「踊るヤツがエラいのだ」――大型ツアー完結の瞬間をフロアと分かち合った歓喜のZeppワンマンを観た!
バックドロップシンデレラ | 2020.03.06
中盤のMCで、豊島“ペリー来航”渉(Gt/Vo)が「『2回目のZeppはスパーンとソールドアウトするか、お客さんがめちゃくちゃ減るかのどっちかだよ』っていろんな人から言われていて。でも俺たちの場合はまあまあ増えるっていう(笑)」と言い、観客を笑わせた。まあまあとは言っても、人数にして池袋Admのふたつ分=約300人。これは間違いなく快挙で、彼もその事実に心の底から感謝を示していた。
2006年池袋にて結成し、メンバーチェンジもなし。2011年にメンバーでNaturalAfroRecordを立ち上げ、以降セルフプロデュースで活動中。プロモーションもほぼなしで、じわじわと人気と知名度を伸ばし続け、いまやツアーファイナルをZepp Tokyoで行うフェスの常連。このなんとも稀有な活動歴は、自力で着実に活動を積み重ね、真摯に観客と向き合い続け、アップデートを繰り返してきたからこそ実現したものである。
全33ヵ所を回るバンド史上最大規模のツアー「トントン拍子でウンザウンザを踊るツアー」のファイナルであり、1年ぶりのZepp Tokyo単独公演。バンド、音響照明チーム、映像班も去年と同じメンバーで、全員が前回以上のZepp Tokyo公演を成し遂げようと、気合いも入っていたそうだ。暗転するやいなやステージを覆う紗幕にオープニングムービーが流れ、爆音とともにメンバー4人のシルエットが紗幕に映し出されると、会場のボルテージも一気に上がった。
紗幕が落ち、ステージに立つ4人の姿があらわになると、1曲目「太陽とウンザウンザを踊る」へ。ステージ全体から勢いよく音が噴出するような太い音像に面食らう。「歌わなきゃジャクソン」のイントロで、でんでけあゆみ(Vo)がフロアに飛び込み、アサヒキャナコ(Ba/Cho)が歌うと観客は一斉に両手でハートをかたどり頭上で振りかざす。鬼ヶ島一徳(Dr/Cho)のとんでもなく手数の多いドラムは脳天をドリルで打ちぬかれるように刺激的だ。泣き笑いを感じさせるサビメロでは盛大なシンガロングが起こった。
ペリーの「インディーズシーンならびにメジャーシーン、何かが変わり始めつ、つ、ある!」のMCで、フロアから盛大な「“つつある”コール」が起こると、機材車への感謝を4人の安定感のあるハーモニーで届ける「はたらくくるま」、鬼ヶ島の切り裂くようなシャウトとペリーのメタル感あふれるギターソロが炸裂する「ベルリントロンボーン」、バイトを辞めたい気持ちを切々と語る「バイトやめよ」と畳み掛ける。勢いは途切れることはない。
彼らの音楽はアッパーで凶暴性が高く見えがちだが、歌っている内容、すなわち楽曲の根幹にあるものは、日頃生活していくなかでふと湧き上がった素朴な感情――それもちょっとへこんだことや悲しみに暮れたことが題材になっていることが多い。それらをジャンルレスでミクスチャーなサウンドと、ユーモラスで嘘のない歌詞へと昇華している。
どこかいびつでへんてこで絶妙なバランスの楽曲は、様々な音楽に精通しているからこそ表現可能。楽器隊は3人だけなのに、一人ひとりの出す音の芯も太い。そして4人のハーモニーの迫力と安定感はQUEENさながら。だからこそバクシンの音楽は痛快で笑えてしまうのに、エモーショナルな深みを与えるのだ。楽しいだけでは終わらせない気迫と衝動が音像の隅々にまで通っている。
哀愁を感じさせるラテンテイストの「YONOSSY CALLING~よのっしーの7日間戦争~」では、あゆみが観客にスマホのライトの点灯を促す。彼はバンドのキャラクター「よのっしー」の巨大フラッグを手に持っておもむろに振り、それが「コンドルは飛んでいく」のようなセンチメンタルなメロディに乗ってはためく様子も、ペリーの泣きのギターソロに突き動かされるように、あゆみがフラッグを持ってフロアに入っていくと自然とシンガロングが起こる様子も、非常に美しい。
