西村”コン”(きのこ帝国)を中心にタグチハナ、バンビ(可愛い連中、ex.アカシック)からなるバンド・add、初の配信ライブの模様をレポート!
add | 2020.10.02
きのこ帝国の西村”コン”(Dr)が中心になり、シンガーソングライターで君島大空らとの活動も行うタグチハナ(Vo/Gt)、バンビ(Ba/可愛い連中、ex.アカシック)からなるadd。それぞれ表現活動を積み重ねてきた異なる出自の3人が組んだバンドだ。人間、しっかり目を開け、感性を磨き、自分にとって何が大事かをわかっていれば、出会うべくして出会うのだなという希望をもたらしてくれる存在でもある。彼らのライブは、このストリーミングで初めて見たadd初心者である私でさえ3人の出会いの必然を感じた。だが逆にこれまで世に出た楽曲とこの日のパフォーマンスという情報のみでaddという可能性の塊に触れられたのは貴重なことだったとも思う。
今回のライブタイトルが「MORE」なのは、ライブとしてさらに“もっと”見せたいものがあるという意味にも取れるし、1st EP「Not Enough」の同義語にも思える。addにとっての“もっと”は、有機的に変化・成長していくバンドアンサンブルや、個々の表現力でもあるだろうし、何より息をするように歌い、歌うことで生命力を増していくタグチのアーティストとしての特性が自然に発揮されていることにも起因している。ライブだから当たり前といえば当たり前なのだが、次にタグチの歌を聴く時はまた違った印象や情景が浮かぶんだろうなと直感した。その日の彼女が言葉とメロディに体温や色を送り込んでいく。そしてバンドアンサンブルは歌をよく聴いて、その日だけの演奏を紡ぎ出していくのだ。冒頭から、特定のジャンルで語れないaddの音楽を音源以上に理解した。
モノクロのアーティスト写真がライブのスタートまでモニターに映し出されているのだが、森の中を当て所なく歩いているようなこの写真はaddのある側面を端的に表していると思う。しばらくすると画面が変わり、暗いブルーの色彩の中、アウトフォーカスでメンバーが各々音出ししている様子が映し出される。フォーカスが合い、そのスペースに透明の電球と白っぽいシフォンの布が揺れているのが見える。薄暗いライティングやフィルムのような質感に目を惹かれる中、タグチがアコギを爪弾きしながら「日和」を歌い始めた。まさに呼吸のごとき自然さだ。そこにマスロック的な緻密なリズム隊のプレイ、サポートの沼能友樹(Gt)のシューゲイズ的なギター、あらゆる鍵盤を駆使するSUNNYは終盤、アコーディオンに移行。少ない音数から徐々に演奏者のボキャブラリーが追加されて行くように、重層的な演奏を聴かせてくれた。かと思うと軽快な「kaerimichi」や、同期で出しているホーンが生でも成り立つんじゃないか?と思わせるアンサンブルの強さのある「ローレンス」と、サポートミュージシャンを含め、彼らの“演奏のボキャブラリー”の多さで豊かな気持ちになる。
「序盤からすでに超楽しい」という西村の表情、特にMCで言うことを決めていないバンビ、一番若いがフロントマンとしての役目を一応、果たしているタグチ。緊張感と喜びがないまぜになるあの感じは配信からでもこぼれ落ちる。そういえば3人の陣形がタグチを中心に西村とバンビが向き合っている。互いの演奏にいい影響を与えているのはもちろん、良い磁場を作り上げているようにも思えた。
