30周年を迎えた人間椅子、「バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー」
人間椅子 | 2019.12.30
「オジー・オズボーンと同じステージに立てて、感無量!」と鈴木研一(Ba/Vo)はライブ序盤にMCしていた。そう、オジーの初来日公演は82年7月にこの中野サンプラザで行われている。人間椅子のデビュー30周年を記念したツアー「バンド生活三十年人間椅子三十周年記念ワンマンツアー」のファイナルが、ブラック・サバスの1stアルバム『黒い安息日』の発売日と同じく、"13日の金曜日"に開催された。
19時11分、SE「新青年まえがき」が流れると、紋付袴の和嶋慎治(Gt/Vo)、黒の法衣をまとった鈴木研一、背中に人間椅子の刺繍入り鯉口シャツを着たナカジマノブ(Dr/Vo)のメンバー3人が登場。神秘的なギターの音色が印象的な「宇宙からの色」でライブはスタート。呪術的な鈴木のボーカルが光る「羅生門」、和嶋による落語を挿入した「品川心中」と和テイスト濃厚な2曲を畳み掛ける。激しく、妖しく、トリッキーな人間椅子の魅力を振り撒くと、イントロが聴こえた時点で観客はざわめいた。その独特な曲調の雰囲気に惹き付けられる「芋虫」をプレイ。長尺のインスト・パートも物語性たっぷりで、和嶋によるテルミンが放つスペーシーな音色も効果的だった。
ここで12月に出た全曲英語訳詞付きベスト・アルバム『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』に収録された書き下ろしの新曲「愛のニルヴァーナ」、「悪夢の序章」を放つ。前者はヘヴィなリフが極上のキャッチーさを運び、後者は鈴木、和嶋、ナカジマと順番に絶叫するパートもフック十分。どちらもライブで特段の映え具合だった。過去の名曲群はもちろん、常に新曲が一番かっこいい!と納得させられるところも人間椅子の凄さと言っていい。
そこに「命売ります」が続き、疾走感溢れる曲調に観客も拳を上げてノッている。そのアンセム感のあるサウンドも、中野サンプラザという会場と抜群にマッチしていた。演奏後、「広くて気持ちいい!来年、ドイツ、イギリスに行く。30年かかりました。来年は海外の活動が増えるんじゃないかな」と和嶋が嬉々とした表情で話すと、海外に行く呼び水となり、今や世界各国から賛辞のコメントが寄せられ、驚異の再生回数を記録している「無情のスキャット」へ。すると、強靭なリフに合わせて1階席、2階席とヘッドバンギングに興じる観客の姿が一気に増え、途轍もない盛り上がりを記録した。今日の公演はYouTubeにて全世界生配信されていることもあり、海の向こうでヘドバンしている人もいるかもしれない。あるいは、映像で初めて人間椅子のライブを観て、「日本にこんなに凄いバンドがいたのか!」と驚いている人もいるはずだ。頭の片隅でそんな絵を浮かべるだけでワクワクした。
そして、おどろおどろしいお経パートを用いた「芳一受難」、9分台の大作「深淵」と重厚なサウンドで聴かせた後、「俺の最新のヒット・ソング、心を込めて歌うぜ!」とナカジマが言うと、自らボーカルを務めた「地獄小僧」が炸裂。力強い歌声とドラムを会場に轟かせると、観客もグッと熱くなるのが伝わってくるほど。ライブも後半に差し掛かり、ブラック・サバス張りの地を這うヘヴィネスにシビれる「陰獣」に突入。テンポ・チェンジする曲展開もスリリングでグイグイと引き込まれてしまう。その後、メランコリックな旋律を配した「人面瘡」へ繋ぎ、重量級の音色の中に軽妙なポップさを感じさせるアレンジも冴えていた。
ラスト曲「針の山」においては銀テープが飛び出す演出があったり、和嶋がステージ上をピョンピョン飛び跳ねると、観客もそれに連動してジャンプしたりと、人間椅子30周年を祝福するポジティブな活気が会場をすっぽりと覆い尽くした。この時点で既に憂に2時間を過ぎていたが、まだまだこれで終わるわけにはいかない。
