サカナクション、初の無観客オンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」
サカナクション | 2020.08.18
サカナクションによる初の無観客オンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」。1日目の、公式ファンサイト「NF member」会員限定公演に続く2日目の模様を以下でレポートする。
今さら説明するまでもないが、サカナクションはライブでの音楽体験に対して誰よりも先進的な取り組みを続けてきたバンドだ。それは彼らの、リスナーやオーディエンスに新しい音楽の楽しみ方を知ってほしいという願いの具現化であり、ロックバンドのライブの表現の可能性を最大限に拡張したいという欲求の表れでもある。「わくわくすることがないと面白くないですよね。チャレンジして、チャレンジして、がんばります」。山口一郎はそう言ってライブのフィナーレを告げたが、まさにこの「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」は、「オンラインライブ」というフォーマットのなかで、これまでサカナクションがやってきたこと、やろうとしてきたことをどこまで表現できるかという「チャレンジ」だったように思う。
サカナクションのミュージックビデオを多数手がけてきた田中裕介による映像は、冒頭、スタジオの外の自販機の前に佇む白いスーツを着た山口一郎を映し出す。その手には自身の姿を映したスマートフォン。
空き缶をゴミ箱に投げ入れ、山口はゆっくり歩き出す。まるで映画のワンシーンのようなオープニングから、早くもこれが「ライブ配信」以上の何かであることが伝わってくる。
そしてスタジオの扉を開け中に入る山口。そこにはバンドメンバーが待っていて――そうして始まった1曲目は「グッドバイ」。オレンジ色のライトと大量に焚かれたスモークの中に浮かび上がる5人のシルエット。ドラムのキックとスネアの残響音、ベースの滑らかな動き、アコースティックギターの揺らぎのある響き。これがKLANG:technologiesの3Dサウンドシステムの効果か、すべての音が高い解像度でイヤフォンから飛び込んでくる。ライブとしての臨場感というよりも、音源そのもののようなクリアな音だ。「マッチとピーナッツ」での映像演出に、『「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」』でのボーカルのディレイやコーラスのエコーの細やかなポジショニング。視覚も聴覚もずっと刺激されっぱなしである。
草刈愛美がスポットライトを浴びて弾くイントロのベースから入った「ネイティブダンサー」での映像はそれまでと違い素材をリアルタイムで組み合わせていくVJ的なものになり、「ワンダーランド」では岩寺基晴のギターがかき鳴らすノイズに合わせるように画面全体に砂嵐が吹き荒れる。もちろん実際には音に合わせて映像演出が施されているわけだが、音が映像にリアルタイムで作用しているように見えるそんな映像の変化が、観ているこちらの心の動きと完全にシンクロする。
と、ここまでのところで「なるほど、映像表現とライブのダイナミズムをこうやって両立させていくわけね」と分かった顔でうなずいていたのだが、そこからさらなる驚きが待っていた。ピアノの静かな響きから、ステージに置かれた行灯の明かりのなかで披露された「茶柱」、丸く切り取られた映像の中で山口が自分自身と向き合うようにひとり歌い始めた「ナイロンの糸」を経て、タイトなバンドアンサンブルと感情を溢れさせたような山口の表情が鮮烈な印象を与えた「ボイル」のクライマックスで三方を覆っていたスクリーンが取り除かれ、画面いっぱいに光が満ちたとき、「AKANAQUARIUM 光 ONLINE」は次のフェーズへとトランスフォームしていったのだ。
「みなさん楽しんでいますでしょうか? 家族と観ている方、友達と観ている方、恋人と観ている方、ひとりで観ている方、いろんな人がいると思いますが、みんないっしょに踊りましょう」。ステージのへりに座り、カメラに向かってそう語ると、山口は率先して身体を揺らし始める。そして歩いていった先にはなんとスナックのセット。そこにいたバブリーな雰囲気の「お客さん」と一緒にノリノリで歌うのは「陽炎」である。店内のカラオケモニターにはバンドの演奏する姿。曲の間にビールを一杯引っ掛けるというコント的な一幕も挟んでの、ここからの展開が圧巻だった。
