「ドミコ中毒、増幅中」を実感する新作へのブリッジ的ワンマンライブ東京編
ドミコ | 2020.01.31
個人的には4月の「Nice Body Tour?」ツアー、恵比寿リキッドルーム以来となるドミコ。アンコール1曲目に初披露した新曲がとんでもないサウンドと構造で、すっかりその印象に支配されてしまった。さかしたひかる(Gt/Vo)が「ニューアルバムの中でも一番気持ち悪い曲をやります」と言った通りなのだろうが、よりにもよって一番気持ち悪い曲を待望の新作の中からチョイスするのがいかにも彼らしい。ちなみにライブ後、話を聞くと「スタジオに入りすぎてやりすぎて訳が分からなくなった結果」がその新曲の“気持ち悪さ”(個人的には爆笑するぐらい素晴らしい)の理由で、他の楽曲は「ドミコらしい」という。しかし今のドミコは一言で「らしい」と言える音楽性が浮かばない。でも、どうしようもなく踊りたくなったり、声を上げてしまう秘孔みたいなものにブスッと針を命中させるゴッドハンド&ブレインの解像度は間違いなく上がっている。
アルバムツアー以降も配信リリースした「WHAT’S UP SUMMER」、数多くの夏フェス、今や盟友となったTempalay、MONO NO AWAREとの2年前の中国ツアーからの成長を日本で見せるツアー、埼玉の先輩、the telephonesとの2マンやTENDOUJIのツアーへの参加などなど、新しいオーディエンスとの出会いが増えた2019年だったと思う。さらに「ペーパーロールスター」がApple Musicの日本独自CM「5000万曲で忘れられない夏に」に起用され、Apple Japanの公式YouTubeチャンネルで流れたことがきっかけになったリスナーもいるはずだ。この日のオーディエンスは相変わらず年齢層は広いが、若年層も増えた印象。リリースを伴わないツアーだが、下北沢GARDENは即Soldoutの超満員状態だ。
いつも通り先にステージに現れた長谷川啓太(Dr)の髪型がスタイリッシュな短髪になっていることにざわめきつつ、続いて比較的、威勢よく登場したさかしたが、素のギターサウンドの弾き語りで「怪獣たちは」を歌い始めて、フラットなテンションでライブはスタート。ドラムサウンドもデッドな鳴りで、土臭さとメロディの良さに満たされる。そして早い段階で乗れる「こんなのおかしくない?」を投入。イントロへのフロアの反応がビビッドだ。
「My Body is Dead」では太く歪んだリフがしっかり聴こえ、背景に重ねたループがカオスを醸し出し、Cメロで開けていく展開にしっかりカタルシスを感じるだけの厚みとグルーヴが生み出され、ここから本格的にステージがグルーヴし始めた印象だ。そうなると、さかしたの身体とギターとループエフェクターの連動がスリリングかつ万能感を発揮し始める。
だが、たった今、演奏した曲の記憶をぶった切るように曲ごとの色や体感を変化させていく豪腕は音源よりも複雑怪奇にジャンルが行き来する「WHAT’S UP SUMMER」で明確に。浮遊感のあるシンセサウンドもギターで鳴らしながらループさせ、チルで少しトロピカルなリフもあるのに、トレモロを効かせたギターサウンドで脳が揺れるようなプレイも挟まれる。なんだか4分か5分の間にエキゾ~サイケ~アーバンという異なる空間を旅した気分だ。さらに二つのサウンドのリフがループするイントロを長くとって、聴き手が軽くトランシーな状態になるようなアレンジで展開した「くじらの巣」。この曲に限らずだが、ベース部分の音量が太く圧があり、しかもジャストではないいい揺れを作っていて、ローファイ・ヒップホップにも似た心地よさ。これまでシューゲイズ的に音に巻き込まれていく感覚があり、歌詞も相まって泣ける曲として聴いていたのだが、ライブ・アレンジの変化でグッとタフな感覚になった。そしてグッと引き締まったビートとシンバル、太いベースがメタリックですらあった「プライマリケア」。もう5年前のアルバム『Delivery Songs』収録のナンバーだが、二人というミニマルな編成で、しかも音数も少ないこの曲が叩き出す迫力はドミコのアザーサイドの魅力と言えるだろう。
ライブが進むにつれて、これまでよりもディストーションとトレモロにホワイトブルース臭さを感じていたのだが、淡々とした印象があった「ロースト・ビーチ・ベイベー」のイントロにグッとブルースっぽさが増していたのは興味深い。しかし、それが1曲を支配する訳じゃないのがドミコのユニークさで、メロディと構成のキャッチーさで気持ちよく未知のジャンルにも乗っていけるのだと思う。ブルージーといえば、Charを想起させるほど(PINK CLOUDとか言っても若い人には分からないか)、ギターサウンドとしてのブルースが漲っていた「深海旅行にて」は、他の音に埋もれない分、太くブルージーなギターリフが好物なあらゆる世代にぶっ刺さったはずだ。おそらくこんな音をナマで聴いたことのない初見のオーディエンスもいただろう。フロアがステージに集中していることがわかってこちらまで嬉しくなった。
