前へ

次へ

眉村ちあき、New Album『劇団オギャリズム』発売記念ワンマン

眉村ちあき | 2020.01.22

 「もっと効率的に動いてよねえ~」という意地悪そうな声が鳴り響くと、「すいません!」と謝りながら現れた眉村ちあき(以下、ちちゃん)。どうやら笑顔と元気を振りまく接客をしていることを咎められているアルバイト店員――という設定の役を演じているらしい。いきなり妙な芝居が始まってしまい、観客の間に広がったクスクス笑い。彼女が嬉しそうに腰に巻いているサロンエプロンは、数時間前にツイッターで呼びかけて調達したものだ。そして、「私は譲れない。この店で一番笑顔で、愛を持った接客をすることを誓います!」という宣言と共に「顔面ファラウェイ」がスタート。幕が開いてライトで照らされたステージの上手側に大きなお立ち台があるのが目を引いた。サッポロ一番塩ラーメンの5食入りパックと、ミニサイズのカップ麺が、お立ち台の片隅に置かれているように見えるのは、果たして目の錯覚なのか? ……というようなことを気にしている暇もあまりなく、エレキギターを弾きながら歌い始めた彼女の姿が、とにかく眩しかった。続いて、「スーパードッグ・レオン」を歌った彼女が元気いっぱいに飛び跳ねた様は、手足の生えたゴム毬のよう。天真爛漫な存在感が、全開できらめいたオープニングであった。

 ちちゃんのパンチの利いたソウルフルな歌声と、《土井! 土井!》というマユムラー(眉村ちあきファンの呼称)の野太い合いの手が響き渡った「壁みてる」。瑞々しいメロディをじっくり堪能させてくれた「なんだっけ?」……序盤の4曲の時点で、歌声や歌唱スタイルの多彩さが早くも目いっぱいに発揮されていた。初めてライブを観る人もいたのだと思うが、表現力の豊かさに驚いたのではないだろうか。最新アルバム『劇団オギャリズム』の収録曲で、ライブ初披露となった「チャーリー」をうっとりしながら噛み締めたマユムラーは、エンディングを迎えた瞬間、大きな拍手で彼女の晴れ舞台を祝福していた。

 「夏のラーメンワルツ」では、先述のサッポロ一番塩ラーメンのカップ麺が大活躍していた。イントロが流れる中、蓋を開けてポットから丁寧にお湯を注ぎ始めたちちゃん。「この曲のアウトロくらいには出来上がってる~」と嬉しそうに言いつつ歌う間に、カップ麺は着々と出来上がりに近づいていった。するとスタッフが現れて、ズルズル啜って食べちゃった! 続いて、フロアを埋め尽くした人々が一斉にスクワットをする様が、超常現象のようで壮観だった「スクワットブンブン」。ボイスパーカッションなのかスキャットなのか、なんだかよくわからない音声のコール&レスポンスを、みんなで楽しんだ後に雪崩れ込んだ「ピッコロ虫」は、途中で“2月までに免許を取らないと期限切れになってマジでヤバいと思っていたが、本当のデッドラインは9月であることがわかった”という旨の即興の歌詞へと変化……というような具合で、目まぐるしい展開は、その後も続いた。自由奔放なパフォーマンスを繰り広げるちちゃんもすごいが、観客の対応力も素晴らしい。唐突な行動に完璧に応えて楽しさを加速していくマユムラーも、彼女のライブに欠かせない存在であることを実感させられた。

 クラウドサーフでマユムラーの頭上を漂ってフロアの隅々までを巡る姿が、聖人による奇跡の御業のようだった「奇跡・神の子・天才犬!」。突然始まった「贈る言葉」の大合唱。疲れ切って倒れ込んだ後、立ち上がって水を飲んだ彼女を、「水が飲めてエライね~」と褒め称えたマユムラーの声。そして、「大好き! 何をやっても褒めてくれるよね? そんな気持ちを込めて歌います」という言葉を添えて、アコースティックギターの弾き語りで届けられた「私についてこいよ」。彼女が抱いているマユムラーへの愛情が伝わってきて、とてもグッとくるものがあった。

