「生の音楽を止めるべきでは無い」――渡會将士が配信ライブで伝えた新しい可能性
渡會将士 | 2020.06.10
3月中旬、多くのアーティストがライブの中止、延期を発表するなか、渡會将士は、なんとかライブハウスという場所で音楽を鳴らすことができないかと摸索し続けていた。結論から言えば、昨年から開催してきた「渡會将士 JAPAN? TOUR」の3、4月公演は、残念ながら一部延期を余儀なくされてしまったわけが、新型コロナウイルスによる自粛生活によって、人と音楽の接点がなくなることで、日々の生きがいやハリが失われてしまう人がいることを、渡會は早い段階から危惧していた。音楽は「不要不急」ではない。衣食住に必要なものでもない。ましてやライブハウスなんて足を運んだことのない日本人のほうが多数派だろう。それでも渡會は、「生の音楽を止めるべきでは無い」(3月14日オフィシャルサイト発表のコメントより)というスタンスを貫いてきた。そんな渡會が、5月31日、初の有料配信ライブに踏み切ったのは、とても自然な流れだった。
ライブハウスに足を運んでもらうのではなく、ステイホーム中のリスナーのPCやスマホにお邪魔して音楽を届けるという意味で、「GOMEN KUDASAI」(ごめんください)と名づけられた一夜限りのライブは、視聴専用アプリ「FanStream」に投稿されるお客さんのコメントを、渡會自身がリアルタイムで見ながら進んだ。配信というかたちでありながら、決して一方通行ではない。画面越しに親密なコミュニケーションを重ねた1時間半は、お客さんとの距離が近いアットホームなライブだった。
「ごめんくださいー」という第一声でライブは始まった。オシャレな空間。アコースティックギターをかかえて椅子に腰かける渡會の後ろには、大通りに面した大きな窓が開かれている。「救急車とかが通ったら、すみません(笑)。そのへんの臨場感も含めて楽しんでくれたら幸いです」。そう言って、早速アコースティックギターをポロポロと弾き始めると、1曲目は、ポジティブなエネルギーに溢れた「新千歳空想」だった。軽快に刻まれるギターストローク。もし、この場所にお客さんがいたら、きっと心地好く揺れる光景が広がっていたのかもしれない。乾杯を挟み、最新アルバム『ウォーク アンド フーズ』から届けた「カントリーロードアゲイン」は、足元のルーパーを駆使したひとり多重録音のスタイルで演奏。牧歌的なギター、熱く上り詰めるメロディ、故郷や旅を想わせる抒情的な歌詞が、どんな言葉よりも雄弁に、聴き手の心に鮮やかな景色を描いていく。
最近、宅録用に買ったというウクレレに持ち替えた中盤。「I’m in Mars」では、Jason Mrazの「I’m Yours」のワンフレーズをさらりと挟み込む。同じくウクレレで届けた「コイコイ月見りゃSeptember」は、原曲のラテンっぽいビートが一転、渡會自身、「盆踊りっぽい感じがしてきた(笑)」と漏らしたとおり、新鮮な聴き心地に生まれ変わっていた。ふだんのライブでは、お客さんの大合唱と「オッケー!」の合いの手で盛り上がるこの曲だが、この日は最後までひとりで歌い切り、曲後にお客さんの反応をチェック。「やってくれてますねー!」と嬉しそうな笑顔を見せる。さらに、お客さんのリクエストに応えて、エキゾチックな三拍子「Night Bazaar」と、美しいメロディに物語のような歌詞を綴ったFoZZtone時代の名曲「溺れる鯨」の2曲を披露。「普段のライブでは恥ずかしくて声をかけられない人も、コメントなら書けるのかな」と、配信ならではの手応えも口にしていた。
前半は、比較的穏やかなムードで進んだライブだったが、渡會のロックボーカリストとしての、ヒリヒリとした衝動が開放されたのは、後半戦、「Play Ball」からだった。「Play Ball」について、「この曲を出したとき、西日本で台風が多くて。その台風が過ぎたあとの河川敷で野球やっている子どもたちを見て書いた曲」と紹介。いま、この曲を選んだのは、同じように苦しい時期を越えて、再び笑える日を願う私たちと重なるから、と感じるのは深読みだろうか。さらに、「あいかわらず(人生には)波があって、浮き沈みはあるけれど、上達してるかな」と、歌詞を一節をもじったMCを添えて歌い始めた「マスターオブライフ」は素晴らしかった。軽やかな口笛と共に届けたこの歌は、終わらない苦しみはないと、そんなことを伝える温かなメッセージにも聞こえた。
ライブのクライマックスには、中断している「JAPAN? TOUR」で、ずっとご当地ソングに替え歌をして歌い続けていた「海老名前」を披露。自粛あるあるバージョンとして、“女子アナですら『鬼滅の刃』見てる”“住民みんなポチりすぎ”といった遊び心溢れる歌詞を連発すると、渡會は歌いながら、画面上でお客さんの反応をチェックしては嬉しそうな表情を見せる。さらに、渡會が所属する別ユニットbrainchild’sの名バラード「Blow」と、この自粛期間に縁あるミュージシャンとのリモートセッション動画が新たに配信された“セカイイチとFoZZtone”名義「ハレルヤ」も演奏。「ハレルヤ」では、ふだんのライブではライブハウス名を叫ぶところで、「なんて言っていいのかわからない(笑)」と言いながら、「日本ー! ジャパンー!」と絶叫した。そのステージにいるのは、ひとりだけど、ひとりじゃない。みんなで、この空間を共有しているという一体感が曲を追うごとに強くなっていくなか、ラストソングは、「明日も良い朝を迎えられますように」という願いを込めた「モーニン」だった。古き良きロックミュージックへ敬意が詰まった楽曲を熱唱すると、最後に、渡會は窓枠に立ちあがり、マイクを通さずに「サンキュー!」と叫び、ライブハウスさながらの熱いパフォーマンスで幕を閉じた。
本来、ライブは生で体感することがベストだ。そんなことは百も承知だが、この日、渡會が目指したものは、たとえ配信ライブというかたちでも、限りなく生のライブに近い臨場感、感動、興奮を得てほしい、そんな想いが溢れたライブだったと思う。配信ライブを、「生で届けられないから妥協した仕方ない選択」ではなく、「音楽の体感方法としての新しい可能性」として捉える挑戦的なライブだった。全国で緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常が戻りつつあるが、こと音楽業界に関して、日常が戻るのは、もう少し先になりそうだ。おそらく、今後はこうした有料の生配信ライブは増えてくるだろうが、それは「生の音楽を止めてはいけない」というミュージシャンの意思そのものなのだ。
【撮影:中條のぞみ】
リリース情報
セットリスト
渡會将士 有料配信LIVE
『GOMEN KUDASAI』
2020.05.31
- 01.新千歳空想
- 02.カントリーロードアゲイン
- 03.Strawberry
- 04.I’m in Mars
- 05.コイコイ月見りゃSeptember
- 06.Night Bazaar
- 07.溺れる鯨
- 08.Play Ball
- 09.マスターオブライフ
- 10.海老名前
- 11.Blow
- 12.ハレルヤ
- 13.モーニン