 6 It’s Who We Are」で、ようやくステージが明るくなった。JQはベースボール・ジャケットにゆったりパンツ、まるで普段着のようなラフなスタイル。フロアに突き出した花道へゆっくりと歩を進め、「It’s Who We Are」へ。ハッピーなディスコ/ファンク調の強烈なビートがフロアを揺るがす。踊れるビート、キャッチーなメロディ、ソフトなボーカル、しかしどの曲でも歪み切った爆裂ギター・ソロがにらみを利かす。Nulbarichのライブは、音源よりもずっとロックで生々しい音圧を持って迫ってくる。
「はじめまして。Nulbarichと申します。ここでやるのは初めてです。でかいよと言われてたけど…でかいわ」
飄々としたしゃべりはいつものJQ、大会場でもまるで変わらない。続く「SESSION」と題した即興曲では、JQがサンプラーを叩き、ビートと声ネタをループさせる。それに合わせてバンドが曲を組み上げてゆく。メンバーが二組に分かれ、ハードとメロウのグルーヴ・バトルを繰り広げる、スリリングなシーンは圧巻のひとこと。凄い。メンバーのプロフィールは謎のままだが、ヤバい奴らが集まっていることは一聴瞭然だ。
JQがアカペラで伸びやかなメロディを歌い出す、曲は「NEW ERA」。続けて「Kiss Me」「Sweet and Sour」と、ハッピーなR&Bチューン、心地よいヒップホップ・ビート、そしてゴスペルライクなソウル・ナンバーが並ぶ。ライトは虹色から、ぬくもりのあるイエローへ。ここがNulbarichの音楽の、たぶん一番あたたかくて優しい場所。歌い終えたJQが、「幸せな気分になったね」とつぶやく。ここが巨大なアリーナであることを忘れさせる、一対一で音楽が届く瞬間。
ぶわーってやつ、いこうか。らしい言い回しで紹介したのは、EDMの高揚感溢れるダンス・チューン「Kiss You Back」。無数のレーザー・ビームが空間を串刺し、強烈なストロボで目が眩む。「Ordinary」から「Follow Me」へ、ミドル/アップの踊れるビートを連ねてぐんぐん加速。大きく左右に手を振りながら体を揺らす、オーディエンスの一体感。そして「Look Up」では、巨大なミラーボールから流星雨のように光がこぼれる壮大なシーンが見られた。アリーナならではのスケールの大きな演出が、さらなる高揚感を煽り立てる。
「僕たちが購入した片道切符、どこへ行くのか、僕たちもわかりませんが、この列車、止まるまで見てみたいでしょ?」
ここまで連れて来てくれてありがとう。夢は語るもんです。証明してます。――何の飾りもない本音MCがじんわり沁みる。話したいこといっぱいあるけど、だいたい事故っちゃうから歌っちゃう。――はにかむように、はぐらかす様もJQらしい。メランコリックなピアノと、どっしりと重いビートが交錯する「Almost There」から、アコースティック・ギターをフィーチャーしたロック・チューン「Silent Wonderland」へ。じわじわと高まる熱が頂点に達したのは、映画『HELLO WORLD』主題歌になったバラード「Lost Gameだった。スクリーンに浮かぶ青い地球、リストバンドから放たれる白い光、大量のレーザー・ビームが作り出す広大な空間に響き渡る、ドラマチックなサウンドと哀しいほどに美しいメロディ。歌詞ではネガティブな感情を吐き出す曲だが、そのすべてを浄化する光と音の壮大なシンフォニー。これが見たかった。JQが「果てた」とつぶやく。間違いなく、この日最高の名シーン。
「先に言っとく、気を付けて帰ってね。じゃあ、クライマックスへご招待しましょう」
重厚でファンキーな「Get Ready」を歌い終えたJQが、オーディエンスに感謝を告げる。淡々、飄々、無駄を省いた言葉に性格が出る。全ては音楽の中にある。「VOICE」では、この日初めてメンバーの全身がスクリーンに映し出された。「終わりたくねーなー」とJQが叫ぶ。それはこっちのセリフだ。「Twilight」から「Super Sonic」へ、とことんお洒落な音像と、しかしどこか猥雑でカオスなムードと、スーパーアリーナが巨大なディスコティックと化す。
「長かったようであっという間だったな。やっぱ、でけーな。でも、この人数が一個になったらヤバそうじゃん? いーすか?」
ストンプ、ストンプ、クラップ。強力なビートに合わせて湧き上がる、アリーナいっぱいのクラップ。リストバンドの光が揺れる中、ラスト・チューンは「Stop Us Dreaming」だった。スクリーンに映るJQが笑ってる。吹き出しを付けるなら「楽しい!」という感じ。空から降ってきた大量の風船と、溢れ出すライトの海。花道に座り込んでバンドを見ている、JQは特等席でこの絶景を楽しんでる。Nulbarichという彼の夢が、一つの現実になったグランド・フィナーレ。
「また会いましょう。ありがとうございました」
全ての音とライトが消えても、JQはステージにいた。万雷の拍手を、かみしめるように味わっていた。アンコールは無し。とことんショー・アップされた大会場でのエンタテインメントでありつつ、予定調和からはみ出す自然体、これがNulbarichのライブ。
ただ曲がかっこいいだけで、ただ歌が心地よいだけで、これだけの人は集まらないだろう。その中心にあるのは、JQが体現する純粋なアーティストの生きざまと、飾りのない人間くささ。〈Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-〉、これにて閉幕。しかし物語は続いてゆく。Nulbarichと並走できる喜びを実感する、素晴らしい2時間のマインド・トリップだった。
【撮影:岸田 哲平・本田裕二】
リリース情報
2ND GALAXY
2019年11月06日
ビクターエンタテインメント
02.Twilight
03.Look Up
04.Kiss Me
05.Get Ready
06.Rock Me Now
07.Lost Game
08.Outro
セットリスト
Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-
2019.12.1@さいたまスーパーアリーナ
- 01.Rock Me Now
- 02.Zero Gravity
- 03.Focus On Me
- 04.Lipstick
- 05.ain’t on the map yet
- 06.It’s Who We Are
- 07.SESSION
- 08.NEW ERA
- 09.Kiss Me
- 10.Sweet and Sour
- 11.Kiss You Back
- 12.Ordinary
- 13.Follow Me
- 14.Look Up
- 15.Almost There
- 16.Silent Wonderland
- 17.Lost Game
- 18.Get Ready
- 19.VOICE
- 20.Twilight
- 21.Super Sonic
- 22.Stop Us Dreaming
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