ロックバンドとしての本能を怒涛の勢いでぶちまける「モス」、そしてサカナクションのライブではおなじみの踊り子も登場する「夜の踊り子」へ。山口は画面の向こうの観客を煽るように手を振り上げる。先程までのコンセプチュアルな映像表現とはまったく違う、「ライブ」そのものの温度感とスケール感。「歌える?」という一言から始まった「アイデンティティ」、山口がコートを風でなびかせながら歌った「多分、風」……新旧のライブアンセムが怒涛の勢いで繰り広げられていく展開がエモーショナルに伝わってくるのは、それこそ前半の映像的に緻密に組み上げられた構成があればこそだ。映像表現としてのパッケージの中だからこそ、こうして「いつもの」ライブを繰り広げること自体がコンセプトとして機能するし、いっそう際立つ。
「ミュージック」のオープニングではラップトップを前に5人が並ぶいつものスタイル。そこに映像が合成され、まるで5人が青い炎に包まれるように映る。そして曲の後半では楽器を持ったメンバーによる怒涛の演奏へ……その展開自体は「いつもの」サカナクションのライブそのものだが、映像が組み合わされることによってそのコントラストがより強調されている。ライブの楽しさと映像表現としての美しさが綱引きをするようにして、このオンラインライブを作り上げていることが、ここに象徴的に示されているのだ。
そんなことを考えながらあっけにとられているうちにライブはいよいよ終盤へ。「新宝島」ではダンサーととともにステップを踏み、「忘れられないの」では銀色の紙吹雪舞うなかメンバーとも笑顔を交わしながら「また必ずライブで会いましょう」と画面越しに語りかけた山口。最後の「さよならはエモーション」をエンドロールが流れるなか演奏し終えると、メンバーはステージを降りカメラのフレームから消えていった。ただのライブ配信ではない、ただの映像作品でもない、その単なるいいとこどりというよりも、両方の強みを見極めた上で生まれたハイブリッドでハイパーなエンターテインメント。この「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」はそういうものだった。こんなことはサカナクションにしかできないし、ほかに誰もやろうとしないだろう。改めて彼らの想像力と実行力を思い知らされた。
なお、この模様は8月23日(日)23:59までアーカイブ配信がおこなわれている。
【撮影:横山マサト】
「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」アーカイブ配信
2020.08.16(日)22:00 ~ 08.23(日)23:59
視聴券 4,500円(税込)
配信メディア
・Streaming+(https://eplus.jp/sf/web/live/sakanaction-st)
・ローチケ LIVE STREAMING(https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=536699)
・PIA LIVE STREAM(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2063463)
・LINE LIVE-VIEWING(https://viewing.live.line.me/live/25)
リリース情報
SAKANAQUARIUM 2019 “834.194” 6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-【DVD】
2020年01月15日
NF Records
02.Opening (000.000~834.194)
03.アルクアラウンド
04.夜の踊り子
05.陽炎
06.モス
07.Aoi
08.さよならはエモーション
09.ユリイカ
10.years
11.ナイロンの糸
12.蓮の花
13.忘れられないの
14.マッチとピーナッツ
15.ワンダーランド
16.INORI
17.moon
18.ミュージック
19.新宝島
20.アイデンティティ
21.多分、風。
22.セプテンバー -札幌 version-
23.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
24.夜の東側
25.グッドバイ
セットリスト
SAKANAQUARIUM 光
2020.08.16
- 01.グッドバイ
- 02.マッチとピーナッツ
- 03.「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」
- 04.ユリイカ
- 05.ネイティブダンサー
- 06.ワンダーランド
- 07.流線
- 08.茶柱
- 09.ナイロンの糸
- 10.ボイル
- 11.陽炎
- 12.モス
- 13.夜の踊り子
- 14.アイデンティティ
- 15.多分、風。
- 16.ルーキー
- 17.ミュージック
- 18.新宝島
- 19.忘れられないの
- 20.さよならはエモーション