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Maison book girl、新しい世界へ飛び立つためのアップデートを思わせた「Solitude HOTEL ∞F」

Maison book girl | 2020.01.08

 Maison book girl史上、最大規模のワンマンライブとなったLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演。チケットはソールドアウトして、客席は観客で埋め尽くされていたが、開演前に会場内を満たしていたのは、何処か緊張感も含む静けさ。日常から切り離された世界に足を踏み入れたことを本能的に感じざるを得ない独特な気配が漂っていて、“ブクガのライブに来た!”というワクワクを早速高めてくれた。“Solitude HOTEL”のシリーズは、毎回、観客を前代未聞の形で刺激する音、視覚効果、演出で彩られた空間を作り上げる。“演劇的である”という表現をする人も多い。今回の“∞F”は、どのようなものとなるのだろうか?

 SE「風の脚」が流れ始めて、ゆっくりと上がった幕。ステージ上のLEDビジョンには波打つ海面の映像が流れていた。そして、スタートした「海辺にて」。矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミの歌声が響き渡った瞬間、息を呑む他ない風景が、我々の前に突然広がった。LEDビジョンは透過型なのだろう、映像の向こう側に薄っすらと浮かび上がったメンバーの姿。海の映像と4人の実像が重なり合う様と向き合うと、彼女たちが水中で歌っているのを観ているような感覚になってくる……。2曲目「闇色の朝」も、映像の向こう側で歌って踊る4人の姿が幻想的に揺らめいたが、突然訪れた暗転と静寂。照明が明るくなると、彼女たちはスクリーンの前に移動していて、パフォーマンスを再開。派手な何かが行われたわけではないのだが、五感をグラグラと揺さぶられるような気がするオープニングであった。

 ステージ上には大道具、小道具の類は一切置かれておらず、基本的には完全な素舞台。映像、照明、サウンド、メンバーのパフォーマンス――その全てが密接に融合、シンクロしながら作り上げられた空間は、観客を不思議な世界へと巻き込み続けた。LEDビジョン上に浮かび上がったグラフィックに彩られながら披露された「rooms」「狭い物語」「夢」……様々な曲を受け止めている内に、募っていった夢見心地の恍惚。そして、LEDビジョンが上昇して姿を消し、左右に開いた幕の向こう側に現れた大型スクリーン。一気に広くなったステージを目いっぱいに使って披露された「長い夜が明けて」は、トンネルを抜けて明るい場所に出た時のような開放感で我々を包んでくれた。

 「LandmarK」「鯨工場」「ノーワンダーランド」……ステージから届けられ続けた音、視覚効果も含めたあらゆる要素を受け止めて、椅子に座ったままイマジネーションを自由に羽ばたかせていた観客の姿は、他の多くのライブの対極にあるものだったと言えるだろう。“大人しい”と表現しても間違いではないのだと思う。しかし、各々が胸中で描き上げた世界への憧れが、周囲のムードを通してまざまざと伝わって来たあの空間は、紛れもなく桁外れの昂揚感で満たされていた。メンバーたちがコールを煽る「my cut」に突入すると、座りながら拳を突き上げる人々が少し現れたが、突然鳴り響いたノイズ……ステージに降下してきたLEDビジョンも、“砂嵐”と一般的に称される白黒のノイズ映像で満たされた。そしてスタートした「MORE PAST」。「my cut」に穏やかなピアノサウンドを基調としたアレンジを施したこの曲を、ノイズ映像の向こう側で披露した4人の姿は、パラレルワールドに存在するブクガを粗い画面越しに覗き込んでいるかのような効果を生み出していた。

 白いペストマスクを着用して、ステージ上をゆっくりと歩いたひとりのパフォーマー。その存在に気づかない様子で歌い、踊った4人――現実と異世界の交差を思わせる空間を作り上げた「レインコートと首の無い鳥」。そして、その後に続いた「karma」には、とても驚かされた。ブクガのライブの定番のひとつであるこの曲だが、「cloudy irony」の歌詞とダンスをアレンジしたものになっていて仰天! トラックは「karma」のままであったにも拘わらず、完全に別モノとなっていたのに向き合っている内に、“あり得るのかもしれないもうひとつの世界”に迷い込んだ感覚となってしまった人が、少なからずいたのではないだろうか。