静と動のギャップでカオスを生み出す「魔がさした夜空に」、ペリーが店長を務めるライブハウス・池袋Admを歌った「楽園でウンザウンザを踊る」で緊迫感を沸々と上昇させると、キャナコの粘りのあるベースラインもインパクト大の「COOLです」、曲中で野球着と帽子を身に着けたキャナコがピンクレディーの「サウスポー」を歌ったり、ペリーが長めのMCをしたり、フロアが一斉に「おねがいヘドバン」をするなど自由度の高い「フェスだして」、キャッチーなメロディが効果的な「バズらせない天才」と、数々のライブやフェス出演などで培ってきた、どんな場所でもホームにしてしまうようなパワーがほとばしる。洪水のような爆音は、観客に自分たちのポリシーをまっすぐ突き付けた。
ペリーの「こつこつやるのが苦手な自分が、バンドの活動だけはこつこつやってるっていう(笑)。でもそれが苦にならないのは、本当にやりたいことなんだなと思っております。それもみなさんのおかげです」というMCのあとに披露された彼のボーカル曲「ナマケモノのバラッド」は、その感謝の気持ちが音楽へと昇華されたような優しさと情熱の通った演奏。観客もその想いに応えるように、ステージへ熱視線を送る。衣装チェンジしたあゆみがステージに現れると「亡霊とウンザウンザを踊る」になだれ込み、鈍器のような破壊力のリズム隊と怪しげなムードが禍々しい爆発力を生み出した。
メンバーそれぞれに賛辞を捧げるあゆみは、恥ずかしいから顔は見られないと天邪鬼な面を見せつつ、「大好きなお三方と一緒にバンドやってます。年を取るごとにどんどんどんどん楽しくなってるの!」と話すと、観客からは歓声が沸く。「うるわしのお嬢さん」「ダメ男とジュリエット」と、あゆみは片足でジャンプしながら高速回転をして歌ったり、フロアをかき分けてするすると後方まで来るなど、身体能力の高さを発揮。クラウドサーフが多数出現したキラーチューン「台湾フォーチュン」から間髪入れずに「祝え!朝が来るまで」へつなぐと、あゆみも歌詞に綴られた強い想いを全力で届け、観客も熱い歌声を轟かせる。嵐の中でも繋いだ手を離さないようなその結束は、非常に感動的だった。
ここで、1年ぶりにZepp Tokyoに立てた喜びを語るあゆみは、「お客さんがワクワクして僕らのことを待ってくれてるのがすごく伝わるの。それがいちばんうれしいです。僕らちっぽけな4人ですけど、こんなにいろんな人たちの気持ちをワクワクドキドキさせられるバンドになれてるのかな、と思うとすごくうれしいです。ありがとう」「もし悔しいことがあったときには、よかったら僕らのことを思い出してください」と、ぶっきらぼうながらに素直な気持ちを伝える。「そんな感じで、『一緒にいこうぜ!』って曲を歌いたいと思います!」と彼が続けると、「サンタマリアに乗って」を演奏。メンバーが自身の心情を伝えるたびに、音楽を通してバンドと観客の想いがより強固に結びついていく。
「本気でウンザウンザを踊る」のあとの「月あかりウンザウンザを踊る」では、曲中にあゆみが「こんなちっぽけな4人を、ずっとずっと応援してくれてありがとう!」と再度告げる。バックドロップシンデレラの曲には、強くて大事な気持ちが込められている。だからこそフロアにいる人間の一人ひとりの心に染み込んでいくのだろう。本編ラストの「さらば青春のパンク」では、その場にいる人間全員が湧き起こる感情を発散するようで、それぞれが自由に音に興じる様子はまさに絶景だった。
アンコールでは、7thシングル「新米美容師の彼女」のリリースとツーマンツアー開催を発表。ペリーが「いつもフレッシュな気持ちでバンドをやれるのはうれしいし、みんながワクワクしてくれるようなものを頑張って作って、楽しみながらやっていく」と今後のビジョンを語ると、会場からは温かい拍手が送られた。「将軍とウンザウンザを踊る」「池袋でウンザウンザを踊る」を届けるも観客からのアンコールは止まらない。メンバーが再びステージに登場すると、ダブルアンコールで披露されたのは1年前のZepp Tokyoと同じく「おじぞうさん」。お立ち台に片足をかけて、前傾姿勢で懸命に歌う彼を、背景の照明が静かに照らす。その明かりが強くなるにつれて、彼もより喉を嗄らして歌う姿は、彼らの音楽に対する姿勢の象徴のようだった。
