夏と彗星、箱を開けたらそこは――こだわりを詰め込んだストリーミングライブ
夏と彗星 | 2020.10.08
誰もが誰にもなれないのなら、純粋に心を揺らし続ければいい――夏代孝明によるソロプロジェクト“夏と彗星”による、2日間にわたるストリーミングライブ『Streaming BOX -inside blue- / -code yellow-』のうち、初日を飾った10月5日の「第1章 -inside blue-」は、そんな想いにあふれたものだった。
夏と彗星が突如ポップシーンへと現れたのは、「juice」を公開した2019年6月。2012年より、夏代孝明名義で生み出してきたポップな音楽性とは違う、ビンテージライクで小粋なメロディ、描かれた心象風景が目に浮かびやすい歌詞、深みのある声のトーンのすべてが、耳の奥に潜り込む。今年1月の東名阪の1st Live『彗星の果てに僕らは』、5月の1st EP「MONSTERS」リリースを経たこの日は、ライブ当日までは到着しても開封しないようにと声掛けのあった数量限定販売の“HOME LIVE BOX”が、それぞれの場所から満を持して開かれる約束の日でもあった。
画面に映り込むひとつの“HOME LIVE BOX”を結んだ紐が、見えない手によってゆっくりと解かれ、蓋が開けられた――そこからまるでタイムマシーンへと乗り込んだかのように、画面はライブ会場へと切り替わる。紫色のライティングが灯る空間で、4人のバンドメンバーがそれぞれの足取りでステージへと向かうと、別カメラは扉の底部を捉えた。その扉が開き現れたのは、夏代の足元。音を立て、前へと進んだ夏代は「今日はよろしくお願いします」と声を投げた。
<24/7 あなたと二人で 喜怒哀楽 飼いならす 100通りある未来から選んだ あなただけを>
1曲目は、恋人に一生を賭けて極上の愛を捧げる「24/7」。そこかしこに設置されたチカチカとした電球の明かりと紫色の程よいライティングが交差するもとで、軽妙洒脱なメロディと浮遊する歌声が溶け合った。マイクを片手に握り、黒いジャケットに身を包む夏代の歌声は、サビへ向かうほどに潤い、熱を帯びていく。
この日のライブは、向かい合ったバンドメンバーの中央に夏代が立つステージ仕様だった。足元から頭上までのあらゆる場所に設置されたカメラが、生のライブでは見えづらいアングルから、夏代やバンドメンバーの様子を臨場感たっぷりに伝える。
跳ねるピアノの音を拾い歩いた「彗星の果てに僕らは」は、1st Liveのタイトルにもなっていた楽曲。終始リラックスしながら歌声を奏でる夏代の表情から自然と零れた笑顔には、やりたいことをやれていることへの充実感が滲み出ていた。エレクトロニックな音色で切なさを加速する「Highway」からは、頭上から放たれ幾重にも重なり合った果てに立体化したオーロラ色のレーザーが夏代を囲っていく。夢の世界を漂い流れているようなダイナミズムな光景が広がった。
<お互いのドラマはきっと 重ならない帯域鳴らし始める それでも心 リズムに倣う カラカラと音を立て生きていけ>
70~80年代のシティポップを感じさせるメロディに遊び心が散りばめられた「Latency」で、夏代は自由に、そのファンキーなリズムへと身を委ねる。その姿が体現していたのは、夏と彗星として踏み出した新たな一歩は夏代にとって必要なことだったということ。機材に取り付けられた画面や、電球の明かりだけが灯るモノクロな会場へ投じた2曲の新曲は、この日のために準備したもので、サビのフレーズがひしひしと耳に残るメロウなラブソングだった。夏代自身が日本語に意訳したDareharuの「염라(Karma) Japanese cover」、ボカロP・くじらによる「金木犀 (cover)」、イントロから繰り返される生活音のサンプリングが日常生活に寄り添う「ハル」まで一気に駆け抜けていく。
物憂げな歌詞と相反して曲調はダンスミュージックの「誰でもないモンスター」には、こんなフレーズがある。<スポットライトを浴びるのは いつも 一人だと僕らは知っていたのさ つまり クローゼットに閉じ込めてた 悲しみの声に気付いていたのさ 誰かの居場所を奪って笑っていたのは誰だろう>。居場所は不規則に変わりゆく。それゆえに、いまは、ただ楽しもう――。ライブを通して、そんな言葉が聞こえた気がした。
止まることなく10曲を立て続けに届けた後は、画面が切り替わり、トークパートへ。柔らかい光がうっすらと広がる落ち着いた部屋の一角のソファに腰を下ろし、iPadを手に持った夏代が登場した。テーブルに置いてあった“HOME LIVE BOX”を開けては、画面に映し出されるコメントを読み上げることでリスナーとのコミュニケーションを取るなど、トークを楽しんだ夏代は、夏と彗星の楽曲のアレンジを担当している渡辺拓也を呼び込み、アコースティックギター編成のミニライブを展開することに。
<あの日と同じような雨が降っていたんだ 湿気で火がつかなくなったマルボロを見ていた いつか叶うだなんて無責任な 夢をカップに注いで飲んだ 不愉快な甘いjuice>
危うさと失望感を織り交ぜた「juice」から、本編でも披露した新曲のうちの1曲へと繋げる。渡辺によるアコースティックギターの音と歌声だけのシンプルな演奏は、いうまでもなく、夏代の歌声の持つ表現力と、言葉の持つ意味に深みをもたらしていた。温かなアコースティックでのパフォーマンスを最後に、リスナーとの距離を縮めた後、夏代は、夏と彗星の『第1章 -inside blue-』を結んだ。
【取材・文:小町碧音】
セットリスト
MONSTERS in TOKYO streaming BOX
「第1章 -inside blue-」
2020.10.05
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▽Live House
- 01.24/7
- 02.彗星の果てに僕らは
- 03.Highway
- 04.Latency
- 05.新曲(タイトル未定)
- 06.新曲(タイトル未定)
- 07.염라(Karma) Japanese cover
- 08.金木犀 (cover)
- 09.ハル
- 10.誰でもないモンスター ▽Acoustic Live
- 01.juice
- 02.新曲(タイトル未定)