LUCKY TAPES、新曲を携えた秋のワンマンツアー「LUCKY TAPES Tour 2019」
LUCKY TAPES | 2019.12.20
11月14日、マイナビBLITZ赤坂でLUCKY TAPESを観た。今年唯一の新曲を携えてのActor Release Tour 2019のファイナルだ。会場に入ると正面にさりげなく、いや堂々と「actor」のジャケット・イラストを使った「顔はめパネル」が置いてある。メンバーのニヤリと笑う顔が見える、ユーモラスな仕掛け。満員のフロアから立ち上る柔らかな熱気と、ピースフルなヴァイブス。楽しい夜になりそうだ。
「Actorツアーへようこそ、東京!」
バンドのMC担当、高橋健介(G)がライブの開幕を元気よく叫ぶ。「Lonely Lonely」の、ゆったりとうねるビートに乗り、高橋海(Vo&Key)がスムーズなメロディ・ラップを聴かせる。楽器の数は多いのに圧迫感のない、踊るというより揺れるに近い、LUCKY TAPESのグルーヴは波のように大らかで滑らかだ。「レイディ・ブルース」ではギアを一段上げ、ホーン・セクションがソウル・フィーリング溢れるプレーで囃し立て、「Balance」ではミラーボールが満天の星を降らせる中、村上大輔(Sax)から田口恵人(B)へ、いかしたソロが引き継がれる。UKO(Cho)のスキャットも、最高にキュートでパワフルだ。
「NUDE」は松浦大樹(Dr)の切れ味鋭いフィル・インから始まる、アッパーなロッキン・ソウル。お揃いのステップで盛り上げる、チャンケン(Tp)をはじめホーン・セクションのパフォーマンスが可笑しい。「Punch Drunk Love」の静かな出だしが、ぐんぐん熱を帯びてがっちり太いグルーヴへ変化していくのに胸が高鳴る。バンドは9名の大所帯だが、有機体のようにしっかりと音で手を結び合う。余分なものが一つもない。
「今日はツアー・ファイナルですよ。たくさん曲をやるので、最後まで楽しんでください」
「Gravity」は、高橋海のジェントル・ボイスの魅力が最大限に輝くスロー・チューン。「コール&レスポンスしたいです!」という健介の呼びかけに、全員揃って♪Let’s Get It Startedの大合唱が起きた。ミラーボールを3個に増やし、青赤から白銀へと色を移すライトが眩しい。「夜想曲」は、荘重なゴスペルを感じるミッド・チューンだが、この曲はなんたって歌詞がいい。孤独な地球(ほし)で生まれた命は--。人生について幸福について愛について、夜に一人想う詩と哲学の美しい欠片。名曲だと思う。
「ファイナルなのでスペシャルなゲストがいらっしゃいます。HIROSHI from FIVE NEW OLD!」
LUCKY TAPESとFIVE NEW OLDは今年の2月から3月にかけて、カップリング・ツアーを回ってから急速に仲を深め、FIVE NEW OLDの新作『Emulsification』には高橋海がアレンジで参加。その曲「MAGIC」をLUCKY TAPESの演奏で披露する嬉しい驚きに、どちらのファンでもある筆者はニヤニヤが止まらない。HIROSHIと高橋海が肩を組んで歌ってる。熱気あるパフォーマンスと、派手な赤いトップス。1曲に全力を傾けてあっという間に去る、その後ろ姿は一陣の爽やかな風だった。
ライブ中盤は、メンバーのプレイヤビリティの高さをたっぷり楽しむパート。ぐっと腰を落としてファンキーに揺れる「GUN」から「EASY」へ、NAPPIのトロンボーンのソロに盛大な拍手が贈られる。「MOOD」へと続く長いセッションでは、松下ぱなお(Per)の想像力あふれるパーカッションがひときわ目立つ。ライブで聴く「MOOD」はまさにアンセムで、高橋海がマイクをフロアに向けると、完璧な大合唱が返ってきた。好きなことばっか追い掛け回して死にたい--。何度聴いても凄い歌詞だ。まばゆい逆光がじわじわと強まってゆく、夜明けの太陽を思わせる照明が素晴らしい。トリッキーなことは何もしない。いい曲を、いい音といい照明で。なんて贅沢な時間だろう。
ここからはアップで行こう。ミラーボールが良く似合う軽快なディスコ・チューン「22」から、ラテンっぽい決めのフレーズがかっこいい「贅沢な罠」へ。中間部にはさまった、ヘドバンが似合いそうなロック・パートがスパイスを効かせてる。LUCKY TAPESはシティ・ポップ、チル系のイメージが強いが、お望みとあらばダンス・バンドにもロック・バンドにもなれる。その底力はライブでこそ体感できる。
「素晴らしい声をありがとう。途中で涙が出そうになりました」
珍しくしんみりと健介がしゃべっている。かと思えば、ツアーが終わったら「顔はめパネル」はどうしよう?と、海と二人でジョークを飛ばし合う。最高にクールな演奏と、とことんフレンドリーなMCと。田口が「めちゃめちゃ楽しかった」とツアーを振り返れば、健介が「純度120%のLUCKY TAPESです」と胸を張る。ちょうど1年前、前回のツアー中に田口が体調を崩して参加できなかったことを踏まえての発言に、完全体のLUCKY TAPESはこんなに凄いんだぜという強い意志が見える。
