CRCK/LCKS(クラックラックス)の快進撃は必然を伴いさらに加速すると確信させた『Temporary』リリースツアーファイナル TSUTAYA O-EAST公演
CRCK/LCKS | 2019.12.27
初見なのに、なんて素直な気持ちでいられる居心地がいい空間なんだ――それはCRCK/LCKSの音楽が様々な世代、音楽的嗜好を持ったオーディエンスからの愛ある支持によって存在感を増してきたからなのではないか。メンバーはジャズ界隈を出自としながら、それぞれがJ-POPの中心をサポートし、今や様々なシーンで活躍する凄腕たちだ。とても全ては書き出せないので、わかりやすいところで言えば、発起人である小西遼(sax, key, vocoder,etc)はTENDRE、そして今はCharaバンドのバンマス、小田朋美(vo、key)はcero、越智俊介(ba)は菅田将暉、石若駿(dr)はくるりや、King Gnuの常田大希の別ユニットmillennium paradeをはじめ、若手トップドラマーとして知られ、井上銘(gt)も石若らと2010年代の新しいジャズを開拓してきたミュージシャンだ。また、Negiccoのアルバム参加やライブでの共演も果たすという、近年のポップシーンをアップデートしてきた面々によるバンドだ。
そんな彼らが“Temporary=一時的な”、バンドにとっては“現状の”という意味合いのアルバム+ライブ当日にリリースしたEP「Temporary vol.2」を軸にしたライブを開催。なんと初ワンマンにして1200人キャパのTSUTAYA O-EASTが満員になるなどその注目度の高さがわかる。
オープナーは『Temporary』の実質的な1曲目「KISS」。レアグルーヴィーなノリでフロアが揺れる。ジャズマナーな転調やテクニカルな石若のリズムセンスにツボを押されるのだが、それらも全て極上のポップとして理屈抜きに楽しめるのがクラクラの凄さだ。立て続けに丁寧な仕事が施された料理が供されるような、幸せな気持ちになる。グッとボトムの太いファンクナンバー「IDFC」では、ローの効いた越智の5弦ベースが五臓六腑と腰を揺らす。
さらに序盤のハイライトと言えそうな「春うらら」。端正な8ビートが朴訥としたイメージなのだが、小田の低い音域で静かに伝えるようなAメロから、どこか祈りのように徐々にエモーションが高まってゆくメロディに胸がすくような思いにとらわれる。オルガンの音色もホーリーだ。音源では3分弱の曲だが、エンディングから石若の怒涛のドラム・ソロに突入。まるで歌詞の中で主人公が出会った宇宙人とのその先の物語を体験しているような、リスナーに自由な解釈を残してくれるライブ・アレンジだ。男性の野太い声で「駿、サイコー!」と賛辞が飛び、拍手と笑いが起こる空気感もタフで温かい。まぁ、それも当然というか、ボクサーとコンテンポラリーダンサー両方の動きが相まったような動作から生まれるリズムのしなやかなこと!しかも小田の書く“馴染みのある街でも、ある時間帯に感じる孤独”だったり、“それでも確かに感じる誰かとのつながり”だったり、嘘のない言葉というと陳腐だが、日常の本物の肌感覚がしっかり存在する歌があることで、このバンドのテクニックはより活きる。というか、互いが今までなかったポップミュージックを生み出す原動力になっているのだと感じた。それは比較的、淡々とした「ひかるまち」でダイレクトに染み込んできた。
言葉を一語ずつ置くように歌う「嘘降る夜」はマスロック・バンドもぶっ倒れそうな複雑怪奇なリズムパターン。メランコリックでアーバンな「Crawl」ではメロウな井上のフレーズと、超絶に細かいビートを石若がパッドに手打ちする姿と音に釘付けになる。続く、大きなドームの中で浮遊するような未来からの手紙のような「Searchlight」では、歌詞の世界観をエレクトロニックと生音の融合で触れられるような音像へ昇華して見事だった。
