ちゃんみながオンラインライブの概念を覆す全曲ドラマ仕立ての長編ミュージックビデオのようなライブを遂行!
ちゃんみな | 2020.09.30
8月にインタビューしたとき(https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/chanmina/1000001615)、ちゃんみなはここ最近の世界の急変(コロナ禍の影響だけでなく)を「これまではトランプしてたんだけど、もうルールがUNOになったんですよね」と形容し、「UNOに思考を変えていかないといけないから、頭の柔らかさが問われる時代になるんじゃないですかね。わたしもちょっと頭の柔らかさを使わないとなって」と語っていた。
ライブ前日にインスタグラムのストーリーで「オンラインライブを覆すような長編ミュージックビデオのようなライブを作りました」との文言を目にして、「頭の柔らかさを使った」活動のいわば第1弾がこれだな、と僕は解釈した。
2020年9月27日正午。予告されたURLにアクセスすると、水の入っていないバスタブにセクシーな衣装をまとったちゃんみながいた。そこに「As Hell」のイントロが流れてくる。白い肌に真っ赤なリップと黒のレースが映える。粘りつくようなビートに合わせて悩ましげに体をくねらせ、バスタブを出て屋内で<F**k me as hell 最期の女性(ひと)のように>と歌い終えると、彼女は部屋を出ていく。
プールサイドで待ち構えていたトロピカルな衣装の男性ダンサーふたりと合流すると、ビートは一転してヒップホップに。「Picky」だ。瀟洒な椅子で踊り、水に入ってカメラに水鉄砲を撃ちながら、英語と日本語の混じったリリックを吐き捨てる。
別のサイドへ移動し、お次は「ルーシー」。デッキチェアーの前でカラフルな水着姿のダンサー3名とともに見栄えのする動きを披露。水に浸かると水中カメラの登場だ。カメラが引いて4人との間の水面にたくさんのぬいぐるみを流す演出が面白い。
ダンサーたちを残して<終わりでしょ>と歌いながらプールサイドから歩み去り、<見つけた>という最後の1行とともにバーへと足を踏み入れる。そこへ印象的なギターのイントロが流れ、バーテンダーの男性と向かい合ってタバコを吹かすと「Rainy Friday」を歌い始める。酒の入ったグラスやボトルを小道具に使いながら、対話をするように歌うのは歌の世界そのままだ。官能的なカップルダンスのステージはカウンターからフロア、そしてデッキへと移っていく。
カメラの前をカップルが横切るとカメラはそちらを追い、「Very Nice To Meet You」で初めてちゃんみながカメラアイの中心を外れる。女性は歌の中の《君》だろうか。ふたりがバーのフロアで《イチャつい》ているとカウンターの中からちゃんみなが現れ、ふたりが逃げても逃げても先回りしている。ちゃんみなが彼女を<Very Nice To Meet You/私の彼と/なにしてたの先週>と問い詰めてふたりで踊るシーンは白眉だ。
一瞬、人影が消え、ここから無音のシーンが40秒ほど続く。男性ダンサーが現れ、カメラが彼らを追っていくと、階段に落ち込んだ様子のちゃんみなが座っている。
彼女を慰めていた男性ダンサー4人とともに「Never Grow Up」。<何から話せばいい/長い長いour story>の歌い出しがストーリーのクライマックスを告げる。間奏でちゃんみなが「今日はみんな観てくれて本当にありがとう。スクリーン越しのあなたもとってもきれいです。今日も一緒に歌ってね。Singin’」と視聴者に語りかけた瞬間、スクリーンの“あちら側”と“こちら側”の壁が消滅する。
続く「ボイスメモ No. 5」ではちゃんみなが自撮り棒に手を伸ばし、ここまで登場したダンサーたち総出でプールに飛び込み、カクテルやジュース、お菓子やカラフルな浮き輪を手にパーティが始まる。<そんな私も少しだけイカれてる>の一節を歌うとき目を剥いて狂気を表現するパフォーマンスには背筋がゾクゾクした。
ラストはラテンポップ調の「Angel」。イントロでちゃんみなが「I miss you guys so much(あなたたちに会えなくてとっても寂しい)」と口走ったとき、前曲の最後に<どこにも行かないでいて/そのままの君でいてね/Maybe cuz I’m perfect for you>と歌っていた《you》がファンの存在に重なり、「Angel」で二人称をもって指し示されているのもファンとしか思えなくなってくる。冒頭で言及したインタビューで彼女は<また雨の夜にはおいでください>を拒絶のニュアンスに近いと語ってくれたが、最後に投げキスまでされて「また会いに来て」という意味に完全に変わってしまったように感じた。曲の意味が変わるのはライブパフォーマンスの醍醐味である。
以上25分。カメラこそ切り替えているが、ワンカットというか一気通貫でリアルタイムに撮影したものだろう。そうとう緻密に設計され、リハーサルもかなり繰り返したはずだ。ちゃんみな自身「長編ミュージックビデオのようなライブ」と言っていた通り、「長編ミュージックビデオ」と「ライブ」の要素をともに備えたショーだった。
僕は残念ながら彼女のライブを観たことがないのだが、レポートの文章などから、ツアーごとに主題を設けて世界観を構築し、過去の曲の文脈を変えてそこに織り込むシアトリカルなショーという印象を抱いている。「THE PRINCESS PROJECT」と通しタイトルがつけられているのはそういうことだろう。
オンラインライブを見て、僕は先述の「シアトリカルなショー」を超えたミュージカルシアター(音楽劇)に近い印象を受けた。ドラマ仕立てだった4曲入りシングル「Angel」のストーリーをバラして過去の曲を織り交ぜ、最低限(どころかわずか二言!)のMCで補うことで、もうひとつのドラマを作り上げる。多くの観客を1ヵ所に集めた公演ができないというなら、「In The Screen」つまりオンラインライブでしかできないことを突き詰めてみせたわけだ。話を聞いたわけではないので勘違いかもしれないが、僕が受け取ったのはそんな彼女の「頭の柔らかさ」と表現者としての気概の証明だった。おみごと!
【取材・文:高岡洋詞】
【撮影:Kouichi Nakazawa】
■ちゃんみな "THE PRINCESS PROJECT - In The Screen" (Digest Movie)
リリース情報
Angel
2020年09月09日
ワーナーミュージック・ジャパン
02.Very Nice To Meet You
03.Rainy Friday
04.As Hell
セットリスト
ちゃんみな "THE PRINCESS PROJECT - In The Screen"
2020.09.27
- 01.As Hell
- 02.Picky
- 03.ルーシー
- 04.Rainy Friday
- 05.Very Nice To Meet You
- 06.Never Grow Up
- 07.ボイスメモ No. 5
- 08.Angel
■ちゃんみな "THE PRINCESS PROJECT - In The Screen"
https://CHANMINA.lnk.to/OnlineLive2020
※2020年10月4日23時59分までアーカイブ配信中。