眉村ちあき、画面の向こうのマユムラーと手を取り合った配信ライブ
眉村ちあき | 2020.06.11
6月4日、下北沢モナレコードのステージから届けられた「新曲『手を取り合うからね』リリース記念生配信ライブ~#眉村超多人数コーラスチャレンジ~」。2017年8月に眉村ちあきの初単独公演が行われた場所でもあり、非常にゆかりの深いこのライブハウスで、どのようなパフォーマンスが繰り広げられたのか? その模様をレポートする。
ちちゃん(眉村ちあきの愛称)の顔をした風船が、たくさん青空へと上昇していくオープニング映像が画面に映し出されて、スピーカーから聴こえてきた「ライブが始まるよ!」という音声。すると、画面が切り替わり、ライトイエローのワンピースに身を包んだちちゃんが現れた。どういうわけか菅笠を被っているのが目を引くが、DEVOのエナジードームみたいにも見えて、なかなか似合っている。そして、オープニングを飾ったのは「手を取り合うからね」だった。歌いながら穏やかに身体を揺らす彼女の姿を眺めていると、自ずと心が和む。この新曲は、マユムラー(眉村ちあきファンの呼称)から寄せられた歌声や生活音を使用して完成された曲だが、サビに差し掛かると素朴な大合唱が広がり、子供の無邪気な笑い声が、平和なムードを加速していく。会場内に観客はいないが、たくさんの人々の心が寄り添っている様を実感できるオープニングであった。
ちちゃんのライブに於いて、“最前列”というものは、厳密な意味では存在しない。頻繁にステージからフロアへと飛び込み、目についたマユムラーのハゲ頭をパーカッションのようにペチペチと叩いたりもしつつ歌い踊るので、会場内のどんな場所も、突然、メインステージと化すからだ。そんなスリリングさを思い出させてくれたのが、2曲目の「DEKI☆NAI」であった。この曲がスタートすると、歌いながら無観客のフロアに突入したちちゃん。彼女を追ったカメラが捉えたのは、壁に貼られている様々なポスター、バーカウンター、トイレの入り口、備品が積み上げられているスタッフルームなど、いかにもライブハウスらしい雑然とした風景。画面を観ながら、「ライブハウスに遊びに行けるようになる日々が、早く戻ってこないかなあ」という気持ちにもなった。
アコースティックギターを弾きながら、瑞々しい歌声を響かせた「お天気お姉さん」の後、椅子に座った彼女は、『マユムラーとちちゃん☆』というオリジナルの絵本を読み始めた。スケッチブックに描かれたイラストを見せつつ届けられたストーリーは、冥王星に送られてしまったマユムラーたちと、地球にいるちちゃんの物語。会いたくて堪らないマユムラーたちの声をキャッチして、電車で冥王星へと向かった彼女は新宿で乗り換えるはずだったのに、反対方向の高尾山に着いてしまい、おまけに財布を忘れて、ズボンまで穿き忘れてしまっていたのだった! ……という、どこからどう突っ込んだらいいのかわからない超展開を経て、アコースティックギターによる弾き語りコーナーがスタート。まず、披露されたのは、ライブでやるのは約2年ぶりの「家事」。続いて届けられた最新曲「さかなのうた」は、魚みたいな顔をしたかっこいい男性への想いが描かれた切ないラブソング。このように新旧の曲が織り交ぜられていて、アコースティックギターの弾き語りも満載なのが、この配信ライブの注目すべき点のひとつだったと思う。音楽キャリアの出発点である下北沢モナレコードに合わせて、こういう趣向となった旨を、彼女は途中のMCで語っていたが、リラックスした表情を浮かべながら次々と曲を届けてくれた姿が、とても楽しそうだった。
アコースティックギターを激しく掻き鳴らす場面も交えながら、ソウルフルな歌声を響かせた「どっこいトゥモロー」に続いて突入した「インドのりんご屋さん」は、ものすごい熱量と共に迫ってきた。「Say!」と煽られたので、思わず<ブンバボンボンボ><ぐるぐるどっかーん>と野性的に叫ばずにはいられず、近くにいたお母さんや奥さんなどに怒られたマユムラーが各地で大量発生したことは、容易に想像がつく。続いて届けられた「スーパードッグ・レオン」では、鍵盤ハーモニカやリコーダーを吹き鳴らした後、ステージにゴロリと寝転がったちちゃん。床にはマユムラーたちの顔写真をプリントアウトした紙がたくさん貼られていて、なんだかクラウドサーフをしているようにも見える。少しでもマユムラーたちと心の底で繋がろうとしている彼女の健気な気持ちが伝わってきた。
