ACIDMANが証明する「生命の目的」を観た――プレミアムワンマンライブ“THE STREAM”
ACIDMAN | 2020.08.03
全国5会場で開催予定だった「『灰色の街』リリース記念プレミアム・ワンマンツアー」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため残念ながら全公演が中止に。ただし、ACIDMANはそこでただ引き下がるわけではなかった。“THE STREAM”と題されたチケット制の配信ライブが、イープラスのStreaming+を通じて開催される運びとなったのである。約3年ぶりとなったシングル「灰色の街」はオリコン週間チャートで8位とキャリア最高位を記録したわけだが、その配信ライブを目の当たりにした我々は、さらに驚くべき体験をする。“THE STREAM”とは、ACIDMANがアイデアとテクノロジーを駆使してライブストリーミングの表現領域を押し広げ、新たな可能性を突きつける機会となったのだ。
「灰色の街」のミュージックビデオから始まり、ステージ映像に切り替わるや否や、大木伸夫(Vo/Gt)、佐藤雅俊(Ba)、浦山一悟(Dr)の鉄壁の3ピースがラウドな音出しを一発。MV出演時と同じ衣装の大木が「“THE STREAM”、はじめますよ!」と景気良く告げる。ギターを掻き毟って瞬く間に凄まじい音圧と音響を溢れさせ、まずは「world symphony」の疾走を始めるのだが、ステージ前方の大木を頂点に、後方下手側の佐藤、後方上手側の浦山と、トライアングルの立ち位置は通常のライブと異なっている。また、演奏する3人の姿には美しいCGアニメーションのエフェクトが重なり、さながら拡張現実(AR)を思わせる幻想的なライブ映像となっていた。
有機的な幾何学模様とフューチャリスティックなロックサウンドが融合する「ストロマトライト」では、浦山が性急なビートを叩き出しながら大木のボーカルに歌声を寄り添わせる。アップテンポなまま繋ぐ「to live」では、大木のギターリフに佐藤の艶かしいベースプレイが絡みつき、スクリーン上を縦横無尽に歌詞のタイポグラフィが駆け抜けてゆくという刺激的な演出だ。切実さと辛辣さが表裏一体になったエモーショナルな歌詞が、さらに強調されるビジュアルとなっていて素晴らしい。
ここで挨拶を挟む大木は、「なかなかの緊張感なんですよこれ。武道館とかとはレベルも質も違う」と語り、また今回の配信について「生でライブをやるのがナンバー1なのは当たり前なんだけど、これをナンバー2にしてください」と告げる。単なるリアルライブの代替ではなく、配信ライブだからこその可能性を楽しみ尽くそうとする姿勢が窺えた。TVアニメ『あひるの空』のオープニングテーマに起用された新曲「Rebirth」は今回がライブ初披露となり、クールで都会的なロックサウンドが次第に熱を帯びる。未知の可能性に手を伸ばそうとする歌詞は、新鮮なライブ体験を提供しようとするACIDMANの姿とも重なるようだ。
「スロウレイン」や「赤橙」といった往年の名曲群が届けられる一幕では、VJによる視覚効果は控えめに、思考と肉体、理性と野性がせめぎあいながら生々しく躍動するACIDMANの音楽性が、クリアに伝わってくる。大木コーディネイトによりフードパーカーとオーバーオールを重ねた衣装の浦山は、「暑い」と零しながらも「すごいいいよ!」と昂った声でご機嫌にライブの手応えを告げていた。そして、大木が南米チリの通称・アルマ望遠鏡を訪れた際に見た満天の星空を回想しながら「コロナウイルスも大変ですけど、それも僕らの生命が生まれてこそです」とメッセージを投げかけ、披露されたのは「ALMA」。バンドの壮大なサウンドスケープに、流星のCGアニメーションが重なる映像が美しい。
繊細なギターワークから切り出されるインストゥルメンタル曲「Slow View」では、3人が語るように雄弁なポストロック的展開を繰り広げ、スロウで叙情的な表情から熱くスリリングな表情までを見せる「Spaced Out」もまた、心の空隙を埋める豊かな音楽の時間芸術が育まれていった。スペースを有効利用した円形のステージを用い、まるで宇宙空間にいる3人が向き合って演奏しているかのような光景と共に届けられた「水の夜に」は、いつの間にか3人の立ち位置が変わる不思議な視界も相まって、“THE STREAM”の作品としての価値を裏付けるパフォーマンスだったろう。
