After the Rain「またいつか、みんなの前で歌える日まで」――初のオンラインライブで届けた想い
After the Rain | 2020.11.17
雨上がりの澄み切った空にかかる、虹のように。
そらるとまふまふによる音楽ユニット・After the Rainにとって、初めての全世界配信ライブ『After the Rain ONLINE LIVE 2020』。11月7日に開催されたそれは、灰色がかった世界を美しく彩ってくれるようなものとなった。
本来であれば、全国だけでなく海外も視野に入れた大規模なツアーを予定していたという2020年のAfter the Rain。長引くコロナ禍において、2人もまた、翻弄され、もどかしく悔しい想いもしたことだろう。だが、無観客でも今できる最良で最上の形で生歌を届けよう、という2人の気概は存分に伝わってきたし、最新ミニアルバム『7×2つの大罪』収録曲も含め色とりどりなメインディッシュ的ナンバーが並んだ“神セトリ”は、After the Rainの楽曲力と歌唱力をあらためて示してくれたように思う。
モノクロからカラーへと色づく世界に心奪われるオープニングムービーに続き、映し出されたステージにはそらるとまふまふの姿が。2人がまとうのは、傘と桜をあしらった“After the Rainの家紋”を両肩に配した、和テイストのロングジャケット。そらるは紺地、まふまふは黒地に差し色の赤が映えて、その立ち姿からして高まってしまうではないか。
「みなさん、After the Rainのオンラインライブへようこそ、最後まで楽しんでいってください!」というそらるの一声から、「1・2・3」へ。まるで少年のような声と表情で歌うそらるとまふまふ、重なる2人の歌声。どれだけ、このときを待ちかねたことか! 最初の<キミにきめた!>は画面の向こうにいるファンを、ラストの<キミにきめた!>はお互いを指さした2人の姿にも、胸が熱くなる。
明るい雰囲気から一転して、レーザーが乱れ飛ぶ中、スリリングなバンドアンサンブルに、“悪魔感”さえ漂う陰を帯びた2人の歌声が映えたのは「喰病しのイデア」。天井やサイド、ステージ床面からも2人を鮮やかに浮かび上がらせるライティング、さまざまな角度から狙うカメラワークも躍動感たっぷりで、すでにクライマックス状態だ。
そらる「本日はAfter the Rain初のオンラインライブの日でございます。少し緊張していますが、楽しんでいただけていますでしょうか」
まふまふ「みなさん、見えていますか? 2人とも大変緊張しているのでございますが、たっぷりと曲を用意してきましたので、早速ですが次の曲へいかせていただいてもよろしいでしょうか」
歌っている姿からは想像もつかないほど、言葉の通りに緊張している様子の2人。大きな声援を送り、2人の一言一句にも熱量高い反応を見せるオーディエンスがいないのだから、当たり前だ。でも、画面の向こうにはAfter the Rainの音楽を愛する人が国籍・人種問わず数多いて、心はひとつだ。
「懐かしい曲です」という言葉とともにまふまふがタイトルコールし、そらるが「いくぞ!」と叫んだ「解読不能」では、鮮烈なレッドライトに照らされたステージの周りにファイヤーボールが噴き上がって、一気にアグレッシブモード。聴いているこちらの心中も<溢れ出しそう>で、ダメ押し的なまふまふのハイトーンから、ジェットスモークが勢いよく上がった「アンチクロックワイズ」への流れも、なんてエモーショナルなんだ。
かと思うと、「セカイシックに少年少女」では穏やかな歌声を響かせる2人。重なる歌声も耳に心地よく、カメラに向かって手を振るそらるもまふまふもとても楽しそうで、観ているこちらも頬が緩んでしまう。