 「緑のハイヒール」と「あたかもガガ」の美メロでうっとりとさせてくれた後に披露された「おばあちゃんがサイドスロー」にも驚かされた。籠に入れたカラーボールをサイドスロー、時々のオーバースローでフロアに投げ込みつつ歌っていたのだが、途中で彼女の衣装が色とりどりのLEDの光を発したものだから仰天! 上下白の衣装は、彼女にしてはシンプルなので、“珍しいこともあるものだな”と思っていたのだが、こんな仕掛けがあったとは! 某テーマパークのアトラクションにも負けないくらいかっこよく輝いたエレクトリカルちちゃんを観られて、マユムラーは興奮していた。

 「今日は何の日ですか? はい、そうです。成人の日です。○☆※*@国(聞き慣れない変な音声の国名)という国では、成人の日に、あるものを運ぶという儀式があります。おい! 誰も知らないのかよっ! ヘチマを運ぶんだよ!」――成人の日を祝ってヘチマをみんなで運ぶことになった「ヘチマで体洗ってる」。ヘチマを落下させると次の日に死んでしまうという、なんとも恐ろしい儀式であったが、フロアにふたつのヘチマ型ゴムボート(ヘチマではなくてサボテンに見えたが、“ヘチマ”とちちゃんが言うのだからヘチマ)が投入されて、マユムラーは大喜びしながら運んでいた。披露し終えた後、「みんなには福が訪れるでしょう!」と言いつつ、最前付近のマユムラーと戯れていたちちゃん。すると、ヘチマはステージとフロアの間の空間に落下……。「落としたら死ぬんだった! すっかり忘れてたよ。自分で作った設定なのに」と彼女はテヘペロ顔を浮かべて、爆笑を誘った。

 瑞々しいメロディと歌声が、実に美しかった「DEKI☆NAI」と「タイムスリッパー」を経て、再び迎えた小休止。“どんな場でも、唐突にイエー!と叫んだら、ちゃんとイエー!と返さないといけない”とマユムラーに約束させた後、「アルプス一万尺」を熱唱。意味不明の音声によるコール&レスポンスも始まり……というシュールな展開にちゃんと対応してもらえたことに、大満足していたちちゃん。即興で歌ったり、変なダンスを踊ったりして過ごしている内に、「アンコオオオー!(2拍手)アンココ!」という妙な節回しと手拍子によるアンコールの求め方も思いついていた。そんな和やかなひと時の後、本編ラストに届けられた「大丈夫」。エレキギターを弾いて歌った彼女の声が、マユムラーの心を優しく鼓舞しているのを感じた。

 「アンコオオオー! アンココ!」という声と手拍子が響き渡り、アンコールが始まる前に、“図書館の先生(司書教諭のことだと思う)となったちちゃんが合コンに参加”という設定のムービーがスクリーンで流れた。「いいよなあ、合コン」とぼやきつつ、ステージに現れた店員役のちちゃん。どうやらオープニングの芝居の続きらしい。すると、「運命の出会い。相手は待ってるだけじゃあ現れないわよ」――東京湾に住み着く女神の声が聞こえてきた。「あなた、運命の相手に出会いたいの? じゃあ、豊洲のダンスホールでパーティーさせてあげるわ。そこで歌を歌いなさい。必ず運命の人が現れるわ。豊洲PITよ。4月3日」。随分と手の込んだスタイルで発表されたのは、2月7日・宮城・spaceZero公演を皮切りにスタートする『CHIAKI MAYUMURA 2nd Tour 劇団オギャリズム』のファイナル公演であった。「やったー!」とみんなではしゃぎながら突入した「ナックルセンス」は、手拍子と激しいコールの嵐。フロアに投入されたヘチマに乗ったちちゃんがマユムラーの頭上を漂う姿が、とても気持ちよさそう。そして、引き続きヘチマに乗って漂流しながら歌った「ビバ☆青春☆カメ☆トマト」は、明るい大合唱を巻き起こしていた。