<布団干せないから 少しだけ移動して><お腹が空き過ぎて 余計落ち込んでく><土井!>という野太いマユムラーの声が聴こえそうなくらいの臨場感に満ちていた「壁みてる」の後に迎えたMCタイム。アコースティックギターを手にしたちちゃんは、画面の向こうにいるマユムラーたちに語りかけた。「床に写真貼ったの。みんなの画像を保存して。フリー素材でしょ?(笑)。今夜の0時になったら、『手を取り合うからね』っていう新曲がリリースされるんだけど、これはみんなからの力のおかげ。みんなのコーラスがなかったら、作れなかった。私は全部のコーラスを保存して、右から聴こえるのとか、左から聴こえるのとか、後ろから聴こえるのとか、全部配置したの」。そして、弾き語りで披露された「チャーリー」は、いつにも増して優しい響きを帯びていた。
「元気? 何してる? 私は、昨日から縄跳びを始めたの。断食をするか、縄跳びをするか……断食は1日でダメだったの。だから、みんな、明日から一緒に縄跳びしよう」という唐突な提案が飛び出したりもしたMCタイムの後、「ピッコロ虫」がスタート。アカペラで歌った序盤を経て、本編へとドラマチックに雪崩れ込むのかと思いきや……「さっき、ビヨンセのライブ映像を観たの」と言いつつ始めたコール&レスポンス。メロディや節回しは、どんどん複雑化していき、極めて高い難易度に至っていたが、各地のマユムラーたちはちゃんと上手にレスポンスの歌声を返せていただろうか? そして本編へと突入した「ピッコロ虫」は、やはり名曲であった。終始笑顔を輝かせていたちちゃんの胸中には、キラキラしたメロディを共に歌うマユムラーたちの声が響き渡っていたのではないだろうか?
ライブが終盤に差し掛かったところで発表された今後の有料配信ライブの予定――6月28日に行う「定期公演WEB版第5億回~#ちのてきこえん~」は、通常のスタイルによるライブ。6月30日の「リモートライブでしかできないことをしろ!『現実では不可能なライブ第1弾~竜宮城編~』」は、映像作家の松浦本も参加するなど、新鮮な要素を盛り込んだ形で届けられるのだという。そして、「次の曲、歌える人は一緒に歌ってね!」と呼びかけてからスタートした「ブラボー」。伸び伸びと歌いながらカメラに向かって笑顔で手を振る姿が、とても眩しかった。
先ほど、冥王星に向かうはずが、うっかり高尾山に行ってしまったところで中断していたオリジナル絵本『マユムラーとちちゃん☆』。その続きが、ラストの曲が披露される前に届けられた。簡潔に内容を紹介すると……ちちゃんは、なんとか無事、冥王星に辿り着き、様々な惑星間は梯子で自由に行き来できるようになり、めでたしめでたし……シュール極まりなかったが、会いたくても会えなくなっているちちゃんとマユムラーたちのことを重ね合わせずにはいられない内容であった。
ラストに弾き語りで披露されたのは、「音楽と結婚ちよ!」。6月5日に豊洲PITで行うはずだったライブができない悔しさ。早く満杯の会場でサーフをできるようなライブをしたいという強い願望……溢れる想いを即興の歌詞に託したりもしつつ歌い続けて、<音楽をやめないから もうちょっと待ってて>という一節と共に迎えたエンディングは、とても胸打たれるものがあった。そして、手を振ったり、投げキッスをしたりしながら、カメラの前から姿を消したちちゃん。フロアの片隅に置かれたセットリスト、履いていたコカ・コーラのスリッパ、「今日はみてくれてありがとう☆このあと0:00になったら新曲「手を取り合うからね」がデジタルリリースです。絶対寝ないでね☀眉村ちあきより」というメッセージが書かれている紙をカメラがアップで捉えて、配信ライブは終了した。
ユーモアを交えつつ臨場感に溢れたパフォーマンスが繰り広げられる様が、とても印象的な配信ライブであった。無観客で行われている以上、平時のライブとは異なるムードだったのは事実だ。しかし、彼女の姿が終始醸し出していたものには、マユムラーで満杯のライブ会場に通ずる和やかなスリルがあった。ライブ開催が不可能となって以降、配信を重ねながら工夫を続けている彼女は、予定されている次の公演でも、斬新な何かを示してくれるに違いない。
【取材・文:田中 大】
セットリスト
新曲「手を取り合うからね」リリース記念生配信ライブ
~#眉村超多人数コーラスチャレンジ~
2020.06.04
- 01.手を取り合うからね
- 02.DEKI☆NAI
- 03.お天気お姉さん
- 04.家事
- 05.さかなのうた
- 06.どっこいトゥモロー
- 07.インドのりんご屋さん
- 08.スーパードッグ・レオン
- 09.壁みてる
- 10.チャーリー
- 11.ピッコロ虫
- 12.ブラボー
- 13.音楽と結婚ちよ!
お知らせ
定期公演WEB版第5億回~#ちのてきこえん~
06/28(日)18:30~20:00予定
リモートライブでしかできないことをしろ!
「現実では不可能なライブ第1弾~竜宮城編~」
06/30(火)20:00~21:00予定
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。