三月のパンタシア、“時間”をテーマに揺れ動く少女の感情を紡いだワンマンライブ『18時33分、冬もまた輝く』
三月のパンタシア | 2020.02.03
「音楽×小説×イラスト」を連動させた自主企画『ガールズブルー』を展開中の三月のパンタシアが1月25日に豊洲PITにて、ワンマンライブ『18時33分、冬もまた輝く』を開催した。
会場に入ると、まず、ステージ後方に設置された巨大なスクリーンが目に入った。そこには、八角形の時計が映し出されており、開演前はリアルタイムの時間を刻んでいた。しかし、ライブのタイトルに記された<18:33>を刻んだ途端に時計の針が猛烈な勢いで逆回転を始めた。その間、バンドメンバーがステージに上がる。観客は大きな拍手で彼らを迎えると、時計は<10:05>を指してピタリと止まった。みあによる小説「8時33分、夏がまた輝く」の冒頭に出てきた時間だ。やがて、真っ白な衣装に身を包んだボーカリスト“みあ”が登場し、朗読を始めた。「はじまりは突然だった。君の口から私の名前が溢れた瞬間、私の胸は忙しないほどの時を刻みはじめた」――。みあが言葉を発した瞬間に目の前の風景と色彩が変わった。ビルの群を飛び越え、海の匂いがする風の中へ。そこは、都会育ちで17歳の女の子である葵が明るくて天真爛漫な悠と出会った瀬戸内・小豆島。みあは、二人が恋に落ちた瞬間を鮮やかに切り取ったギターロック「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」で勢いよくライブをスタートさせた。
ステージを右に左に動きながら観客を煽った彼女は、「ピンクレモネード」「群青世界」とアニメのOPとして起用されたアップテンポのポップロックを連発し、五感を刺激する新しい体験型イベント「オトメフラグ ~遊星高校前夜祭~」のテーマソングに決定した新曲「逆さまのLady」を初披露。アッパーなリズムが際立つ「パステルレイン」ではフロアが1つとなって手を振るなど、序盤からフロアは大きな盛り上がりを見せたが、この最初のブロックである第1章で紡がれたのは「言いたいけど言えない」という想いを抱えた恋の始まりだろう。まだ本格的には始まってない恋のあれこれに悩む、そんな純粋な情熱に掻き立てられるように気持ちが高められていくような思いがした。
最初のMCでは、「今回は時間を1つのテーマにしています」と本公演のコンセプトを解説し、「青く輝く感情を見つけた少女と一緒に楽しくなったり、嬉しくなったり、切なくなったりしながら、時間と共に揺れ動く少女の感情を追いかけてもらえたらと思います。最後まで楽しんでいってね」と笑顔で呼びかけた。そして、「夜の暗闇は私の思考を自由にする。だけど、自由すぎて、頭の中ではどこまでも行けてしまう――」という朗読を挟み、「イタイ」へと誘う。第2章で語られたのは青春の痛みだ。淡い期待がもたらす甘さと寂しさ。新しい関係を築くことへの怖れと願望。知りたいけど知りたくないという葛藤。少女がベッドの中で悶々と自問自答を繰り返すように、「青に水底」では夜の10時30分を指していた時計は、「七千三百のおもちゃのユメ」では深夜1時となり、「day break」では夕焼けにも見える朝焼けを迎えていた。
時計の針は午後5時に。「君はよくフランクに接してくれる。裏を返せば、それはきっと、何の気も思惑もないということなんだろう――」という朗読から別れの予感を感じ、「花に夕景」が夏の終わりの風景を引き連れてきた。本心を言葉に出せない「ソーダアイス」、『ガールズブルー』の第1弾楽曲でn-bunaが手掛けた「青春なんていらないわ」へ。アイスや花火といった単語が脳裏に残る中、「恋はキライだ」でハッキリと<夏が終わる/終わるよ>と告げられる。しかも、オープニングナンバー「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」で“君”と謳われていた“僕”の視点で。ひと夏の透明な恋物語はお互いに本当の気持ちを言い出せないままで終わってしまったが、清潔で純粋な女の子の繊細さと激しさが、そして、刹那の今の情熱が、みあの声で見事に演じ切られていたと思う。