 「ほんとはそろそろ1万人くらいのキャパでやっときたかったんだけどさあ。意外とメジャーって難しいね。早く日産スタジアムに行きたいね? その時は“アンコオオオー! アンココ!”をやってね。今日来た千人でやるんだよ。6万9千人(日産スタジアムのキャパは、7万人らしい)に立ち向かえるかーっ? 他の6万9千人を巻き込もう! 今日からあなたは私の分身だからね」と呼びかけてから披露された「本気のラブソング」。回転したミラーボールの光の粒子がキラキラと広がる中、手を振り合ったちちゃんとマユムラーは、とても穏やかな空間を作り上げていた。

 そして、終演を迎えたように思われたのだが、ダブルアンコールで「メソ・ポタ・ミア」が届けられた。飛び跳ねながら掲げていたちちゃんとマユムラーの手と腕の形は、いつしか変化。このライブで初お披露目された“眉村ちあき”というロゴに盛り込まれているダチョウの頭部と首のようなフォルムを描くようになっていった。フロアの風景は、まるでたくさんのダチョウがはしゃいでいる平和な大草原。ちちゃん&マユムラーの心が完全に繋がり合っていることを、ダチョウのポーズが示しているようにも感じられた。こんな人たちがスタジアムでライブをやったら、どうなるのだろう? そんな日の到来が、とても待ち遠しくなった。

【取材・文:田中 大】
【撮影:樋口 凉】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 眉村ちあき

リリース情報

劇団オギャリズム

劇団オギャリズム

2020年01月08日

TOY’S FACTORY

01.DEKI☆NAI
02.壁みてる
03.夏のラーメンワルツ
04.おばあちゃんがサイドスロー
05.タイムスリッパー
06.あたかもガガ
07.緑のハイヒール
08.チャーリー
09.スクワットブンブン
10.私についてこいよ
11.スーパードッグ・レオン
12.顔面ファラウェイ
13.ぬ
Bonus Track:
アハハハハ
チャーリー(レコーディング前日までこれになる予定だったVersion)

セットリスト

#ちのてきこえん! 第704回 渋谷編
2020.1.13@TSUTAYA O-EAST

  1. 01.顔面ファラウェイ
  2. 02.スーパードッグ・レオン
  3. 03.壁みてる
  4. 04.なんだっけ?
  5. 05.チャーリー
  6. 06.夏のラーメンワルツ
  7. 07.スクワットブンブン
  8. 08.ピッコロ虫
  9. 09.奇跡・神の子・天才犬!
  10. 10.ナックルセンス
  11. 11.私についてこいよ
  12. 12.緑のハイヒール
  13. 13.あたかもガガ
  14. 14.おばあちゃんがサイドスロー
  15. 15.ヘチマで体洗ってる
  16. 16.DEKI☆NAI
  17. 17.タイムスリッパー
  18. 18.大丈夫
【ENCORE】
  1. 01.ナックルセンス
  2. 02.ビバ☆青春☆カメ☆トマト
  3. 03.本気のラブソング
【W ENCORE】
  1. 01.メソ・ポタ・ミア

お知らせ

■ライブ情報

CHIAKI MAYUMURA 2nd Tour
劇団オギャリズム

02/07(金) 宮城・仙台 spaceZero
02/09(日) 北海道・札幌COLONY
02/11(火) 新潟・GOLDEN PIGS Yellow Stage
02/22(土) 静岡・磐田FMステージ
02/23(日) 愛知・名古屋SPADEBOX
02/24(月) 大阪・BananaHall
03/06(金) 福岡・DRUM Be-1
03/08(日) 広島・SECOND CRUTCH
03/22(日) 栃木・HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
04/03(金) 東京・豊洲PIT



試練の虎2020-DAY1-
01/27(月) 神戸太陽と虎

エレキ大浴場43
01/31(金) 京都MOJO

BAYCAMP 20202
02/01(土) 川崎CLUB CITTA’+A’TTIC

クソイベ
02/04(火) 大阪BIGCAT

眉村ちあきの劇団オギャリズムツアーではないけど滋賀に行く日
03/28(土) やまなみ工房ライヴハウスBan Boo Bon

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る