 4人のソロパフォーマンスが繰り広げられた「water」。薄水色の照明で染まった背景に、踊る彼女たちの影が揺らめく様が美しかった「シルエット」。矢川、井上、和田がポエトリーリーディングをする中、コショージがソロでダンスパフォーマンスを繰り広げた「思い出くん」。耳を傾けていると何とも言えず切なくなるメロディを響かせた「ランドリー」。そして、「bath room」は、大きな衝撃であった。イントロを逆回転させるという意表を突く新アレンジを経てスタートしたこの曲は、少しずつスローテンポになって違和感を醸し出し、ついには不穏な異音と化してしまった。そこに現れたのは、真っ白な衣装を血糊で染めたコショージ。彼女が発した「君を見ていた!」という言葉に対して、「見たくなかった!」と返した和田――ふたりの激しい叫びが交わされた後、4人が血糊を浴びた状態で披露された「悲しみの子供たち」が、とても美しかった。サイケデリックな映像に彩られながら、全力で喉を絞り上げるように届けられた歌声。『Solitude HOTEL ∞F』のエンディングをドラマチックに飾ったラストナンバーであった。

 アンコールは行われず、スクリーンには4月にベストアルバム『Fiction』がリリースされる旨を告げる文字が浮かび上がった。そして迎えた終演――このライブに関しては、観客各々の解釈があるだろうが、多くの人にとってキーワードのように感じられたのは、“過去の再構築”“アップデート”を思わせる要素の数々ではないだろうか? 「MORE PAST」や、予想外のアレンジが施されていた「karma」と「bath room」は、過去を塗り替えて、新たな何かを生み出すイメージを喚起してくれた。また、「bath room」の時にメンバーが身に纏っていた真っ白な衣装は、最新のソロアーティスト写真で着ているもの、もしくはそれに極めて近いデザインのもの。それを真っ赤な血糊で染めたというのも、“更新”を表現していたと考えることができる。この解釈が完全に間違っている可能性も大いにあり得るが、ベストアルバムのリリースも控えている今、Maison book girlが、これまでの軌跡の総括を経て、新しい世界へと飛び出そうとしていると捉えるのは、それほど見当外れのことでもない気がする。2020年のブクガも、我々を様々な形で魅了してくれるはずだ。

【取材・文:田中 大】
【Photo by 稲垣謙一】

tag一覧 ライブ Maison book girl

リリース情報

海と宇宙の子供たち

海と宇宙の子供たち

2019年12月18日

ポニーキャニオン

01.風の脚
02.海辺にて
03.闇色の朝
04.悲しみの子供たち
05.ノーワンダーランド
06.シルエット
07.LandmarK
08.鯨工場
09.ランドリー
10.長い夜が明けて
11.思い出くん

セットリスト

Solitude HOTEL ∞F
2020.1.5@LINE CUBE SHIBUYA

  1. SE.風の脚
  2. 01.海辺にて
  3. 02.闇色の朝
  4. 03.rooms
  5. 04.狭い物語
  6. 05.夢
  7. 06.長い夜が明けて
  8. 07.LandmarK
  9. 08.鯨工場
  10. 09.ノーワンダーランド
  11. 10.my cut
  12. 11.MORE PAST
  13. 12.レインコートと首の無い鳥
  14. 13.karma
  15. 14.water
  16. 15.シルエット
  17. 16.思い出くん
  18. 17.ランドリー
  19. 18.bath room
  20. 19.悲しみの子供たち

お知らせ

■ライブ情報

RINGO DEATHSTARR JAPAN TOUR 2020 東京公演
01/29(水) 東京・吉祥寺CLUB SEATA
w) RAY

RINGO DEATHSTARR JAPAN TOUR 2020 名古屋公演
01/30(木) 名古屋・栄TIGHT ROPE
w) Pia Fraus (from Estonia)

RINGO DEATHSTARR JAPAN TOUR 2020 大阪公演
01/31(金) 大阪・心斎橋FANJ twice
w) Pia Fraus (from Estonia)



te’ × Phew × Maison book girl
[te’ 15th Anniversary 1st LIVE]

02/01(土) 東京・WALL&WALL
w) te’[te’ 15th Anniversary 1st LIVE]/Phew

sora tob sakana presents
「天体の音楽会Vol.3」

02/08(土) 東京・TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、duo MUSIC EXCHANGE

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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