ここで時計の針は深夜0時を指して止まった。0=新たな始まりという意味ではないだろうか。ピアノは「恋はキライだ」のフレーズを演奏している。みあが「私はまだずっと未熟で自分の気持ちをうまく伝えられないことばかりだ。理解されたいと願いながら、一方で心を見せるのが苦手だ。素直になるのが怖い。傷つくのが怖い。だけど、あの光が、この内気さを克服しろと背中を押すんだ。君が私にもたらした光。あの輝きにもう一度触れたい。このままさよならは嫌だ」と朗読をすると、時計は再び針を進めた。そして、「はじまりの速度」でみあは“君”へと駆け出し、光の中へと真っ直ぐに向かっていた。その眩しさと言ったらなかった。“君”の手はきっと、“私”の頬に触れたのだろう。
最後のMCでは、「ここまでぐるぐる回る時間と共に少女の感情を伝えてきました」と語った後、物語に書いた内容ではあるが、みあ自身の言葉として、こう語った。
「誰かに対してどうか気づいてほしいとか、理解してもらいたいって強く願う気持ちがあって。でも、一方でどうせ伝えたって叶わないしって自分で決めつけて、素直になることを勝手に諦めてしまうところもあったりして。そういう、臆病なところに負けてしまって、最後まで自分の考えていることや、本当に伝えたいことを言えないまま、時だけが過ぎていって、自分だけがその場に置いてけぼりになってしまうようなことを、私はこれまでいろんな場面で経験したことがあって。なんで自分は上手に心を見せられないんだろうって落ち込むんだけど、そういう中でもふとした瞬間に心が救われる時があって。それは、光に触れた時。自分の心を熱くさせられるような輝きに触れた時。例えば、すごくいい映画や本や音楽に出会った時。あるいは、大切なひとの嬉しい声が届いた時。そういう時に、糸が解けていくみたいに、いままで重たかった心がふと軽くなって、大丈夫だって、これまで塞いでいた気持ちがちょっと開けるような輝きというものについて考えていました。今日は2020年の始まりとなるライブで、何か輝きを届けられるような夜にしたいなという思いと、たくさんの笑顔を輝かせるライブにしたいなという思いを込めて準備をしてきました」
「楽しんでいただけましたか?」という問いかけにオーディエンスは大きく、温かい拍手と満面の笑顔で応えた。そして、みあは「今年は輝きのある夜をもっと作りたい」と宣言し、「寂しい夜はこの歌に耳を澄ましてください。私はずっと寄り添っています」と語り、ラストナンバー「街路、ライトの灯りだけ」で締めくった。
リアルタイムへと戻ったアンコールでは、「未練ではないけど、一生忘れられない大切な思い出」をテーマにみあが書き下ろした『ガールズブルー』企画の最新作「あの頃、飛べなかった天使は」の主題歌で、n-buna(ヨルシカ)が、約1年ぶりに書き下ろした新曲「煙」を披露。タバコの煙と白い息が交錯する「最初で最後の恋」を描いた冬物語を丁寧に届けたあと、3月29日に開催する初の主催イベント「三月春のパン(タシア)祭り」にゲストアーティストとしてSouとナナヲアカリが出演することを発表すると、会場には大きな拍手と歓声が沸き上がった。「私たちの月である三月に思いっきり遊びたいと思っています。ずっとどこかでご一緒できたら嬉しいなと思っていたお二人なのですごく楽しみです」と語った彼女は、この日のライブを振り返って、「一緒に楽しい夜を過ごせるのは尊いし、嬉しいです」と気持ちを伝えた。最後に「三月が早くきますように」と叫び、「三月がずっと続けばいい」で賑やかに盛り上がる中、約1時間45分の甘くて切ない青春物語は幕を下ろした。
【撮影:則常智宏】
リリース情報
セットリスト
三月のパンタシア LIVE2020 / 18時33分、冬もまた輝く
2020.1.25@豊洲PIT
- 01.いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら
- 02.ピンクレモネード
- 03.群青世界
- 04.逆さまのLady
- 05.パステルレイン
- 06.イタイ
- 07.青に水底
- 08.七千三百とおもちゃのユメ
- 09.星の涙
- 10.day break
- 11.花に夕景
- 12.ソーダアイス
- 13.青春なんていらないわ
- 14.恋はキライだ
- 15.はじまりの速度
- 16.街路、ライトの灯りだけ
- 01.煙
- 02.三月がずっと続けばいい
お知らせ
三月春のパン(タシア)祭り
03/29(日) KT Zepp Yokohama
w) Sou/ナナヲアカリ
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。