ドミコ、オンライン一本勝負。演奏と映像演出で伝えきったバンドの世界観
ドミコ | 2020.07.02
本編40分強、一本勝負。ここにオンラインでもオフラインでも不変のドミコの核心を見た。
会場オープンから最前列、ドラムの長谷川啓太寄りの視点で開演を待つ気分にさせる固定カメラの映像が、自宅にいながらにして興奮を覚える。ライブハウスの最前列にはなかなか行けないが、開演前の気分を久々に味わう。仕事じゃなかったらライブがスタートする前に軽くビール1本空いちゃうな、とも思う。ステージ背景には最新作『VOO DOO?』のアートワークである、謎のクリーチャーが蠢くイラストが映し出されていて、ライブの進行とともにLEDスクリーンがどう同期していくのかも気になる。そして21時ジャスト、バンドネームのネオン管点灯。ますます気分が上がったところに、さかしたひかる(Vo/Gt)、長谷川が登場とともに音を鳴らし始める。最新ミニアルバム『VOO DOO?』同様、「おばけ」からのスタートだが、早くもライブアレンジが進行していて、ここから始まる40分の濃度を象徴するようなセッションにも映った。生身の画像とエフェクティブな画像のスイッチングも、ハイパーにも70年代サイケにもどっちにも見えて、映像配信ならではの面白味も。
間髪入れずにさかしたのアルペジエーターを使ったギターが脳内ドラッグを生成し、長谷川のドラムは音源以上の人力ドラムンベース感が際立つ。ダブっぽい一拍が長めのリズムだが、あくまで打音はソリッド。後半にBPMが倍になり、さかしたのギターがブルージーに唸りを上げるという構成そのものがやはり興奮を誘う。力任せに叩いても凡庸なだけだ。ドミコは曲(構造)がいい。そのことが寄りの映像と分離のいい配信のミックスで際立つ。
間髪入れず(全曲ほぼそうだったが)、単音のギターフレーズがイマジネーションを広げて、キャッチーなコードに突入する「びりびりしびれる」も、曲の構造が手に取るように分かる。面白いのがナマのライブ会場で見ていると、さかしたがエフェクター類をいつ踏むのか、ルーパーで何を重ねていくのかを全体像で確認するのだが、主に上半身の映像を見ていると、ベースラインやリフの長さや量がより分かるのが面白い。ライブハウスでもある程度確認できることだけれど、これだけ凝視できるとフィジカル以外への刺激も多いというものだ。背景では稲妻が光り、コードチェンジしてサイケデリックな世界に突入後、再びAメロへ。
エンディングからすかさず、ぶっといサウンドにトレモロアームも駆使、ブルーズ色の濃いハードロックを想起させる「噛むほど苦い」へ。ジミ・ヘンドリックスか初期のエアロスミス辺りを思い出させるブラックロック味と、ジャストから少しずれるドラムにヒップホップ経由の新世代ジャズを感じるドラミング。こんな合わせ技、ドミコしかやらないだろうと思うと、ニヤつきが止まらない。そして往年のロックスターばりのさかしたのロングレイヤーなヘアスタイルもどこかハードロッカーぽくてニヤつきが止まらない。ただ、彼の場合、汗も見せない、表情も変えない。その佇まいこそがドミコのメッセージに見えた。
一切もったいぶったところがないまま馴染みのリフ。「ペーパーロールスター」だ。さすがに踊りたくなってくる。トーキングボーカル調に自由度を高めているさかしたの軽妙と、冒頭からどハードなナンバー続きで汗びっしょりの長谷川の対比も、驚くほど見る側の気持ちを捉えたカメラワークとスイッチングで受け取ることができた。
太くノイジーで質量を感じるベースラインが十分強烈な上にワウを効かせまくったソロで、配信とは思えないGが出現した「問題発生です」。そんなわけはないのだが、音の出力のせいで画像が荒い(というか、フィルムっぽい質感)のか?と錯覚するぐらいの重力。続けてサイケデリックテイストなエフェクトでチャイニーズなフレーズが際立った「さなぎのそと」。さかしたのピッチが安定している。配信でそれぞれの音が明確に聴こえるせいでもあるが、歌詞が聴き取りやすい。抽象度の高い歌詞ではあるけれど、メロディとリンクして気持ちが反応する、そのタイミングがこのライブは確かに多かったのだ。が、こちらの感情を置いていくように演奏は進む。ダークでゴスなイントロに意表を突かれた「こんなのおかしくない?」。一昨年ぐらいからライブで最も演奏してる曲なはずで、アレンジを変えたくなるのも当然か。ブレイクとテンポチェンジで完全にドミコのコントロール下に置かれたような感覚。踊ってはないが、細胞は踊らされている。