アンコールに応え、メンバー3人が出てくると、「"あっという間だった"と楽屋で鈴木くんが言ってた。特効、楽しいでしょ?」と和嶋。「銀テープは「針の山」の"針"のつもり」と鈴木なりのこだわりもさりげなく開陳。「雪女」、「地獄」と2曲プレイし、観客を再びヒートアップさせると、この中野サンプラザ公演が映画化されることが発表された。ライブ中もずっと人間椅子とサンプラザの相性の良さを痛感していただけに、これは嬉しいニュースであった。どんな風に仕上がるかは不明だけれど、今から本当に楽しみである。人間椅子の歩み自体が映画のようにドラマティックなのだから、絶対に面白いに決まっている。
さらにWアンコールにも応えると、最終曲「なまはげ」でトドメを刺し、トータル2時間半に及ぶショウは盛大に幕を閉じた。全18曲を駆け抜け、30周年の歴史を集約した個性極まりない楽曲の数々に魅了されっぱなしであった。僕はデビューから観ているわけではないけれど、現在進行形でもっとも脂が乗ったハードロックの息吹を届けてくれる無二のバンドである。それを毎回のライブできっちりと証明し、それを更新し続けて、30周年を迎えたのだから、まだまだ人間椅子の成長進化は止まらないだろう。いや、むしろここからが始まりなのだ!と思わせる覇気と衝動に満ち溢れた30周年記念ライブだった。
メンバーがMCでも言っていた通り、来年2月にはドイツ、イギリスと海外ツアーも決定している。"和製ブラック・サバス"が遂に本家を生んだイギリスに30年の歳月を経て乗り込むことを想像するだけでも、胸が熱くなってくる。日本はもちろんのこと、世界中のハード・ロック・ファンの心を射抜いてほしいものだ。
【取材・文:荒金良介】
【撮影:西槇太一】
リリース情報
人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤
2019年12月11日
徳間ジャパンコミュニケーションズ
1.命売ります
2.陰獣
3.針の山
4.なまはげ
5.芳一受難
6.人面瘡
7.羅生門
8.品川心中
9.りんごの泪
10.雪女
11.賽の河原
12.異端者の悲しみ
13.ダイナマイト
14.どっとはらい
[DISC2]
1.愛のニルヴァーナ
2.悪夢の序章
3.宇宙からの色
4.洗礼
5.相剋の家
6.地獄
7.深淵
8.死神の饗宴
9.黒猫
10.芋虫
11.無情のスキャット
セットリスト
バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー
2019.12.13@中野サンプラザホール
- 01. 宇宙からの色
- 02. 羅生門
- 03. 品川心中
- 04. 芋虫
- 05. 愛のニルヴァーナ
- 06. 死神の饗宴
- 07. 悪夢の序章
- 08. 命売ります
- 09. 無情のスキャット
- 10. 芳一受難
- 11. 深淵
- 12. 地獄小僧
- 13. 陰獣
- 14. 人面瘡
- 15. 針の山 <アンコール>
- 16. 雪女
- 17. 地獄 <ダブルアンコール>
- 18. なまはげ
お知らせ
トントン拍子でウンザウンザを踊るツアー
2020/01/13(祝月) 高崎club FLEEZ
NINGEN ISU EU TOUR 2020
2020/02/19(水) ドイツ ベルリン Lido Club
2020/02/20(目) ドイツ ボーフム Zeche Bochum
2020/02/21(金) イギリス ロンドン Underworld Camden
弘前マグネット 人間椅子2days
2020/03/28(土) 弘前マグネット w/Mary’s Blood
2020/03/29(日) 弘前マグネット
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。