そらる「みなさま、ここまで楽しんで観て、聴いてもらっているかな。最初のほうはビクビクして声も震えていたかもしれないけど、こうして歌っていると、ライブっていいな、って思います。ただ、いつも会場で手を振ってくれるみんなの力は偉大だったんだな、ってあらためて思ったりもします。次の曲は、まふまふにアコースティックギターを弾いてもらってお届けします」
2人が椅子に腰かけて届けたのは、「待ちぼうけの彼方」。まふまふが繰り出す高速ストロークに、そらるの情感込めた歌声、白一色のみのライティング。極めてシンプルながらもそれらすべてが研ぎ澄まされていて、凜と美しいのだ。尊い、とはこういうことを言うのだろう。
余韻に浸っていると、「ブラッククリスマス」のイントロへ。ハッピーな組み合わせのはずなのに真逆をいく毒々しさを生む赤と緑のライティング。がっつりヘヴィなバンドサウンド。とびきりダークファンタジーな世界観。2人の艶っぽい歌声。まふまふの<「悪い子はここかな」>と、そらるの<「さらってやろうか」>。2人して荒ぶる<いいからさっさと唱和しろ!>。恒例のコール&レスポンスも思い出されて、ドキドキが止まらない。
「四季折々に揺蕩いて」では、指先まで繊細な動きを見せる2人の姿に見とれて。そらるとエレキギターを弾くまふまふが背中合わせになって歌った「夕刻、夢ト見紛ウ」では、絡まる伸びやかな歌声に聴き惚れて。和情緒がこんなにも似合う2人が、ほかにいるだろうか。
そらる「終わりの時間が近づいてまいりました。モニターの前で観てくれているみなさん、最後まで楽しんでくれたら幸いです。不慣れな中でも、初めてオンラインライブを行えたというのは大きな前進。またいつか、みんなの前で歌える日まで、2人で歌っていきます」
まふまふ「残すところ2曲で、このライブを終わらせていただこうと思います。この会場に一緒に居合わせているわけではないけど、みんなで音楽を楽しめたらいいな、と思います」
そう言うと、「彗星列車のベルが鳴る」で、カメラの向こうにいるファンに向け、<世界中の星を集めても 霞んでしまうくらい 君は綺麗だ>と歌ったまふまふ。「観てくれたみんな、ありがとう!」と手を振ったそらる。<キミに届け>というフレーズに願いを託した「桜花ニ月夜ト袖シグレ」にしても然り、After the Rainの音楽を愛するすべての人への愛と感謝が、溢れるほど伝わってきた。
全11曲、約1時間といつものワンマン公演に比べれば曲数は少なく時間も短かったけれど、2人の歌声と想いは、心を満たして、潤してくれた。
おまけに、打ち上げを兼ねたアフタートークでも楽しませてくれたわけだが、11月3日に誕生日を迎えたばかりのそらるのためにまふまふが用意しておいたのは、バースデーケーキと大きなスライムのクッション、さらにはレッドカーペット&白いリムジン。相方愛が深すぎる!
国内外のファンから寄せられたコメントを読み上げつつ、時折奔放なまふまふにそらるが戸惑いがちだったり、じゃれ合う2人の姿も眼福そのもの。
また、ファンとそらるからのリクエストを受け、まふまふが“「セカイシックに少年少女」的なキラキラロック”を「今日帰ったら書きます!」と宣言した。
どんなに困難な状況でも、彼らの表現欲、“自分たちの音楽を求めてくれる人たちの気持ちに応えたい”という熱意が削がれることはない。雨が降るたびに地固まり、魅力を増していくAfter the Rainである。
【取材・文:杉江優花】
【撮影:小松陽祐[ODD JOB]、堀卓朗[ELENORE]、今田和也[ELENORE]】
セットリスト
After the Rain ONLINE LIVE 2020
2020.11.07
- 01. 1・2・3
- 02. 喰病しのイデア
- 03. 解読不能
- 04. アンチクロックワイズ
- 05. セカイシックに少年少女
- 06. 待ちぼうけの彼方
- 07. ブラッククリスマス
- 08. 四季折々に揺蕩いて
- 09. 夕刻、夢ト見紛ウ
- 10. 彗星列車のベルが鳴る
- 11. 桜花ニ月夜ト袖シグレ