短いMCの後は初作「Telescoping」からのナンバーが続く。まず「my bedroom」。タグチのアコギのカッティングと西村のキック&リムショットの音の抜けの良さ。SUNNYが添える60s調のオルガンがポップだ。そしてリズム隊のタメの効いたスローナンバー「energy」。バンビのアルペジオのように動くベースラインが、ダブから酩酊感を抜いたような曲調に起伏を付けて行く。目を閉じて丁寧に歌うタグチの歌唱は脆く儚いように聴こえるけれど、ひと連なりの映像を投影し続けるような意思が芯にある。大袈裟にいえば存在が歌のように感じた曲だった。さらにピアノのイントロで音源とはアレンジを変えている「鯨」。そこそこ長い間の後、タグチがアカペラで歌い出す。だらんと下げられていた両手に次第に力が入り、最後の<一つの心も守ってやれなくて ごめんね>をギリギリ涙声になる手前で歌い切る。 海や波を想起させるグルーヴが、歌を包み込むようにうねりを増す。歌を共有して、演奏にそれぞれの感情を託す信頼感と緊張感も手伝って、こちらも感極まってしまった。
緊張感からいっとき解放されたメンバーは改めて視聴者に感謝を述べながら、オーディエンスがその場にいないながらも緊張感と楽しさを同時に感じていることを伝える。ちなみにセットはタグチのリクエストで、「中の空間だけど、外の森みたいなのがいいなってお願いして」と理由を明かした。マイペースな3人は喋っても喋らなくても大丈夫なムードを醸し出していて、究極に心の内に迫ってくる演奏とのギャップも面白い。続いてはサポートの二人が一旦はけ、メンバーだけでアコースティック編成の「Fine day」。西村のブラシさばきや、ギターで言うとフルアコのような形のバンビのベースが、エレキとウッドベースの中間的な音を奏でる。3人の間に漂う信頼感を確認した1曲だった。
改めてSUNNYと沼能を呼び込んで、二人との関わりも説明。「Telescoping」のデモの段階から二人とも関わっているそうで、addサウンドのイマジネーションを拡張する大事な存在であることがわかる。そこからの後半は「Not Enough」からのナンバーが続く。エフェクトボイスの歌いだしの「NAKED MIND」は少しYEN TOWN BANDの自由度とエバーグリーンなメロディがふと浮かんだ。サビ後のブレイクが落とし穴のような効果を生んだり、ちょっとした抜き差しに心が動く。「永遠の子ども」ではSUNNYのアンデス25Fが活躍。
改めてタグチが挨拶し、「また音楽でお会いしたいです」と述べると、EP「Not Enough」の中でも、このままでいられない気持ちが表出している「もっともっとみたいな気持ちになってよ」をハンドマイクで歌い出す。フォーク~ブルーステイストもあるけれど、10曲演奏してきても、やはり特定のジャンル感はない。そしてオープニングで様々な音が鳴っていたこととシンクロするように、全ての楽器の音がカオスを醸成し、パッとベースとギターのリフのみになる展開にハッとする「名のない日」。ジャジーな洒脱を垣間見せつつ、ノイジーなギターもろとも熱いアンサンブルに突入して行くという予想不能な楽曲だ。しかもエンディングはファズギターで切れ、画はタグチの眼差しのアップで唐突に幕。歌詞にあるように<誰も知らない 本当のあたし>という謎を残して終わった印象なのだ。掴み切れないアンビバレントな思いや感情をさらけ出しても、清潔で誠実な表現に昇華されるタグチハナという存在の全容はますます分からなくなってしまった。しかしそれこそがaddをやる醍醐味なのだろう。遠くない将来、リアルライブを見たい。
【取材・文:石角友香】
【撮影:石崎祥子】
リリース情報
Not Enough
2020年09月02日
echohouse records
02.kaerimichi
03.日和
04.ローレンス
05.永遠の子ども
06.もっともっとみたいな気持ちになってよ
07.NAKED MIND
セットリスト
add Streaming Live "MORE"
2020.09.19
- 01.日和
- 02.kaerimichi
- 03.ローレンス
- 04.my bedroom
- 05.energy
- 06.鯨
- 07.Fine day
- 08.NAKED MIND
- 09.永遠の子ども
- 10.もっともっとみたいな気持ちになってよ
- 11.名のない日