大団円はディーゼル機関車が爆走するような長谷川のタフで締まったドラミングの「united pancake」。自然とフロアが揺れ始める。さらにここにいる全員がイントロに歓声をあげたんじゃないか?と思うほどの興奮の中で「ペーパーロールスター」がスピーディかつグルーヴィに展開。どうしたってサビの「グッバイ ペーパーロールスーパースター ララララララ」を歌ってしまう。美味しすぎるメロディだ。オーディエンスは手を挙げたり、小刻みにステップを踏んだり、首を振ったり、限られたスペースで踊りに踊りまくる。ああ、自由に踊れるスペースをみんなに!と大きなお世話を焼きたくなるぐらいだった。
しかるのち、アンコールに応えて登場した二人は4月のミニアルバム発売と5月からの全国ツアーを発表し、冒頭の「ニューアルバムの中でも一番気持ち悪い曲」を演奏。アンビエントなシーケンスにムーディなR&Bにありそうなハープ風のアルペジオ(もちろんギターで鳴らしている)が重なり、そこにサイケなリフも加わって、ロックとエレクトロとチルがバグを起こしたような異様なサウンドスケープが屹立。ストイックにエレクトロと生音を融合しているバンドとは全然違う発想なのだろう。素面でバッドトリップしそうな新曲にあぜんとするか大笑いするしかなかった。軸には曲の良さがありつつ、どこまでもさかしたの脳内を、ある時はミニマルに、ある時は膨大な情報量に、あるときは素直にロードムービーを見せるように曲を組み立て、しかもライブで実現するドミコ。なんなんだろう?、この全能感に触れる痛快さは。その痛快さの中にはきっと、自分も何かやりたい、やってみたいと鼓舞される親しみがある。そしてまた、ドミコのライブ中毒症状が出るという訳だ。
ここ3作、『soo coo?』、『hey hey, my my?」、『nice body?』ときて新作は『VOO DOO?』。またタイトルを疑問形で投げかけられるその実体とはいかに。ドミコらしさの2020年ニューモデルを待ちたい。
ちなみに長谷川の髪は本番前にさかしたの提案により楽屋で急遽カットされたものだと後でTwitterで知った。「らしい」話である。
【取材・文:石角友香】
【撮影:小杉歩】
リリース情報
VOO DOO?
2020年04月15日
EMI Records
*タワーレコード、FLAKE RECORDS 限定商品
セットリスト
DOMICO ONE-MAN 2020
2020.1.25@下北沢GARDEN
- 1. 怪獣たちは
- 2. わからない
- 3. こんなのおかしくない?
- 4. My Body is Dead
- 5. バニラクリームベリーサワー
- 6. pop, step, junk!
- 7. WHAT’S UP SUMMER
- 8. くじらの巣
- 9. プライマリケア
- 10. 裸の王様
- 11. ロースト・ビーチ・ベイベー
- 12. 幽霊みたいに
- 13. マイララバイ
- 14. 深海旅行にて
- 15. 地球外生命体みたいなのに乗って
- 16. united pancake
- 17. ペーパーロールスター 【ENCORE】
- En1. 新曲
- En2. まどろまない
- En3. my baby
お知らせ
ドミコ / VOO DOO TOUR?
05/08(金) 東京 TSUTAYA O-EAST
05/13(水) 高松 TOONICE
05/15(金) 福岡 BEAT STATION
05/17(日) 熊本 Django
05/22(金) 京都 磔磔
05/24(日) 岡山 ペパーランド
05/30(土) 新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
05/31(日) 金沢 GOLD CREEK
06/06(土) 神戸 music zoo KOBE 太陽と虎
06/07(日) 広島 CAVE-BE
06/12(金) 仙台 CLUB JUNK BOX
06/14(日) 札幌 ベッシーホール
06/19(金) 名古屋 JAMMIN
06/20(土) 梅田 CLUB QUATTRO
07/11(土) 沖縄 Output
BAYCAMP 20202
02/01(土) 川崎CLUB CITTA’+A’TTIC
ライブナタリー Presents キタニタツヤ × ドミコ
02/12(水) 渋谷CLUB QUATTRO
ニガミ17才全国対バンツアー 「ニガミ17才と。-2020-」
02/24日(月) 札幌SPiCE
02/26日(水) 仙台MACANA
BAYSIDE STOMPER vol.5
03/13(金) 横浜Bay Hall
IMAIKE GO NOW 2020
03/14→15(土・日) 愛知県内各会場
SANUKI ROCK COLOSSEUM
2020-MONSTER baSH × I♡RADIO 786
03/21(土) 高松市内各会場
HIROSHIMA MUSIC STADIUM -ハルバン’20-
03/21(土) 広島市内各会場
Big Bridge presets. the telephones × ドミコ
03/27(金) YEBISU YA PRO
SYNCHRONICITY2020
04/04(土) TSUTAYA O-EAST
Haruberrylive2020
04/11(土) HEAVEN’S ROCK
SLOW DAYS
04/11→12(土・日) 服部緑地野外音楽堂
VIVA LA ROCK 2020
05/03(日) さいたまスーパーアリーナ (埼玉)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。