アウトロであゆみは、「また皆さんと時間を共有できることを、僕らは楽しみにしています」と叫び、演奏を終えた4人は深々と頭を下げる。鳴り止まない拍手の一音一音が、彼らの勇姿を盛大に讃えていた。バンドの現在の姿を余すことなく伝えたツアーファイナル。とても誠実な一夜だった。
【撮影:西槇太一】
リリース情報
新米美容師の彼女
2020年04月01日
NaturalAfroRecord
02.祝え!快速が来るので
03.人生とは迷宮だ(再録)
リリース情報
祝え!朝が来るまで
2019年10月02日
NaturalAfroRecord
02.楽園でウンザウンザを踊る
03.バズらせない天才
04.魔がさした夜空に
05.おい!ハンバーグ
06.フェスといつまでも
07.ナマケモノのバラッド
08.祝え!朝が来るまで
セットリスト
トントン拍子でウンザウンザを踊るツアー
2020.02.02@Zepp Tokyo
- 01.太陽とウンザウンザを踊る
- 02.歌わなきゃジャクソン
- 03.はたらくくるま
- 04.ベルリントロンボーン
- 05.バイトやめよ
- 06.YONOSSY CALLING~よのっしーの7日間戦争~
- 07.魔がさした夜空に
- 08.楽園でウンザウンザを踊る
- 09.COOLです
- 10.フェスだして
- 11.バズらせない天才
- 12.ナマケモノのバラッド
- 13.亡霊とウンザウンザを踊る
- 14.うるわしのお嬢さん
- 15.ダメ男とジュリエット
- 16.台湾フォーチュン
- 17.祝え!朝が来るまで
- 18.サンタマリアに乗って
- 19.本気でウンザウンザを踊る
- 20.月あかりウンザウンザを踊る
- 21.さらば青春のパンク
- EN1.将軍はウンザウンザを踊る
- EN2.池袋でウンザウンザを踊る
- WEN1.おじぞうさん
お知らせ
バックドロップシンデレラ
7th Singleリリース2manツアー
「新米美容師とウンザウンザを踊るツアー」
04/04(土)岩手 盛岡Club Change WAVE
04/05(日)秋田 CLUB SWINDLE
04/10(金)北海道 札幌Sound lab mole
04/12(日)福岡 CB
04/17(金)石川 金沢vanvan V4
04/18(土)広島 CAVE-BE
04/19(日)兵庫 神戸太陽と虎
04/29(水・祝)大阪 梅田TRAD
05/09(土)香川 高松DIME
05/10(日)静岡 UMBER
05/23(土)宮城 仙台MACANA
05/29(金)東京 恵比寿LIQUIDROOM
05/31(日)愛知 名古屋E.L.L.
HIROSHIMA MUSIC STADIUM
-ハルバン’20-
03/21(土)、22(日)広島 広島市内ライブハウス複数会場
※03/21(土)に出演
THE CHERRYCOKES presents
OLDFOX JOURNEY FINAL
03/29(日)東京 恵比寿LIQUIDROOM
FM NORTH WAVE & WESS PRESENTS
「IMPACT! XV supported by アルキタ」
04/11(土)、12(日)北海道 札幌ライブハウス6会場
※04/11(土)に出演
ONE FES 2020
04/25(土)富山 新湊きっときと市場 横
VIVA LA ROCK 2020
05/02(土)、03(日・祝)、04(月・祝)、05(火・祝)埼玉 さいたまスーパーアリーナ
※05/04(月・祝)に出演
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。