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BUCK-TICK『THE DAY IN QUESTION 2019』ツアーファイナル

BUCK-TICK | 2020.01.10

 BUCK-TICKが『THE DAY IN QUESTION 2019』と銘打って12月29日(日)、国立代々木競技場第一体育館のステージに立った。今回は、群馬・愛知・大阪2daysに続くツアー・ファイナルである。これまで12月29日は日本武道館が恒例だったが、今年は東京2020オリンピックに向けて改修中であるため、初めて彼らは代々木をステージに選んだのである。

 オープニングSEに合わせて太陽のフレアのような炎が舞うCGが流れ、『THE DAY IN QUESTION 2019』の文字が浮かび上がると会場を埋めた12000人から大きな歓声が起こった。今井寿(G)、星野英彦(G)、樋口豊(B)、ヤガミ・トール(D)が位置につき、ゴシックな「夢魔-The Nightmare」のイントロが流れると一段と歓声が高まり、ステージ中央後方に薄いベールで上半身を覆った櫻井敦司(Vo)が現れた。中世の宗教曲のような雰囲気を持つこの曲は、暗黒の中で彷徨う魂の歌だ。場内は一気にこの世と思えぬ空気に包まれ、曲に合わせてステージに向け無数の腕が差し伸ばされた。

 ヤガミのドラムが曲を切り替え、その光景に応えるように“この手伸ばして”と歌う「唄」に。櫻井が「みなさん、こんばんは。代々木体育館は初めて舞台に上がります。こんなにたくさんの方がいらしてくれて、本当に幸せです。最後までどうぞ楽しんで行ってください」と挨拶して始めた最新シングルの「獣たちの夜」は、目まぐるしく動くアブストラクトなCGが曲のスピード感を増幅させた。

 「Jonathan Jet-Coaster」は今井のギターがさらにバンドを加速させ、マイクスタンドをセクシャルに撫でる櫻井の手元がスクリーンに一瞬アップになる。その手元が「羽虫のように」では蝶の形になり、“生きてるだけじゃ足りなくて”と4つ打ちに合わせて羽ばたいた。こうした細やかな表現は櫻井ならでは。それを捉えるカメラワークも絶妙だ。

 ダイナミックなバンド・サウンドから一転し、今井のエレキギターと星野のアコースティック・ギターが対照的な音色で絡み合った「絶界」は、樋口のエレクトリック・アップライトベースとヤガミのドラムも入り乱れた後半に演奏の面白さが際立った。

 個性的なプレイと発想で知られる今井の遊び心が童謡「メリーさんの羊」を弾かせた「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」。クローン羊に着想を得た曲だが、今井がヴォーカルも取る数少ない曲の一つだけにオーディエンスの気持ちも上がる。「PINOA ICCHIO-躍るアトム-」と今井ヴォーカルのアッパーな曲が続き、場内の空気が高揚した。

 櫻井が再びベールを被りじっくりと歌った「月下麗人」、ステージ後方のスクリーンに雪が舞った「Snow white」では、いつしか櫻井たちの上に雪が降りかかっていた。今井が「きよしこの夜」を奏でた「SILENT NIGHT」は、消え入りそうな歌が確かな存在感を示す美しい曲になっていた。

 一瞬の静寂を切り裂きティンパニが派手に鳴り響いた「Alice in Wonder Underground」は、シルクハットを被った櫻井がカーニバルへと誘い、「レッツゴー、ヒサシ・イマーイ!」とスターを呼び出す。お馴染みのイントロに場内が湧いた「スピード」ではマラカスを振りながら櫻井が歌い、今井と星野がスステージを走り回れば樋口も前に飛び出してくる。91年のシングル曲だけに、彼らの体の一部になっているかのようだ。ダンサブルな「独壇場Beauty-R.I.P.-」は今井のステップに合わせて場内が揺れ、ハンドクラップが高い天井まで響き渡った。

 「みなさん、どうもありがとうございました」と櫻井が告げた本編ラストは「FLAME」。幻想的なサウンドをまとった美しいメロディを伸びやかなヴォーカルで聴かせる出色のバラードが、この1年に起きた様々なことを浄化してくれるようだった。

 新曲がメインになるリリース・ツアーや定番曲が多いイベントなどと違って、『THE DAY IN QUESTION』は自由に新旧の曲を選んで構成されてきた。あまり演奏したことのない曲や、シングルではないがファンに人気の高い曲、メンバーの思い入れがある曲など、少々マニアックな選曲になるのが楽しみの一つ。今回も本編はそんな趣旨を貫いた構成で、濃厚なBUCK-TICKらしさを味わえる流れになっていた。