文字通りループするアウトロにのせ、この日「センキュー」以外のMCらしいMC、「ありがとうございました。ドミコでした。ラスト」と、さかしたが言葉を発すると、リスナーから即座に「短すぎる」とコメントが書き込まれたのには笑ったが、ブーイングにまでは至らなかったのは、ここまで濃度の高すぎるライブを展開してきたからだろう。3つのギターサウンドが重なった上で夏を感じさせるリフが鳴らされると、まだ梅雨真っ只中のそれぞれの部屋で、バーチャルな夏の扉がこじ開けられた感じだ。40分強で9曲に詰め込まれた、新曲群と更新された既存曲。ある意味、初見のオーディエンスに対して2020年のドミコの、名刺代わりの映像作品にもなったんじゃないだろうか。
さて、本編が終わっても映し出されるピントの外れたバンドネームのネオン管、聴こえるアンプの音はアンコールを待つライブハウスでの時間と驚くほど同じ感覚をもたらした。この間、さかしたは「やっぱもう少しやりますね!」とツイート。配信ならではのコミュニケーションというより、さかしたらしいと言った方がしっくりきた。ステージに戻った二人はごくさりげなく「深海旅行にて」のビートと粘っこいリフを鳴らし始めたが、歌が入ってコンマ何秒かでPAのボリュームが上がった。その瞬間、なぜか泣くかと思った。歌詞が入ったからなのかもしれない。はっきり歌っていたのは確かだ。なぜ今の時代にこんなブルージーなギターソロが刺さるのか? それは曲の全体像を聴き手の自分が完全にキャッチしたからではないか。後半、さかしたの一挙手一投足を長谷川が凝視する。その視点で二人がサシの勝負をしている画が見られたのも、感情に火がついた一因だ。どんどんインスト部分が増えつつあるが、その瞬発力とアイデアはむしろ大歓迎。オンラインで、そのニュアンスを伝えきれたのはバンドの世界観を共有する映像チームの存在だろう。
しかしリアルタイムでは全く冷静に見てはいなかった。「なんだこれ?」――例えて言えば、フジロックのレッドマーキー前方でかぶりつきで見た気分。渾身の50分は時空がねじれているんじゃないかと思うほど速かった。
【取材・文:石角友香】
リリース情報
VOO DOO?
2020年04月15日
EMI Records
02.化けよ
03.びりびりしびれる
04.噛むほど苦い
05.問題発生です
06.さなぎのそと
07.地動説
*タワーレコード&FLAKE RECORDS 専売商品
セットリスト
Online Performance At ReNY alpha
2020.06.26
- 01.おばけ
- 02.化けよ
- 03.びりびりしびれる
- 04.噛むほど苦い
- 05.ペーパーロールスター
- 06.問題発生です
- 07.さなぎのそと
- 08.こんなのおかしくない?
- 09.WHAT’S UP SUMMER
- EN1.深海旅行にて
お知らせ
VOO DOO TOUR?
10/03(土)広島 CAVE-BE
10/04(日)熊本Django
10/09(金)兵庫 神戸 太陽と虎
10/11(日)岡山 ペパーランド
10/16(金)宮城 仙台CLUB JUNK BOX
10/18(日)北海道 札幌 ベッシーホール
10/23(金)愛知 名古屋JAMMIN’
10/25(日)福岡BEAT STATION
10/27(火)京都 磔磔
10/28(水)香川 高松TOONICE
11/01(日)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
11/02(月)石川 金沢GOLD CREEK
11/10(火)東京 渋谷 TSUTAYA O-EAST
11/24(火)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
12/06(日)沖縄 Output
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。