5人のアンサンブルだけでも豊かすぎる体験だが、小西が「今日は過去最大を持ってきた」とバンドの念願だったという弦楽カルテットとのアコースティック・セットをやると発言した時のフロアのリアクションの大きさも凄かった。O-EASTのフロアから見て右側のスペースに弦カルと小田、井上がぎゅうぎゅうに収まっている様子は額縁の中の作品のようで、なんだか愛らしい。アコギとバイオリンのピチカートのユニゾンでグッとイメージが変わった「坂道と電線」、ルーツライクなニュアンスにアレンジされた「Rise」と、全身を豊かな生音に集中させるのがなんとも気持ちいい。そしてこのアコースティック・セットのみならず、ライブ全体のハイライトにもなったのが、厳かなチェロの響きから、大袈裟にならない弦カルのオーバーチュアを加えたこの日ならではのスペシャルな「病室でハミング」へ。歌が始まるまでに小田と井上は定位置に戻り、バンドと弦カルのコラボレーションが実現。
〈わたしというレコードに まっすぐな針を落として〉〈心臓に針を〉――この強いフレーズを(ここだけじゃないとしても)、8人それぞれの解釈で演奏に向かっている、その集中力が結実し、割れんばかりの喝采が起こる。
この中盤までですでにKOされたが、ライブのモードはセンシュアルさと夜のムードを孕んだ「Get Lighter」、「La La La」、小西のボコーダー・ボイスとのデュエットも曲の物語性を立体的にする「傀儡」と、クラクラの表現の引き出しは尽きない。ムーディなブロックに続いて、フロアを揺らすボトムの低いダンスチューン「かりそめDiva」へ。テクニックもサウンドも2019年に更新されたSwing Out Sisterのような親しみやすさを感じる。
この間も度々、初ワンマンに多くの人が足を運んでくれたことへの丁寧な感謝の言葉を述べてきた小西をはじめ、多忙な5人がクラクラというバンドとして、現在地を刻み込めた『Temporary』、そして「Temporary vol.2」を完成させた喜びが伝わってきた。決してライブの回数が多いバンドではないからこそ、待望のワンマンとは言えファンが思い思いのリアクションを返している光景は、お互いが鏡のような存在だからなんじゃないか?と思えた。それが冒頭に書いた居心地の良さの正体だ。
クライマックスは小田がライブでギターを初披露し、80sっぽいポップで盛り上げた「素敵nice」。本編ラストは、〈革命も断絶もできない〉、いわば生煮えな気持ちを抱え、今の日本の都市に生き、それでも前に進もうとする歌詞が素晴らしい「ながいよる」が、渾身のプレイで今という瞬間を立ち上がらせた。そう。揶揄でもなんでもなく、文字通り私たちに必要なシティポップとはこれなのだ。
今のJ-POPの名曲に涙する人も、新世代ジャズ以降の音楽を追いかけている人も、ジャンルに拘らず直感的にプレイリストから好きな音楽を見つけている人も、同じ空間で楽しめる音楽は増えつつあるけれど、自分自身、終盤は拍手のみならず自然とエンディングで声を上げていた。クラクラの快進撃は必然を伴ってさらに加速することだろう。
【取材・文:石角友香】
【撮影:垂水佳菜】
リリース情報
4th EP『Temporary vol.2』
2019年12月18日
APOLLO SOUNDS
2. IDFC
3. interlude#1
4. Crawl
5. interlude#2
6. 素敵nice
7.Rise
セットリスト
1stフルアルバム『Temporary』リリースツアーファイナル 2019.12.18@TSUTAYA O-EAST
- 1.Kiss
- 2.OK
- 3.窓
- 4.IDFC
- 5.No Goodbye
- 6.春うらら
- 7.ひかるまち
- 8.嘘降る夜
- 9.Crawl
- 10.Searchlight
- 11.坂道と電線
- 12.Rise
- 13.病室でハミング
- 14.Get Lighter
- 15.Lalala - Birdsong
- 16.傀儡
- 17.かりそめDiva
- 18.簡単な気持ち
- 19素敵nice
- 20.ながいよる 【ENCORE】
- En.1 Christmas Song
- En.2 Goodbye Girl