 アンコールでは、まずは1月にリリースする新曲「堕天使」を披露。グラマラスな堕天使が降臨するキレのいいギターで聴かせるポップ・チューンだ。次いでTVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」エンディングテーマになった「RONDO」。弦楽器がクラシカルな雰囲気を作るタンゴ調の曲は百鬼夜行のためのマーチのよう。その後を追って“愚者が行く”と歌う「無題」の深い闇に潜むカオスもまた、BUCK-TICKが掘り下げ続けてきたものだ。この3曲は、現れるべきでないものを見ることで生まれるカタルシスを知らしめた。  セカンド・アンコールはそんな闇から少しずつ抜け出し現世に帰してくれた。アコースティックなサウンドにハンドクラップが重なった「Coyote」、緩やかに踊る「ドレス」と幻惑的な曲が続き、「美しいエイトビートを聴いてください」と櫻井が言った「惡の華」は“遊びは終わりにしようぜ”と5人が一丸となって夜を駆け抜ける。不動のメンバーで35年を駆け抜けてきた彼らの絆が浮かび上がるようだった。

 歌い終えて櫻井は、スタッフへの感謝と、このライブを中継しているWOWOW視聴者への挨拶をした後にメンバーを一人ずつ紹介。最後に紹介されたヤガミのドラム・ソロが場内を盛り上げたところで、再び櫻井が口を開いた。 「それでは良いお年をお迎えくださいませ。ありがとうございます。みなさんどうか、幸せに」

 一瞬、言葉に詰まったように見えたのは気のせいだろうか。もっと言いたいことがあったのではとも思うが、櫻井は簡潔に言葉を締めくくった。 「最後に1曲。みなさん、自分を愛しましょう」

 ラスト・ナンバーは「LOVE ME」。滑らかなメロディが優しく包み込む幸福な時間になった。間奏で今井は童謡「お正月」のフレーズを挟み込んで年末気分を楽しませ、明るい照明がワイパーのように手を振り続ける笑顔を照らし出した。初の代々木競技場第一体育館でもBUCK-TICKは、武道館と変わらず『THE DAY IN QUESTION』の世界を描き出していた。

 歌い終えて櫻井は「また会いましょう、必ず」と言い優しく投げキッスをしてステージを降りた。最後までギターを鳴らしていた今井は、珍しく「ピース!」と言い残して袖へと消えた。

 その後の告知で、2020年の予定が発表された。5月のファンクラブ&モバイルサイト会員限定ツアー、夏には22作目の新作を発表し、秋にはホールツアーを行う。そして1年後の12月29日、日本武道館に戻ってのライブ。これまでも粛々と足を進めながら常に模索し続けてきた彼ら。これからの1年も、また新しい姿を見せてくれるに違いない。

【取材・文:今井 智子】
【撮影:田中聖太郎、立脇卓、渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル BUCK-TICK

リリース情報

堕天使

堕天使

2020年01月29日

ビクターエンタテインメント

1. 堕天使
2. Luna Park

リリース情報

PARADE III ~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~

PARADE III ~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~

2020年01月29日

ビクターエンタテインメント

01. ICONOCLASM / BRAHMAN
02. 青の世界 / 八十八ヶ所巡礼
03. 形而上 流星 / minus(-) featuring 藤川千愛
04. 天使は誰だ / GRANRODEO
05. JUPITER / シド
06. Lullaby-III / 黒色すみれ
07. 愛の葬列 / DER ZIBET
08. LOVE ME / Cube Juice
09. 唄 / 椎名林檎
10. NATIONAL MEDIA BOYS / DIR EN GREY
11. ミウ / 坂本美雨
12. 惡の華 / GARI
13. JUST ONE MORE KISS / 藤巻亮太

セットリスト

THE DAY IN QUESTION 2019
2019.12.29@国立代々木競技場第一体育館

  1. 1.夢魔-The Nightmare
  2. 2.唄
  3. 3.獣たちの夜
  4. 4.Jonathan Jet-Coaster
  5. 5.羽虫のように
  6. 6.絶界
  7. 7.細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM
  8. 8.PINOA ICCHIO-躍るアトム-
  9. 9.月下麗人
  10. 10.Snow white
  11. 11.SILENT NIGHT
  12. 12.Alice in Wonder Underground
  13. 13.スピード
  14. 14.独壇場Beauty-R.I.P.-
  15. 15.FLAME
  16. ENCORE1
  17. 1.堕天使
  18. 2.RONDO
  19. 3.無題
  20. ENCORE2
  21. 1.Coyote
  22. 2.ドレス
  23. 3.惡の華
  24. 4.LOVE ME

お知らせ

■ライブ情報

「FISH TANKer’s」and「LOVE & MEDIA PORTABLE」ONLY LIVE
2020/05/23(土)Zepp Tokyo
2020/05/24(日)Zepp Tokyo
2020/05/31(日)Zepp Fukuoka
2020/06/06(土)Zepp Osaka Bayside
2020/06/07(日)Zepp Nagoya
2020/06/13(土)仙台GIGS
2020/06/14(日)KT Zepp Yokohama
2020/06/21(日)Zepp Sapporo

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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