そして更なるサプライズ。タイトル未定、レコーディング未定、出来立てほやほやの新曲初披露だ。ゆったりとループするビート、AOR風味をたたえたメロウなキーボード、ささやくような歌声とラップのようなフロウ。派手さはないがじわじわ引き込まれる、素朴なたたずまいがいい。音源になるのが楽しみだ。
「ここで全員で大合唱できたら最高だと思います。みんな一緒に歌ってくれますか?」
ライブ終盤、この日最大のハイライトは新曲「Actor」だった。全ての照明が落とされ、オーディエンスの掲げるスマートフォンのバックライトがステージを明るく照らす。ミッド・テンポの祝祭感あふれるサウンドに乗り、全員が声を合わせる♪ラララのハミングをもう少し長く歌っていたかったと、物足りなく思うほどの幸せな時間。そして本編ラスト「JOY」の、見事なアカペラ・コーラスから始まり、まばゆい光が全てを包み込むフィナーレへ。感動と呼ぶには大げさすぎるが、日常と呼ぶには特別すぎる、心がふんわりあたたかくなる感触。
「普通ならバンドが出て来るんですが。今日は特別に弾き語りを」
アンコール。高橋海がアコースティック・ギターを抱え、「COS」を歌い出す。珍しい光景に見とれていると、二番からステージに飛び込んで来たのは、韻シストのBASIだ。どちらのファンでもある筆者はまたしてもニヤニヤが止まらない。やがてバンドが加わり音が厚くなっていく演出もハマった。BASIの柔らかく包容力あるラップが胸に沁みた。そしてアンコール2曲目は、なんとカバー曲。R&Bシーンの若きヒーロー、ダニエル・シーザーとH.E.R.のデュエット「Best Part」を思い入れたっぷりに歌う高橋海と、幽玄なスロー・バラードを完璧に表現するバンド。こんな特別なものも聴けてしまう、だからLUCKY TAPESのライブはやめられない。
「今日は素晴らしい夜を一緒に過ごしてくれてありがとう。また会いましょう」
健介の挨拶に続く本当のラスト・チューンは「シェリー」だった。祝福のミラーボールが輝く下で、繊細なソウル・バラードを奏でる歌とキーボードに、激しいロック・サウンドを主張するギターやドラムがぶつかり合い、一つに溶けてゆく大団円。パーカッションの松下がドラムまで出張して、笑顔でシンバルを引っぱたいてる。ステージの上にも下にも幸福感しかない。
これにてライブ終了。と思ったのだが、まだ続きがあった。本日完成したばかりの「Actor」のミュージック・ビデオ、まだメンバーも見ていないという作品を「みんなで見ましょう!」という嬉しいサプライズ。メンバーがわざわざフロアに降りて、ファンと一緒になってスクリーンを見つめるシーンがなんだか可笑しい。新潟ロケによる映像は、紅葉の絶景と、モデルの山本奈衣瑠のナチュラルな笑顔が目に眩しい、一編の映像詩。楽しいロケの模様を話す高橋海の言葉も弾んでいる。ぜひチェックしてほしい。そしてHIROSHIとBASIも加わった記念撮影。みんなで叫んだ合言葉は「What’s Time Is?」「Show Time!」だった。
来年はいろいろリリースがあるんじゃないかと思うので、これからも期待して応援してください--。健介の言葉に確かな自信がみなぎる。たった1曲の新曲を携えた7か所の全国ツアーは、待ちわびたファンの熱で大成功に終わった。追い風は吹いている。来年はもっといい年になる。この幸せな時間と空間がもっと多く広くなるとしたら、なんて素晴らしいことだろう。
【取材・文:宮本英夫】
【撮影:Kousuke Ito】
LUCKY TAPES - Actor (Official Music Video)
リリース情報
Actor
2019年10月02日
ビクターエンタテインメント
セットリスト
LUCKY TAPES Tour 2019
2019.11.14@マイナビBLITZ 赤坂
- 01. Lonely Lonely
- 02. レイディ・ブルース
- 03. Balance
- 04. NUDE
- 05. Punch Drunk Love
- 06. Gravity
- 07. 夜想曲
- 08. MAGIC
- 09. GUN
- 10. EASY
- 11. MOOD session
- 12. MOOD
- 13. 22
- 14. 贅沢な罠
- 15. 20190624
- 16. Actor
- 17. JOY 【ENCORE】
- EN1. COS
- EN2. Best Part
- EN3. シェリー
お知らせ
RADIO GIGA 令和 01 HAVE A GREAT NEW YEAR FROM DATE FM
2019/12/29(日)仙台PIT
LUCKY TAPES-NAGOYA Blue Note LIVE 2020-
2020.03.08(日)NAGOYA Blue Note
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。