今回のライブの主役とも言える「灰色の街」を披露するとき、「チャートとか関係ねえ、と言いながら、(初のシングルオリコントップ10入りは)嬉しかったです(笑)」と告げる大木は、歌詞の一節を引用して思いを語り、そしてその歌詞をじっくりと浮かび上がらせるようなパフォーマンスへと持ち込む。ステージ中央に突如として現れた巨大で見目麗しい花々の演出は、過去にもACIDMANのライブ装飾を手掛けたlogi PLANTS & FLOWERSのYOKO UDAによるものだ。バンドの活動を支える仲間たちやファンの息遣いが、活き活きと咲き乱れる視界である。
「これからも、最高の思い出を作っていきましょう」と呼びかけてから披露される「MEMORIES」が眩いサウンドをたたえ、「いつもの曲やるから、みんなで声出して行きましょう!」と放たれた「ある証明」では、嵐のような音像を大木の凛とした歌声が突き抜けてゆく。佐藤が見せる激しいアクションも、今まさに最高潮というところだった。「普段のライブがどれだけ贅沢だったか、痛感させられます」と語り、それでも前向きな姿勢を表明する大木。生命の連鎖が描かれるドラマティックなアニメーションを用いた「廻る、巡る、その核へ」では、ラウドな音楽もまたひとつの命の営みであるかのように、3人のサウンドが咆哮し、のたうち回っていた。いつの日かのリアルライブでの再会を願い、最後にプレイされたのは「Your Song」である。歌詞の対訳が表示され、「あなたは大丈夫」という肯定的なメッセージが余韻を残してゆく。約2時間の熱演であった。
「Rebirth」(再生)に引っ掛けて、今回のライブ映像がリアルタイムで「Reverse(逆行・巻き戻し)」されるというユニークなエンドロールが流れるのだが、なんとこの2020年9月には、全国5ヵ所のインストワンマンツアー「ACIDMAN LIVE TOUR “This is instrumental”」を開催することがサプライズで発表された。ボーカルの飛沫を抑えたインストゥルメンタルのショウであり、座席制の会場も来場者のソーシャルディスタンスに配慮した公演となるそうだ。困難な時期においても、それが生命の目的であるかのように、創意工夫を凝らして未来に向かう。そんなふうに、リアルライブとは異なる形で配信ライブの新たな価値を生み出すACIDMANの姿が、確かにそこにはあった。
【撮影:Taka"nekoze_photo"】
リリース情報
灰色の街
2020年06月03日
ユニバーサルミュージック
02.8to1 completed(SE)
03.造花が笑う
04.FREE WHITE
05.シンプルストーリー
06.SILENCE
07.バックグラウンド
08.to live
09.at
10.spaced out
セットリスト
『灰色の街』リリース記念
プレミアムワンマンライブ “ THE STREAM ”
2020.07.11
- 01.world symphony
- 02.ストロマトライト
- 03.to live
- 04.Rebirth
- 05.スロウレイン
- 06.赤橙
- 07.ALMA
- 08.Slow View
- 09.Spaced Out
- 10.水の夜に
- 11.灰色の街
- 12.MEMORIES
- 13.ある証明
- 14.廻る、巡る、その核へ
- 15.Your Song
お知らせ
ACIDMAN LIVE TOUR
“ This is instrumental“
09/11(金)東京 LINE CUBE SHIBUYA
09/15(火)愛知 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
09/21(月・祝)宮城 若林区文化センター
09/25(金)大阪 クールジャパンパーク大阪 WWホール
10/02(金)福岡 ももちパレス
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。